インジウム・スズ酸化物
用途
・酸化インジウム(In2O3)に数%の酸化スズ(SnO2)を添加した化合物のこと。
英文名は「Indium Tin Oxide(ITO)」。
・テレビ、パソコン、スマートフォン等に用いる液晶の透明電極の原料。薄型ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池等の透明電極原料として用いられる。
・可視光の透過率が約90%に上るため,液晶パネルや有機ELなどのFPD(フラット・パネル・ディスプレイ)向けの電極として多用されている。
※ 透明電極とは、ガラスのように透明でありながら、金属のように電気を通すもの。 各種のディスプレイをはじめ、照明や太陽電池など光と電気を使うデバイスに広く使われている汎用電子材料。 この透明電極は、一般にガラスなどの基板の上に透明導電膜を成膜することにより得られる
・液晶パネルでは液晶分子の配向を制御するための電圧を印加する電極として,有機ELパネルでは正孔輸送層,発光層,電子輸送層を挟む陽極としてITOが使われている。
・また,太陽電池,抵抗膜方式のタッチパネル,青色発光ダイオードの電極としても採用されている。
インジウム・スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)の主な用途
・液晶ディスプレー
・プラズマディスプレー
・発光ダイオード
・その他電子部品原料として用いられる。
リン化インジウム(InP:インジウムリン)
・InPは半導体であり、半導体素子に用いられる。
InP:indium(III) phosphide 別名インジウム燐
インジウム・スズ酸化物により発生するおそれのある健康障害
健康障害
モデルSDS
・発がん性(区分1B)
・間質性肺炎などの呼吸器障害(区分1)
・皮膚に対する重度の刺激(区分2)
・眼に対する重度の刺激(区分2A)
呼吸器疾患
「インジウム肺」の呼吸器疾患
・間質性肺炎、肺胞蛋白症、気胸
・間質性肺炎においては、間質に、炎症細胞浸潤と線維化を生じる
・動物実験の結果から、肺がんの発症が疑われている
・長期にわたり「肺がん」「肺胞蛋白症」「気胸」の発症を確認する必要がある
皮膚、眼に対する重度の刺激性
・皮膚に対する重度の刺激(区分2)、眼に対する重度の刺激(区分2A)などが記載されている。
インジウム化合物の健康診断について
雇入れ時、又は配置換え時の健康診断
事業者は、ITO 等取り扱い作業に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際又は当該業務への配置替えの際に、次の項目について、医師による健康診断を行うこと。
・ 業務の経歴の調査
・ 喫煙歴
・ 既往歴の有無の検査
・ インジウム又はその化合物による咳、痰、息切れ等の自覚症状又はチアノーゼ、ばち状指等の他覚症状の既往歴の有無の検査
・ 咳、痰、息切れ等の自覚症状の有無の検査
・ チアノーゼ、ばち状指等の呼吸器に係る他覚症状の有無の検査
・ 血清インジウム濃度の測定
・ 血清 KL-6 値の測定
・ 胸部CT検査
一次健康診断
事業者は、ITO 等取り扱い作業に常時従事する労働者に対し、6月以内ごとに1回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行うこと。
・ 業務の経歴の調査
・ 作業条件の簡易な調査
・ 喫煙歴
・ 既往歴の有無の検査
・ インジウム又はその化合物による咳、痰、息切れ等の自覚症状又はチアノーゼ、ばち状指等の他覚症状の既往歴の有無の検査
・ 咳、痰、息切れ等の自覚症状の有無の検査
・ チアノーゼ、ばち状指等の呼吸器に係る他覚症状の有無の検査
・ 血清インジウム濃度の測定
・ 血清 KL-6 値の測定
取り扱う際の目標濃度
インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止に関する技術指針
目標濃度とは
管理濃度が設定されない理由
・インジウム・スズ酸化物の場合、長期がん原性試験結果、LOAEL(最小毒性量)が 0.01 mg/m3という結果が得られた。ここから許容される濃度は 0.0003 mg/m3となると考えられた。
・しかしこれでは、レベルが低すぎて、事業者が基準値として遵守できないのではないかと考えられた。このため、管理濃度は設定せず、「目標濃度 0.01 mg/m3(吸入性粉じんとして)」、「許容される濃度 0.0003 mg/m3(吸入性粉じんとして)」という数値が定められた。
※「ばく露が許容される濃度」の算出理由
・ がん原性試験結果から算定 LOAEL 0.01 mg/m3
・NOAEL への変換係数 10、種間差 2.5(TK=1,TD=2.5)、労働補正 6/8
→許容される濃度 0.0003 mg/m3(吸入性粉じんとして)
目標濃度とは
・「目標濃度」とは、ITO等の取扱い作業における当面の作業環境の改善の目標とすべき濃度基準をいう
・事業者は、空気中のインジウムの濃度を作業環境測定基準のA測定に準じて測定し、その結果について、作業環境評価基準に準じて第1評価値を算定する。そして、これが「目標濃度」を上回ったときは、工学的対策等によりこれを目標濃度以下になるように努める必要がある。
・しかし「目標濃度」は、我が国における動物を用いた長期がん原性試験結果により算定したばく露が許容される濃度よりも高い。そのため、第1評価値がこの算定した値を上回る場合には、作業環境を改善するため必要な措置を継続的に講じ、できる限り空気中のインジウムの濃度を低減させることが望ましい。
インジウム化合物を製造し、又は取り扱う屋内作業場での呼吸用保護具
・インジウム化合物を製造する作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、作業環境測定の結果に応じて有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
・作業空間のインジウム化合物の濃度に応じて、呼吸用保護具の種類又は防護係数を、厚生労働大臣の定める告示に従って選択すること。
・防護係数の確認は、労働者に初めて使用させるとき、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、JISで定める方法で防護係数を求めることにより行うこと。
● 防じんマスク及び電動ファン付き呼吸用保護具は、型式検定に合格したものを使用すること。
● 防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具を使用させる場合には、その都度、フィットチェッカー等を用いて、面体と顔面との密着性を確認すること。
● 眼鏡を着用する労働者に全面形の面体を有する呼吸用保護具を使用させる場合には、呼吸用保護具のメーカーが推奨する眼鏡と面体との隙間をふさぐ部品等を使用して密着性を確保すること。
● 前記告示には、作業環境測定の結果が0.3μg/m3未満の場合には使用させるべき呼吸用保護具を規定していないが、作業の状況に応じて防じんマスク等を使用させることが望ましい。
呼吸用保護具の「指定防護係数」
・「呼吸用保護具の指定防護係数」とは「訓練された着用者が、正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数(呼吸用保護具の外の空気中の有害物質の濃度を着用者の吸気中の濃度で除して得た値)」である。
例)
「作業場の気中濃度」が100ppmで「職業ばく露限界(許容濃度等)」が10ppmであれば、防護係数は10以上が必要ということになる。
・わが国においては、JISによって定められており、それが用いられることが多い。
インジウムばく露を低減するために必要な対策
1 設備に係る措置
(1)遠隔操作の導入又は工程の自動化
(2)粉じんの発散源を密閉又は隔離する設備の設置
(3)局所排気装置の設置
(4)プッシュプル型換気装置の設置
(5)湿潤な状態に保つための設備の設置
2 作業管理
(1)労働者が当該物質にばく露されないような作業位置、作業姿勢又は作業方法の選択
(2)作業手順書の作成と周知徹底
(3)当該物質にばく露される時間の短縮
(4)保護具の使用の徹底(呼吸用保護具のほか、必要に応じて保護眼鏡を使用する)
(5)清掃作業について
(6)作業記録の保存
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