ハザードとリスク
ハザード(危険性又は有害性)
ハザードとは「危険性・有害性」そのもののことをいう。
危険性:引火や爆発、腐食などを引き起こすおそれのこと
爆発・火災・漏洩による中毒・薬傷などのうに、比較的短時間に危害を起こさせる性質
物理的・化学的性質(引火性・爆発性等)によって生じる物理的影響
絵表示は「爆弾の爆発」「炎」「円上の炎」「爆弾の爆発」「ガスボンベ」「腐食性」の5種類
有害性:健康に悪影響を引き起こすおそれのこと
慢性毒性や発がん性のように長時間かかって危害を起こさせる性質
生体への影響(健康影響および環境影響)
絵表示は「どくろ」「健康有害性」「感嘆符」「腐食性」の4種類
リスク
・リスクとは、「ハザード(危険性又は有害性)によって生ずるおそれのあるけがや疾病の重篤度と発生する可能性の度合い」をいう。
・[リスク]=[該当ハザードにより発生する好ましくないことの重大性]X[発生する可能性]
例)
ライオンはハザード(危険性又は有害性がある)である。
ウサギと比べると、ライオンのハザードは大きい。
ライオンがいるところに人がいて、初めてリスクが発生する
「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(リスクアセスメント指針)
リスクアセスメント
・リスクアセスメントとは、労働安全衛生法では、化学物質などによる危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もることに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する一連の流れをリスクアセスメントと定義しています。
なぜリスクアセスメントが必要か
・従来の労働災害防止対策は、発生した労働災害の原因を調査し、類似災害の再発防止対策を確立し、各職場に徹底していくという手法が基本でしたが、災害が発生していない職場であっても作業の潜在的な危険性や有害性は存在しており、これが放置されると、いつかは労働災害が発生する可能性がありました。
・技術の進展等により、多種多様な機械設備や化学物質等が生産現場で用いられ
るようになり、その危険性や有害性が多様化してきました。
・これからの安全衛生対策は、自主的に職場の潜在的な危険性や有害性を見つけ出し、事前に適確な安全衛生対策を講ずることが不可欠であり、これに応えたのが職場のリスクアセスメントです。
4 実施体制等
(1)事業者は、次に掲げる体制で調査等を実施するものとする。
ア 総括安全衛生管理者等、事業の実施を統括管理する者(事業場トップ)に調査等の実施を統括
管理させること。
イ 事業場の安全管理者、衛生管理者等に調査等の実施を管理させること。
ウ 安全衛生委員会等(安全衛生委員会、安全委員会又は衛生委員会をいう。)の活用等を通じ、
労働者を参画させること。
エ 調査等の実施に当たっては、作業内容を詳しく把握している職長等に危険性又は有害性の特定、
リスクの見積り、リスク低減措置の検討を行わせるように努めること。
オ 機械設備等に係る調査等の実施に当たっては、当該機械設備等に専門的な知識を有する者を参
画させるように努めること
(2)事業者は、(1)で定める者に対し、調査等を実施するために必要な教育を実施するものとする。
7 情報の入手
(1)事業者は、調査等の実施に当たり、次に掲げる資料等を入手し、その情報を活用するものとする。
入手に当たっては、現場の実態を踏まえ、定常的な作業に係る資料等のみならず、非定常作業に係
る資料等も含めるものとする。
ア 作業標準、作業手順書等
イ 仕様書、化学物質等安全データシート(MSDS)等、使用する機械設備、材料等に係る危険性又
は有害性に関する情報
ウ 機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報
エ 作業環境測定結果等
オ 混在作業による危険性等、複数の事業者が同一の場所で作業を実施する状況に関する情報
カ 災害事例、災害統計等
キ その他、調査等の実施に当たり参考となる資料等
(2)事業者は、情報の入手に当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 新たな機械設備等を外部から導入しようとする場合には、当該機械設備等のメーカーに対し、
当該設備等の設計・製造段階において調査等を実施することを求め、その結果を入手すること。
イ 機械設備等の使用又は改造等を行おうとする場合に、自らが当該機械設備等の管理権原を有し
ないときは、管理権原を有する者等が実施した当該機械設備等に対する調査等の結果を入手する
こと。
ウ 複数の事業者が同一の場所で作業する場合には、混在作業による労働災害を防止するために元
方事業者が実施した調査等の結果を入手すること。
エ 機械設備等が転倒するおそれがある場所等、危険な場所において、複数の事業者が作業を行う
場合には、元方事業者が実施した当該危険な場所に関する調査等の結果を入手すること。
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減の優先度を決定するため、次に掲げる方法等により、危険性又は有害性に
より発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合をそれぞれ考慮
して、リスクを見積もるものとする。ただし、化学物質等による疾病については、化学物質等の有
害性の度合及びばく露の量をそれぞれ考慮して見積もることができる。
ア 負傷又は疾病の重篤度とそれらが発生する可能性の度合を相対的に尺度化し、それらを縦軸と
横軸とし、あらかじめ重篤度及び可能性の度合に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリ
スクを見積もる方法
イ 負傷又は疾病の発生する可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを
加算又は乗算等してリスクを見積もる方法
ウ 負傷又は疾病の重篤度及びそれらが発生する可能性等を段階的に分岐していくことによりリス
クを見積もる方法
(2)事業者は、(1)の見積りに当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 予想される負傷又は疾病の対象者及び内容を明確に予測すること。
イ 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷
又は疾病の重篤度を見積もること。
ウ 負傷又は疾病の重篤度は、負傷や疾病等の種類にかかわらず、共通の尺度を使うことが望まし
いことから、基本的に、負傷又は疾病による休業日数等を尺度として使用すること。
エ 有害性が立証されていない場合でも、一定の根拠がある場合は、その根拠に基づき、有害性が
存在すると仮定して見積もるよう努めること。
(3)事業者は、(1)の見積りを、事業場の機械設備、作業等の特性に応じ、次に掲げる負傷又は疾病の類型ごとに行うものとする。
ア はさまれ、墜落等の物理的な作用によるもの
イ 爆発、火災等の化学物質の物理的効果によるもの
ウ 中毒等の化学物質等の有害性によるもの
エ 振動障害等の物理因子の有害性によるもの
また、その際、次に掲げる事項を考慮すること。
ア 安全装置の設置、立入禁止措置その他の労働災害防止のための機能又は方策(以下「安全機能
等」という。)の信頼性及び維持能力
イ 安全機能等を無効化する又は無視する可能性
ウ 作業手順の逸脱、操作ミスその他の予見可能な意図的・非意図的な誤使用又は危険行動の可能
性
リスクアセスメントの実施す時期
① 実施すべき時期(安衛則第34条の2の7)
ア 化学物質等を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
イ 化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。
ウ 化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。具体的には、化学物質等の譲渡又は提供を受けた後に、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係るSDSの危険性又は有害性に係る情報を変更し、その内容が事業者に提供された場合等が含まれる。
② 実施するよう努めるべき時期(化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針)
ア 化学物質等に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合
イ 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、化学物質等に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
ウ 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合など、当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合。
「化学物質のリスクアセスメント実施支援」
有機溶剤の有害性及びそれらによる健康影響を調べるときの情報源
・SDS(安全データシート)
・WEB上の化学物質情報サイト(「職場の安全サイト」、「NITE-CHIRP」、「OECD QSAR Toolbox」など)
・公的な機関が公表している情報(日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIHのTLV、IARCの発がん性分類など)
・国内外の主要な学術誌に掲載された論文
リスクアセスメントの対象となる物
1-3.リスクアセスメント対象物に該当するか確認(職場の化学物質管理総合サイト)
(安衛法第57条の3第1項)
・「安衛法第57条第1項の政令で定めるもの(及び)通知対象物」
・これらの中には、「危険物、有機溶剤及び特定化学物質並びにこれらを一定割合以上含む混合物」以外の物も含まれている。
リスクアセスメント対象物に該当するかの確認方法
1-3.リスクアセスメント対象物に該当するか確認(職場の化学物質管理総合サイト)
リスクアセスメント対象物とは?
リスクアセスメント対象物とは、ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメント実施が義務である物質のことです。
厚生労働省から、「表示対象物(ラベル表示義務対象物質)」と「通知対象物(SDS交付義務対象物質)」のリストが公表されています。
表示対象物と通知対象物は共通で、これらに該当する物質がリスクアセスメント対象物にも該当します。
ただし、表示対象物と通知対象物は裾切値が異なります。
リスクアセスメント対象物は表示対象物を裾切値以上含む混合物、又は通知対象物を裾切値以上含む混合物のいずれかに該当するものも含みます。
リスクアセスメント対象物への該当を確認する
化学物質のCAS登録番号がわかっている場合は、「対象化学物質を簡易検索(CAS登録番号での検索)」から検索を行います。
CAS登録番号で検索して該当しなかった場合や、もともとCAS登録番号の情報がない場合は、「リスクアセスメント対象物一覧のリスト」または「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」で物質名から該当があるか確認します。
リスクアセスメント支援ツール
(厚生労働省版)コントロール・バンディング
・コントロール・バンディングとは、化学物質のリスクを判定するに当たって、有害性の程度やばく露量を具体的な数値によってではなく、ある程度の幅(バンド)で判断しようというものである。いわゆる「マトリクス法」がその最も単純化されたものである。
・我が国では英国の安全衛生庁(HSE)が作成した、HSE COSHH essentialsに基づいて開発された「厚生労働省方式コントロール・バンディング」がよく用いられる。
・化学物質の「有害性情報」「取扱い物質の揮発性・飛散性」「取扱量」から簡単にリスクの見積もりが可能である。
・これは、とくに化学物質の有害性についての専門的な知識がなくても使用することが可能で、コンピュータを使用して入力するシステムも開発されている。
・このシステムの利点として、①コストが低く、②容易に実施でき、③実際に作業を開始する前でもリスクを判定できるなどの利点もある。
・反面、簡易なシステムであるため、必ずしも正確なリスクが判定できるわけではないということを認識しておく必要がある。
・実際よりも過剰にリスクを評価してしまう傾向がある
CREATE-SIMPLE
・化学物質の取扱い条件(取扱量、含有率、換気条件、作業時間・頻度、保護具の有無等)から推定した「ばく露濃度」と「ばく露限界値」(またはGHS区分情報に基づく管理目標濃度)を比較する方法。
・特徴として
・労働者の化学物質へのばく露濃度等を測定しなくても使用できる。
・大量(数kL、数トン)から極少量(数mL、数g)まで幅広い化学物質取扱量に対応
・リスク低減措置の検討も支援しており、どこを改善すればリスクが下がるかが確認可能。
・コントロール・バンディングでは考慮していない作業条件(換気や作業時間、作業頻度など)の効果も反映。
・吸入による有害性リスクだけではなく、経皮吸収による有害性リスクや危険性についてもリスクの見積もりが可能。
といったメリットがある。
・現在はこちらの使用が推奨されている。
コントロールバンディングとCREATE SIMPLEの違い
・コントロールバンディングとCREATE SIMPLEはともに、「職場のあんぜんサイト」で提供されている代表的なリスクアセスメント支援ツールです。
・これらは労働者の化学物質へのばく露濃度等を測定しなくても使用できるという点では共通点がありますが、明確に異なる方法です。
・「職場のあんぜんサイト」で提供されているリスクアセスメント支援ツールのうち、有害性に関しては「コントロール・バンディング」が最も簡易なツールとして位置づけられ、簡易なツールであるほど安全側の評価、つまりリスクが高く評価される傾向にあります。
・「コントロールバンディング」は、化学物質の有害性や曝露の可能性についてリスクレベルを決定し、あらかじめ決められた各リスクレベルの対処方法を実施していきます。リスクレベルに応じて一般的な対策がシートとして示されますが、有害性のみを対象としたツールであり、危険性に関するリスクを見積もることはできないことに注意が必要です。
・「CREATE SIMPLE」は、使用する化学物質の情報、作業の種類、使用量、作業条件などからリスクを推定する方法で、有害性の程度はばく露限界値を採用しています。詳細に言うと作業者のばく露濃度は、物理的特性や取扱量だけではなく、含有率や換気状況、作業頻度なども考慮して推定されるのです。この方法は中小企業などがリスク評価を迅速に行いたい場合に適しています。
リスクの見積もり
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について
・発生可能性及び重篤度を考慮して行うリスクの見積りでは、それぞれは必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差し支えない。
・リスクの見積りにおいては、過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。
労働者に危害を及ぼした、または健康被害を生じるおそれの程度(発生可能性)と危険または健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法
① マトリクス法
負傷又は疾病の重篤度とそれらが発生する可能性の度合を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ重篤度及び可能性の度合に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法
② 数値化法
・負傷又は疾病の発生する可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法。
③ 枝分かれ図を用いた方法
負傷又は疾病の重篤度及びそれらが発生する可能性等を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法
リスク低減措置の実施順位
リスク低減措置の検討及び実施
・事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスク低減措置の内容を検討するものとする。
・本質安全対策→工学的対策→管理的対策→個人用保護具の使用の優先順位で実施する
・この順番は、より信頼性が高いリスク低減措置から順番に実施するとよいことを意味している。
① 本質安全対策
危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減。
② 工学的対策
化学物質等に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策、
又は化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
③ 管理的対策
作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
例)
作業手順の改善、マニュアルの整備、教育訓練・作業管理等の管理的対策
④ 保護具の着用
化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用
例)
安全靴、保護手袋など個人用保護具の使用
保護具によらない方法を優先させるべき理由
・保護具は、現に有害要因が存在している場合に、その有害要因から労働者の身を守るためのものである。
・現実には、保護具の不適切な管理や不適切な使用、また保護具の着用そのものを忘れることなどにより、有害要因に接触するおそれをなくすことはできない。
・そのため、有害要因そのものをなくしたり人と接触する機会をなくしたりする本質安全化や、安全装置・設備によって有害要因に人が近づくことを防止する工学的対策の方が望ましい。
リスクアセスメントの結果等の周知
(安衛則第34条の2の8)
・危険性又は有害性等の調査を実施したときは、当該調査対象物の名称、当該業務の内容、当該調査の結果及び当該調査の結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容を労働者に周知しなければならない。
周知する方法
ア 各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること
イ 書面を労働者に交付すること
ウ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
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