- 定義
- 原因・病態:
- LUTSの有無での分類
- 治療
- 原則
- 生活指導
- 単一症候性夜尿症の治療
- デスモプレシンは副反応として水中毒や低ナトリウム血症が挙げられ、投与中は多量の水分摂取は避ける。何らかの理由で多量の水分摂取を必要とする児では他の治療法も検討する。
- ・夜尿の頻度が低い児には適さない。2〜3ヶ月使用して効果が得られない場合は他の治療法に移行する。
- 単独でのデスモプレシン使用、アラーム療法に治療抵抗性を示す場合や事情により早期の改善が望まれる場合には両者を併用する。
- 三環系抗うつ薬は他の夜尿症治療で効果が乏しい際に使用が検討される(推奨度3) デスモプレシンやアラーム療法で効果が得られない際に使用を検討する。使用の歴史は古く60年前から使用され、コクランのシステマティックレビューでも有効性が示されている[15]。三環系抗うつ薬の夜尿に効果を示す機序は明らかになっていないが、抗うつ効果、抗コリン作用、睡眠と覚醒の調整などによると推察されている。副反応として抗コリン作用による体位性低血圧や便秘などに加え、過量投与による致死的な不整脈が挙げられるため、心疾患の既往や家族歴に留意して使用する。イミプラミン(トフラニール、イミドール)、アミトリプチン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)の3剤が保険適応を有する。後2者は米国では小児の夜尿への保険適応は承認されていない。
定義
・「5歳以上の小児の入眠中の間欠的な尿失禁を夜尿症(nocturnal enuresis)とし、1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上続くものを指す。この夜尿症の定義では、昼間尿失禁や他の下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の有無は問わない」
(国際小児禁制学会(International Children’s Continence Society:ICCS)および夜尿症ガイドライン2021)
原因・病態:
CCSの治療指針では下記の①〜③の複合的な関与が挙げられ、その他④、⑤が付加要因として考えられる。
① 睡眠から覚醒する能力
夜尿患者は刺激に対し覚醒する閾値が高い。これは必ずしも“よく眠る”ことを示唆せず、むしろ夜尿症例では睡眠の質が悪いことが示されている。
② 夜間の膀胱の蓄尿能力
治療抵抗性の夜尿症患者では背景に下部尿路の機能障害を有する可能性を考える。睡眠中の膀胱収縮の頻度や膀胱容量の変化が示唆される。
③ 夜間多尿
睡眠中の抗利尿ホルモンの分泌低下によるほか、経口摂取の影響を受ける。
④ 発達
⑤ 遺伝的素因
両親いずれかの夜尿の既往がある児は5〜7倍、両親ともに既往がある児は11倍夜尿を呈しやすい。
LUTSの有無での分類
・日中のLUTSを合併する場合を「非単一症候性夜尿症」、合併しない場合を「単一症候性夜尿症」と分類する。
・我が国の診療では夜尿症例の1/4を非単一症候性夜尿症が占める。
・日中のLUTSとしては、①覚醒時の尿失禁、②尿意切迫感、③排尿困難、④排尿回数の減少(1日3回以下)、過多(1日8回以上)が挙げられる。
治療
原則
治療は年単位でかかることも多い。
夜尿があっても児を叱らないよう家族に伝える。
夜尿を理由とした宿泊学習の回避は避ける。児の治療に対する前向きな気持ちが治療継続に欠かせない。
生活指導
夜尿症の治療として適切な生活指導が最初に推奨される(推奨度2):
a) 就寝前の水分制限:就寝2時間前、できれば3時間前までに夕食を終えることが望ましい。
水分摂取もそれに準じるが、強い口渇や内服のために必要な際は少量にとどめるようにする。
b) 日中の水分摂取:単一症候性夜尿症に対し日中に水分を必要以上に飲むことに対するエビデンスは明らかではないが、非単一症候性夜尿症の児は日中に十分な水分を摂取することが推奨される。
c) 経口摂取内容の指導:塩分の多い食事、デザートに多い夕方以降の乳製品や糖分の摂取は夜間尿量を増加させるため、治療中は控える。また、利尿作用を有するカフェインを含有する飲料も避けることが望ましい。本人の治療意欲に大きく影響するイベントの際などは柔軟な対応も考慮される。
d) 排尿指導:定時排尿や適切な排尿姿勢などの一般的な排尿指導は非単一症候性夜尿症に対して効果がより大きい。単一症候性夜尿症に対しては一般的に行われていたが、近年では漫然とした継続に否定的な意見もあり他の治療導入が阻害されないよう留意する。
夜間の強制覚醒の推奨は、宿泊学習など短期間に限って夜尿回避のためにのみ提案される。
e) 便秘への介入:便秘治療は夜尿の改善につながり、特に非単一症候性夜尿症の昼間のLUTSに対し推奨される。
単一症候性夜尿症の治療
・治療の第一選択はデスモプレシンとアラーム療法である。
・夜間多尿を伴う症例はデスモプレシン、低膀胱容量の症例ではアラーム療法が望ましいが、下記の両者の特徴を踏まえ選択することが推奨される。
・両者の併用療法に対しても抵抗性である場合は抗コリン薬や三環系抗うつ薬を用いる。
① デスモプレシン
デスモプレシンは単一症候性夜尿症治療の第一選択の一つとして推奨される(推奨度2)
抗利尿ホルモンであるバソプレシンの誘導体で、腎臓集合間のV2受容体に高い親和性を示し水の再吸収を促進するため、就寝中の尿量低下を目的として使用する。
・製剤はスプレー製剤と口腔内崩壊錠に2種類が市販されている。水中毒のリスクが低く近年多く使用されている口腔内崩壊錠のミニリンメルトOD錠は、120 μgと240 μgのみが夜尿症への適応があることに注意する。
開始する際は120 μgから始め、2週間程度で効果判定を行い240 μgに増量するかを判断する。240 μgを使用しても無効と判断した場合は漫然と使用せず早期に使用を終了する。
服用方法の誤りは血中濃度の低下につながるため開始時に指導する。夜尿症の改善が得られた後は漸減して中止する。中止に伴い尿量が増加し夜尿のリバウンドが見られることがある。
デスモプレシンは副反応として水中毒や低ナトリウム血症が挙げられ、投与中は多量の水分摂取は避ける。何らかの理由で多量の水分摂取を必要とする児では他の治療法も検討する。
処方例:デスモプレシン開始時の処方例
1) ミニリンメルトOD錠120μg 1錠1日1回就寝前 水を使わず口腔内崩壊錠として使用
② アラーム療法
アラーム療法は単一症候性夜尿症治療の第一選択の一つとして推奨される(推奨度2)
アラーム療法は、下着またはパッドにセンサーを装着し、就寝中の排尿を感知し鳴ったアラームで本人へ覚醒刺激を与える治療法である。
・2020年のシステマティックレビューではアラーム療法の有効性が示され、デスモプレシンとの有効性の差は明らかでないものの、副作用はアラーム療法の方が少ないことが示された[14]。夜尿に有効である機序は不明な点が残るものの、夜間尿量の減少、尿道括約筋の収縮による排尿抑制、就寝中の膀胱容量の増大などの効果が示唆されている。
・有効例では再発が少ない。保険適応はなく有償となり、医療機関からの指導を受け家族が申し込み機器を購入またはレンタルし使用する。機器が身体に絡みにくいワイヤレス式の人気が高い。児のみではアラームへの対応が困難なことが多く、家族のサポートが必要となる。
・夜尿の頻度が低い児には適さない。2〜3ヶ月使用して効果が得られない場合は他の治療法に移行する。
③ デスモプレシン・アラーム併用療法
第一選択での治療が無効の際にデスモプレシン・アラーム療法を推奨する(推奨度2)
単独でのデスモプレシン使用、アラーム療法に治療抵抗性を示す場合や事情により早期の改善が望まれる場合には両者を併用する。
④ 三環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬は他の夜尿症治療で効果が乏しい際に使用が検討される(推奨度3) デスモプレシンやアラーム療法で効果が得られない際に使用を検討する。使用の歴史は古く60年前から使用され、コクランのシステマティックレビューでも有効性が示されている[15]。三環系抗うつ薬の夜尿に効果を示す機序は明らかになっていないが、抗うつ効果、抗コリン作用、睡眠と覚醒の調整などによると推察されている。副反応として抗コリン作用による体位性低血圧や便秘などに加え、過量投与による致死的な不整脈が挙げられるため、心疾患の既往や家族歴に留意して使用する。イミプラミン(トフラニール、イミドール)、アミトリプチン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)の3剤が保険適応を有する。後2者は米国では小児の夜尿への保険適応は承認されていない。
処方例:三環系抗うつ薬
1) トフラニール錠10mg 1錠分1 夕食後または就寝前。効果が乏しい際は25 kg未満20 mg, 25 kg以上25〜30 mgに増量可
⑤ 抗コリン薬
抗コリン薬は単一症候性夜尿症において第一選択とはせず、デスモプレシンとの併用が推奨される(推奨度2〜3)
抗コリン薬の単独使用は、ランダム化比較試験において単一症候性夜尿症の頻度を改善せず[16][17]、第一選択薬としては推奨されない。デスモプレシンと抗コリン薬の併用はデスモプレシン単独治療より夜尿頻度を低下させる[18][19][20][21]。単一症候性夜尿症の小児に対し保険適応は得られていない。
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