高気圧障害とは
高気圧障害とは:
高気圧障害とは、高気圧環境にばく露することによる障害であり、厚生労働省の定義は「減圧症」「酸素中毒」及び「窒素酔い」等とされている(高気圧作業安全衛生規則)。
減圧症
減圧症とは:
・減圧症とは、潜函作業や潜水作業などの高気圧環境から常圧環境へ戻る際に,血液中に窒素ガスの気泡が生じ,気泡塞栓や組織圧迫によって起きる障害をいいます。
・高圧下で生体組織内に溶解していた窒素が急速な減圧によって気泡を形成し,組織の圧迫や血流障害を生じるのみでなく、凝固系や補体系の活性化、種々の液性因子の放出により、さまざまな症状や臓器障害を呈します。
・減圧症はその症状により,比較的軽症なⅠ型減圧症と、重症なⅡ型減圧症に分類される。
・Ⅰ型には,皮膚の掻痒,疼痛,発疹を呈する「皮膚型」と、四肢の関節・筋肉痛などの「筋肉関節型減圧症」(ベンズ, bends)が含まれます。
・Ⅱ型はより重症で、前胸部痛や呼吸困難、ショックなどを呈する「呼吸循環器型減圧症」(チョークス, chokes)、重篤な運動麻痺や感覚障害などの「中枢神経型」、めまいや嘔気などの「内耳前庭型」などが含まれます。
・治療は高気圧酸素療法が主体となる。
・掻痒や軽度の疼痛から、神経障害や呼吸循環不全、死に至るまで重症度も様々である。
・減圧症の初期症状として、かゆみ、痛み、発疹などの皮膚障害が生じることがある。
・肥満は、減圧症の危険因子である。
減圧症の分類
減圧症は障害される組織、重症度により、比較的軽症な「Ⅰ型減圧症」と重症な「Ⅱ型減圧症」の2つに分類される。
I型:軽症例(局所性)
Ⅰ型には,皮膚の掻痒,疼痛,発疹を呈する「皮膚型」と、四肢の関節・筋肉痛などの「筋肉関節型減圧症」(ベンズ, bends)が含まれます
皮膚型:
皮膚の掻痒、疼痛、発疹、発赤を呈する
筋肉関節型減圧症(ベンズ, bends):
四肢の関節・筋肉痛、運動機能障害
II型:重症例(全身性)
Ⅱ型はより重症で、前胸部痛や呼吸困難、ショックなどを呈する「呼吸循環器型減圧症」(チョークス, chokes)、重篤な運動麻痺や感覚障害などの「中枢神経型」、めまいや嘔気などの「内耳前庭型」などが含まれます。
呼吸循環器型減圧症(チョークス; chokes):
チョークスとは、肺の血管に気泡塞栓が生じることにより肺に表れる症状で、前胸部痛や呼吸困難,ショックなどを呈する。
中枢神経型(CNS):
知覚障害、運動障害、膀胱直腸障害、メニエール症侯群、失語症又は症侯性精神病等
内耳前庭型:
めまい、嘔気など
治療
・減圧症が疑われたとき、とりわけ意識障害や運動麻痺があるときは、直ちに高流量(1分当たり10~15リットル以上) 100 %酸素投与を開始する。
・これにより肺と体循環の間の窒素分圧較差が拡がり、塞栓した窒素気泡の再吸収が加速する。
減圧症の予防
旧高圧則では、呼吸に使用する気体を空気と想定し、単一の減圧表に基づき、減圧停止時間などを確認し、減圧管理を行っていましたが、今回の改正では、空気以外の混合ガスにも対応するため、旧高圧則別表の減圧表を廃止し、代わりに減圧停止時間を求める計算式を導入しました。
具体的には、ある区間ごとに、その区間の不活性ガス(窒素とヘリウム)の分圧を計算式によって求め、その値がその区間で人体が許容できる最大の不活性分圧を超えないように、減圧停止圧力や減圧停止時間を事業者が自ら設定します。
・一般には浮上後 18 時間、できれば 24 時間は飛行機に搭乗しないことが推奨されている
・肥満は減圧症のリスクになる。脂肪は窒素が溶け込みやすいので、体内の脂肪分が多いと減圧時に窒素の気泡がより多く形成されやすくなり、減圧症のリスクが高まると考えられている。
酸素中毒
・通常よりも酸素濃度が高い、もしくは酸素分圧が高いガスを呼吸することにより引き起こされる中毒症状で、肺型酸素中毒と中枢神経型酸素中毒がある。
・肺型酸素中毒の症状としては、胸部の痛み、呼吸困難を生ずる。
・中枢神経型酸素中毒の症状としては、全身の痙攣や意識障害が生ずる。
・慢性の酸素中毒(肺酸素中毒)の主な症状は肺の障害で、胸部違和感、咳・痰、肺活量の減少などが生じる。
酸素ばく露量の算出
・酸素ばく露量の算出の際は、UPTD(肺酸素毒性量単位)をその単位として用いる。
Unit Pulmonary Toxic Dose (UPTD:肺酸素毒性量単位)
定義:
1気圧で100%の酸素を1分間呼吸すること により生ずる肺毒性の度合。
高分圧酸素による肺機能障害として、肺活量の減少を指標にした毒性単位
窒素酔い
・加圧により身体に溶け込んだ窒素が多くなることにより引き起こされる麻酔作用を「窒素酔い」という。
・人が陸上(大気圧下)で吸っている空気のおよそ80%は窒素である。窒素は大気圧下では身体に何の作用も及ぼさない。
しかし水中では大気圧の他に水圧がかかります。水圧は水深が10m増すごとに1気圧ずつ増えていき、水深10mでは大気圧1+水圧1=2気圧、水深20mでは大気圧1+水圧2=3気圧となる。この大気圧と水圧の合計を「環境圧」といいます。
・ダイビング中に呼吸する空気は、環境圧と同じ圧力になっている。そのため、水深が深くなるほど(環境圧が高くなるほど)、空気中の窒素の圧力も高くなる。
・水深25m~30m(環境圧3.5気圧~4気圧)あたりから窒素酔いの症状が出る可能性があるといわれている。
・窒素酔いを避けるため、ヘリウムと酸素を混合したガスや、アルゴンと酸素を混合したガスが用いられることがある。すなわち、ヘリウムやアルゴンは不活性ガスであり、それほど分圧を下げる必要はない。
・窒素酔いそのものはそれほど危険なものではないが、軽い躁状態となり、危機感が薄れるので、事故の原因となり得る。
スクイーズ(締め付け現象)
・スクイーズ(締め付け現象)とは、体内に圧力が不均衡に加わることによって発生する障害をいう。
・急速に身体に加圧すると、どうしても体内の圧力が均一に上がるのではなく、不均衡に上がる。
・中耳腔では、耳の鼓膜の内外に圧力差を生じると耳が痛くなる。副鼻腔では、鼻腔と副鼻腔の圧力差によって前額部に疼痛が生じる。
高圧室内業務と潜水業務に共通する課題
・水深40mを超える潜水作業では、ヘリウム混合ガスを呼吸ガスとする。
高気圧業務健康診断
高気圧業務健康診断:
高気圧作業安全衛生規則により、事業者が高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者に対し、当該業務についた後6か月以内ごとに1回、定期に高気圧業務健康診断を行わなければならない。
高気圧業務健康診断の項目:
一 既往歴及び高気圧業務歴の調査
二 関節、腰若しくは下肢の痛み、耳鳴り等の自覚症状又は他覚症状の有無の検査
三 四肢の運動機能の検査
四 鼓膜及び聴力の検査
五 血圧の測定並びに尿中の糖及び蛋白の有無の検査
六 肺活量の測定
高気圧作業による健康障害予防
作業環境管理
・気こう室において高圧室内作業者に加圧を行うときは、毎分0.08MPa以下の速度で行わなければならない。
・酸素、窒素又は炭酸ガスによる高圧室内作業者の健康障害を防止するため、作業室及び気こう室における気体の分圧がそれぞれ当該各号に定める分圧の範囲に収まるように、作業室又は気こう室への送気、換気その他の必要な措置を講じなければならない。
酸素:18キロパスカル以上160キロパスカル以下
(気閘室において高圧室内作業者に減圧を行う場合にあつては、18キロパスカル以上220キロパスカル以下)
窒素:400キロパスカル以下
炭酸ガス:0.5キロパスカル以下
・空気圧縮機又は手押ポンプにより潜水作業者に送気するときは、潜水作業者ごとに、その水深の圧力下における送気量を、原則として毎分60リツトル以上としなければならない。
・気閘室の床面の照度を20ルクス以上とすること。
作業管理
・事業者は、潜水業務を行うとき、高圧潜水作業計画を策定し、その計画に基づいて作業を行うとともに、計画を労働者に周知しなければならない。
・気閘室内の温度が10度以下である場合には、高圧室内作業者に毛布その他の適当な保温用具を使用させること。
・減圧に要する時間が1時間を超える場合には、高圧室内作業者に椅子その他の休息用具を使用させること。
・労働者を作業室において高圧室内業務に従事させるときは、作業室の気積を、現に当該作業室において高圧室内業務に従事している労働者一人について、4立方メートル以上としなければならない。
・高圧室内作業については、高圧室内作業主任者免許を受けた者のうちから、作業室ごとに、高圧室内作業主任者を選任しなければならない。
・高圧作業の減圧を終了した時から14時間以内は、重激な業務(重労働、体力を使う作業、高温環境での作業など)に従事させてはならない
健康管理
・高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び当該業務についた後6月以内ごとに1回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行なわなければならない。
既往歴及び高気圧業務歴の調査
関節、腰若しくは下肢の痛み、耳鳴り等の自覚症状又は他覚症状の有無の検査
四肢の運動機能の検査
鼓膜及び聴力の検査
血圧の測定並びに尿中の糖及び蛋白の有無の検査
肺活量の測定
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