健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
(平成8年10月1日 健康診断結果措置指針公示第1号)
職場における健康診断の種類
・労働者の健康診断は、「健康管理」の一部として行われる
・労働者に対して事業者が実施すべき健康診断は、大きく
「特殊健康診断」
に分けられる(労働安全衛生法第66条)
・事業者は、健康診断を実施している医療機関に健康診断の実施を委託する必要がある
会社が実施する健康診断
会社が実施する健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります。
一般健康診断
・主に労働者の一般的な健康障害を調べるために行う健康診断のこと
・事業者は対象となる労働者に一般健康診断を実施しなければならない
目的
労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会報告書
事業者にとっての目的
・労働安全衛生法に基づく一般の定期健康診断の目的は、常時使用する労働者について、その健康状態を把握し、労働時間の短縮、作業転換等の事後措置を行い、脳・心臓疾患の発症の防止、生活習慣病等の増悪防止を図ることである。
・事業者には労働者の健康を確保しなければならない安全配慮義務がある。また健康情報を労働者の適正配置に活用するためにも健康診断が必要である。
労働者にとっての目的
・労働安全衛生法に基づく一般の定期健康診断の目的は、自らの健康問題を把握して生活習慣の改善等を図り、脳・心臓疾患の発症の防止、生活習慣病等の増悪防止を図ることである。
一般健康診断の種類
① 雇入時健康診断
・雇い入れ時(雇入れ時3か月以内の健診結果で代用可)
・雇入時の健康診断結果を採用後の適正配置に活用することは適正である。
② 定期健康診断
・労働安全衛生規則第 44 条では、1 年以内ごとに 1 回、定期的に健康診断を行うことが義務づけられています。
定期健康診断に腹囲や脂質などのメタボの項目がある理由:
労働者の高齢化や作業環境の変化により、定期健康診断の目的が主に生活習慣病、作業関連疾患対策に変化してきた。
健康保持増進や就業上の措置を取る必要性が発生しているため、メタボ項目を検査する必要が発生した。
定期健康診断で省略できる項目
厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、身長(20歳以上の者)、腹囲、肝機能、血中脂質、血糖、心電図、視力及び聴力の検査を省略することができる。
③ 「特定業務従事者」の健康診断
・労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者
・心身への負担が大きいと考えられる所定の業務(特定業務)に従事している者に対しては、同じ内容の健康診断を年2回実施する規定となっている
・「暑熱な場所における業務」「有害放射線にさらされる業務」「異常気圧下における業務」「身体に著しい振動を与える業務」「深夜業を含む業務」等の、法令で定める有害業務に従事する労働者がが対象となる
・「特定業務」従事者に対して、配置替えの際及び6月以内ごとに1回、定期に行う。
・診断項目は「定期健康診断」と同じ
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに
準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
④ 海外派遣労働者の健康診断
・本邦外の地域に6か月以上派遣される労働者が対象
・6か月以上の海外勤務に派遣する前、及び6か月以上の海外勤務後に本邦内の業務に従事させようとするとき
⑤ 給食従事者の検便
・雇入れ時、または該当業務への配置換えの際
・項目については法令上特に規定はない
・一般に赤痢菌、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌、ノロウイスルなどの検便を行う
厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査を省略することができる。
二次健康診断
・一次健康診断(労働安全衛生法に基づく定期健康診断)の結果において、脳・心臓疾患に関連する4項目(血圧、血中脂質、血糖、腹囲・BMI)の4項目全てについて異常の所見があると診断された場合、労災病院または都道府県労働局長が指定する病院・診療所(健診給付病院等)において、無料で必要な精密検査や特定保健指導を受けることができる制度
(※ただし、全てに異常所見がなくても産業医等の指示に基づき対象となる場合がある)
・二次健康診断の受診は労働者本人の任意の希望による(事業者の義務ではない)
・二次健康診断結果の保存には、当該労働者の同意を得ることが必要である。
定期健康診断結果報告(有所見率)
・有所見者率は上昇しており、令和2年は63.6%であった。
・有所見率が最も高い項目は血中脂質検査で36.9%と最も高く、次いで血圧、肝機能検査、血糖検査の順であった。
・有所見者率増加の原因として、労働者の高齢化、検査項目の追加、項目の基準値の厳格化、などが原因として考えられる。
引用:厚生労働省「2.健康診断有所見者の推移」
特殊健康診断
・法令で定められた、特定の有害な業務に従事する労働者に、業務に起因する健康障害がないか調べるために行う健康診断
・「特殊健康診断」の対象者は、一般健康診断の対象にも該当する場合、その両方の健康診断を受ける必要がある。
特殊健康診断の対象となる有害業務
・屋内作業場等における有機溶剤業務に常時従事する労働者 (有機則第29条)
・鉛業務に常時従事する労働者 (鉛則第53条)
・四アルキル鉛等業務に常時従事する労働者 (四アルキル鉛則第22条)
・特定化学物質を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者及び過去に従事した在籍労働者(一部の物質に係る業務に限
る) (特化則第39条)
・高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者 (高圧則第38条)
・放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者 (電離則第56条)
・除染等業務に常時従事する除染等業務従事者 (除染則第20条)
・石綿等の取扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者及び過去に従事したことのある在籍
労働者 (石綿則第40条)
特殊健康診断の記録の法定の保存期間
特殊健康診断の記録の法定の保存期間は、じん肺が7年、電離放射線が原則として30年、特別管理物質が30年、石綿は業務から離れた後40年となっている。
これは、がんや石綿肺、じん肺は離職後に長期間が経過してから発症することがあるためである。
四 国 なまりの ゆう こ 先生
(四アルキル鉛、鉛、有機溶剤、高気圧、潜水)
40歳の 医師と
(40年 石綿)
7 分で 30本の
(7年 粉じん )
トク ホ
(30年 特別管理物質 放射線)
特殊健康診断結果調
・法定の特殊健康診断(じん肺健康診断を除く。)の結果、2020年(令和2年)の有所見率は約8.7%
有機溶剤の尿中代謝物検査の分布
・対象化学物質にばく露されている作業者においては、労働安全衛生法に基づく特殊健康診断時に血中または尿中の検査項目の測定が必要とされており、その測定値を区分することになっています。
・この分布は正常、異常の鑑別が目的ではなく、当該物質が体の中にどれだけ入っているかを評価するためのものです。
・「分布1」が続いているならば、当該物質の取り込みは少なく、健康影響は少ないと考えられます
・「分布2」はほとんどの作業者に健康上影響が見られない濃度と考えられます。しかし、作業者が当該物質をある程度体内に取り込んだことを示していますので、一層の職場改善が望まれます。
・「分布3」はこの状態を長期間続けていると、健康影響の危険性が高くなると考えられますので、当該物質の影響に関する検査が必要です。
特殊健康診断の健康管理区分
管理A:
健診の結果、異常が認められない場合
管理B:
健診結果、管理Cには該当しないが当該因子によるか、または当該因子による疑いのある異常が認められる場合
管理C:
健診結果、当該因子による疾病にかかっている場合
管理R:
健康診断の結果、当該因子による疾病又は異常を認めないが、当該因子に就業することにより憎悪するおそれのある疾病にかかっている場合又は異常が認められる場合
管理T
健康診断の結果、当該因子以外の原因による疾病にかかっている場合又は異常が認められる場合(管理Rに属するものを除く)
歯科特殊健康診断
・下記の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び当該業務についた後6か月以内ごとに1回、定期に、歯科 医師による健康診断を行わなければならない。
塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りん
その他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
二流の歯科医 不倫で炎上
(にりゅう:硫酸、亜硫酸、 ふ:弗化水素、りん:黄りん、えん:塩酸、じょう:硝酸)
一般健康診断の判定
・健康診断を実施すると、一般的には健康診断の結果が事業場へ送られる。
・事業者は、定期健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なく、当該健康診断の結果を通知しなければならない。
・常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行ったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
・健康診断を委託した医療機関、健診機関の医師によって、医療的な介入の要否である「診断区分」(もしくは「医療区分」)の判定がなされている。
医師等から聴取すべき健康診断の結果に基づく就業上の措置
「意見を聞く医師」とは?
安衛法 第六十六条の四
事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条
の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
厚労省『健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』
(3)健康診断の結果についての医師等からの意見の聴取
事業者は、労働安全衛生法第六十六条の四の規定に基づき、健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)について医師等の意見を聴かなければならない。
イ 意見を聴く医師等
事業者は、産業医の選任義務のある事業場おいては、産業医が労働者個人ごとの健康状態や作業内容、作業環境についてより詳細に把握しうる立場にあることから、産業医から意見を聴くことが適当である。
なお、産業医の選任義務のない事業場においては、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等から意見を聴くことが適当であり、こうした医師が労働者の健康管理等に関する相談等に応じる地域産業保健センター事業の活用を図ること等が適当である。
就業区分
・就業上の措置を行うための判定
・会社は、医師等の意見を勘案し、必要があると認めるときは、該当する従業員の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じたり、医師等の意見を衛生委員会等へ報告したりするなどの対応が求められます。
・事業者は医師等の意見に基づいて、就業区分に応じた就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ当該労働者の意見を聴き、十分な話合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努めることが適当」とされている。
(就業上の措置は、当人にとって仕事上のやりがいや地位の低下、さらには収入の減少等の不利益を伴うことがあり、本人の納得が得られることが重要であるとしたものである)
就業区分
① 「通常勤務」(通常の勤務でよいもの)
・就業上の措置を講じる必要なし
② 「就業制限」(勤務に制限を加える必要のあるもの)
勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張回数の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等、必要に応じて適切な措置を講ずる
③ 「要休業」(勤務を休ませる必要があるもの)
・療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させないといった措置を講ずる
・収縮期血圧 180mmHg
・拡張期血圧 110mmHg
・血清クレアチニン 2.0㎎/dL
・ALT 200IU/L
・空腹時血糖 200㎎/dⅬ
・随時血糖 300㎎/dL
・HbA1c 10%
・ヘモグロビン 8.0g/dL
診断区分(医療区分):日本人間ドック学会による
B:軽度異常
C:要再検査・生活改善
D:要精密検査・治療要医療
E:治療中
・2022年4月より日本人間ドック学会の判定区分に関する表記が改定された。「 D1:要治療」「 D2:要精検」を併合し「 D:要精密検査・治療」に変更された。
・また「値の高低・所見によって要精密検査,要治療を使い分けしてもよい」とされた。
・「 C :要経過観察」の表現が「 C:要再検査・生活改善」に変更となった
・この結果の中で、異常の所見があると診断された従業員に対して、健康診断実施日から3ヶ月以内に、以下の3つの就業区分に従って医師等(産業医(50人以上の事業場)または地域産業保健センターの登録産業医など(50人未満の事業場))から意見聴取し、その内容を健康診断個人票へ記載することになっています。
・総合判定には、就業上の措置を行うための「就業区分」と、医療上の措置や保健指導に活かすための「保健指導区分」がある
保健指導区分
・区分に明確な指針はない
例)
① 無所見
・明らかな所見が認められないもの
② 有所見観察不要
・基準値を外れる項目または画像診断等での所見が認められるが、病的な意味はないもの
③ 要観察
・現時点では治療の必要はないが、生活習慣の改善や定期的な検査の必要があるのも
・今後の健康維持には生活習慣の改善や経過観察が必要である
・具体的な保健指導を実施し、その後の改善経過を確認する
④ 要管理
・健康診断の結果だけでは治療の要不要の判定はできないが、医師による管理が必要なもの
・生活習慣の改善により改善が認められない場合に治療が必要になる
・医師の管理のもと保健指導や栄養指導を実施し、その後の改善効果を確認し、必要に応じて治療を開始する
⑤ 要治療
・健康診断の結果から、明らかに治療が必要な異常が認められるもの
・速やかに治療が開始されるように指導を行い、また必要な場合には医療機関の紹介を行う。
・さらに確実な治療が実行されているか、確認する
⑥ 治療中
・健康診断と関連する異常について治療を受けているもの
「当該事業場に派遣されている労働者」「短時間労働者(パート・アルバイト)」「休業中の労働者(育児休業、療養等)」の一般定期健康診断
当該事業場に派遣されている労働者
・一般の定期健康診断については派遣元に義務がある。
・特殊健康診断については派遣先に義務がある。
短時間労働者(パート・アルバイト)
・一般の定期健康診断は「常時使用する労働者」に対して行う必要がある。
・次の①及び②のいずれの要件をも満たす者であれば実施しなければならない。
① 期間の定めのない労働契約により使用される者、1年(一定の有害業務に従事する者は者にあっては6月。以下同じ。)以上の契約期間である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者又は現に1年以上引き続き使用されている者であること。
② 1週間の労働時間数が、その事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。なお、これに該当しなくても、上記の①の要件に該当しその割合がおおむね2分の1以上である者に対しても実施することが望ましい。
休業中の労働者(育児休業、療養等)
休業中の労働者については、定期健康診断を実施しなくてもさしつかえない。ただし、休業修了後、速やかに定期健康診断を実施しなければならない。
健康診断の受診率向上に向けた対策
例年の受診率が 95 %前後であって未受診者がほぼ固定されている状態
健康診断の受診率が95%前後という数値は、平均的な数値よりは高いが、業種や規模によっては決して高い数値ではない。
事業者が健康診断の受診率向上のために、現にどこまで努力しているかにもよるが、少なくとも形式的には安衛法違反の状況にあることは、否定できない。さらに受診率を向上させるための努力が求められると評価される。
未受診者がほぼ固定されている状態
原因
・業務が忙しくて健康診断を受ける余裕がない、出張が多くて健康診断とスケジュールが合わない、変則勤務で健康診断を受けようとすると睡眠時間が取れなくなるなど、会社(仕事)の事情で受診することができない。
・健康診断を受けることについての理解が低く、本人が健康診断を受けようとしない。
・長期休職中の者が健康診断を受けない、生活習慣病の関連の持病で病院へ通っており健康診断の必要がないと考えている、他の病院の健康診断を受けてその結果を提出しないなど。
対策
受診できていない理由を明らかにし、勤務上の理由なのか、本人が受診したがらないのか、その他の事情があるのかを明らかにし、その事情に応じた対策を採るべき状況であると評価される。
受診率を向上するための対策
定期健康診断を受診しなかった理由別労働者割合(平成24年:労働者健康状況調査)
・会社内で健康診断を実施している場合や、近隣の医療機関で健康診断を実施している場合は、勤務時間中に健康診断を行い、業務命令によって健康診断を受診させる。
・就業時間外に健康診断を行う場合、残業手当を支給して業務命令によって受診させる。
・健康診断の実施予定日を、複数回に渡って設定し、業務の事情で受診できない者がいないように配慮する。どうしても都合が合わない場合は、個別に日程を調整する。なお、季節によって業務の繁閑がある場合は、繁忙期を避ける。
・安全衛生教育や朝礼等の機会を捉えて、労働者に対して健康診断の必要性について周知する。なお、健診結果を企業に知られたくない労働者に対しては、健診情報の取扱いや事後措置についての説明も有効である。
・受診したことを上司が確認し、受診していない場合は受診を命じる。なお、労働者が独自に他の医療機関の健康診断を受診している場合があるので、その場合は、その結果を提出させる。
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