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持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural-perceptual dizziness:PPPD)

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疾患

・「慢性めまい」の一つ(慢性めまいの約14%)

・めまいはその発症様式から前庭神経炎などの「急性めまい」、メニエール病や良性発作性頭位めまい症(BPPV)のような「発作性めまい」、症状が3か月以上持続する「慢性めまい」に分けられる。

・「慢性めまい」には神経変性疾患によるめまいや心因性めまいが含まれるが、2017年にめまい最大の国際学会であるBarany学会は「持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural Perceptual Dizziness, PPPD)」という慢性に経過する機能性疾患を定義した。

 

病態

・PPPDの特徴は、①慢性の浮遊感がある、②何らかの急性めまい(前庭神経炎やBPPVなど)エピソードが先行すること、③立位、体動、視覚刺激による症状の誘発誘発ないし増悪が見られること、である。

・先行する急性めまいに対して生体が適応反応(例:前庭障害後に姿勢制御を視覚優位へシフトさせるなど)を起こし、当初あった急性めまい疾患が軽快した後も、同様の適応反応(例:視覚優位な姿勢制御)が持続している場合、これが過剰適応となり、逆に以前にはなかった些細な視覚刺激でめまいが誘発されるなどの機序、が考えられている。

・逆に体性感覚優位へシフトし適応し、それが残存した場合は、先行疾患軽快後に体動で悪化することが考えられる。

・不安症やうつが1次性に慢性のめまいや浮遊感を引き起こす場合もあるが、PPPDで見られるような立位、体動や視覚刺激による悪化は精神疾患のみでは説明不可能である。

・PPPDの70%では前庭疾患など何らかの器質疾患が先行し、元から合併していたり続発した不安症などの心理要因により悪化し機能性疾患(PPPD)へ移行する。

・残りの30%のPPPDは、急性の心理ストレスによる精神疾患が先行し、PPPDへ発展していく。

・PPPDは、急性胃腸炎(器質疾患)を先行疾患として続発した機能性疾患であるpost-infectious IBS(irritable bowel syndrome)と対比して考えると理解しやすい。

 

 

症状

・持続時間は10分以内

・立位、体動、視覚刺激が誘発因子となる

 

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診断

・PPPDの検査所見に関しては特徴的な報告はなく、末梢前庭疾患の合併がない限り平衡機能検査で異常は示さない。

・心理検査では不安症やうつを合併することが多い。

・よって、PPPDの診断には診断基準に沿った丁寧な問診が不可欠である。

持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural Perceptual Dizziness: PPPD)の診断基準

PPPDは以下の基準A~Eで定義される慢性の前庭症状を呈する疾患である。

診断にはA~Eの5つの基準全てを満たすことが必要である。

A.浮遊感、不安定感、非回転性めまいのうち一つ以上が、3ヶ月以上にわたってほとんど毎日存在する。

1.症状は長い時間(時間単位)持続するが、症状の強さに増悪・軽減がみられることがある。

2.症状は1日中持続的に存在するとはかぎらない。

B.持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが、以下の3つの因子で増悪する。

1.立位姿勢

2.特定の方向や頭位に限らない、能動的あるいは受動的な動き

3.動いているもの、あるいは複雑な視覚パターンを見たとき

C.この疾患は、めまい、浮遊感、不安定感、あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患、他の神経学的・内科的疾患、心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。

1.急性または発作性の病態が先行する場合は、その先行病態が消失するにつれて、症状は基準Aのパターンに定着する。しかし、症状は、初めは間欠的に生じ、持続性の経過へと固定していくことがある。

2.慢性の病態が先行する場合は、症状は緩徐に進行し、悪化することがある。

D.症状は、顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている。
E.症状は、他の疾患や障害ではうまく説明できない。

【注】(以下抜粋)

1)症状は、1ヶ月のうち15日以上存在する。ほとんどの患者は毎日あるいはほぼ毎日、症状を自覚する。症状は、その1日の中で時間が進むにつれて増強する傾向にある。

2)基準Bの3つの増悪因子すべてを経過中に認める必要があるが、それらが同等に症状を増悪させなくてもよい。患者は、前庭症状の不快な増悪を最小限にするために、これらの増悪因子を回避しようとする場合があり、そのような回避が見られたときはこの基準を満たすと考えてよい。

a.立位姿勢とは、起立あるいは歩行のことである。立位姿勢の影響に特に過敏な患者は、支えのない座位で症状が増悪すると訴えることがある。

b.能動的な動作とは、患者が自ら起こした動作のことである。受動的な動作とは、患者が乗り物や他人によって動かされることである(例:乗り物やエレベーターに乗る、馬などの動物に乗る、人ごみに押される)。

c.視覚刺激は、視覚的環境の中の大きな物体(例:行き交う車、床や壁紙のごてごてした模様、大画面に表示された画像)の場合もあり、あるいは近距離から見た小さな物体(例:本、コンピュータ、携帯用の電子機器)の場合もある。

 

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治療

・PPPDにはSSRI、SNRIを用いた薬物治療や前庭リハビリテーション、あるいは認知行動療法などの精神療法が有効である。

・PPPDは精神疾患を合併する場合もしない場合もあるが、いずれの場合もSSRIが有効である。

・前庭リハビリテーションや精神療法の一種である認知行動療法がPPPDに有効であるとの報告もある。

・いずれにせよ、めまい症と異なり、PPPDに関しては有効な治療が複数報告されている。よって、PPPDは治療の対象であり治癒せしめうる疾患であることを患者、耳鼻科医、めまいを診る一般内科医へ啓蒙していく必要があると考える。

 

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