1型糖尿病の成因、特徴
・原因は不明だが、主として自己免疫やウイルス感染を基礎にした膵β細胞の破壊により、インスリン欠乏状態が生じて発症する。
・病因に自己免疫が関わっていることが多いが、特発性もある
・小児期に急性発症することが多い
・発症前に感冒症状や腹部症状が多くみられる
・高血糖の結果、初期症状として多飲・多尿・体重減少が出現する
・DKAを来すと腹部症状や神経症状を認める。
症状
・一般に急性発症で、口渇・多飲・多尿などの高血糖症状をきたす。発症から3か月以内にケトーシスやケトアシドーシスに陥るされる(劇症1型糖尿病では1週間以内)
・多尿は、幼児期では「おねしょ」「おもらし」の出現や増加、学童期以降では、夜、トイレに起きるようになること(夜間排尿)で気づかれることもある。
・食事をエネルギーに変えることが難しくなるためにるい痩(体重減少)、元気がなくなる、易疲労感といった症状が出ます。
・インスリン不足がさらに進むと「糖尿病ケトアシドーシス」を発症し「嘔気、嘔吐」「腹痛」などの消化器症状(代謝性アシドーシスや電解質異常の結果、胃内容物の排泄遅延や腸管蠕動不全を生じるためとされる)「大きく深い呼吸」「意識障害(昏睡)」などの症状が現れます。
・小児1型糖尿病の一部では、ごく病初期のためにまだ血糖値がそれほど高くなっておらず、全く症状がないこともある。幼稚園や学校での「集団検尿で尿糖陽性」として発見される場合もある。
1型糖尿病の分類
現在、1型糖尿病はその進行のスピードによって以下の3つの亜型に分類されている。
・劇症1型糖尿病
・急性発症1型糖尿病
・緩徐進行1型糖尿病
① 劇症1型糖尿病
疾患
・最も急激に発症し、日の単位でインスリン依存に至る糖尿病である。
・1週間以内にケトーシスやケトアシドーシスに陥る
・原因は不明(遺伝因子を背景にウイルス感染が契機となり、それに伴う免疫現象(抗ウイルス免疫)により、β細胞が破壊されると考えられている)
・感冒様症状や消化器症状(嘔気嘔吐、上腹部痛)を前駆症状とすることが多く、風邪や脱水と誤診し、不用意にブドウ糖液を点滴すると死を招くことがある。
※「通常の感冒にしてはsick」であることに気づくこと
・急性発症(有症状期間<10日)
・症状:感冒症状(発熱、咽頭痛)、口渇、意識レベル低下、消化器症状(嘔気嘔吐、上腹部痛)
・すぐにインスリンを補充する治療がなされなければ糖尿病ケトアシドーシスとなり、重い状態になることもあるため、早い段階での診断が重要。
・「通常の感冒にしてはsickである」ことに敏感になる必要がある
・自己抗体は認めないことが多い。
・血中膵外分泌酵素の上昇(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1など)
・発症時の平均血糖は約800mg/dLと著明に高値
・発症があまりにも急激であるために、過去2~3ヶ月の血糖の指標であるHbA1cはあまり上昇しないのが特徴。
(初診時の随時血糖 288 mg/dL以上、かつ HbA1c 8.7 %未満で疑う)
・膵β細胞はほぼ消失しており、内因性インスリン分泌能の指標であるCペプチドは著しく低下(尿中CPR<10μg/日)。
・急性発症1型糖尿病の特徴である抗GAD抗体のような自己抗体は多くの場合陰性である。
原因
・原因は不明
・遺伝因子を背景にウイルス感染が契機となり、それに伴う免疫現象(抗ウイルス免疫)により、β細胞が破壊される。
・劇症1型糖尿病の72%に先行感染症状を認め、ヒトヘルペスウイルス(HHV)6型、コクサッキーウイルス、インフルエンザBウイルス、ムンプスウイルスなど、様々なウイルスが報告されている。
・遺伝子としてはクラスⅠ/ⅡHLA遺伝子、CTLA-4遺伝子などがいわれている。
・病理学的には膵β細胞の破壊がα細胞も巻き込んでおり、マクロファージの浸潤が顕著である事が特徴。
「劇症 1 型糖尿病診断基準」(2012)
下記 1 ~ 3 のすべての項目を満たすものを「劇症 1 型糖尿病」と診断する.
1. 糖尿病症状発現後 1 週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る(初診時尿ケトン体陽性,血中ケトン体上昇のいずれかを認める.)
2. 初診時の(随時)血糖値が 288 mg/dL(16.0 mmol/l)以上であり,かつ HbA1c 値<8.7 %*である.
3. 発症時の尿中 C ペプチド<10 μg/day,または,空腹時血清 C ペプチド<0.3 ng/ml 、かつグルカゴン負荷後(または食後 2 時間)血清 C ペプチド<0.5 ng/ml である.
*:劇症 1 型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は,必ずしもこの数字は該当しない.
<参考所見>
A)原則として GAD 抗体などの膵島関連自己抗体は陰性である.
B)ケトーシスと診断されるまで原則として 1 週間以内であるが,1 ~ 2 週間の症例も存在する.
C)約 98 % の症例で発症時に何らかの血中膵外分泌酵素(アミラーゼ,リパーゼ,エラスターゼ 1 など)が上昇している.
D)約 70 % の症例で前駆症状として上気道炎症状(発熱,咽頭痛など),消化器症状(上腹部痛,悪心・嘔吐など)を
認める.
E)妊娠に関連して発症することがある.
F)HLA DRB1*04 : 05-DQB1*04 : 01との関連が明らかにされている.
治療
・血糖値288mg/dL以上かつ急激に進行するケトーシスを認めた場合は直ちに入院治療が行える医療機関へ紹介する
② 急性発症1型糖尿病
・1型糖尿病で最も頻度の高い典型的なタイプ
・高血糖症状(口渇、多飲、多尿など)で早期より(数ヶ月で)インスリン依存状態になる。
・発症した後に、一時的に残っている自分のインスリンの効果が改善する時期(ハネムーン期)がある場合もあるが、その後は再びインスリン治療が必要となる。
・自己抗体を認めることが多い。
「急性発症1型糖尿病診断基準(2012)」
1.口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病(高血糖)症状の出現後、おおむね3か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る1)。
2.糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする2)。
3.膵島関連自己抗体が陽性である3)。
4.膵島関連自己抗体が証明できないが、内因性インスリン分泌が欠乏している4)。
判定:
上記1~3を満たす場合、「急性発症1型糖尿病(自己免疫性)」と診断する。
1、2、4を満たす場合、「急性発症1型糖尿病」と診断してよい。
内因性インスリン分泌の欠乏が証明されない場合、あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合には、診断保留とし、期間をおいて再評価する。
【参考事項】
尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認める場合、ケトーシスと診断する。また、臨床的判断により直ちにインスリン治療を開始した結果、ケトーシスやケトアシドーシスに陥らない例がある。
1型糖尿病の診断当初にインスリン治療を必要とした後、数ヶ月間インスリン治療なしで血糖コントロールが可能な時期(honeymoon period)が一過性に存在しても、再度インスリン治療が必要な状態となりそれが持続する場合も含める。
グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体(IAA)、亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、膵島細胞抗体(ICA)のうちいずれかの自己抗体の陽性が経過中に確認された場合、膵島関連自己抗体陽性と判定する。ただし、IAAはインスリン治療開始前に測定した場合に限る。
空腹時血清Cペプチド<0.6 ng/mlを、内因性インスリン分泌欠乏の基準とする。ただし、劇症1型糖尿病の診断基準を満たす場合は、それに従う。また、HNF-1α遺伝子異常、ミトコンドリア遺伝子異常、KCNJ11遺伝子異常などの単一遺伝子異常を鑑別する。
③ 緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive insulin- dependent diabetes mellitus:SPIDDM)
・半年~数年かけてゆっくりとインスリン分泌が低下していくタイプ。
・抗GAD抗体、または膵島細胞抗体(ICA:Islet cell antibody)が陽性
(初期からずっと継続して陽性となるわけではなく、経過のどこかの時点でこれらが陽性となる)
・「当初は食事や経口血糖降下薬のみで治療が可能な2型糖尿病の病態を呈するが、膵島自己抗体が持続陽性で、緩徐にインスリン分泌能が低下し、最終的にインスリン依存状態となる糖尿病」と定義される。
・糖尿病診断時、および経口血糖降下薬の効果が乏しいと感じた時に膵島関連抗体のチェックを行い、早期発見に努める
・検査でこのタイプの可能性がある場合には、膵臓に負担をかけるような内服薬は推奨されず、インスリン治療などで膵臓を保護する治療を開始することが望ましいといわれている。
・SPIDDMは自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病や橋本病)の合併率が高い(21%)。抗GAD抗体陽性の患者を診た場合は、甲状腺機能異常に関する問診をし、甲状腺腫大がないか確認する。スクリーニングの血液検査としてTSH、FT4、FT3を測定し、必要に応じて甲状腺自己抗体(TSH受容体抗体、サイログロブリン抗体、TPO抗体)の測定や甲状腺超音波検査も検討する。
「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)診断基準(2023)」
【必須項目】
1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性であるa)
2. 原則として、糖尿病の診断時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない。
3. 経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の診断後3ヶ月 b)を過ぎてからインスリン療法が必要になり、最終観察時点で内因性インスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド<0.6ng/mL)である。
判定:
● 上記1、2、3を満たす場合、「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断する。
● 上記1、2のみを満たす場合は、インスリン非依存状態の糖尿病であり、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」とする。
a) 膵島関連自己抗体とは、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体,亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、インスリン自己抗体(IAA)を指す。ただし、IAAはインスリン治療開始前に測定した場合に限る。
b) 典型例は6ヶ月以上である。
SPIDDMの治療
・内服からインスリンに切り替えることが推奨される(専門医に紹介を検討)。
・インスリン治療を行いつつ、α-グルコシダーゼ阻害薬(ベイスン、セイブル)と一部のSGLT2阻害薬(フォシーガ5㎎1日1回食後、スーグラ50mg 1日1回朝食前または朝食後)が適応となる。
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