破傷風(予防、治療)

破傷風

Clostridium Tetani(嫌気性菌)を病原体とする人獣共通感染症の一つ

・病原菌が産生する神経毒による急性中毒である。

・集団感染によるアウトブレイクは起きない。

・日本では感染症法施行規則で5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る

・年間120例の届出がある(多くはDPTワクチンが導入される1967年以前に生まれた中高年者:)。

・1967年(昭和42年)以前に誕生した人では破傷風予防接種が実施されていない(「破傷風が無、無し(67)」)

・土壌中に生息する嫌気性生物である破傷風菌が、傷口から体内に侵入することで感染を起こす。
・破傷風菌は、芽胞として自然界の土壌中に世界に広く常在している。
・多くは自分で気づかない程度の小さな切り傷から感染している。
・芽胞は土中で数年間生存する。芽胞は創傷部位で発芽し、増殖する。
潜伏期間は3日~3週間で、通常1週間程度が多い。だが多くの意破傷風患者は先行する外傷歴を覚えていないため、潜伏期間はあまり診断には役立たない。
・ワクチンによる抗体レベルが十分でない限り、誰もが感染し発症する。
破傷風毒素
・破傷風菌は毒素として、神経毒である「テタノスパスミン」と溶血毒である「テタノリジン」を産生する。
・テタノスパスミンは、運動神経終末に結合して軸索を逆行性に向かって中枢神経へ広がると、脳や脊髄の運動抑制ニューロン(γ-ニューロン:GABA)に結合し、シナプス前の神経伝達物質をブロックする。抑制系のコントロールが効かないので、運動ニューロンは興奮性の放出が持続し、破傷風に特徴的な「筋痙攣」を引き起こす。
・重症の場合は全身の強直性痙攣を引き起こし、舌を噛んで出血したり、背骨を骨折することもある
(この作用機序と毒素(および抗毒素)は1889〜1890年(明治22〜23年)、北里柴三郎により世界で初めて発見された)。
・神経毒による症状が激烈である割に作用範囲が筋肉に留まるため、意識混濁はなく鮮明である場合が多い。このため患者は、絶命に至るまで症状に苦しめられ、古来より恐れられる要因となっている。
診断は臨床診断

症状

開口障害(初発症状):咬筋の筋痙攣、痙笑
・興奮
・脱力
・筋痙攣
・頚部や項部筋の硬直
嚥下障害
流涎
・咽頭痛(鑑別の1つ)、頚部痛
・構音障害
・自律神経障害(不整脈、血圧の変動)
・深部腱反射亢進、バビンスキー反射陽性、クローヌス
(脳炎や脳症との鑑別を要する。破傷風では意識障害は来さない
・進行すると強直性けいれん、後弓反張、呼吸困難など

予後

破傷風の死亡率は50%である。成人でも15〜60%、新生児に至っては80〜90%と高率である。
・新生児破傷風は生存しても難聴をきたすことがある。治療体制が整っていない地域や戦場ではさらに高い致死率を示す。
予後不良因子
・潜伏期間7日以内
・60歳以上
・脈拍>120/分
・けいれん
など

 

予防接種

・不活化ワクチン(沈降破傷風トキソイド)によって行われ、沈降破傷風トキソイドのみの製剤の他、日本では小児定期接種の「五種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチン」「四種混合ワクチン(DPT-IPV)」、「三種混合ワクチン(DPT)」、「二種混合ワクチン(DT)」に含まれている
(D:ジフテリア、P:百日咳、T:破傷風、IPV:不活化ポリオワクチン)
・小児定期接種で1967年(昭和42年)以前は破傷風を含まないDPワクチンが主に使用され、また1975年〜1981年には副作用によりDPTワクチン接種が中断された。
・このため、その両時期いずれかの接種対象者は破傷風の予防接種を全く受けていない可能性がある。
定期接種(計5回接種)
1期(生後3か月から3回)
五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib:ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ、Hib)ワクチンを、生後3か月から4週間隔で3回
・1期追加(1歳0か月)で1期終了(計4回)
※ 2024年4月から四種混合(DPT-IPV)とヒブワクチンを混合した五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が導入されました。2024年2月以降に生まれた赤ちゃんは原則として五種混合ワクチンを接種します。
※ 2024年3月までに四種混合ワクチンを接種していたら、残りの必要回数も原則として四種混合ワクチンを接種しますが、五種混合ワクチンに変更しても間違い接種ではありません。
2期(追加免疫)(11~12歳)
・DT(破傷風とジフテリアの入った2種混合ワクチン)を1回接種する
・獲得した免疫は10年程度で減弱し、感染予防に必要な血中抗体価0.01 IU/mLを下回るため、10年ごとの追加接種が必要である。
・しかし日本国内においては、リスクの高い一部の人(自衛隊員、消防隊員、動物と接触のある人等)を除き、成人での破傷風トキソイド定期接種は行われていない。
・したがって、成人の多くが十分な破傷風抗体を保有していない状況である。

 

治療

原則
・破傷風発症による発作(痙攣)は光や音に反応して起き、少しの刺激で痙攣が誘発されるので、刺激を避ける目的で部屋に暗幕を垂らしてできるだけ部屋を暗くしたり、音を遮断した静かな部屋で治療する。
・筋硬直や痙攣に対してベンゾジアゾピン系薬
・硫酸マグネシウム(筋痙攣軽減、心血管疾患安定)
・汚染創のデブリドマン
・破傷風菌に対する抗生物質(メトロニダゾール、ペニシリン、テトラサイクリンなど)
・体内の毒素に対しては、抗生物質は効かない。毒素の中和には抗破傷風免疫グロブリンを用いる。
・呼吸状態悪化に対して挿管、気管切開、人工呼吸管理
・破傷風は治癒しても免疫が形成されないので、回復後に破傷風の予防接種を一通り受けることが求められる。

処方例

破傷風トキソイド

・沈降破傷風トキソイド、破トキ「ビケンF」0.5mL 筋注(上腕二頭筋)

・1968年(昭和43年)以降の出生の人(接種歴あり):10年毎

・1967年(昭和42年)以前の出生、または破傷風ワクチン接種歴がない人:基礎免疫として3回接種必要(受傷直後、1か月後、6~12か月後)、その後は10年毎

 

抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤(TIG)

・破傷風グロブリン筋注用250単位「ニチヤク」

溶解液2mLで溶解し筋注

 

破傷風予防ガイドライン

 

※「破傷風をおこす可能性の高い創」とは、

「汚染の強いもの」「深い刺創」「血流の低下」「浸軟した裂創」「動物咬傷」をいう

 

・基礎免疫がない(破傷風トキソイドを3回接種していない)可能があれば、創自体はきれいな場合でも迷わず破傷風トキソイドを接種(3~8週の間隔をあけて2回目、6か月~18か月の間をあけて3回目の計3回接種が必要)
・基礎免疫があり(破傷風トキソイドを3回接種している)、創自体がきれいでも、破傷痛トキソイド最終接種から10年以上経過している場合は、が確認できなければ「破傷風トキソイド」を接種。

破傷風グロブリンは「基礎免疫がなく(破傷風トキソイドを3回接種していない)かつ汚い創」の場合だけ適応(筋注、トキソイドとは反対側)

・基礎免疫のない人は、1回のみの接種で終わるのではなく、合計3回接種することが望ましい。

 

※成人の多くは十分な破傷風抗体を保有しておらず、今後成人への破傷風トキソイドワクチン接種の必要性に関する啓発活動が望まれる。

 

 

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