新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き
新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 9.0 版
5類移行以降のワクチン接種
・高齢者、基礎疾患を有する方(小児も含む)、医療従事者等に令和5年5月8日から8月末まで追加接種(令和5年春開始接種)を実施
・5歳以上の全ての方に令和5年9月から追加接種(令和5年秋開始接種)を実施します。
2023年9月20日以降のワクチン(XBB.1.5対応ワクチン)
・2022年9月から接種開始された「オミクロン株対応ワクチン」は、2価ワクチンと呼ばれるもので、野生株(流行初期の新型コロナウイルス)とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5)の両方のスパイク蛋白の設計図を持ったmRNAワクチンであった。
・2023年9月20日より接種開始となる「XBB.1.5対応ワクチン」は、2価ワクチンではなく再び1価ワクチンに戻っている。これは、現在広がっているXBB系統の変異株に対しては、2価ワクチン(XBB.1.5+BA.4/5)よりもXBB.1.5対応の1価ワクチンの方が、より多くの中和抗体を産生することが示されたためである。
予診
① ポリエチレングリコールや、交差反応性が懸念されている「ポリソルベート」「ラテックス」「卵」に対する過敏症がある場合
・ファイザー社のワクチンと武田/モデルナ社のワクチンにはポリエチレングリコールが含まれる。
・ポリエチレングリコールは、大腸の検査をする時に用いる腸管洗浄剤(マクロゴール®)と、医薬品・医薬品添加物、ヘアケア製品、スキンケア製品、洗剤など、さまざまな用途に使用されている。
・ポリエチレングリコールに対して重度の過敏症の既往が明らかな方は、接種不適当者に該当する。
・ポリエチレングリコールやポリソルベートを含む医薬品・製品は非常に多数存在するとともに、こうした医薬品・製品には他の成分も含まれていることから、実際には原因の特定に繋がらないことも多いと考えられる。
・そのため、様々なアレルギー歴について丁寧に聴取し、原因の特定に至っていない場合も含め、「過去に何らかの医薬品や食品などで重いアレルギー症状を起こしたことがある方に対しては、十分注意をして接種の判断を行うとともに、接種後は30 分間の経過観察を行うこと。
・ファイザー社のワクチンと武田/モデルナ社のワクチンのバイアルストッパーは天然ゴムラテックスで作られていないため、ラテックスアレルギーのある人にもワクチン接種は可能。
・また、卵やゼラチンも含まれていないため、これらの物質にアレルギーのある人もワクチン接種は可能。
② 食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症含む)、蕁麻疹、アレルギー体質がある場合
・アレルギー体質の既往だけでは接種不適当者にはならず、接種するワクチンの成分に関係のないものに対するアレルギーを持つ方も接種は可能。
・ただし、即時型のアレルギー反応の既往歴がある人は、通常 15 分間の経過観察のところ通常より長く、接種後 30 分間の経過観察をします。
「即時型のアレルギー反応」とは?
・アレルギーにはⅠからⅣまで4つのタイプがあります。
・アレルゲンが体内に入った直後から数時間以内という短い時間で症状が出るアレルギー反応を「I型=即時型」といい、IgE抗体が関係しています。
・代表的なアレルギー疾患である花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などの他、食物アレルギーも主にこの即時型に分類される。
③ 1回目の接種でアナフィラキシーや、アナフィラキシー以外の即時型のアレルギー反応がみられた方について
・1回目の接種でアナフィラキシーを起こした方は、2回目の接種はできません。
・アナフィラキシー以外の即時型のアレルギー反応がみられた方についても、接種の是非を慎重に判断する必要がある。
・新型コロナワクチンの1回目接種後に遅発性の局所反応(例えば、紅斑、硬結、そう痒症)があっただけであれば、2回目接種は可能です。
・1回目接種後に遅発性の局所反応を経験した人が、2回目の接種後に同様の反応を起こすかどうかは不明です。
・新型コロナワクチンの1回目接種で、アナフィラキシー以外の即時型のアレルギー反応を起こした方については、接種を見合わせるか、重度の過敏症発症時の十分な対応ができる体制のもとで接種を行うかを、慎重に判断する必要があります。
④ がん患者さんのワクチン接種について
参照:新型コロナウイルスワクチンについて 国立病院機構四国がんセンター
現在、抗がん剤治療中のワクチンを接種について
・米国がん治療学会などでは、がん患者さんに対してもワクチンの成分などに対しアレルギー等がなければ、ワクチン接種を受けることが推奨される。
・抗がん剤治療中のがん患者さんに対して、新型コロナウイルスワクチンが有効なのかどうか、うまく免疫が獲得されるかどうか、どのタイミングで打つのが良いか、がんの種類によって異なるのかどうかなどのデータはありません。
・抗がん剤治療を開始予定の場合は、抗癌剤治療を始める前に投与を行うことが推奨される。
・一方、現在抗がん剤治療中の患者さんにおいて、いつ投与するのが良いのかに関しては十分わかっていない。
・一般的に、免疫細胞に強く影響を与える抗がん剤治療や、強い抗がん剤治療を受けられている方は、ワクチン接種後の免疫応答が弱まる可能性がある。
・また治療の影響で血小板数が減少しているなどの場合には、血が止まりにくくなり、接種した部位の腫れがひどくなる可能性もある。
・そのため抗がん剤の投与と投与の間にワクチン接種を受けたり、治療終了後からしばらく間隔を開けるなど、ワクチンを受ける時期につきましては、主治医の先生に相談してもらいのが勧められる。
・がん患者さんに対する新型コロナウイルスワクチンの効果は不明だが、インフルエンザワクチン接種することで、死亡率(死亡される方の割合)や罹患率(インフルエンザに罹る割合)が減少することがこれまで報告されており、新型コロナウイルスワクチンに関しても一定の効果が期待される。
免疫チェックポイント阻害薬での治療中のワクチン接種について
・免疫チェックポイント阻害薬治療中の患者さんにおいて、インフルエンザワクチンを接種した場合、ワクチン接種の副反応が増える可能性も懸念されていたが、頻度は変わらないといった報告もあり、現時点では一定の見解はない。
がんの手術術前の新型コロナウイルスワクチン接種について
・手術直前に新型コロナウイルスに感染し、手術直後に発症した場合には重症化する恐れがある
・もし接種可能であれば、手術前に接種することが推奨される。
・ワクチン接種後、発熱や体のだるさなどの副反応が出る可能性があるため、接種時期については主治医との相談が基本。
⑤ 妊娠中、授乳中の方
・ワクチン接種に関する情報では、妊娠初期を含め妊婦さんとおなかの赤ちゃん双方を守るとされています。
・また、お母さんや赤ちゃんに何らかの重篤な合併症が発生したとする報告もありません。
・したがって日本においても、希望する妊婦さんはワクチンを接種することができます。
・妊婦さんは妊娠週数に関係なくワクチン接種を受けることが可能です
※ 厚生労働省ホームページ「新型コロナワクチンについてQ&A」において「妊娠12週までは偶発的な胎児異常の発生との識別に混乱を招く恐れがあるため、接種をさけていただくこととしています。」という文言は削除され、さらには2021年8月14日に日本産科婦人科学会など関連学会合同で発信された「新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて(第2報)」の中で「妊婦さんは時期を問わずワクチン接種することをお勧めします。」との見解が示されました。
・妊婦健診は普段通り受けていただき、産婦人科施設以外で接種を受ける場合は、その前にかかりつけ医にワクチン接種の適否に関してご相談ください。
・副反応に関し、妊婦さんと一般の人に差はありませんが、発熱した場合には早めに解熱剤を服用するようにしてください。アセトアミノフェンは内服していただいて問題ありませんので頭痛がある場合も内服してください。
・米国CDCは、授乳中の方にも、新型コロナワクチンの接種を推奨しています。
・mRNAワクチンの成分そのものは乳腺の組織や母乳に出てこないと考えられています。
・授乳中にmRNAワクチンを受けた方の母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体が確認されています。こうした抗体が、授乳中の子供を感染から守る効果があることが期待されています。
⑥ 他のワクチンとの接種間隔
問診事項:『2週間以内に予防接種を受けましたか。』
・新型コロナワクチンの接種と、インフルエンザワクチン以外のワクチンの接種は、13 日以上の
間隔をおくこととしています。
・2週間以内に予防接種を受けている場合には、接種したワクチンの種類を確認し、インフルエンザワクチン以外のワクチンを接種していた場合には、特段の事情がある場合を除き、接種日を改めてもらってください。
・また、コロナワクチン接種後は2週間、インフルエンザワクチン以外のワクチンの接種はできませんので、説明が必要です。
・インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの接種間隔については同時接種を含め、13 日未満とすることが可能です。
・また、インフルエンザワクチンとの同時接種をする場合は、
「新型コロナワクチンは筋肉内注射、インフルエンザワクチンは皮下注射であること」
「 各ワクチンの局所反応を区別できるようにそれぞれ別の腕に接種する(難しい場合でも接種部位の間隔を 2.5cm以上あけることが望ましい)こと」
に留意してください。
副反応に対する治療
参照:新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療(日本アレルギー学会)
① アレルギー反応の診断・治療
観察時間内に、注射部位以外の皮膚・粘膜症状が出現した場合
・蕁麻疹
・皮膚の発赤・紅潮
・口唇・舌・口蓋垂の腫脹や刺激感
・目のかゆみ
・眼瞼腫脹
・くしゃみ
・鼻汁
・鼻のかゆみ
・アレルギー性鼻炎患者は明らかな症状の増強
↓
ヒスタミン H1 受容体拮抗薬を内服
(ビラノア錠、ルパフィン錠、アレグラ OD 錠など)
・症状が改善するまで観察する。
・症状が改善しなければ最寄りの医療機関受診を指示する。
② アナフィラキシー(ショック)の診断・治療
ワクチン接種後30分以内、あるいはアレルギー反応の観察中に、
以下のうち『2つ以上の症状が発現』した場合、アナフィラキシーと診断
・気道・呼吸器症状(喉頭閉塞感、呼吸困難、喘鳴、強い咳嗽、低酸素血症状)
・強い消化器症状(腹部疝痛、嘔吐、下痢)
・ 循環器症状(血圧低下、意識障害)
アナフィラキシーの治療
・仰臥位で下肢を挙上させる(嘔吐や呼吸促(窮)拍の場合には、本人が楽な
姿勢にする)
・大腿部中央の前外側に
アドレナリン(ボスミン®)(0.01mg/kg、最大 0.5mg)
あるいは
エピペン®注射液 0.3mg の筋肉注射
・同時に酸素吸入と生理食塩水の急速点滴投与
・呼吸困難が強い場合は短時間作用性β2刺激薬(pMDI)の吸入。
・初期対応で症状が安定しても二相性反応の発生に備えて入院が望ましい。
・ワクチン接種施設に入院設備がない場合には対応できる医療機関へ搬送することを推奨する。
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