ビタミンB1の役割
・ビタミンの中で水溶性ビタミンに分類される生理活性物質のひとつ。「チアミン」とも呼ばれる。
・糖質および分枝脂肪酸の代謝に用いられ、不足すると脚気や神経炎などの症状を生じる。
・酵母、豚肉、胚芽、豆類に多く含有される。
・解糖系やクエン酸回路(TCAサイクル)の補酵素として糖代謝の重要な役割を担い、糖を代謝しエネルギーを作り出す働きや神経を正常に機能させる。
・その欠乏により乳酸アシドーシスをきたす
・血管収縮作用を持つ(→不足で下腿浮腫)
参照(このサイトより引用):https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2021/kokodake_01
ビタミンB1欠乏の原因
・アルコール依存(摂取不足、吸収障害、尿排泄促進)
・長期嘔吐(重症妊娠悪阻など)
・栄養不良(飢餓状態)
・炭水化物に偏った食事
ビタミンB1はグルコース代謝に不可欠であるため、炭水化物を含む高カロリーの食事を摂取すると、ビタミンB1の必要量が増加し欠乏症を引き起こす
・消化管手術後
・消化管疾患
・吸収不良症候群
・長期利尿剤投与
尿量増加により、チアミンなど水溶性のビタミンの排泄が促進
リフィーディング症候群
・低栄養に陥っている状態に対して栄養投与を急激に開始することで、血管内から細胞内へ体液や電解質がシフトし、低血糖や電解質異常を来し重篤な合併症を起こす状態。
・特に「低リン血症」が致命的となる。
リンはATP産生、2.3-DPGと酸素やヘモグロビンの結合、細胞膜の構成などに大きく関わっているため、その低下により多臓器に障害が出現する
検査異常
・低リン血症
・低カリウム血症
・低マグネシウム血症
・ビタミンB1欠乏
redeeding症候群の症状
・心不全
・浮腫(refeeding edema)
栄養投与を開始した際に、インスリン分泌亢進により浮腫が一過性にみられることがある。
原因として、低栄養状態で抑制されていたインスリン分泌能が、栄養開始時により亢進し、腎における水、ナトリウム貯留、毛細血管の水圧上昇や透過性亢進、血管拡張作用などを来すことが考えられている
redeeding症候群の予防・治療
① 電解質(K、Ca、P、Mg、特にリン)のチェック
② 栄養投与開始前にビタミンB1 200~300㎎/日+その他のビタミンB含有製剤+微量元素を投与
③ 栄養投与は10kcal/kg/日で開始し、4~7日かけてゆっくり増量
④ 水分量の調整および電解質(K、Ca、P、Mg)の補正
静注
K:2~4mmol/kg/日
P :0.3~0.6mmol/kg/日
Mg:0.2mmol/kg/日
⑤ 最初の2週間は電解質(K、Ca、P、Mg)をこまめにモニター
抗チアミン因子(ATF)
・抗チアミン因子(ATF)とは、ビタミンB1を不活性化する成分を指す。
・「コーヒー」「紅茶」など、カフェインを含む食品(カフェイン抜きも含む)に含まれる。
・ATFはチアミンと反応し、酸化された不活性の生成物を作る。
・紅茶やコーヒー(カフェイン抜きも含む)の大量摂取、および茶葉やビンロウジュを噛んだりすることは、それに含まれるATFが原因でヒトのチアミン枯渇と関連づけられてきた。
・その他、習慣的に特定の生の淡水魚、生の貝や甲殻類、およびシダを摂取する者は、チアミン欠乏症リスクが高い(これらの食物は、通常は調理の熱で不活性化されるチアミナーゼを含むため)
ビタミンB1欠乏症による症状
① 高拍出性心不全(脚気心:Wet beriberi)
・心拍出量がむしろ増加しているにもかかわらず、末梢に酸素が行き渡らず心不全徴候を呈する病態
・CI(cardiac index)>3.54
・病歴:低栄養、息切れ、下腿浮腫
・高乳酸血症(TCAサイクルが回転しないため)
・末梢血管拡張と静脈還流増加による
(末梢血管拡張の機序は不明。血管運動神経障害の可能性が示唆されている)
末梢血管拡張→広い血管床→下腿浮腫、血管分布異常性ショック、脈圧拡大
レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系賦活→右心負荷(下腿浮腫、下大静脈拡張)
心収縮に必要なエネルギ―不足→高拍出性心不全(呼吸苦、頻脈、倦怠感)
・緩徐に進行するものから、著明な乳酸アシドーシスを呈し、血管拡張に伴うショックや心原生ショックに至る劇症例もあるため、原因不明の心不全やショックの鑑別疾患に考慮する。
高拍出性心不全、右心負荷
・右心負荷が主体
・右心拡大、肺動脈収縮圧上昇、三尖弁閉鎖不全、下大静脈拡張
・洞性頻脈、脈圧開大(特に拡張期圧低下)、四肢温感、収縮期駆出性雑音
② ウェルニッケ脳症
③ 乾性脚気(Dry beriberi)
・神経障害優位のビタミンB1欠乏症症状
・神経障害の初期には、「灼熱足症候群」が起こるかもしれない。
・その他の症状には、異常な(不自然な)反射や感覚の衰え、および足や腕の脱力感などがある。
・筋肉痛や圧痛、およびしゃがんだ体勢からの起立困難も観察されている。
④ 末梢神経障害
治療
ビタミンB1投与
救急初期:100㎎ワンショット静注
・必ず低血糖補正前に投与(ブドウ糖投与前、または同時に投与)
急性期治療:1回200~500㎎を1日3回点滴静注(10分かけて)
・最低でも1日500㎎投与
・最低3日間+α
・低マグネシウム、低蛋白、その他栄養素の補充も行う
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