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シェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome: SS)

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疾患

・慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症を来す自己免疫疾患の一つである。乾燥症が主症状となるが、唾液腺、涙腺だけでなく、全身の外分泌腺が系統的に障害されるため、autoimmune exocrinopathyとも称される。
シェーグレン症候群は他の膠原病の合併がみられない一次性と関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併する二次性とに大別される。さらに、一次性シェーグレン症候群は、病変が涙腺、唾液腺に限局する腺型と病変が全身諸臓器に及ぶ腺外型とに分けられる。
様々な自己抗体の出現や臓器に浸潤した自己反応性リンパ球の存在により、自己免疫応答がその病因として考えられている。ポリクローナルな高ガンマグロブリン血症のほか、抗核抗体、リウマトイド因子、抗SS‐A抗体、抗SS‐B抗体などの自己抗体が出現する。

 

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原因

詳細は不明であるが、自己免疫疾患と考えられている。

 

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症状

(1)乾燥症状(眼、口腔、気道乾燥、皮膚乾燥、腟乾燥など)
(2)唾液腺・涙腺腫脹
(3)関節症状(関節痛、関節炎)
(4)甲状腺(甲状腺腫、慢性甲状腺炎)
(5)呼吸器症状(間質性肺炎、慢性気管支炎、嗄声など)
(6)肝症状(原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎)
(7)消化管症状(胃炎)
(8)腎症状(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症による四肢麻痺、腎石灰化症)
(9)皮膚症状(環状紅斑、高ガンマグロブリン血症による、下肢の網状皮斑や紫斑)
(10)その他(レイノー現象、筋炎、末梢神経炎、血管炎、悪性リンパ腫など)

・多くは乾燥症状を認めるが、多彩な腺外症状をきたすことがある

・神経症状:

深部感覚優位の感覚性失調、感覚失調を伴わない有痛性末梢神経障害、多発単神経炎、自律神経障害、多発根神経炎、多発脳神経障害、三叉神経障害

 

検査所見

・血液所見として白血球減少(30-60%)、血小板減少(10%以下)、赤沈亢進、高γグロブリン血症(60-80%)を認めることがある。

・血小板減少の中には特発性血小板減少性紫斑病の合併する症例もある。

・クリオグロブリンも5-10%と比較的高率に検出される。

・抗核抗体は80-90%で陽性となり、染色型は斑紋型(Speckled pattern)が多い。

・抗SS-A/Ro抗体は一次性シェーグレン症候群の約50-70%、抗SS-B/La抗体は約20-35%に認められる。

・抗SS-B/La抗体は一次性シェーグレン症候群に特異性が高い。

・SS-A抗原は主に細胞質に存在し蛋白合成を調節する低分子リボ核蛋白(ribonucleoprotein:RNP)で,4つの低分子hYRNA(hY1、hY2、hY3、hY5) と60kDa または52kDa 蛋白から構成される複合体である。一方SS-B抗原はhYRNA、tRNA 前駆体、プレ5Sr RNA 、プレU6 snRNA、Epstein-Barr virus-encoded small RNAs (EBERs)、adenoviral VA (viral associated) RNAなどの低分子RNA と結合しうる細胞核内の48kDa蛋白で,RNA polymerase Ⅲ の転写を調整する。SS-B抗原はhYRNA を介しSS-A抗原と複合体を形成することが報告されており、SS-B抗原の多くは細胞核内に存在するが、SS-A抗原が存在する細胞質内からも検出される。抗SS-B/La抗体陽性例では、ほぼ抗SS-A/Ro抗体も検出されるが、その理由はこのような両抗原の分布と分子性状によると考えられている。

・リウマトイド因子は約70-80%の症例で陽性となる。また、抗CCP抗体は一次性シェーグレン症候群において5.2-18%で陽性となる。

・尿検査としては尿細管性アシドーシス合併例において尿pHが高くなり、尿中βマイクログロブリンの上昇を認める。

・涙腺機能検査、眼科的検索では乾燥性角結膜炎、表層性びらん、角膜潰瘍を認める。

・涙液分泌の評価試験としてシルマーテストがあり、1mm幅のメモリのついた35mm長のろ紙を下眼瞼耳側に静置し、5分で5mm以下の涙液分泌所見を陽性としている。

・涙液分泌低下の結果生じる乾燥性角結膜炎の評価染色検査としてはローズベンガルテスト、リサミングリーン、蛍光色素試験がある。細隙灯顕微鏡で眼裂部、下方球結膜の染色を観察する。

・涙液の質の異常を知る検査に涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)がある。開眼から角膜上の涙液膜が破壊されるまでの時間が5秒以下であればドライアイが疑われる。

・唾液腺機能評価としてはガムテスト、サクソンテストがある。ガムテストはガムを10分間噛んで分泌された唾液量を測定する検査である。10ml以下は分泌低下と判定する。

・サクソンテストはガーゼを口に含んで2分後の重さを測定する検査である。増加が2g以下は分泌低下と判定する。

・唾液腺造影は造影剤をStenon管より注入し耳下腺を造営する検査である。腺組織の破壊が進むと特徴的なapple tree像を認める。

・より侵襲の少ない検査としては99mTcO4を用いた唾液腺シンチが行われる。唾液腺シンチでは、軽症例では耳下腺、顎下腺への集積が著明にみられるが高度の唾液腺障害例ではむしろ集積は殆どみられない。

・超音波検査やMRIは唾液腺造影検査と同等の診断能があり重症度の評価にも有用である

・口唇小唾液腺の生検は、そのリンパ球浸潤が耳下腺、顎下腺の病理所見に近似するため診断に有用である。

 

診断基準

シェーグレン症候群(SjS)改訂診断基準
(厚生労働省研究班、1999年)

1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること

A)口唇腺組織でリンパ球浸潤が4mm2当たり1focus 以上
B)涙腺組織でリンパ球浸潤が4mm2当たり1focus 以上

2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影で stage I(直径 1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下、又はサクソンテスト2分間2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見

3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で、かつローズベンガルテスト(van Bijsterveld スコア)でスコア3以上
B)シルマー(Schirmer)試験で5mm/5min以下で、かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性(角膜に染色あり)

4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗SS-A抗体陽性
B)抗SS-B抗体陽性

診断のカテゴリー
以上1、2、3、4のいずれか2項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断する。

 

治療

乾燥症状に対しては、対症療法が中心となる。眼乾燥症には人工涙液、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピドの点眼が行われる。強度の眼乾燥症に対しては、涙点プラグが有効である。口腔乾燥症には人工唾液の噴霧が行われる。また頻回のうがいはう歯の予防に有用である。室内の湿度を保つことも乾燥感の軽減に有効である。内服薬では唾液分泌促進薬であるセビメリン塩酸塩、ピロカルピン塩酸塩が用いられる。約60%の患者で有効であるが、約30%の患者で消化器症状や発汗などの副作用が出現する。その他、麦門冬湯、ブロムヘキシン塩酸塩なども用いられる。また、免疫抑制薬のミゾリビンの有効性が報告されている。腺外病変を伴う場合はその治療を行う。関節痛や関節炎には非ステロイド抗炎症薬が功を奏する。甲状腺機能低下の場合には、甲状腺ホルモンの補充療法が行われる。尿細管性アシドーシスでは、重曹の投与によるアシドーシスの是正とカリウムの補給が行われる。原発性胆汁性胆管炎に対しては、ウルソデオキシコール酸の投与が第1選択である。悪性リンパ腫を合併した場合には、速やかに化学療法の適応となる。他膠原病を合併した場合には、その治療を優先する。

 

予後

一般に慢性の経過を取るが、予後は良好である。乾燥症のために患者のQOLは必ずしも良好とはいえなかったが、唾液分泌促進薬や新規点眼薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド)の登場でQOLが改善してきている。生命予後を左右するのは、活動性の高い腺外症状や悪性リンパ腫の併発、合併した他の膠原病による。

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