情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について
1 基本的な考え方
近年の急速なデジタル技術の進展に伴い、情報通信機器を用いて遠隔で産業医の職務の一部を実施することへのニーズが高まっている。
産業医は、健康診断の実施、長時間労働者に対する面接指導の実施及び心理的な負担の程度を把握するための検査等並びにそれぞれの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境維持管理、作業管理、労働者の健康管理、労働者の健康の保持増進を図るための措置、衛生教育、労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置で、医学に関する専門的知識を必要とするものを行うことを職務とされている。
事業者は、情報通信機器を用いた場合においても、事業場における労働衛生水準を損なうことがないよう、2に掲げる事項に留意し、産業医が産業医学の専門的立場から労働者一人ひとりの健康確保のために効果的な活動を行いやすい環境を整備する必要がある。
なお、当該留意すべき事項に基づき産業医の職務を実施する場合においては、産業医として選任された事業場以外の場所から遠隔でその職務の一部を実施することとして差し支えないものである。
2 情報通信機器を用いて遠隔で産業医の職務を実施する場合における留意すべき事項
(1) 共通事項
ア 産業医の職務のうち、情報通信機器を用いて遠隔で実施することとする職務の範囲やその際の留意事項等について、衛生委員会等で調査審議を行った上で、労働者に周知していること。
イ 法第13条第4項の規定に基づき産業医に対して必要な情報を提供する際に、情報通信機器を用いて遠隔で職務を実施する産業医に、適時に、労働者の健康管理に必要な情報が円滑に提供される仕組みを構築していること。
ウ 産業医の職務のうち、情報通信機器を用いて遠隔で実施することとする職務についても、産業医が必要と認める場合には、事業場において産業医が実地で作業環境等を確認することができる仕組みを構築していること。
エ 産業医が情報通信機器を用いて遠隔で職務を実施する場合においても、事業場の周辺の医療機関との連携を図る等の必要な体制を構築していること。
(2) 使用する情報通信機器について
ア 情報通信機器を用いて通信等を行う産業医や労働者が容易に利用できるものであること。
イ 映像、音声等の送受信が常時安定しており、相互の意見交換等を円滑に実施することが可能なものであること。
ウ 取り扱う個人情報の外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止の措置を講じること。特に労働者の心身の状態に関する情報については、個人データに対するアクセス管理、個人データに対するアクセス記録の保存、ソフトウェアに関する脆弱性対策等の技術的安全管理措置を適切に講じること。
(3) 個別の職務ごとに留意すべき事項
ア 医師による面接指導(労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第14条第1項第2号及び第3号関係)
法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく面接指導について情報通信機器を用いて遠隔で実施する際には、「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号(令和2年11月19日最終改正))に基づき、当該通達で示す留意事項を遵守するとともに、面接指導を実施する医師が必要と認める場合には直接対面により実施すること。
イ 作業環境の維持管理及び作業の管理(安衛則第14条第1項第4号及び第5号関係)
作業環境の維持管理及び作業の管理については、安衛則第15条の規定に基づく産業医の定期巡視の実施の際は、実地で作業環境や作業内容等を確認する必要があること。また、事業場の作業環境や作業内容等を踏まえ、産業医が追加的に実地で確認する頻度について検討することが適当であること。なお、製造工程や使用する化学物質を変更する等、事業場の作業環境や作業内容等に大きな変更が生じる場合は、産業医が実地で確認することが適当であること。
ウ 衛生教育(安衛則第14条第1項第8号関係)
衛生教育については、情報通信機器を用いて遠隔で実施する際には、「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(令和3年1月25日付け基安安発0125第2号、基安労発0125第1号、基安化発0125第1号)に基づき実施すること。
エ 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置(安衛則第14条第1項第9号関係)
労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置については、労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止対策の策定について、医学に関する専門的知識を踏まえた検討を行うことが求められているものであり、視覚や聴覚を用いた情報収集だけでなく、臭いや皮膚への刺激等嗅覚や触覚による情報を得る必要もあることが想定されることから、原則として、事業場において産業医が実地で作業環境等を確認すること。ただし、労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置について取りまとめられた報告書等を確認する等により、事業場において産業医が実地での作業環境等の確認は不要であると判断した場合には、この限りではない。
オ 定期巡視(安衛則第15条関係)
産業医の定期巡視については、少なくとも毎月1回(安衛則第15条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回)、産業医が実地で実施する必要があること。定期巡視においては、作業場等を巡視し、労働者にとって好ましくない作業環境や作業内容等を把握するとともに、健康診断や健康相談だけからでは得られない労働者の健康に関する情報を得て、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、その場で労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じる必要があること。
カ 安全衛生委員会等への出席(法第17条、第18条及び第19条関係)
情報通信機器を用いてオンラインで開催される安全衛生委員会等へ出席する際には、「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」(令和2年8月27日付け基発0827第1号)に基づく必要があること。
(4) 情報通信機器を用いて遠隔で行う産業医の職務に関する事業者の留意事項
産業医は、産業医学の専門的立場から、独立性及び中立性をもってその職務を行うことができるよう、健康管理等に必要な情報の提供を事業者に求めることができ、また、その職務を実施するために必要な権限が付与されている。産業医はこの趣旨を踏まえ、情報通信機器を用いて遠隔で実施することが適当でないと認める職務については、実地で現場を確認するとともに、情報通信機器を用いて遠隔で産業医の職務を実施する場合においても、労働者一人ひとりの健康を確保するために必要と認めるときは、事業者に対して、健康管理等に必要な情報を提供するよう求める等、必要な対応を行うことが重要であること。
事業者は、これらを踏まえ、産業医が効果的な活動が行えるよう、配慮すること。
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