貧血の定義
Hb男性13g/dL、女性12g/dL未満
貧血の分類
・平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)を計算による分類
・MCV低値、MCH低値、MCHC低値であれば『小球性・低色素性貧血』
・MCV高値、MCH高値であれば『大球性・高色素性貧血』
・MCV, MCH, MCHCのいずれも正常値であれば『正球性・正色素性貧血』と呼ぶ
・簡単には『小球性』『正球性』『大球性』とも分類する。
まず行うべき検査項目
・血算
・網赤血球
・血清鉄(基準値:男性50~200µg/dL、 女性40~180µg/dL)
・フェリチン(基準値;男性20~250ng/ml,女性10~80ng/ml
・TIBC、UIBC
・LDH(溶血性で増加)
・間接ビリルビン(溶血性で増加)
・ビタミンB12、葉酸
以下、必要時追加;
・血清ハプトグロビン(溶血性で減少)
・エリスロポイエチン
・甲状腺ホルモン
鑑別の3Steps
Step1:白血球、血小板の減少もあるか?
① 貧血に加え、3系統全ての血球減少(汎血球減少)がある場合
→ 腫瘍細胞の骨髄浸潤や全血球系統の産生を抑制する重大な疾患の存在を示唆するため、専門医へコンサルトすること。
② 2系統の血球減少(貧血+白血球減少、または貧血+血小板減少)
→ 骨髄異形成症候群、骨髄不全、白血病、脾機能亢進、血管内・外溶血などの鑑別を要するため、原則として専門医へコンサルトすること。
Step2:網赤血球の増加はあるか?
・増加あり→赤血球破壊亢進(溶血、出血)→Coombs試験へ
・正常~低値→MCVに注目して鑑別を進める
Step3:MCVによる貧血の鑑別
↓
下記にすすむ
小球性貧血(MCV<80 fL)の鑑別疾患
⓵ 鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia:IDA)
参照:『鉄欠乏性貧血』
血清鉄減少
血清フェリチン減少(<12ng/mLの時、鉄欠乏性と考える)
TIBC、UIBC増加
・鉄剤は貧血が改善しても、フェリチンが安定して25ng/mLを上回るようになるまで継続。250ng/mL以上になったら中止。
② 慢性疾患に伴う貧血(anemia of chronic disease:ACD) →「正球性貧血」の項へ
・膠原病、悪性腫瘍、感染症などの慢性疾患による貧血
・除外診断
・正球性貧血だが、経過が長いと小球性になる
→「正球性貧血」の項へ
③ サラセミア
・特定のグロビン鎖の遺伝的な合成障害(常染色体優性遺伝)
・骨髄での破壊(無効造血)や脾臓での破壊(血管外溶血)を反映し、網赤血球増加、標的赤血球の出現を認める
・血管外溶血を反映し、軽度の黄疸や脾腫を認める
・貧血の程度は軽いが、MCVが極端に低い(60fL台が多い)
・赤血球数は正常~軽度低下、増加と様々
・Mentzer index:MCV/RBC(×10^6)≦13の場合、サラセミアが強く疑われる
・血清鉄、TIBC、フェリチンは正常~高値(鉄欠乏性との鑑別)
正球性貧血(80≦MCV≦100)
⓵ 慢性疾患に伴う貧血(anemia of chronic disease:ACD)
※ 正球性貧血だが、経過が長いと小球性になる
疾患
・感染症、慢性炎症性疾患、悪性腫瘍が原因で起こる貧血
・複合的な要因(鉄利用障害、造血抑制、エリスロポイエチンの相対的不足、赤血球寿命短縮)によっておこる
・基本的に除外診断である
・フェリチンは十分あるにも関わらず利用が障害されている状態
・正球性貧血だが、経過が長いと小球性になる
原因疾患
・慢性感染症(一般細菌、抗酸菌、真菌、寄生虫、ウイルス感染症など)
・自己免疫性疾患(関節リウマチ、SLEなど)
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病など)
・自己炎症性疾患
・慢性肝臓病
・慢性腎臓病
・うっ血性心不全
・慢性肺疾患(COPD、肺高血圧症など)
・甲状腺機能低下症
・栄養障害(鉄、亜鉛、銅欠乏、葉酸、ビタミンB12欠乏(自己免疫性萎縮性胃炎による))
・Castleman病
・ランゲルハンス細胞組織球症
・悪性腫瘍(固形がん、悪性リンパ腫など)
・慢性GVHD
・薬剤性(メトトレキサート、抗菌薬など)
機序
炎症性サイトカイン(IL-6など)が上昇
↓
肝臓でヘプシジンが過剰に産生される
↓
ヘプシジンが網内系細胞に貯蔵された鉄放出を抑制する。
そのため、血清鉄値低下させ、網内系貯蔵鉄(フェリチン)を増加させる。
さらに、ヘプシジンは腸管(十二指腸)からの鉄吸収を抑制する
検査所見
・血清鉄低値
・小~正球性貧血(概ねMCV84以下、MCHC 30%以下)
・血清フェリチン正常~増加(鉄欠乏性貧血との鑑別点:100ng/mL以上ならACDと考える)
・TIBC低値(鉄欠乏性貧血では増加)
※血清フェリチン値が30~100ng/mLでは、ACDとIDAが併存してる可能性を否定できない
・CRP陽性(炎症を反映)
再生不良性貧血→専門医コンサルト
・汎血球減少(貧血は正球性)
・網赤血球減少
・梢血中に芽球なし
溶血性貧血→専門医コンサルト
・正球性貧血
・網赤血球増加(無効造血では低下:鑑別点)
・LDH増加
・間接ビリルビン増加
・血清ハプトグロビン減少
急性白血病→専門医コンサルト
・正球性貧血
・白血球数増加または減少
・血小板減少
・末梢血中に芽球あり
腎性貧血
・主にCKD 4期以降(GFR<30mL/分/1.73m²)で出現
・EPOが正常でも否定できんない
鉄芽球生不応性貧血
・ミトコンドリアに鉄が異常に沈着した環状鉄芽球の出現を特徴とする貧血である。
・遺伝性(先天性)と後天性に大別され,さらに後者は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)に代表される特発性と,抗結核薬投与やアルコール常飲など明らかな原因のある二次性に大別される。
・鉄芽球性貧血のほとんどはMDSに伴う鉄芽球性貧血であり,遺伝性・二次性は稀である。
後天性鉄芽球性貧血の原因:
・骨髄異形成症候群
・薬剤(クロラムフェニコール,サイクロセリン,イソニアジド,リネゾリド,ピラジナミド)
・毒性物質(エタノール,鉛など)
・ビタミンB6(ピリドキシン)欠乏
・銅欠乏(→亜鉛過量摂取でも発症)
検査所見
・鉄芽球性貧血の検査所見の特徴は,貧血、骨髄における環状鉄芽球の出現(15%以上)である。
・さらに,種々の程度で鉄過剰所見を認める。
〈末梢血液所見〉
・鉄芽球性貧血においては,ほぼ例外なく貧血の出現を認める。
・MDSに伴う鉄芽球性貧血症では,貧血とともに白血球減少・血小板減少も伴う(汎血球減少)ことがあり、また貧血はMCVが100fLを超える軽度大球性であることが多い。
・一方,ALAS2遺伝子変異に伴う遺伝性鉄芽球性貧血では小球性貧血となるのが特徴である。
〈骨髄所見〉
・骨髄における環状鉄芽球の出現が,遺伝性・後天性を問わず鉄芽球性貧血の診断において重要である。
・MDSはもともと造血幹細胞レベルの異常により引き起こされる病態であるが,そのうちの一部の病型で鉄芽球を認める。
・WHO分類によると,MDSのうち骨髄赤芽球中に環状鉄芽球を15%以上認めかつ芽球が5%未満で1),赤芽球系のみの異常にとどまるものはrefractory anemia with ringed sideroblasts(RARS)2),2系統以上の血球系列の血球減少および異形成を認めるものはrefractory cytopenia with multilineage dysplasia and ringed sideroblasts(RCMD─RS)と分類される。環状鉄芽球以外に,低分葉好中球(偽ペルゲル核異常)・無顆粒好中球・微小巨核球の出現は,MDSを特徴づける異形成所見として重視される。
〈その他〉
□MDSでは赤芽球の骨髄内破壊(無効造血)により,しばしば血清鉄や体内の貯蔵鉄量を反映する血清フェリチン濃度が増加している。さらに無効造血を反映して,血清LDHの上昇,ハプトグロビン低下,間接ビリルビン軽度増加も認める。
□遺伝性鉄芽球性貧血の診断には遺伝子検査が必須であるが,家族歴の有無が重要な情報となる。また,遺伝性鉄芽球性貧血のうちALAS2遺伝子変異に伴う症例では,鉄過剰所見も認める。
急性出血
大球性貧血(MCV>100)
⓵ 巨赤芽球性貧血
・MCV>110fL以上(130以上なら巨赤芽球性貧血以外は考えにくい)
・種々の原因により骨髄に巨赤芽球が出現する貧血の総称である。
・ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏などにより、DNA合成が障害され核の成熟障害をきたし、異常な巨赤芽球が産生される。
・一方でRNA合成やタンパク合成障害は相対的に軽度であることから、細胞質は成熟し大きくなり、未熟な大きい核と細胞質間の成熟不一致がみられる。
・巨赤芽球の多くは成熟することができず、骨髄内でアポトーシスにより死滅し無効造血をきたす。
・DNA合成障害は全身で起こり、貧血以外にも多彩な症状を呈するが、生体のDNA合成障害は細胞増殖が最も活発な血液細胞に強く影響を与えるため、貧血(血球減少)が他の症状に先行して出現する。
・貧血の後に、ハンター舌炎、神経症状(末梢神経障害、感覚障害、認知症)を来す
・高度になると赤血球以外の血球にも影響が及び、汎血球減少を起こす
悪性貧血
・巨赤芽球性貧血の1つ。
・ビタミンB12の吸収に必要な内因子(抗内因子抗体)や、内因子をつくる胃壁の細胞を自分自身の抗体が攻撃することで、ビタミンB12の吸収障害が起こるものをいう。
検査
・ビタミンB12が300pg/mL以上であれば欠乏症は否定的。200pg/mL未満であることが欠乏症としてのカットオフ値となる「
治療
・ビタミンB12筋注または内服(胃切除後患者でも筋注と内服に効果の差がなかったとの報告あり)メコバラミン(500μg/1mL/A) 1回1000μg、週3回筋注
2週間後貧血再検
・新生された赤血球内へのK流入により低K血症をきたすことがり注意を要する
・MCVの正常化は通常2か月以内に完了する
・神経症状改善は1週間以内に始まり、治癒には約3か月かかる
(ただし高齢者では治癒しないことがあるため、事前に説明しておく必要がある)
※ ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏の鑑別
・ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏が疑わしいときは,真の欠乏かを考えるが、境界域のとき,「メチルマロン酸」と「ホモシステイン」を測定する
・ビタミンB12または葉酸が低下すると、ホモシステインからメチオニンへの合成が低下するため、ホモシステインが高値になる
参照(このサイトより引用):https://www.okotono.net/entry/2016/02/13/232846
・ビタミンB12欠乏では、メチルマロニルCoからサクニルCoAへの変換も低下するため、メチルマロン酸は高値となる
・一方、葉酸欠乏ではメチルマロン酸は正常である
1) ビタミンB12欠乏性貧血
・カットオフ値は200pg/mL未満
・自己免疫性萎縮性胃炎(悪性貧血)と胃切除後が2大原因
・その他、クローン病、薬剤性(PPI)、吸収不良症候群、摂取不足(アルコール依存、菜食主義者)、ヘリコバクター・ピロリによる萎縮性胃炎など
・無効造血→網赤血球減少、汎血球減少
・間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低値、高LDH血症
2) 葉酸欠乏性貧血
・葉酸の吸収は十二指腸と空腸上部で行われる
・無効造血→網赤血球減少、汎血球減少
・間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低値、高LDH血症
② 肝障害に伴う貧血
③ 骨髄異形成貧血
④ (溶血性貧血)
⑤ 原因不明の大球性貧血(100~110fL)→経過観察でよい
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