嚥下造影の検査法(詳細版)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 2014 年度版
- (1)各施行における検査条件
- (2)検査に影響する要因の記載
- (3)嚥下動態の評価
- 1)側面像
- 食物の取り込み(口唇閉鎖,口唇からの食物のこぼれを観察)
- 咀嚼・押しつぶし(咀嚼・押しつぶしが必要な食塊のみ)
- 口唇からの漏出
- 口腔内保持(命令嚥下の際の液体またはペーストの咽頭流入を評価)
- 食塊形成(主に舌の運動により口腔内で食塊を形成する能力を評価)
- 口腔残留(嚥下後の口腔残留を,前庭部・口腔底・舌背部それぞれについて評価.画像に加え,開口して確認)
- 咽頭への送り込み(舌の運動により食塊を咽頭へ送り込む能力を評価)
- 嚥下反射惹起時間(嚥下反射が惹起されるまでの時間を評価,咀嚼中に食塊が梨状陥凹に達している場合には咀嚼終了時からの時間を評価)(注 10―1)
- 口腔への逆流(嚥下時の咽頭内圧上昇による食塊の口腔内への逆流を評価)
- 鼻咽腔への逆流(嚥下時の咽頭内圧上昇による食塊の鼻咽腔への逆流を評価)
- 食道入口部の通過(食道入口部を通過する食塊の量を評価)
- 喉頭侵入(食物が喉頭に入るが声門を越えない場合を,喉頭侵入として評価)(注 10―2) * 誤嚥がある場合は喉頭侵入の項目は記載しない.
- 誤嚥(食物が声門を越えて気道に侵入した場合を誤嚥として評価)(注 10―2)
- 反射的なむせ(誤嚥時の反射的なむせの有無を評価)
- 誤嚥物の喀出(誤嚥物が反射的なむせまたは意図的な咳によって喀出可能か否かを評価)
- 喉頭蓋谷残留(嚥下後の喉頭蓋谷への食塊の残留を評価)
- 梨状陥凹残留(嚥下後の梨状陥凹への食塊の残留を評価)
- 2)正面像
- 1)側面像
検査法
透視装置
・一般に消化管造影などで汎用される X 線透視装置を使用する。
・X 線透視装置は通常、撮影台(テーブルあるいは天板)の上に被験者を寝かせて検査を行うが、VF の場合は撮影台を床と垂直に立て、透視装置とは独立した椅子などを使用し、座位ないしリクライニング位を基本に検査を行う。
・管球と被写体間距離は,管球と検出器との距離により規定される.被写体は管球と検出器との間に置かれるが,この中において,被写体は管球よりできるだけ遠く,検出器にできるだけ近く置くのが原則である(X 線は管球から放射状に発射されるため,管球・被写体間距離が短くなると,画像は拡大されて検出器に届き,観察される撮影範囲は相対的に狭くなるからである)
・外科用 C アーム型透視装置も応用が可能である.管球と検出器との距離が比較的短く,検出器も小さいものが多いため,撮影範囲が確保できるかどうか注意が必要である. ただし,管球の高さが低いため,座位での検査は非常に行いやすい.また,管球・検出器の角度を自由に調整できるため,正面像にも側面像にも便利である.
ビデオ記録装置
・通常は家庭用のビデオレコーダーが使用できる.接続は,透視装置に外部モニター用のアナログ画像出力端子がある場合,直接ビデオレコーダーの入力端子に接続することで録画が可能である.
・記録装置はできるだけ高性能のものがよく,静止画像やスロー再生,巻き戻し再生などが鮮明にできるものがよい.
・最近はDVDやブルーレイディスク,ハードディスク,メモリースティックなど多彩なメディアが使用されている.
マイクシステム
・VF では,検査中の音や音声を画像と同時に記録することが望ましい.
・使用した検査食の形態や体位などの情報,被験者の声や咳などの反応を同時に記録でき,後の評価に非常に役立つからである.
・市販されている集音マイクシステムをビデオデッキの音声入力端子に接続すると,画像との同時録音が可能となる.この集音マイクシステムは,一般家庭電化製品店でも会議録音用マイクシステムなどとして販売されている.
検査用椅子
・VF を施行する場合,普段の食事に近似した体位を再現することと,検査中に誤嚥防止手技を試行し,効果を確かめることが求められ,側面像・正面像の観察も重要である.また,前述した撮影範囲についても配慮が必要となる.
・椅子としてはリクライニング機能のあるバックレスト(背もたれ),長さと角度可変のレッグレスト,方向転換機能を備えた椅子が望ましく,乗り心地のよい介護用リクライニング式車椅子が適している.
・VF 用の椅子は,検査に使用する X 線透視装置の機能と構造を検討して,被験者頭部と管球の位置が適合するよう
に選択しなければならない.X 線透視装置の機種によっては,撮影台を床と垂直に立てて検査する場合,被験者が通常の高さの椅子に座ったのでは口腔咽頭の位置が管球よりも低くなり VF 撮影ができないことがある.
・このような場合は,車椅子を乗せる台を作製し,被験者と椅子をその台の上に乗せるなどの工夫が必要となる.
・座面の高さが調節できる VF 専用椅子も市販されている.高価であることが多いが,被写体と管球の適合が容易で,診断価値の高い検査が可能となる.
・外科手術用 C アーム型透視装置を使用する場合は,通常のリクライニング式車椅子で検査可能である.体格の小さな症例では,管球が高すぎる場合があるが,この場合でも 10~15 cm 厚のクッション材を座面に入れることで対処できる。
検査食の具体的な作り方
使用造影剤
・日本では「VF用の造影剤」という定められたものは市販されていない。
・嚥下器官は消化器に属するという観点から,消化管造影剤を使用するという考えがある.
・消化管造影剤には「硫酸バリウム」と「ガストログラフィン®」 があるが、ガストログラフィン®は誤嚥した際の肺毒性があり嚥下障害では使用すべきではない。
・硫酸バリウムは安価で手に入りやすく,大量の誤嚥さえなければ比較的安全である.重量 % で 40%程度に希釈して使用する。
・低浸透圧性非イオン性ヨード系造影剤も比較的肺毒性が少ないと考えられている.なかでもイソビスト®(バイエル)は味が甘く,小児の検査にも適している(ただし,造影検査に対する保険適応はない)
・ただし低浸透圧性非イオン性ヨード系造影剤はヨードアレルギーの患者には使用できない。
・一般的には,硫酸バリウム懸濁液を各種の濃度に調整し,検査食に添加して使用する.
・ヨードアレルギーが明らかでない場合でも,検査時に少量を下口唇につけて,発赤・腫脹などのアレルギー反応がないことを確認する.
検査食の種類
増粘剤(とろみ剤)について
・増粘剤は,使用量によって粘性が変化するとともに,作製後の時間によって粘性が変化する.
・また,同じ粘性(とろみ)でも,製品によって付着性(べたつき)が異なることを知っておく必要がある.
・さらに,添加する量を決めても,食材(水,お茶,みそ汁,果汁など)の違いで粘性が変化する点にも配慮しなければならない.
・一般に,増粘剤を大量に使用して粘性が増すと,組織への付着性が強くなる.すなわち,誤嚥は起こりにくくなるが,口腔・咽頭残留などが多くなる.
・作製した直後はちょうどよい粘性であると判断されても,時間とともに粘性や付着性が増加して「べたつくようになる」点に配慮が必要である.
ゼリータイプ(semisolid)
・ゼリータイプ(プリン,一部のヨーグルトなどを含む)の食物は,崩れやすい固体と考えることができる.
・崩れないように食塊を作り,丸飲みさせるか,砕いて(外で砕くか咀嚼するか)ピューレ(粘度の高い液体の性質)として使用するか,によって嚥下動態が変わる.
・検査時にどのように食べさせるかについて,十分に配慮する必要がある.
ピューレタイプ
・ヨーグルト,粥など,実際に食べる食物に造影剤を入れる方法が行われる.
・一方,増粘剤で粘度をつけたバリウム水や砕いたゼリータイプの食物で,おおよその動態を観察することも可能である.
・咀嚼した固形物は,ほとんどピューレと呼ばれる性状を示している.液体成分と中に含まれる粒状成分の嚥下動態を区別して評価することが大切である.
固形物(solid)
・市販のクッキーやパンなどにバリウムをかけて使用する方法は,最も手軽である.
・しかしあらかじめバリウム入りのクッキー,パンなどを作製しておけば,より実際の食物に近い状態で検査が可能である.
・口唇での取り込み,咀嚼,食塊形成から嚥下につなげる過程をみるためには,適切な造影剤入りの固形食品を用意しておくとよい.
薬
錠剤は,薬剤シートにバリウムを入れて固めて作ることもできる.
・しかし,誤嚥した場合や咽頭・食道に残留した場合には,非常に排泄されにくい.
・速崩錠を院内製剤で作製して使用している場合も見受けられる
検査の説明と同意
・検査の目的と方法・危険性とその処置などの説明は,検査室に入る前に行う.
・患者や家族の希望を尋ね,疑問があれば話し合って解決し,合意を得たうえで検査する.
・また,可能な限り文書による承諾を得る.
嚥下造影検査:説明と同意書(例)
【病名・症状】摂食嚥下障害 〔 〕摂食嚥下障害とは食べ物や飲み物が上手に飲めなくなる障害です.様々な原因で起こり,「脱水,栄養障害」「誤嚥,誤嚥性肺炎, 窒息」などにつながることがあります.
【今回の検査目的】 現在の症状の原因が食物の通路のどこにあるのか,また今後どのようにしたらよいかなど必要な情報を得ることが検査の目的です.
【予定している検査の具体的方法】 X 線検査で写るようにバリウムを含んだゼリーやとろみ水,クッキーなどを用いて飲み込みの様子を調べます. 口から喉,食道へ食物がどのように通過するかなどがよくわかります. どの部分に通過障害があるか,また,誤嚥(肺のほうに食べ物が入ってしまう状態)などの様子もわかります. リハビリテーションで必要な訓練をその場で行い,効果を見ることもできます. 喉の通過が不良な時はバルーン法といって狭い部分を広げる手技を行うこともあります.
【今回の検査に伴う合併症】 誤嚥,誤嚥性肺炎 適切な食事を判断するためにやむを得ず患者さんにとって難しい食物ならびに量を摂っていただくことがあり,検査中に誤嚥が起こり得ます. 稀に誤嚥による発熱,誤嚥性肺炎が起こることがあります. 誤嚥が起こったら直ちに吸引や排痰ドレナージ等の対応を行います. バリウムについて 使用する食品にはバリウムという造影剤が混入されています. バリウム自体に毒性はありませんが,大量のバリウムが肺に入り残留すると稀に肉芽腫性肺炎を来すことがあります. 検査中の誤嚥は最小限にするよう心がけるとともに,誤嚥が起こったら直ちに吸引や排痰ドレナージ等の対応を行います. 被曝について X 線を使用しますので被曝を伴いますが,胃のバリウム検査の半分程度です. 検査は,被曝によるリスクよりも,検査によって得られる情報の方が有用と判断したため行うものです.
上記について説明しました. 年 月 日
医師
同席者
上記説明内容に納得され,検査実施に同意していただけるようでしたら, ご署名ください.
患者署名
ご家族署名
(患者との関係: )
VF の観察項目
検査食の動態 解剖学的構造の異常・動き
口唇からのこぼれ 形態学的異常(口腔)
咀嚼状態 口唇の開閉
食塊形成 下顎の動き
舌の動き
舌軟口蓋閉鎖
口 腔 残 留(前 庭部・口 底部・舌背部)
咽頭への取り込み
早期咽頭流入 形態的異常(咽頭)
咽頭通過 舌根部の動き
誤嚥・喉頭侵入とその量 鼻咽腔閉鎖
口腔への逆流 舌骨の動き
鼻咽腔への逆流 喉頭挙上
喉頭蓋の動き
喉頭閉鎖
咽頭残留・咽頭滞留(貯留)*
(喉頭蓋谷・梨状陥凹)
食道入口部の通過 咽頭壁の収縮
食道入口部の開大
形態学的異常(食道の蛇
行・外部からの圧迫など) 食道残留
食道内逆流 食道蠕動
胃食道逆流 下食道括約筋部の開大
* 咽頭滞留(貯留):嚥下反射が起こらずに,そのまま残った場合は「滞留」
とする.
検査前の具体的な準備
VF を開始する前には入念な準備が必要である.検査を開始してから必要物品がなくて探し回り,検査ができないことがないよう配慮しなければならない.検査に当たって,準備すべき主な内容を以下に説明する.
(1)機器・物品の準備
1)検査食: 検査食は必須である.その場になって,この食物についても検査してみたいと思う
ことがある.検査の目的に応じた検査食は,あらかじめよく考えて準備する.
2)吸引器: 誤嚥や咽頭残留は速やかに除去する必要がある.そのために,吸引器は常に使用可能な状態にしておかねばならない.予期せぬ時に誤嚥し,吸引の準備がなければ事故につながる危険性がある.
3)ゴム(ビニール)手袋: 感染対策として,検査者は患者ごとに新しい手袋を着用することが望ましい.また,吐物や喀痰を処理する際にも大変役立つ.
4)パルスオキシメーター: 患者のモニターとして,パルスオキシメーターを使用しながらの検査が望ましい.
5)血圧計・聴診器・救急カート: 安全な検査ではあるが,医療行為である以上,患者のバイタルサインをチェックし,不測の事態には常に対処できるよう配慮しなければならない.
6)以下に,準備しておくと便利な物品を列挙する.
スプーン(大,中,小),舌圧子,ペンライト,紙コップ,ストロー,ティッシュペーパー,注射器(ディスポ),経鼻胃管チューブ(8 ~ 12Fr),バルーンカテーテル(12 ~ 16Fr),エプロン,タオル
(2)意識状態,全身状態の観察
意識障害や睡眠不足,肺炎などによって全身状態が良好でない場合には,検査を中止する.また,検査中には嚥下
に意識を集中(think swallow)させることが大切である.
(3)経口摂取未施行の患者への配慮
経口摂取を長期間行っていなかった患者については,VF を行う前の数日間,口腔内のアイスマッサージや空嚥下の練習を繰り返し行ったのちに検査する.
また,検者があらかじめ病室を訪れてベッドサイドでの評価を行い,顔見知りになっておく.意思の疎通を図り,十分な信頼関係を得たうえで,検査の意味と手順を説明する.
(4)緊張への対処
患者は,はじめて検査室に入ると緊張するので,まずリラックスさせることに努める.
緊張している状態では正確な評価ができないばかりか,平常よりも誤嚥する危険性が高い.
準備体操として,検査台に座ってから肩と頸部の力を抜いて軽い運動をさせる.
(5)口腔ケア
口腔ケアは,あらかじめ念入りに行っておく.検査室で口腔内が汚いことが判明した場合には検査を中止するか,その場で口腔ケアを施行してから検査を行う.
(6)検査前の訓練
造影剤を用いた嚥下の検査を行う前に,透視下で空嚥下とパ行・タ行・カ行・ラ行の発音を行わせる.
これらの音がすべて含まれている「犬も歩けば棒に当たる」「パンダの宝物」などの復唱文を唱えさせるのもよい.
空嚥下ができない患者では,ごく少量の冷水(0.5 ml 程度)を口に含ませて口腔内を潤す.不可能な場合には,咽頭のアイスマッサージによって嚥下反射を試みる.
これらは,食べる前の準備運動を兼ねるとともに口腔,咽頭の評価としても有効である.
失語症や痴呆などで発音や文の復唱ができない場合には,声だけでも出させて記録する.
(7)経鼻胃管チューブ
経鼻胃管チューブは嚥下機能に影響するので,抜去するか,あらかじめ 8Fr 程度の細いチューブに変更して検査をするのが望ましい.
留置したまま検査する場合には,そのことを記録用紙に記載する.
(8)気管カニューレ
カフ付き気管カニューレ装着中の患者では,カフが嚥下機能に影響を及ぼすので,カフの空気を入れたままとするか抜くかを検討し,検査時の状態を記録用紙に記載する.
(9)義歯
義歯に関しては,あらかじめ評価して,可能な限り適合状態をよくして検査に臨む.
義歯安定剤の使用も考慮する.
検査時に義歯装着の有無,適合状態,口腔病変などについても記載する.
検査手技の具体的方法
・1 回の検査時間は,疲労・被曝量を考慮して,できるだけ短縮するよう努める.
・可能であれば,パルスオキシメーターで動脈血酸素飽和度(O2Sat)をモニターする.
・検査は,医師,歯科医師,言語聴覚士,看護師,管理栄養士など,嚥下訓練に携わるスタッフが協同で行うことが望ましい.
・また必要に応じて,摂食介護の方法を検討するために,家族や介護者にも同席を依頼する.
(1)撮影の方向
・撮影の原則は,まず側面の透視を行い,次に正面の透視を行う.食道の中・下部の通過状態もあわせて調べる.
(2)発声・嚥下反射
・まず,発声させて口唇,舌,軟口蓋などの動きを観察する.
・次いで,造影剤を用いない空嚥下によって嚥下運動をみる.
・空嚥下ができない患者では,ごく少量の冷水(0.5 ml 程度)を口に含ませるか,咽頭のアイスマッサージを行い,嚥下反射をみる.
(3)造影剤の量
・誤嚥したときに,その誤嚥量を最少にとどめるため,造影剤の一口量は少量から開始し,徐々に増量する.
・最も誤嚥しやすい「液体」による検査を行うときは,まず,スプーンや注射器から 1~3 ml を一口量として検査する.
・その状態を見て,必要に応じて 5~10 ml に増量して検査する.
・これまで非経口で栄養補給され,これから食物により経口摂取を開始する場合は,浅い小サジに少量の検査食(例;造影剤入りゼラチンゼリー)を30度仰臥位・頸部前屈で開始する.
・その後,状態によって他の性状の食物を加えたり,増量したりする.
4)検査食の形態
検査食の形態は,原則として
1)液体(低粘度,中粘度,高粘度など)
2)ゼラチンゼリー(硬さを考慮)
3)ピューレ(ヨーグルトなど)
4)寒天ゼリー
5)クッキー
6)模擬薬品などである.
検査者は必要に応じて,一口量を考慮したうえで,必要な形態の食物を選択する
(5)検査の姿勢
・姿勢については,普段摂食している姿勢を最初に検査する.
・長期にわたり経口摂取を中止している場合には,30度仰臥位,頸部前屈位から開始し,安全を確かめながら徐々に角度を上げていく.
・姿勢は,使用する椅子や,透視装置によって制限を受ける.できる限り,目的に応じた姿勢がとれるよう工夫する.
(6)誤嚥が確認された場合
・同一条件下での検査は中止する.
・代償法を行うことにより誤嚥が防げると考えられた場合は,その方法を試みる.
・以下に,誤嚥を減少させる方法の例をあげた.
1)息こらえ嚥下(supraglottic swallow): しっかり息を吸い込んだのち,息を止め,その状態で嚥下し,嚥下の直後に咳ばらいをするように息を吐く.
2)体位の変更や頸部の回旋: 種々の角度のリクライニング位や側臥位などに,頸部の回旋や前屈を適宜組み合わせる.
3)食品形態の変更など: 水やお茶にとろみを付けたり,ゼリー,プリン,ヨーグルトなどを試みる.
(7)同一条件下での検査の中止基準
以下の項目のいずれかが認められた場合とする.
1)大量の誤嚥
2)咳による喀出不良
3)バイタルサインや呼吸状態の変化
4)パルスオキシメーターで 1 分間の平均 O2Sat が 90% 以下に低下した場合,あるいは 1 分間の O2Sat が検査前に比べて 3% 以上の低下が持続した場合
5)検査医の判断にて中止が妥当と判断された場合
(8)咽頭残留が認められた場合
以下の手技を参考にして,残留しない嚥下方法および残留除去の方法を検討
する.
1)嚥下の意識化(think swallow: 飲み込む前に,これから飲むことを意識する)
2)空嚥下を繰り返す(複数回嚥下,追加嚥下).
3)交互嚥下(ピューレ状のものとゼリーなど物性の異なるものを交互に嚥下する)
4)頸部回旋(横向き嚥下)
5)頸部前屈嚥下(顎引き嚥下)
6)喀出,吸引など
なお口腔残留は,吸引,ガーゼ清拭,含嗽,吐き出す,などで対処する.
(9)誤嚥の対処法
以下の方法を適宜行う.
1)咳嗽(事前に練習させておく)
2)吸引
3)排痰(スクイージング),体位ドレナージ
4)酸素吸入
(10)誤嚥によって,むせた場合
誤嚥物を喀出し,バイタルサインが落ち着くのを待つ
詳細な評価法
嚥下造影の検査法(詳細版)
(1)各施行における検査条件
1)姿勢: 体幹傾斜角・頸部の角度
2)検査食: 種類,形態,一口量,温度(特別な場合)
3)造影剤: 種類,濃度
4)摂食方法: 摂取に用いた食器および自立摂取か介助摂食か
5)嚥下手技: 頸部回旋法,supraglottic swallow,頸部突出法など,用いた手技
6)撮影方向: 正面・側面・斜位(必要に応じて)
上記以外でも,特別な条件で施行した場合は明記する.
(2)検査に影響する要因の記載
体調,疲労,緊張度など特記すべき事項があれば記載する.
(3)嚥下動態の評価
施行ごとに以下の項目について
3: 良好または正常範囲
2: やや不良・やや異常
1: 不良・異常
の 3段階で評価する.
各運動の協調性やタイミングのずれなどは別途記載する.
1)側面像
食物の取り込み(口唇閉鎖,口唇からの食物のこぼれを観察)
3: 食物の取り込み良好,口唇を閉鎖してしっかり取り込む,こぼれなし
2: 閉鎖不十分・とりこぼし少量あり
1: 不可または口唇からこぼれあり
咀嚼・押しつぶし(咀嚼・押しつぶしが必要な食塊のみ)
3: 固形物の咀嚼良好
2: 咀嚼運動拙劣・緩慢
1: 咀嚼不可
口唇からの漏出
3: なし
2: 一側の口角より少量漏出
1: 多量に漏出
口腔内保持(命令嚥下の際の液体またはペーストの咽頭流入を評価)
3: 良好
2: 咽頭へ少量流入
1: 咽頭へ多量流入
食塊形成(主に舌の運動により口腔内で食塊を形成する能力を評価)
3: 良好,口腔内で散らばらない
2: やや不良
1: 不良,口腔内で散らばる
口腔残留(嚥下後の口腔残留を,前庭部・口腔底・舌背部それぞれについて評価.画像に加え,開口して確認)
3: 残留なし
2: 少量残留
1: 多量残留
咽頭への送り込み(舌の運動により食塊を咽頭へ送り込む能力を評価)
3: 舌で一気に送り込む
2: 緩慢,複数回に分けて少量ずつ送り込む
1: 重力で落ちる,送り込めない,口腔内に多量残留する
嚥下反射惹起時間(嚥下反射が惹起されるまでの時間を評価,咀嚼中に食塊が梨状陥凹に達している場合には咀嚼終了時からの時間を評価)(注 10―1)
3: 食塊が梨状陥凹に達する前または達したと同時に反射が惹起される
2: 食塊が梨状陥凹に達してから 3 秒以内
1: 食塊が梨状陥凹に達してから 3 秒以上
口腔への逆流(嚥下時の咽頭内圧上昇による食塊の口腔内への逆流を評価)
3: なし
2: 少量あり
1: 多量あり
鼻咽腔への逆流(嚥下時の咽頭内圧上昇による食塊の鼻咽腔への逆流を評価)
3: なし
2: 少量あり
1: 多量あり
食道入口部の通過(食道入口部を通過する食塊の量を評価)
3: 多量通過
2: 少量通過
1: ほとんど通過せず
喉頭侵入(食物が喉頭に入るが声門を越えない場合を,喉頭侵入として評価)(注 10―2) * 誤嚥がある場合は喉頭侵入の項目は記載しない.
3: 喉頭侵入なし
2: 侵入あり.排出される
1: 侵入あり.排出されず
誤嚥(食物が声門を越えて気道に侵入した場合を誤嚥として評価)(注 10―2)
3: 誤嚥なし
2: 少量の誤嚥
1: 多量の誤嚥
反射的なむせ(誤嚥時の反射的なむせの有無を評価)
3: むせあり
2: 弱いまたは遅れる
1: むせなし,あるいは 10 秒以上遅れる
誤嚥物の喀出(誤嚥物が反射的なむせまたは意図的な咳によって喀出可能か否かを評価)
3: すべて喀出可能
2: 一部喀出可能
1: 喀出不可
喉頭蓋谷残留(嚥下後の喉頭蓋谷への食塊の残留を評価)
3: 残留なし
2: 少量残留
1: 多量残留
梨状陥凹残留(嚥下後の梨状陥凹への食塊の残留を評価)
3: 残留なし
2: 少量残留
1: 多量残留
2)正面像
食塊の通過経路(食塊が梨状陥凹を通過する状態を観察)
右: 右が優位
左: 左が優位
両: 左右差なし
喉頭蓋谷残留(残留の左右差を観察)
3: 残留なし
2: 少量残留
右: 右に多い
左: 左に多い
両: 左右差なし
1: 多量残留
右: 右に多い
左: 左に多い
両: 左右差なし
梨状陥凹残留
3: 残留なし
2: 少量残留
右: 右に多い
左: 左に多い
両: 左右差なし
1: 多量残留
右: 右に多い
左: 左に多い
両: 左右差なし
食道残留(注 10―3)
3: なし
2: 少量あり
1: 多量あり
食道内逆流(注 10―3)
3: なし
2: 少量あり
1: 多量あり
胃食道逆流(注 10―3)
3: なし
2: 少量あり
1: 多量あり
(4)解剖・生理学的構造と動きの評価
・口腔器官,咽頭,喉頭蓋,食道,頸椎の変形,憩室などの問題,各器官の動きの異常について評価する.
・コメントや図が必要な場合には記載する.また,それぞれの異常が嚥下運動に与えている影響についても評価する.
1)口腔の評価
口唇閉鎖
3: 良好
2: 両口唇は接触するが閉鎖力が弱い
1: 不可
下顎の開閉(開口または閉口)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
咀嚼運動(下顎の動き)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
咀嚼運動(舌の動き)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
送り込み運動(舌の動き)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
2)咽頭の評価
形態学的異常
3: 異常なし
2: 軽度異常
1: 重度異常
舌根部の動き(嚥下時に舌根が咽頭後壁に押しつけられる状態を評価)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
舌骨の動き(嚥下時の舌骨の運動を評価)
3: 前上方への動きあり
2: やや不良
1: 不良
喉頭運動(嚥下時の喉頭挙上距離,挙上持続時間を評価)
3: 1 椎体以上挙上・挙上持続時間十分
2: 1 椎体以上挙上するがすぐに下降,挙上するが前方移動なし
1: 挙上なし,またはわずかに挙上
咽頭収縮(咽頭前壁と後壁との接触状態を評価)
3: 前後が接して air space(または造影剤の space)が消失
2: 不十分
1: まったく見られない
食道入口部の開大(嚥下時の食道入口部の開大状態を評価)
3: 食塊の量に対して十分開く
2: 開大不十分
1: ほとんど開大せず
喉頭閉鎖(正面像で声帯・仮声帯の閉鎖状態を観察)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
喉頭蓋の動き(注 10―4)
3: 良好
2: やや不良
1: 不良
3)食道の評価
形態学的異常(変形・蛇行・狭窄)
3: 異常なし
2: 軽度異常
1: 重度異常
食道蠕動
3: 良好
2: やや不良
1: 不良または蠕動なし
下部食道括約筋部の開大
3: 蠕動に呼応して十分開く
2: 開大不十分
1: ほとんど開大せず
藤島の「摂食・嚥下能力のグレード」
「できる状態」の評価法
Ⅰ:重症(経口不可)
1 嚥下困難または不能、嚥下訓練適応なし
2 基礎的嚥下訓練のみの適応あり
3 条件が整えば誤嚥は減り、摂食訓練が可能
Ⅱ:中等度(経口と補助栄養)
4 楽しみとしての摂食は可能
5 一部(1~2食)経口摂取
6 3食経口摂取+補助栄養
Ⅲ:軽症(経口のみ)
7 嚥下食で、3食とも経口摂取
8 特別に嚥下しにくい食品を除き、3食経口摂取
9 常食の経口摂取可能、臨床的観察と指導を要する
Ⅳ:正常
10 正常の摂食、嚥下能力
藤島の「摂食嚥下障害患者における摂食状況のレベル」
「している状態」の評価法
経口摂取なし
Lv.1 :嚥下訓練を行っていない
Lv.2 :食物を用いない嚥下訓練を行っている
Lv.3 :ごく少量の食物を用いた嚥下訓練を行っている
経口摂取と代替栄養
Lv.4:1食分未満の嚥下食を経口摂取しているが代替栄養が主体
Lv.5:1-2食の嚥下食を経口摂取しているが代替栄養が主体
Lv.6:3食の嚥下食経口摂取が主体で不足分の代替栄養を行っている
経口摂取のみ
Lv.7:3食の嚥下食を経口摂取している代替栄養は行っていない
Lv.8:特別食べにくいものを除いて3食経口摂取している
Lv.9:食物の制限はなく、3食を経口摂取している
正常
Lv.10:摂食・嚥下障害に関する問題なし (正常)
藤島一郎, 他:「摂食・嚥下状況のレベル評価」簡便な摂食・嚥下評価尺度の開発.
リハ医学43:S249,2006
http://www.healthy-food.co.jp/reaflet.pdf
VF所見例(異常、正常)
咽頭残留
・正常でもありうる
・「(左右)喉頭蓋谷」「咽頭後壁」「(左右)梨状窩」残留と記載
・「喉頭蓋谷残留」は嚥下機能障害でしばしば認められるが、直接誤嚥に繋がる危険性は少ない。
しかし「餅などによる窒息」の危険性が高いと考える
・「梨状窩残留」は誤嚥の危険性が高い
・「咽頭全体に散らばるような残留」も誤嚥の危険性が高い
喉頭侵入
stage Ⅱ transport
・固形物咀嚼時、食塊の一部が嚥下反射の前に口峡を越えて咽頭に達すること
・咀嚼嚥下や自由嚥下時に生じる(プロセスモデルという)
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