甲状腺機能低下症の原因
原因
・自己免疫疾患:橋本病(慢性甲状腺炎)、Graves病末期
※甲状腺機能低下症の原因としては橋本病(慢性甲状腺炎)が最多
・医原性(放射性ヨード治療後、甲状腺切除後、放射線治療)
・ヨード関連(ヨード不足、過剰いずれでも)
・先天性
・薬剤(リチウム、アミオダロン、インターフェロン、ヨード過剰、PTU、MMI、鉄、カルシウム)
・甲状腺炎(亜急性、産褥)
・中枢性(euthroid sick syndrome)
・下垂体(腺腫、出血、アミロイド、サルコイド)
→頭痛、両耳側半盲
・視床下部疾患
症状
・巨舌
・脆弱な髪の毛
・乾燥した蒼白な皮膚
・非圧痕性浮腫
・腱反射低下(特に上腕二頭筋)
浮腫の機序
・組織間へのムコ多糖類が沈着し、水分と結合することで粘液水腫となる。
・「全身がむくんだ感じ」
・皮膚への沈着で「non-pitting edema」になる
検査
・fT4
・TSH
・甲状腺自己抗体(抗TPO抗体、抗Tg抗体)
・CK
・画像検査
・ホルモン負荷試験
治療
※副腎不全の合併を疑う場合は最初にステロイド補充療法を行う
・ヒドロコルチゾン(コートリル®)10㎎ 1回1錠 1日2回
・レボチロキシン 1回25μg(高齢者では12.5μg) 1日1回
慢性甲状腺炎(橋本病)
疾患
・甲状腺機能低下症の原因として最多
・甲状腺の慢性自己免疫性炎症で,リンパ球の浸潤を伴う。
・甲状腺に対する自己抗体である、抗TPO(thyroid peroxidase:甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体や、抗Tg(抗サイログロブリン)抗体などにより慢性的な甲状腺の炎症が生じ、甲状腺機能が低下したり、甲状腺が腫大(時に萎縮)したりする
・ほとんどの例は甲状腺機能は正常である。
・1912 年に九州大学・橋本策(はかる)先生が初めて報告したため「橋本病」とも呼ばれる。
・中高年の女性に多い(男女比は1:20~30)
・症状としては、無痛性の甲状腺腫大および甲状腺機能低下症状がある。
・抑うつ状態、全般性不安発作、社会恐怖(社会不安障害)との関連が指摘されている
・乳癌、甲状腺悪性リンパ腫、大腸癌発症との関連が指摘されている
・経過中に無痛性甲状腺炎を発症し、機能亢進症状を来すことがある。
原因
・橋本病(慢性甲状腺炎)は自己免疫疾患の一つ。免疫の異常が生じる理由は不明。
・橋本病を持っている人が、強いストレスや妊娠・出産、ヨード過剰摂取(海藻類、薬剤、造影剤など)等をきっかけとして甲状腺機能低下症を発症し、橋本病が明らかになるのではないかと考えられている
検査所見
・TSH上昇、FT4、FT3低値
もっとも早期に機能低下指標となるのはTSH上昇
・抗TPO(thyroid peroxidase:甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体陽性
甲状腺ホルモン合成に関わる酵素であるペルオキシダーゼに対する自己抗体。
甲状腺細胞傷害性が認められる。
・抗Tg(サイログロブリン)抗体陽性
甲状腺濾胞細胞内に貯蔵されている糖蛋白(サイログロブリン)に対する自己抗体。
・細胞診でリンパ球浸潤を認める
治療
・ヨード摂取不足の地域(モンゴル、ネパール、カンボジアなどでは、甲状腺機能低下症と甲状腺腫大の所見がみられるため、甲状腺抗体が陽性であっても、まずはヨード摂取を考慮する
・TSH>10μU/mL、心血管リスク症例、妊娠中(TSH>3.0μU/mL)ではホルモン補充療法が推奨される
・昆布やひじきなどのヨウ素を大量に含むような海藻類などを過剰に摂取することは避ける
粘液水腫性昏睡
誘因:
・感染症
・寒冷
・薬剤(アミオダロン、βブロッカー、リチウム、ヨード)
・心肺疾患
・脳血管障害
・消化管出血
・外傷
・低血糖
症状
・意識障害
・低血圧
・徐脈
・呼吸数低下
・低体温
・低Na血症
診断基準
「甲状腺機能低下+意識障害(JCS≧10、GCS≦12)」に加え、
以下2点以上
循環不全(1点)
MAP≦75㎜Hg
HR≦75
昇圧剤使用
呼吸機能(1点)
低換気
PaCO2≧48Torr
pH≦7.35
酸素投与
低体温(1~2点)
≦35℃(2点)
≦35.7℃(1点)
Na低下(1点)
≦130mEq/L
治療
1)甲状腺ホルモン補充
・レボチロキシンナトリウム(チラージンS®):T4製剤
50~200μgを経口(経管)投与、その後は50~100μg/日
2)副腎皮質ステロイド補充
・最初の24~48時間は甲状腺ホルモン投与に伴いステロイドの需要量が増すため、あるいは副腎不全を合併している可能性があるため。
・ヒドロコルチゾン(ソルコーテフ®)
100㎎8時間毎
3)誘因の治療
感染症に対する抗菌薬、誘因薬剤の中止など
4)全身管理
・挿管、人工呼吸器管理
・昇圧剤
潜在性甲状腺機能低下症
病態
・TSHが基準値を超えているが、遊離甲状腺ホルモン(FT4)が正常な場合をいう。
・甲状腺ホルモンが基準値以下になる顕性甲状腺機能低下症の前段階と考えられる。
・潜在性甲状腺機能低下症の主な原因は「橋本病」である。潜在性甲状腺機能低下症の主因は橋本病で、橋本病が顕性の甲状腺機能低下症に移行する過程でしばしば認められます。
・潜在性甲状腺機能低下症は一般人口で4~15%とされ、女性に多く、高齢者になるとさらに高くなります。
症状
・潜在性甲状腺機能低下症は無症候で進展するため、臨床症状からの発見は不可能。そのため、人間ドッグや健診の血液検査や、不妊治療中に受けた検査の結果から指摘を受け、受診されるケースが多い。
検査
・検査と診断には、TSHとFT4を、時期をおいて2回以上測定する必要があります。
・持続の確認は1~3ヵ月ごとにTSHを測定し、3~6ヵ月の変化を目安に判定します。
・高齢者では、生理的にTSHの正常上限が高くなるので診断には注意が必要です。
・一過性の甲状腺炎の経過、薬剤性、うつ状態、ヨード過剰、不妊治療中(子宮卵管造影後も含め)に潜在性甲状腺機能低下を示すことがあり、鑑別が必要になります。
・潜在性甲状腺機能低下症は、TPO抗体陽性では年4.3%の頻度で顕性甲状腺機能低下症に移行する可能性があります。
・日本人の高齢者ではTSH高値(>8μIU/mL)で顕性甲状腺機能低下症になる可能性が高いとされます。
治療
・潜在性甲状腺機能低下症で、TSHが10mIU/L以上の場合には、一般的に治療が進められるが、10mIU/L未満の場合には症例に応じて治療を決定すべきである。
・一般的には、機能低下症状の訴えがある、あるいは脂質異常を認め、かつTSH≧10μIU/mLでは合成甲状腺ホルモン(チラージンS)の補充治療をしたほうが良いとされます。
TSH<10μIU/mLでは、臨床所見、大きな甲状腺腫、脂質異常、自己抗体の有無、などから判断する。
挙児希望の女性の治療
甲状腺自己抗体の有無に関わらず、潜在性甲状腺機能低下症に対してTSH値2.5μU/mL以下を目標に、レボチロキサシンNaを投与することで、流産率を低下させ、生児率が改善される。
治療を受けない場合も、半年に一度の経過観察を
潜在性甲状腺機能低下症は放置すると動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心血管イベントが増えると報告されているため、
治療を受けない場合でも、半年に一度、健診を受けた医療施設や甲状腺専門の医療機関などを受診して指導を受けると良いでしょう。
また、疲労感やむくみなどの自覚症状やLDLコレステロールや中性脂肪が高い場合は、一度くわしい検査を受けることをおすすめします。
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