参考:「高血圧治療ガイドライン2019」(日本高血圧学会:2019年発行)
血圧測定法
1.装置
・精度検定された水銀血圧計,アネロイド血圧計による聴診法が用いられる。精度検定された電子血圧計も使用可。
・カフ内ゴム嚢の幅13cm,長さ22-24cmのカフを用いる。
[小児上腕周27cm未満では小児用カフ,太い腕(腕周34cm以上)で成人用大型カフを使用]
2.測定時の条件
・静かで適当な室温の環境。
・背もたれつきの椅子に足を組まずに座って数分の安静後。
・会話をかわさない。
・測定前に喫煙,飲酒,カフェインの摂取を行わない。
3.測定法
・カフ位置は,心臓の高さに維持。
・急速にカフを加圧する。
・カフ排気速度は2-3mmHg/拍あるいは秒。
・聴診法ではコロトコフ第I相を収縮期血圧,第V相を拡張期血圧とする。
4.測定回数
・1-2分の間隔をあけて少なくとも2回測定。この2回の測定値が大きく異なっている場合には,追加測定を行う。
5.判定
・安定した値(目安として測定値の差がおよそ5mmHg未満の近似した値をいう)を示した2回の平均値を血圧値とする。
・高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧値に基づいて行う。
家庭血圧測定法
・家庭血圧測定には,ある個体で聴診法との較差が5mmHg以内であることが確認された上腕カフ・オシロメトリック装置を用いる。
・朝は起床後1時間以内,排尿後,座位1-2分の安静後,降圧薬服用前,朝食前。
晩は就床前,座位1-2分の安静後に測定することが推奨されている。
・家庭血圧は朝晩1機会にそれぞれ1回の測定でも,長期間測定することで十分な臨床的価値が保たれる(通常,患者は1機会に複数回測定することが多い)
・日本高血圧学会の指針においては,共通の臨床評価には「1機会の第1回目の測定値の朝晩それぞれ長期間の平均値を用いる」としている
・したがって,家庭血圧による高血圧,正常血圧の判定には1機会第1回目の測定値の朝晩それぞれの測定値7日間(少なくとも5日間)の平均値を用いることを基本とする。
・指用、手首血圧計は使用が容易であるが不正確になることが多く,現状では家庭血圧測定には,上腕用を使用する。
診断基準
正常血圧:
診察室<120/(かつ)80mmHg
家庭<115/(かつ)75mmHg
高血圧基準:
診察室≧140/(かつ、または)90mmHg
家庭≧135/(かつ、または)85mmHg
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdfより引用
診察室血圧に基づいた脳心血管病リスク層別化
・脳心血管病リスクの程度は、「血圧分類(高値血圧、Ⅰ度~Ⅲ度高血圧)」および「血圧以外の予後影響因子によるリスク層」(リスク第一層、リスク第二層、リスク第三層)の組み合わせに基づき、3群(低リスク、中等リスク、高リスク)に層別化されます。
・ただし、脳心血管病の既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿を有する慢性腎臓病(CKD)のいずれかがある場合、あるいはリスク第二層の65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のうち3つ以上に該当する場合については、血圧レベルに関わらず、脳心血管病の高リスク群として判定します。
参照(このサイトより引用):https://pharma-navi.bayer.jp/adalat/pharmacist/jsh2019/02
初診時の血圧レベル別の高血圧管理計画
・JSH2019においては、非高血圧者に対しても計画的な介入の必要性が示されており、診察室血圧が正常高値血圧レベル (120-129mmHgかつ80mmHg未満)以上のすべての者に対して、生活習慣の修正を行います。
・高値血圧レベル (130-139/80-89mmHg)で脳心血管病の高リスク者、および高血圧レベル(140/90mmHg以上)で脳心血管病の低・中等リスク者では、当初から生活習慣の修正/非薬物療法を行います。おおむね1ヵ月後をめどに再評価し、改善が認められない場合は生活習慣の修正/非薬物療法の強化に加え、必要に応じて降圧薬治療を開始します。
・また、高血圧レベル(140/90mmHg以上)で脳心血管病の高リスク者では、降圧薬治療を生活習慣の修正/非薬物療法に遅れることなく、直ちに開始します。
参照(このサイトより引用):https://pharma-navi.bayer.jp/adalat/pharmacist/jsh2019/02
降圧目標
① 診察室血圧<130/80、家庭血圧<125/75mmHg
・75歳未満の成人
・脳血管障害(両側頚動脈狭窄、脳主幹動脈閉塞なし)
・冠動脈疾患
・CKD(尿蛋白陽性)
・糖尿病
・抗血栓薬内服中
② 診察室血圧<140/90、家庭血圧<135/85mmHg
・75歳以上
・脳血管疾患(両側頚動脈狭窄、脳主幹動脈閉塞あり、未評価)
・CKD(尿蛋白陰性)
参照(このサイトより引用):https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/micardis/prevent-cardiovascular-disease-blood-pressure-control
降圧剤の選択
降圧薬の使い方のポイント
第一選択薬;
・第一選択薬としては「長時間作用型カルシウム拮抗薬」「アンギオテンシン変換酵素阻害薬」「アンギオテンシンⅡ受容体阻害薬」「チアジド系利尿薬」の4種のいずれか
主要降圧薬:第一選択薬4種+β遮断薬;
・これら4種の第一選択薬に「β遮断薬」を加えた5種類が主要降圧薬とされ、2剤目以降の選択において優先される
併用の要点;
・単剤で効果不十分の場合、単剤の増量よりも、異なる作用機序の薬剤を少量ずつ併用する方が有効性、安全性ともに優れる
・サイアザイド系(ヒドロクロロチアジド)は、特に併用において心血管イベント抑制効果があるため、禁忌がない限り遅くとも3剤目までには併用されるべきとされる
・治療抵抗性の高血圧ではMR拮抗薬、カリウム保持性利尿薬やα1遮断薬の併用が推奨される
・夜間や早朝の高血圧の場合は夕食後や就寝前の内服を検討する
降圧薬(とくに覚えておくべき薬剤)
主要降圧薬 5種
ACE阻害薬
・エナラプリル(レニベース®)(5mg ) 1回0.5~2錠、1日1回
・ペリンドプリル(コバシル®)
・リシノプリル(ロンゲス®ゼストリル®) 1回5㎎ 1日1回朝食後
慢性心不全への効能、効果を有する
・イミダプリル(タナトリル®)(5㎎) 1回0.5~2錠 1日1回
ARB
・ロサルタン(ニューロタン®) 1回50㎎ 1日1回 就寝前
「高血圧および尿蛋白を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症」に適応がある
尿酸排泄促進効果(尿酸値低下効果)を有する
・カンデサルタン(ブロプレス®)
・オルメサルタン(オルメテック®) OD(10㎎) 1回0.5~4錠 1日1回
重度の下痢の副作用あり
・アジルサルタン(アジルバ®)(20㎎) 1回0.5~2錠 1日1回
・テルミサルタン(ミカルディス®)(40㎎) 1回0.5~2錠 1日1回
長時間作用型Ca拮抗薬
・アムロジピン(アムロジン®、ノルバスク®) OD(5㎎) 1回0.5~2錠 1日1回
・ニフェジピン(アダラート®、セパミット®) CR(20mg ) 1回0.5~2錠 1日1回
CCBの中で特に降圧作用が強い
尿蛋白は増加しない
・シルニジピン(アテレック®)(10㎎) 1回0.5~2錠 1日1回
サイアザイド系利尿薬
・遠位曲尿細管腔側のNa-Cl共輸送体(NCC1)を阻害してNa再吸収を抑制
・降圧作用があり、主として外来での降圧治療に用いられる
・作用時間が長く、1日1回投与で十分
・高血圧に対しては少量で有効(増量しても効果は変わりなく副作用が増す危険性があるため、少量投与が推奨されている)
・利尿作用は強くない
・腎機能障害時(eGFR<30mL/分)には効果が低い
・ループ利尿薬との併用により利尿効果が増大するため、浮腫性疾患や腎機能障害時にしばしば併用される
・使用目的
外来での高血圧治療
高カリウム血症の治療
利尿薬抵抗性の際のループ利尿薬との併用
・副作用として、低K血症
例)
・ヒドロクロロチアジド(12.5㎎) 1回0.5~1錠 1日1回朝食後
・インダパミド(ナトリックス®、テナキシル®)1回0.5~2㎎ 1日1回
・トリクロルメチアジド(フルイトラン®)(1㎎) 1回0.5~1錠 1日1回
β遮断薬
心筋虚血や心不全、頻脈等、優先して投与すべき病態が存在する場合は第一選択薬として併用可能だが、原則的には投与可能な第一選択薬がすべて併用された後で使用を検討する
・アテノロール(テノーミン®)
・ビソプロロール(メインテート®)
β1選択性
・メトプロロール(セロケン®、ロプレソール®)
その他の降圧薬(治療抵抗性高血圧で併用を考慮)
鉱質コルチコイド受容体(MR)拮抗薬
・スピロノラクトン(アルダクトンA®)
α1遮断薬
・ドキサゾシン(カルデナリン®)
(ループ利尿薬)
eGFR<30mL/分/1.73m2未満の腎不全患者でサイアザイド系の効果が期待できない場合に、高血圧の適応はないが選択肢に入る
・ラシックス(20㎎)1回1~4錠 1日1回(連日または隔日)
・アゾセミド(ダイアート®)(30㎎) 1回1~2錠 1日1回
各種病態における降圧薬の適応
高血圧を伴うCKD患者に推奨される降圧薬
・CKDを合併する高血圧患者は、尿蛋白の有無によって推奨される降圧薬が変わる。
・「尿蛋白を有するCKD」では、RA系阻害薬が他の薬剤より有意に腎不全の進行を抑制する。
・「尿蛋白を有さないCKD」では、RA系阻害薬と他の薬剤の間に有意な差が見られない
・「糖尿病非合併CKD(尿蛋白あり)」での降圧療法の第一選択薬はRA系阻害薬を推奨する(CQ10-1)
・「糖尿病非合併CKD(尿蛋白なし)」での降圧療法では、通常の第一選択薬(RA系阻害薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬)のいずれかを推奨する(CQ10-2)
・CKDステージG4(高度低下:eGFR15~29)、G5(末期腎不全;eGFR<15)においても、ACE阻害薬もしくはARBが推奨薬ではあるが,同薬剤投与による腎機能低下や高K血症に十分留意し,これら出現時の速やかな減量・中止,またはCa拮抗薬への変更を提案する。
・サイアザイド系利尿薬はCKDステージG4,5では効果が減弱する。体液貯留を伴ったCKDにループ利尿薬は有効であるが,やはり腎機能低下や低K血症への十分な注意が必要である.
・A2(軽度蛋白尿),A3(高度蛋白尿)区分では,ACE阻害薬もしくはARBで降圧不十分な場合の第二選択薬(併用薬)として,Ca拮抗薬または利尿薬を追加する
・DM非合併CKDのA1区分では,ACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬,サイアザイド系利尿薬の2剤または3剤の組み合わせを考慮する。
・ただし,RA系阻害薬どうしの、およびRA系阻害薬と利尿薬の併用療法には細心の注意が必要である。
・75歳以上の高齢CKD患者の降圧薬選択に関するエビデンスは少ないが,脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し,CKDステージG4,5ではCa拮抗薬を推奨する.
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