「職場における 労働者が安全に働くために新たな化学物質規制が導入されます」(厚生労働省)
職場における 労働者が安全に働くために新たな化学物質規制が導入されます
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「化学物質の自律的な管理」への方向
化学物質規制の見直しについて(職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書のポイント)
「化学物質の自律的な管理」の 趣旨・ 目的
現在、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類に上るが、その中には危険性や有害性が不明な物質も少なくない。
こうした中で、化学物質による労働災害(がんなどの遅発性疾病は除く。)は年間450件程度で推移し、法令による規制の対象となっていない物質を原因とするものは約8割を占める状況にある。
また、オルト-トルイジンによる膀胱がん事案、MOCAによる膀胱がん事案、有機粉じんによる肺疾患の発生など、化学物質等による重大な職業性疾病も後を絶たない状況にある。
これらを踏まえ、令和4年5月31日に公布された厚生労働省令の改正により、現行の特化則等による個別具体的規制を中心とする規制から自律的な管理を基軸とした規制へと大きく方向転換が行われた。
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解説:「自律的な化学物質管理」が推進される理由
・化学物質による労働災害の約8割が法令による規制対象外の物質によるものである。
・新たに規制対象にしても、他の規制対象外の物質に切り替えるなど「規制のいたちごっこ」が起きている
・この背景から、「法令遵守ありき」ではなく、「自律的管理」を行う必要が生じた。
「化学物質のリスクアセスメント実施支援」
有機溶剤の有害性及びそれらによる健康影響を調べるときの情報源
・SDS(安全データシート)
・WEB上の化学物質情報サイト(「職場の安全サイト」、「NITE-CHIRP」など)
・公的な機関が公表している情報(日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIHのTLV、IARCの発がん性分類など)
・国内外の主要な学術誌に掲載された論文
NITE-CHRIP
リスクアセスメントの対象となる物
1-3.リスクアセスメント対象物に該当するか確認(職場の化学物質管理総合サイト)
「リスクアセスメント対象物」とは?
・「リスクアセスメント対象物」とは、ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメント実施が義務である物質のことです(労働安全衛生法第57条の3でリスクアセスメントの実施が義務付けられている危険・有害物質)。
・厚生労働省から、「表示対象物(ラベル表示義務対象物質)」と「通知対象物(SDS交付義務対象物質)」のリストが公表されています。表示対象物と通知対象物は共通で、これらに該当する物質がリスクアセスメント対象物にも該当します。
※ ただし、表示対象物と通知対象物は裾切値(すそきりち:労働安全衛生法に基づいて定められた、各物質の含有量(重量%)の基準値です。この基準値未満であれば、ラベル表示やSDS(安全データシート)の交付が不要となります)が異なります。
リスクアセスメント対象物は表示対象物を裾切値以上含む混合物、又は通知対象物を裾切値以上含む混合物のいずれかに該当するものも含みます。
・このリスクアセスメント対象物を事業所で使用している場合には、リスクアセスメントを行わなければなりません。
・事業場で取り扱っている化学物質がリスクアセスメント対象物であるかは、「職場のあんぜんサイト」の「表示・通知対象物質の一覧・検索」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html)により確認することができます。
・令和6年4月には903物質ととなっており、さらに数年後には約2,900物質になる予定
リスクアセスメント対象物への該当を確認する
化学物質のCAS登録番号がわかっている場合は、「対象化学物質を簡易検索(CAS登録番号での検索)」から検索を行います。
CAS登録番号で検索して該当しなかった場合や、もともとCAS登録番号の情報がない場合は、「リスクアセスメント対象物一覧のリスト」または「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」で物質名から該当があるか確認します。
自律的な化学物質管理の具体例
リスクアセスメント対象物質に関する事業者の義務
・ばく露される程度を最小限にしなければならない
(代替物の利用、密閉、局所排気装置など)
・濃度基準値設定物質(厚労大臣が定める物質)は濃度基準値以下にする
・ばく露を最小限にする措置内容をばく露状況の記録を3年間保存する(がん原生物質は30年)
濃度基準値とは
・「濃度基準値」とは、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがないとする濃度のことである。
・濃度基準値には8時間のばく露に対する濃度基準値(以下「8時間濃度基準値」)と1日の労働時間のうちばく露濃度が最も高くなると思われる 15 分間のばく露に対する濃度基準値(以下「短時間濃度基準値」)がある。ただし特化則や有機則等といった特別規則の適
用を受ける物質については、特別規則による規制との二重規制を避けるため、濃度基準値を設定していない。
・「8時間濃度基準値」は、長期間ばく露することにより健康障害が生ずることが知られている物質について、当該障害を防止するため、8時間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであり、この濃度以下のばく露においては、おおむね全ての労働者に健康障害を生じないと考えられているものである。
・「短時間濃度基準値」は、短時間でのばく露により急性健康障害が生ずることが知られている物質について、当該障害を防止するため、作業中のいかなるばく露においても、15 分間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものである。
・8時間濃度基準値だけでは、短時間作業の作業中に8時間濃度基準値をはるかに上回る高い濃度のばく露が許容されるおそれがあるため、事業者は、15 分間時間加重平均値を測定し「短時間濃度基準値」の定めがある物は「短時間濃度基準値」以下にしなければならない。
・「濃度基準値」が定められた物質は、C、D法または個人ばく露測定に基づく自主管理が必要である。
ラベル表示、SDS等による通知義務対象物質の追加
・GHS分類で危険性、有害性が確認されたすべての物質がリスクアセスメントの対象物質に追加された。
「化学物質管理者」の選任の義務
・「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号〔令和4年5月31日公布〕)」において、リスクアセスメント対象物の製造、取扱いまたは譲渡提供を行う事業場ごとに、化学物質管理者を選任することが義務付けられた。
化学物質管理者の職務
① SDSの確認
② 化学物質のリスクアセスメント
③ ばく露防止対策の実施
④ 自律的管理のための記録作成
⑤ 化学物質の自律的管理の周知教育
⑥ SDSの作成
⑦ 労災が発生した時の対応
選任資格・講習
・化学物質管理者は、いわゆる国家資格ではなく、その選任要件は「化学物質の管理に係る技術的事項(後述「化学物質管理者の役割・職務」)を担当するために必要な能力を有すると認められる者」であり、原則として選任は、事業者の裁量によります。
・ただし、リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては形式的要件として、選任すべき事由が発生した日から14日以内に、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者等のうちから選任しなければなりません(改正安衛則第12条の5第3項。一部表現を修正)。
・つまり、リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、化学物質管理者に選任される者は厚生労働大臣が示す内容(同項第2号イ)に従った専門的講習を受けていなければならないとされており、当該講習は各種団体が開催しています。
・
化学物質管理者になるための講習が「化学物質管理者講習」です。化学物質管理者講習は「製造事業場向け」と「取扱事業場向け」の2種類の講習があります。
そのうち製造事業場向けの化学物質管理者講習は、化学物質の製造を行う事業場向けの講習です。講習は大きく分けて学科と実習の2つのカリキュラムがあります。
、製造事業場の講習は学科9時間+実習3時間の合計12時間受講する必要があります。
取扱事業場向けの化学物質管理者講習というもう一つの講習があります。
この講習は別名「化学物質管理者講習に準ずる講習」とも呼ばれることがあります。これは化学物質の製造には関わず、取扱のみを行う事業場向けの講習となっています。
講習の科目名は製造事業場向けの講習と変わりませんが、それぞれの科目の講習時間が違います。講習時間は同様か短くなっており、学科の合計の講習時間は6時間となっています。
またもう一つの大きな違いとしては、取扱事業場向けの講習には実習科目はありません。つまり学科科目だけで講習が終了します。
事業場によって受けるべき講習は違うので、よく確認をしてから受講する講習を決めましょう。
保護具着用管理責任者の義務化
・「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(令和5年4月1日から順次施行)により、事業場における化学物質のリスクアセスメントを行い、その結果に基づく措置として労働者に保護具を着用させる時は、「保護具着用管理責任者」の選任が必要になりました。
・同責任者は、「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者」として、労働衛生コンサルタントや第一種衛生管理者、衛生工学衛生管理者、各作業主任者等の方から選任していただくほか、選任できないという場合には、通達で定めるカリキュラムによった「保護具着用管理責任者教育」を受講した方から選任しなければならないこととされています。
・また、「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者」として、同責任者の選任を受けた方についても、同教育を受講していただくことが望ましいとされました。
化学物質管理専門家
化学物質管理専門家とは?
化学物質管理専門家とは、化学物質のリスク管理に関わる専門家であり、自律的な化学物質管理を目指すための重要な役割を担っています。具体的には、2022年(令和4年)5月に厚生労働省が労働安全衛生規則を改正した際に新たに規定された職種です。
化学物質管理専門家の役割
令和6年4月1日施行の労働安全衛生規則第34条の2の10により、化学物質による労働災害が発生した事業場等に対して所轄労働基準監督署長から化学物質の管理の状況についての改善指示を受けた事業場は化学物質管理専門家の助言を受けなければなりません。
所轄労働基準監督署長より改善指示を受けた事業場は、化学物質管理専門家に当該事業場における化学物質の管理の状況について、以下の内容の確認・助言を受ける必要があります。
①リスクアセスメントの実施状況
②リスクアセスメントの結果に基づく必要な措置の実施状況
③作業環境測定又は個人ばく露測定の実施状況
④特別則(注1)に規定するばく露防止措置の実施状況
⑤事業場内の化学物質の管理、容器への表示、労働者への周知の状況
⑥化学物質等に係る教育の実施状況
化学物質管理専門家になるための要件
•労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)で5年以上の実務経験
•衛生工学衛生管理者として8年以上の実務経験
•作業環境測定士として6年以上の実務経験かつ厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了した者
•その他上記と同等以上の知識・経験を有する者(オキュペイショナル・ハイジニスト有資格者等)
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