疾患
・足底腱膜と踵の付着部への伸張性または圧迫性の機械的負荷により微小損傷を繰り返し起こし形成される有痛性の変性病変
・足底腱膜は足底皮下に踵骨から足趾の底側まで拡がる丈夫な腱様の線維膜組織で、足の縦アーチを支える機能を持ち、つま先立ちや踏み返し動作の際にアキレス腱の張力を足底に伝える機能を持っている
・また踏み返し動作時には、足趾のMTP関節が背屈するため、足底の縦アーチが高くなる「巻き上げ現象」と呼ばれる動きが起こる。有限要素法を用いたシミュレーションでは、足底腱膜には踏み返し期の直前に体重の70%の張力がかかると示唆され、踵の高い靴で母趾が背屈するとさらに高い張力がかかると解析されている。
・足底腱膜炎は踵部痛の最も多い原因で中年期以降の40歳代から60歳代に、過度の負荷をきっかけに踵の内側の痛みとして発症することが多いが、長距離ランナーやサッカー選手などではスポーツのストレスが過剰になると発症する。
発症の危険因子としては、立ち仕事、足関節の背屈制限、肥満などが挙げられている。
足底腱膜炎と呼ばれるが組織学的検討では、腱様組織の変性所見が主で炎症所見に乏しく繰り返す張力負荷により起こった微少損傷である。
・アキレス腱の拘縮を伴っていることが多い。
・早期に、治療しないとしばしば慢性化し治療に難渋する。しかし、症状がどんどん悪化していくことはまれで、6カ月以降も症状はさほど変化しないといわれている。
症状
・主訴は踵の痛みであるが、程度はさまざまである。特徴的なのは朝の第1歩の激痛で、少し時間が経つと軽減する。
・しかし、朝の痛みは軽度でも次第に増強し、夕方には足を地面につくのが困難なほどの疼痛となることが多い。夜間に就眠障害が出るほどの痛みになることは少ない。
・新しい革靴に換えた、フローリングの部屋に引っ越したなど、歩行時に踵の衝撃が増大するきっかけがあることが多い。
また、ランニング時間が長いスポーツを行っていて、さらに負荷が増大した際や、負荷環境の変化に遇った場合にも発症しやすい。合宿練習での最後に記録会のレースをしたあと、へたったシューズで長く走ったあと、逆に新しいランニングシューズに換えた直後、硬いグラウンドの上でスパイク付きのシューズでサッカーをしたあとなどは、しばしば経験する発症機転である[10]。
診察法
・視診では、立位での踵の内外反を後方から観察し、足部の回内や回外の異常を観察する。
・触診では距骨下関節や足根骨間関節の可動性を確認し、踵骨内側の足底腱膜起始部に圧痛点があることが多い。
・踵骨の内外側壁に圧迫力をかけて痛みが誘発されるか調べるsqueeze testは、疲労骨折や骨嚢腫などの鑑別に有効である
治療方針
保存的治療
・保存療法は小出しにせず、すべて最初から併用するとよい。症状が慢性化する前に、軽快させるのが最も大事である。
保存療法:
発症のきっかけをよく聞いて、改めるべき習慣がないか確認する。急激な体重増加には減量指導を行い、フローリングの床での素足の生活などにはスリッパなどの室内履きの使用を勧める。スポーツ選手では、過剰な練習やランニングが背景にあることが多く、学生では練習時間を机に向かって自習した時間と同じに制限し、勉強とスポーツのアンバランスが運動機能を損なっていることを自覚させる。
運動療法:
アキレス腱の拘縮を伴っていることが多く[19]、階段などで踵を深く沈ませるディープストレッチングを指導する(<動画>)。非荷重状態でのストレッチングは、母趾を背屈させて足底腱膜の巻き上げ現象を利用し伸張させ、母趾から踵にかけて指で圧迫する
装具療法:
シリコン製のヒールカップが効果的であることが多い。通常使用するシューズをチェックし、必要があればクッション性のよいものに変更させ、中敷きの工夫を指導する
薬物療法:
・消炎鎮痛剤を内服させ[24]、局所の湿布を行う
・ステロイド薬の局所注射は腱膜の急性断裂の危険があり、避けられない試合の直前など特殊な事情がない限り行っていない。
・ステロイド注射をうけた患者群では、受けていない群より33倍断裂のリスクが高かったとの報告がある。
体外衝撃波療法
高エネルギーの衝撃を与えることで、足底腱膜の治癒を促進する方法で有効性が高いとの報告があり、日本でも保険診療が可能となり普及が期待されている。
PRP(富血小板血漿)療法
患部にPRPを注射する治療も注目を集めたが、二重盲検では優位性を証明できていない。
手術適応・手術の選択
中高年では腱膜の変性が著明で罹患期間が遷延している場合、足底腱膜の起始部での切離手術は有効な治療法である。繰り返す損傷で、瘢痕組織が腫瘤となっている場合や、踵骨棘が大きい場合は手術的切除が有用である。ただし、神経損傷の危険があり、慎重な適応が望ましい。超音波画像ガイド下に外来で局所麻酔で行う足底腱膜部分切離術で、良好な成績が報告されている[29][30]。
鏡視下切除術は、小皮切で足底筋膜解離が可能なよい方法である[31][32]。同時に、踵骨棘の切除と滑液包の切除術を行える。
慢性化した足底腱膜炎では腓腹筋が拘縮しており、足底腱膜切離術より腓腹筋内側頭の切離の方が治療効果が高いとの報告もある
専門医相談のタイミング
装具療法や3カ月のストレッチ指導などの保存療法が奏功しない場合は、体外衝撃波療法などの積極的保存療法や手術療法など特殊な治療を必要とするため専門医へ紹介する。
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