生物学的モニタリング
「生物学的モニタリング」とは:
生物学的モニタリングとは:
有害物が体内に取り込まれると、代謝(化学変化)によって他の化学物質に変化して、血液によって体内に循環するが、最終的にほとんどは尿などに含まれて排泄される。そのため、血液中や尿中の代謝物の量と、体内に摂取された有害物の量(ばく露量)の間の相関関係が明らかな場合は、排泄された化学物質の量を調べることにより、ばく露量(さらには体内に蓄積された有害物の量)を推定することができる。このような方法で、有害物へのばく露の程度を把握する手法を生物学的モニタリングという。
なお、生物学的モニタリングは、作業者の血液、尿などに含まれる化学物質の代謝物等を分析し、その値によってばく露量の程度を評価することなので、作業者が健康かどうか直接評価するものではない。
解説
・有機溶剤、金属化合物などの有害物にばく露すると、吸入、経口、経皮を介して体内に取り込まれ、体内で化学的な変化(代謝)を受けて、血液やリンパ管系など介して尿、便などから排泄され、または、排泄されず一部は体内に蓄積されることもあります。
・作業者の尿、血液等の生体試料中の有害物の濃度、その有害物の代謝物の濃度、または、予防すべき影響の発生を予測・警告できるような影響の大きさを測定することを生物学的モニタリングといいます。
・特殊健康診断においては有機溶剤8物質、金属1物質についてその検査が義務付けられています。
トルエン→ 尿中馬尿酸
キシレン→ 尿中メチル馬尿酸
スチレン →「尿中のマンデル酸及び尿中フェニルグリオキシル酸」の総量の測定
テトラクロロエチレン→ 尿中トリクロロ酢酸又は総三塩化物
1.1.1-トリクロロエタン→尿中トリクロロ酢酸又は総三塩化物
トリクロロエチレン→尿中トリクロロ酢酸又は総三塩化物
N.N-ジメチルホルムアミド→ 尿中N-メチルホルムアミド
ノルマルヘキサン→尿中2,5-ヘキサンジオン
鉛 →血液中鉛、赤血球中プロトポルフィリン、尿中デルタアミノレブリン酸
生物学的モニタリングの注意点
・生物学的モニタリングは、作業者の血液、尿などに含まれる化学物質の代謝物等を分析し、その値によってばく露量の程度を評価することなので、作業者が健康かどうか直接評価するものではありません。
・有機溶剤の生物学的半減期は数時間程度と短いので、有機溶剤等健康診断における尿中の代謝物の量の検査のための採尿の時刻は、厳重に管理する必要がある。また健診をいつ行ったかによって結果が変わり得ることについて留意する必要がある。
・ある種の柑橘類などでもばく露指標が現れることがあるので、ばく露指標が現れたからと言って、必ずしもばく露の証拠となるわけではないことについて留意する必要がある。
・生物学的モニタリングの結果は、あくまでもそれぞれの労働者が日常業務でどの程度の値を示すかを知るのが目的であって、正常、異常の鑑別を目的とするものではない(ばく露の証拠があっても有所見者には該当しない)。
・対象者が外国人の場合にはその結果の評価につき、一定の留意が必要である。例えば、トルエンのばく露量とばく露指標の関係は民族によって異なることが知られている。
尿中代謝物検査の分布
・尿中代謝物検査の分布は、数値を「正常」や「異常」で判断するのではなく、分布1、分布2、分布3という区分で表されます。
・分布1は低い方、分布2はその中間、分布3は高い方という考え方です。
・分布3の状態を長期間続けていると健康影響の危険性が高くなる可能性があるため、当該物質の影響に関する検査が必要となります。
尿中の代謝物等
・トルエン→尿中馬尿酸
・キシレン→尿中メチル馬尿酸
・スチレン→尿中マンデル酸、尿中フェニルグリオキシル酸
・ノルマルヘキサン(2類)→尿中2,5ヘキサンジオン
・N,N-ジメチルホルムアルデヒド→尿中N-メチルホルムアルデヒド
・1,1,1‐トリクロロエタン→尿中トリクロロ酢酸または総三塩化物
・テトラクロロエチレン→尿中トリクロル酢酸または総三塩化物
テトラクロロエチレン:
↓
トリクロロ酢酸:
・エチルベンゼン→尿中マンデル酸
・鉛→血液中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸
BEI(Biological Exposure Indices:生物学的ばく露指標)
BEI(Biological Exposure Indices:生物学的ばく露指標)とは
・米国ACGIH(アメリカ産業衛生専門家会議)が勧告している生物学的ばく露指標である。
・許容濃度レベルの有害物質にばく露された場合に、生物学的モニタリングにおいて生体試料内に検出されると推定される測定対象の濃度である。
・生物学的モニタリング値がBEI以下であれば、ばく露量が許容濃度以下であると考えられる。
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