1)薬理作用
(1) 作用機序◆デクスメデトミジンはα2アドレナリン受容体の完全アゴニスト(α2/α1選択性はクロニジンの約 8 倍)であり,青斑核や脊髄が作用部位である.
(2) 薬 効◆デクスメデトミジンには,鎮静作用,鎮痛作用,交感神経抑制作用などがある.
①鎮静作用◆おもに脳橋青斑核のα2アドレナリン受容体に作用して,催眠作用,抗不安作用を発現するが,健忘作用は弱い.他の鎮静薬と異なり認知機能を維持することが特徴である.
②鎮痛作用◆青斑核や脊髄後角,末梢神経のα2アドレナリン受容体に作動して発現する.通常投与量では鎮痛作用は弱いが,薬物相互作用によりオピオイドの必要量を減量できる.
③呼吸作用◆上気道閉塞を起こすことが少なく,気道反射,二酸化炭素換気応答も維持され,呼吸抑制作用は軽微である.気道確保されていない症例でも安全性が高い.
④循環作用◆中枢性交感神経抑制,副交感神経亢進と末梢血管拡張の機序により徐脈,血圧低下をきたす.症例によっては心伝導障害,冠動脈攣縮を発現する場合もある.
⑤体温調節作用◆低体温に対する振戦,血管収縮などを発現する体温の閾値を低下させ,反応を抑制する.
(3) 薬物動態◆水溶性で生理食塩水に溶解して投与するが,血液中の pH では脂溶性となり血液脳関門を容易に通過するので効果の
発現は速い.蛋白結合率は 94%以上と高い.
肝臓で代謝されるため,代謝速度は肝血流量に依存し,健康人では血中半減期は平均 2.4 時間ほどである.95%が腎臓から排
出されるため,腎機能低下患者ではデクスメデトミジンの効果が遷延する.
2)適 応
次の適応のうち,(3)と(5)は適応外使用である.
(1) 集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静◆長期の投与が可能である1)
.
(2) 集中治療における非挿管患者の鎮静,鎮痛◆例として,急性大動脈解離の保存的治療,外傷や手術直後で安静を必要とする場合,
小児症例など.
(3) 全身麻酔の補助◆麻酔薬の削減 2)
,循環系の安定 2,3)
,覚醒時振戦の防止 4)
,麻酔後譫妄の抑制 5)
.
(4) 局所麻酔下における非挿管での手術及び処置時の鎮静◆意識下開頭術のような手術 6)
や硬膜外麻酔,脊髄くも膜下麻酔のような
気道確保されていない症例 7)
.気管支内視鏡による気管挿管を試行する場合 8 ~ 10)
.
(5) 検査時の鎮静◆小児や不安の強い成人の CT,MRI や脳波測定などの検査時の鎮静 11,12)
.
3)使用法
いずれの適応に対してもシリンジポンプを用いて持続静注する.初期負荷投与は通常行わないが,実施する場合は循環動態の変
動に十分注意する.維持投与速度は,0.2~ 0.7µg/kg/hrを目安とするが,目的とする鎮静度を得るために,より多量を必要とする症例
もある.
(1) 集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静◆他の鎮痛薬を適切に併用する.販売開始当初は投与時間が 24 時間以内
に限定されていたが,国内外での治験により長期投与の安全性が証明され,投与時間制限はなくなった.ベンゾジアゼピン系薬に較
べて譫妄の発現が少ない利点がある13)
.
(2) 集中治療における非挿管患者の鎮静,鎮痛◆呼吸抑制が軽微なため安全性が高い.また併用する鎮痛薬の必要量を減らせる.厳密には適応外使用となるが,重症患者を非挿管下に鎮静し安静を保てることはデクスメデトミジンの最大の長所である.
(3) 全身麻酔の補助◆全身麻酔の補助薬として使用すると薬物相互作用により麻酔薬の必要量が軽減するとともに 2)
,循環動態が安定
する2,3)
.また覚醒時の振戦を抑制し 4)
,譫妄の発現を防止 5)
できる利点がある.
(4) 局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の鎮静
①局所麻酔下で脳外科手術を行う意識下開頭術◆患者の認知機能の維持とともに,呼吸抑制が軽微な鎮静が求められ,デクスメデ
トミジンのよい適応である6)
.
②区域麻酔下での非挿管手術および処置◆同様の理由で,安全で質の高い鎮静を実現できる7)
.
③意識下の気管支内視鏡による気管挿管◆デクスメデトミジンを用いた鎮静は有効であり8 ~ 10)
,ミダゾラム9)
やプロポフォール 10)
と比
較しても気道の開通や患者の忍容がより良好であった.
麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第 3 版 Ⓒ 2009-2014 公益社団法人日本麻酔科学会 第3版第4訂 2015.3.13 (眠-14) 18
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
(5) 検査時の鎮静
①安静を必要とするCT や MRI,脳波などの検査の鎮静薬として呼吸抑制が軽微なため安全である11)
.
②デクスメデトミジン投与下の脳波は生理的睡眠の状態と同様であり,他の鎮静薬のように痙攣脳波を抑制することがないので脳波
検査の鎮静に適している12)
.
4)注意点
(1) 基本的注意点◆デクスメデトミジンは呼吸系については安全な薬物であるが,循環器系に関しては副作用が高頻度に発現するので
注意を要す.
(2) 禁 忌◆デクスメデトミジンに対して過敏症の既往がある患者は禁忌とされているが,いまだ過敏症の報告はない.
(3) 副作用
①血圧低下◆循環血液量が過小な症例,交感神経緊張状態の症例では著しい血圧低下を発現する危険性が高いので投与の可
否を慎重に検討する.
②徐 脈◆洞性徐脈を発現する薬理作用がある.カルシウム拮抗薬,ジギタリス製剤,β遮断薬などと併用すると相互作用によって著し
い徐脈となることがある.
③冠動脈攣縮◆東洋人に多い冠動脈攣縮性狭心症を誘発する可能性がある.本症の診断がなされている患者には,発作誘発の
危険性を上回る必要性がない限り投与を見合わせる.
(4) 高齢者◆他の薬物と同様に,鎮静作用や副作用が強く発現することもあるので慎重に投与量を調節する.
(5) 妊 婦◆胎児に対する有害性は報告されていないが,安全性も確立していない.
コメント