疾患
・脊髄硬膜外膿瘍は脊柱管内の硬膜外に膿瘍を引き起こすまれな疾患である。
・いったん神経症状が出現すると、重篤かつ不可逆的な後遺症が残るため、診断後に適切な治療介入を行うことが非常に重要である
・脊髄硬膜外膿瘍は通常,胸椎または腰椎領域に生じる。
・基礎疾患としてしばしば感染症があり,その部位は離れている(例,心内膜炎,皮膚のせつ,歯の膿瘍)こともあれば,近接している(例,化膿性脊椎炎,褥瘡,後腹膜膿瘍)こともある。
・約3分の1の症例では原因を特定できない。
・最も頻度の高い原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であり,次いで大腸菌(Escherichia coli)と混合性の嫌気性菌である。ときに,胸椎の結核性膿瘍が原因のこともある(Pott病)。
・ときに,医療器具操作,歯科処置,または静注薬物使用による菌血症が原因である場合もある。まれに,同様の膿瘍が硬膜下腔に起こる。
・神経脱落症状を予防または最小限に抑えるために速やかな治療が必要であるため,非外傷性の有意な背部痛がある患者では,特に脊椎上に限局性の叩打痛がある場合や,発熱がみられるか最近の感染歴または歯科処置歴がある場合には,脊髄硬膜外膿瘍を疑うべきである。
・特徴的な神経脱落症状はより特異的であるが,遅れて出現する場合があるため,そのような神経脱落症状の出現を待って画像検査を遅らせることは,転帰の悪化につながる可能性が高い。
脊椎硬膜外膿瘍を疑うべき所見:
・安静時背部痛
・説明のつかない発熱
・CRP上昇(>10mg/dLで感度95%超。一方WBCは上昇しないことがある)
・リスク因子:
糖尿病、肝疾患、腎不全、カテーテル挿入、免疫不全、最近の脊椎手術、椎体骨折、遠位感染巣
症状と徴候
・脊髄硬膜外膿瘍の症状は,局所性または根性の背部痛および叩打痛から始まって重症化する。疼痛は臥位で悪化することがある。
・発熱がよくみられる。
・脊髄圧迫が生じることがあるが,腰髄神経根の圧迫は馬尾症候群につながる場合があり,脊髄円錐症候群の神経脱落症状に類似する障害(例,下肢不全麻痺,サドル型感覚脱失,膀胱および腸管機能障害)を来す。障害は数時間から数日で進行する。
身体所見
確認すべき所見
・神経学所見(腱反射、感覚障害の有無、運動麻痺の有無)の確認
※ 初期には神経学的所見は認めないが、診察したことをカルテに記載しておくことが重要
・脊柱叩打痛(手のひらを介在せず脊柱を直接叩打する。最後に押し込むように叩くと脊柱にズンと響く)
検査
・単純X線はルーチンに適応とはならないが,施行すれば約3分の1の患者で骨髄炎が認められる。
・赤血球沈降速度(赤沈)および/またはCRP上昇(非特異的)。
診断
全脊柱MRI(造影
・原因不明の背部痛がある場合,特に限局性の叩打痛と危険因子(例,注射薬物の使用,最近の感染症または菌血症)がみられる場合には,たとえ神経学的所見がなくても,脊髄硬膜外膿瘍の診断のために直ちにMRIの施行を考慮する。
・脊髄硬膜外膿瘍の診断はMRIによる。MRIが利用できない場合は,脊髄造影CTを施行してもよい
椎間板の炎症(椎間板炎)の存在は,膿瘍を転移性腫瘍と鑑別するのに役立つ可能性がある。一般的に,膿瘍形成の前には椎間板炎がみられるが,転移性腫瘍は椎間板に影響を及ぼさず,付近の骨を破壊する。
膿瘍が完全に髄液の流れを閉塞している場合,腰椎穿刺は脊髄ヘルニアの誘因になる可能性があるため禁忌である。
細菌培養
・血液および感染部位からの検体の培養を行う。
治療
抗菌薬
膿瘍が神経学的障害を引き起こしている場合,緊急ドレナージ脊髄硬膜外膿瘍は抗菌薬投与と必要に応じた膿瘍穿刺吸引の併用で十分に治療できる場合もあるが,膿瘍が神経学的障害(例,麻痺,腸または膀胱機能障害)を引き起こしている場合は,直ちに外科的ドレナージを施行する。膿のグラム染色および培養を行う。
培養結果が出るまでは,脳膿瘍の場合と同様,黄色ブドウ球菌と嫌気性菌をカバーする抗菌薬(例,バンコマイシン)を投与する。神経外科処置または泌尿器の器具操作後に膿瘍が発生した場合は,セフタジジム,セフェピム,またはメロペネムを使用すべきであり,さらに培養および感受性試験の結果が得られるまではバンコマイシンを含めるべきである。
要点
脊髄硬膜外膿瘍は,典型的には局所性または根性の背部痛,叩打痛,および発熱を引き起こす;膿瘍が脊髄を圧迫すると,神経脱落症状(下肢不全麻痺,サドル型感覚脱失,膀胱および腸管機能障害)がみられる。
神経脱落症状を予防または最小限に抑えるために速やかな治療が必要であるため,臨床所見から脊髄硬膜外膿瘍を強く疑うべきである(例,原因不明の非外傷性の背部痛がある患者で,特に限局性の叩打痛や危険因子がみられる場合);疑ったら,直ちにMRIを,またはMRIが利用できない場合は脊髄造影CTを施行すべきである。
膿瘍が神経脱落症状を引き起こしている場合は,直ちに外科的排膿を行う;全ての膿瘍に対し,ブドウ球菌,嫌気性菌,ときにグラム陰性菌をカバーする抗菌薬を投与する。
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