採血による末梢神経障害
・採血時または採血後に採血部位の近くに存在する神経の支配領域に疼痛、感覚異常、運動機能異常などの神経損傷による症状が出現するもの。
・症状は数日の経過で消失する痛みやしびれから、数年に渡り持続する痛みやしびれ・運動障害まで、重症度は様々。中には、日常生活に支障を来すほどの障害が残る場合もある。
・頻度は報告によりばらつきが大きいため、正確な頻度は不明でだが、採血時に針先が誤って神経に触れて生じる「神経障害性疼痛」の頻度は約3万(または1万から10万回の穿刺)に1回起こるとされ、本当に難治性の「複合性局所疼痛症候群」は約150万回に1回といわれている。
症状
・採血で針がすっと入ったその瞬間に、患者さんが「痛い」とか「手に響いた」というような強い痛みを訴える
(その場合、神経に針先が触れた可能性があるので、速やかに針を抜く。神経に触れた場合は、抜いた後も痛みが続いてしまう)。
・穿刺した局所所見はが乏しい(発赤や腫脹がない)にも関わらず、患者が過剰に痛みを訴え続ける場合は神経障害が疑われる。
・血管穿刺部位あるいはより末梢側の皮膚の感覚異常(感覚低下、敏感あるいは異常知)を認める
・運動麻痺はよほど重症でないかぎり出現しない。ただし「痛くて手が握れない」とか、一時的に「痛くていろいろな動作ができなくなる」場合はあり、注意深い診察が必要。
安全な穿刺部位
・一般に肘窩部に表在する静脈を選択。
優先度は
① 正中皮静脈
② 撓側皮静脈
・肘窩部では尺側皮静脈は選ばないこと
(尺側には動脈や正中神経の本幹が走行しているため、絶対に避けるべこと)
・肘窩部の採血では、橈側皮静脈(肘窩部の親指側)が最も安全。
・穿刺に適した静脈は「橈側正中皮静脈」「肘正中皮静脈」である(この部位では深部まで針を刺さなければ太い神経を傷つける危険性は低い)。
・肘窩部内側(尺側)の尺側皮静脈は、尺側正中皮静脈は駆血時に見えやすいためつい選んでしまいたくなる部位であるが、正中神経の本幹が近傍に走っているため、絶対に避けるべきである。
・正中神経と上腕動脈というのは並行して走行していることから、上腕動脈を探して、それよりも尺側側はできるだけ刺さないということも目安になる。
・手関節部の橈側にある「前腕橈側皮静脈」も見えやすいため留置針を刺したくなるが、できれば避ける(手関節から近位5cmないし遠位2cmの範囲に橈骨神経浅枝が密に分布しているため)。
・肘窩部で採血できない場合は、前腕または手背の静脈を穿刺しましょう。
・また血管を選択する際に「普段どの血管で採血していますか?」と聞くのも効果的である。
避けるべき穿刺部位
・尺側皮静脈は付近を比較的太い神経が走行しているため、穿刺を避けること(正中神経は正中ではなく、かなり肘部の内側を走行しているため)。
・手関節部の橈骨皮静脈は、橈骨神経浅枝が近く、正しく穿刺しても神経損傷を来す可能性があるため、穿刺を避けましょう。
穿刺方法
・可能であれば、非利き手から穿刺部位を選ぶ
・採血針穿刺の角度は、皮膚に対して15~30度。
・採血が不成功の場合は、他の実施者に交代することも大切(2回やってだめなら交代を)。
・穿刺に伴う電撃痛やしびれの有無を必ず確認し、訴えがあれば直ちに抜針すること。
・止血を確実に行う。
患者さんへの説明
・採血中の異常な痛みを我慢しないよう説明する
・採血後に少しでも違和感や感覚の異常があれば、すぐに来院するよう伝えること。
神経損傷が発生した場合の対応
初期対応
・初期対応として一番大事なことは、患者が「痛い」と言った場合、まずは痛みの辛さを受け入れる、すなわち、患者の声にしっかり耳を傾けるということが重要。
・「そんなはずはない」「局所が腫れてないから平気だろう」とか、推測で「しばらくしたら治りますよ」などの根拠がないままでその場を取り繕ってしまうことは逆効果で、患者の不信感、怒りを買ってしまう危険性があるため避けること。
・侵襲的な行為をやったときに、少しでも「あっ、痛い」「辛い」と言われたときは、まずは瞬間的には「ごめんなさい」という言葉を一つ発すること。
・そして改めて、「じゃあもう一回気をつけてやるからね」という一言を添えて、常に信頼関係を維持しながらやっていくことが非常に重要である。
・患者の痛みを聞いて、局所所見を詳細に記載しておくことが非常に重要
治療
・治療としてはペインクリニックや整形外科で疼痛コントロールや理学療法、手術療法を行う
・採血時及び後日であっても異常な痛みや痺れ、知覚異常があれば、ペインクリニックや神経内科、整形外科へ紹介し、受診して頂く。
・ビタミンB12製剤、プレガバリン
・神経損傷の症状が強くて難治性の場合には、星状神経節ブロックや持続硬膜外ブロックを施行するケースもある。
・この他にも採血の合併症には、血管迷走神経反応(VVR)、止血困難、皮下血腫、アレルギー、過敏症などがあります。患者さんの様子を観察しながら実施し、リスクを低減させましょう。
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