疾患
・中小動脈に発症する原因不明の壊死性動脈炎。
・HBV感染、ワクチン接種、HCV感染、有毛細胞性白血病に続発する「2次性PAN」もある(HBV関連PANはウイルス蛋白を含む免疫複合体の血管壁への沈着が原因と言われる
・不明熱の原因となることがある
・男女比は3:1と男性に多く、40~60歳の中高年(平均年齢55歳)に好発する。
・発熱、体重減少といった非特異的な全身症状に加え、1つ以上の臓器虚血症状(腹痛、関節痛、多発単神経炎など)が見られた時に疑う
・発症早期から虚血症状が出ることもあれば、非特異的な症状が数か月続いた後に虚血症状が出現することもある
・血管壁が炎症により肥厚して内腔が狭窄すると臓器の虚血・梗塞(腎梗塞, 心筋梗塞, 皮膚潰瘍など)をきたします。
・また、血管の破裂による皮膚や臓器の出血(紫斑, 消化管出血, 脳出血など)や、血管壁の炎症から組織・臓器に炎症(心膜炎, 胸膜炎, 筋炎, 関節炎, 多発性単神経炎など)を起こします。
症状
損傷をうけた血管の支配臓器(腎臓、消化管、脳神経、心臓、皮膚、関節、筋肉など)に特異的な臨床症状を呈する。
全身症状
38℃以上の発熱、体重減少、倦怠感、多関節痛、筋肉痛など)、末梢神経障害、皮膚症状、腎障害の頻度が高い。
消化器症状
消化管出血・穿孔、腸梗塞を20%に認める
腹痛は腸間膜動脈病変の初期症状
循環器障害
・心筋梗塞、心膜炎、心不全、胸膜炎など
筋骨格
・関節炎、関節痛
・筋痛、筋力低下
皮膚症状
径1㎝程までの浸潤を触れる紅斑や結節、リベドが多く、時に潰瘍化を認める。
紫斑、皮下結節、網状皮斑、潰瘍、水疱
腎障害
・患者の半数は腎臓が障害されて腎不全や高血圧をきたす(ただし毛細血管に炎症が及ばないため、糸球体腎炎は通常起こらない)。
多発単神経炎(感覚障害が運動障害に先行)
・手足のしびれ、知覚鈍麻や知覚過敏)は患者の80%程度に出現
・中枢神経病変はまれだが、脳症、痙攣、脳卒中を生じることがある
その他
・精巣痛、精巣腫脹を約20%に認める。「発熱+(圧痛を伴う)精巣痛」ではPANを想起する
・PAN患者の60%に皮膚症状(結節性紅斑、紫斑、皮下結節、皮膚潰瘍、網状皮斑など)を認める。
診断
※ PANを確定診断できる臨床所見や検査はない。
・臨床所見から疑い、可能であれば標的臓器の生検、生検可能な部位がない場合は腎臓、肝臓、腸間膜動脈などの血管造影を行い、微小動脈瘤を証明することで診断する。
・PANはANCAなどの自己抗体が検出されず、特異的な検査マーカーもないので, 臨床症状と身体所見を参考に診断を進めます。
・確定診断には、症状のある部位(皮膚、神経、腎臓など)からの生検が必要で、中・小動脈にフィブリノイド壊死性血管炎を認めます。
・生検に適した部位がない場合は画像検査が診断の助けになり、血管造影で腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤や狭窄・閉塞を認めます。
・CTやMRIでは臓器梗塞、動脈壁の肥厚や不整、動脈の閉塞、動脈瘤を確認します。
多疾患との鑑別点
※ 結節性多発血管炎では耳鼻咽喉、呼吸器は侵さず、糸球体腎炎は起こさない
・呼吸器症状がある場合は他疾患を示唆する
・耳鼻咽喉症状(鼻腔の痂疲、副鼻腔炎、難聴)は「多発血管性肉芽腫症」などを示唆する
・糸球体腎炎(赤血球円柱、尿蛋白)がある場合は「顕微鏡的多発血管炎」や「多発血管炎性肉芽腫症」を考慮する
治療
・グルココルチコイド
・シクロホスファミド
重要な臓器障害がある場合は免疫抑制薬を併用
ステロイド治療は多くのPAN患者に有効で約半数が寛解となるが、残りの半数はステロイド単独で寛解に至らず、免疫抑制薬のシクロホスファミドを使用。
生命予後に関わるような臓器障害がある重症例はステロイドパルス療法を行います。
その他の免疫抑制薬としてアザチオプリンやメトトレキサートも使用される
コメント