超薬アスピリン―スーパードラッグへの道 (平凡社新書)
平沢 正夫 (著)
アスピリンについて
アスピリンの薬効
・アスピリンは、アラキドン酸代謝の過程において、シクロオキシゲナーゼ(COX)をアセチル化し、COX活性を不可逆的に抑制する。
・それにより、血小板では、血小板凝集作用を持つトロンボキサンA2(TXA2)の産生を抑制し、抗血小板作用を発揮する。
・一方、血管内皮細胞では、血小板凝集抑制作用を持つプロスタグランジンI2(PGI2)の産生を抑制し、血液凝固作用を発揮する。
・このように、アスピリンが相反する作用をもたらすことを「アスピリンジレンマ」と呼ぶ。
アスピリンジレンマの理由
・核を持たない血小板ではCOXの再合成は行われず、アスピリンによる抗血小板作用は不可逆的となる。従って、抗血小板作用は血小板の寿命(7~10日)の間、持続する(抗血小板作用が持続する)。
・これに対し、血管組織は核を持つため COX を再合成することができます。その結果、血小板の凝集抑制作用のあるプロスタサイクリン(PGI2)を再生成することができるため、アスピリンによる血液凝固作用は可逆的となる(血小板凝固作用が再生する)
・このCOXの再合成は、アスピリンの投与量が少ないほど早く回復することが知られている。従って、抗血小板薬としてのアスピリンは、低用量が適していることになる。
・アスピリンが低用量では、COX が阻害されても血管内皮細胞内での再合成が追いつくため、PGI2の生成に影響を与えませんが(PGI2生成→血小板凝集抑制作用)、アスピリンが高用量になると COX の再合成が追いつかなくなり、PGI2の生成が抑えられてしまう(血小板が凝集してしまう)と考えられます。
「低用量アスピリン」の「低用量」とは?
・抗血小板薬としてのアスピリンは、低用量が適していることになる。
・「低用量アスピリン」の用量は、文献によって40~330mg/日と幅が広い。
・アスピリンによるTXA2産生阻害はおよそ10mg/日以上で表れ、160mg/日でプラトーに達する。一方、胃粘膜でのプロスタグランジン合成阻害による胃毒性は、およそ100mg/日以上で表れ始めるとの報告もある。
・また、抗血小板薬として用いられる「バファリン配合錠A81」のインタビューフォームによると、アスピリンジレンマを回避するアスピリンの至適用量は40~80mgと報告されている。さらに、TXA2の代謝物量を抑制し、かつPGI2代謝物量に影響の少ないアスピリンの至適用量は、個人差も考慮し40~320mg/日が適当であるとの記載がある。
・これらを考慮した結果、国内では抗血小板薬として「81mgまたは100mg錠」が主に用いられている。ただし至適用量に関しては、いまだ不明な点も多い。
なぜ「バファリン配合錠A81 」は 81mg なのか?
・「低用量」とは具体的には、統一した見解が得られていないのが現状であり、文献によって異なる。
・だいたい「 低用量群(75~150mg)」、「中等量群(160~325mg)」、「高用量群(500~1500mg)」と区分される
・国内の低用量アスピリンは「バイアスピリン®100mg」 と「バファリン配合錠® 81mg」 がある。
・「バイアスピリン®」は腸溶錠であり、「バファリン®」は緩衝剤が配合されている。
・それぞれの名前の由来は「バイエルのアスピリン」から「バイアスピリン®」と、「バッファー(緩衝剤)アスピリン」から「バファリン®」と決まったという。
81㎎の訳
・日本で昔使われていた重さの単位として「匁(もんめ)」や「貫(かん)」などがあるが、アメリカにも同じく、古い単位として「グレーン」がある(今では火薬の単位で使われる程度とのこと)。
・そして、同じくアメリカの文献で「解熱鎮痛にアスピリンを5グレーン使用」との記載があり、FDA では解熱鎮痛で使用するアスピリンは 325mg と定義されているので、5 グレーン=325mg と考えられる。
・バファリン®配合錠 81mg は以前「小児用バファリン®」として販売されていたものが新しい適応
(血小板抑制薬)として承認されたものである。
・解熱鎮痛において、7 歳くらいの小児に使用する場合は大人用量の 1/4 を投与する、との規定があり、「325mg÷4=81.25mg → 81mg」 と決定したことに由来するという。
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