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抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inapropriate antidiuresis)

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ADH(抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone) =バソプレッシン(アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)

・「ADH(抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone)」は「バソプレッシン(アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)」と同義である

・視床下部の視索上核・室傍核で合成され下垂体後葉に運ばれ循環血漿中に分泌される。

・血管を収縮させて血圧を上昇させる作用に加え、腎集合尿細管のV2受容体に結合し、細胞内におけるcAMP濃度を上昇させ、アクアポリン2水チャネルを発現・増加させることで水再吸収を亢進させる作用をもつ。そのため「抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone: ADH)」と呼ばれ、その過剰分泌によって、希釈性の低ナトリウム血症が起こる。
・ADHの分泌は血漿浸透圧の上昇(すなわち、水分の減少=循環血液量の減少)および血圧の低下により促進され、その逆では抑制される。

・「抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)」とは、血漿浸透圧が低下しているにもかかわらずADHの分泌が不適切に多いか、あるいは腎臓のADHに対する感受性が高まっているために起こる。

・単独の病気として起こることは基本的になく、別の疾患の合併症あるいは部分症状として発症する。

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SIAD(syndrome of inapropriate antidiuresis)とは

・SIADは、血漿浸透圧が低下しているにもかかわらずADHの分泌が不適切に多いか、あるいは腎臓のADHに対する感受性が高まっているために起こる。
・単独の病気として起こることは基本的になく、別の疾患の合併症あるいは部分症状として発症する。 

・基本は除外診断

 

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原因

中枢性
髄膜炎、脳炎、脳卒中(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞)、脳腫瘍、ギランバレー症候群等
悪性腫瘍(ADHの異所性分泌)
肺小細胞癌、鼻咽頭癌、膵臓癌、胃癌、大腸癌、悪性リンパ腫
薬剤
・三環系抗うつ薬
・SSRI(セルトラリン(ジェイゾロフト®)
・SNRI(デュロキセチン(サインバルタ®))
・ハロペリドール
・キノロン
・オメプラゾール(PPI)
・ビンクリスチン
・カルバマゼピン
・クロフィブラート
肺疾患
・肺癌(特に小細胞癌)
・肺炎
・肺結核
・肺膿瘍
・無気肺
・気胸
・人工呼吸器
・肺アスペルギルス症
・気管支喘息等
特発性

 

その他

手術、低栄養

病態

・ADHの過剰分泌、ないしは過剰作用によって腎臓における水の再吸収が亢進し、循環血液量(正確には細胞外液量)が増加する。
・その結果、RAA系は抑制されてNa排泄が持続(尿中Na濃度>20mEq/L)血漿よりも高い浸透圧尿(尿浸透圧≧100mOsm/kg)を排泄するため、血液が希釈され低ナトリウム血症を来たす。
・一方で、循環血液量の増加はナトリウムの排泄を増加させるため(糸球体濾過量の増加や、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌が亢進することによる)、低ナトリウム血症はさらに進行する。
・循環血液量の増加に伴って尿量は増加するため、尿量の減少(乏尿)は目立たない。浮腫となることも通常はない、あるいは基礎疾患に伴う浮腫のためにSIADによる浮腫として認識されない。
・低Na血症での意識障害や痙攣などの神経症状で発現する場合が多い。
・実際には、別の目的で行われた血液検査によって偶然に低ナトリウム血症が発見されることからSIADが診断されることが多い。
・生理食塩水を負荷してもあまりNaが上昇しない場合(生理食塩水負荷 2000mL/2日間でも血清Na上昇<5mEq/L)の時、SIADを積極的に疑う

診断基準

バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断の手引き(2011年3月31日改訂)

Ⅰ.主症候

1.脱水の所見を認めない。

2.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。

Ⅱ.検査所見

1.低ナトリウム血症:血清ナトリウム濃度<135 mEq/L
2.血漿ADH値:血清ナトリウム濃度が135 mEq/L未満で、血漿ADHが測定感度以上である。
3.低浸透圧血症:血漿浸透圧<280 mOsm/kg
4.高張尿:尿浸透圧>300 mOsm/kg
5.ナトリウム利尿の持続:尿中ナトリウム濃度>20 mEq/L以上である。
6.腎機能正常:血清クレアチニン≦1.2 mg/dl以下
7.副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血清コルチゾール≧6 μg/dl

Ⅲ.参考所見

1. 原疾患(表1)の診断が確定していることが診断上の参考となる。
2. 血漿レニン活性は5 ng/ml/h以下であることが多い。
3.血清尿酸値は5 mg/dl以下であることが多い。
4.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。

[診断基準]
確実例:Ⅰの1およびⅡの1~7を満たすも

 

・SIADHの特徴として、身体所見上、脱水・浮腫を認めないことが重要である。

・腎機能や副腎皮質機能は正常に保持され、尿の濃縮力も保持されるため、過剰なADHにきちんと反応し、高張尿となる。

・また、循環血漿量の増加を反映し、血漿レニン活性は5 ng/mL/時 以下、血清尿酸値は5 mg/dL以下となる。

・低血漿浸透圧であるにもかかわらずADH分泌が抑制されないことから“inappropriate(不適合な)”とされる。

・異所性ADH産生腫瘍の診断には、原発巣あるいは転移巣を含めて、いずれかの組織内でADH産生を証明することが必要である。

 

SIADの診断に必要な検査

血清ナトリウム濃度(s-Na)

尿中ナトリウム濃度(u-Na)

血漿浸透圧(s-Osmo)

尿浸透圧(u-Osmo)

ADH

クレアチニン(Cr)

アルドステロン濃度(PAC)

レニン活性(PRA)

ACTH

コルチゾール

尿酸

鑑別のため:

総蛋白、アルブミン、脂質、血糖、肝酵素、尿素窒素(BUN)、Cr、カリウム

free T4、甲状腺ホルモン(TSH)

脳性利尿ペプチド(BNP)

 

※ADHの検査結果が出るまでには日数がかかるので、他の疾患を除外したうえで、確定診断までは「SIADHの疑い」として対処することになる。

※なお、「PAC」「PRA」「ACTH」「コルチゾール」は30分以上安静臥床のうえで採血するのが原則である

 

鑑別診断

・低ナトリウム血症の鑑別では、まず身体診察から浮腫・脱水の有無を確認する。
・浮腫があれば細胞外液量増加と判断し、うっ血性心不全、肝硬変、腎不全にその原因を求めることとなる。
・次に、尿中ナトリウム濃度が鑑別診断の一助となる。
・低ナトリウム血症に対し、腎臓が正常に対応をしていれば、通常、尿中ナトリウム濃度は20 mEq/L未満になるので、そうであれば、摂取不足、嘔吐・下痢・火傷といった腎外性喪失か、心因性多飲症、輸液過剰を想定することになる。
・浮腫がなく、低ナトリウム血症にもかかわらず、尿中ナトリウム濃度が20 mEq/L以上であれば、何らかの原因で腎臓が正常な対応をできていないと考えながら鑑別を絞っていくことになる。
・副腎不全、鉱質コルチコイド作用不足、ナトリウム喪失性腎炎、利尿薬濫用、尿細管アシドーシス、浸透圧利尿では脱水を伴うことが多い。SIAD、甲状腺機能低下症、鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症では基本的に脱水を伴わない。
・脱水の有無は、身体所見と検査所見から判断する。

 

治療

原因除去

・SIADHの根本的な治療は、原疾患の治療による原因の除去である。

・しかしながら、異所性ADH産生腫瘍の多くは悪性腫瘍であり、腫瘍による迷走神経の障害、大静脈の圧迫も含め、SIADHを呈する時期には腫瘍の進展もかなり進んでいる場合が多い。このため、以下に述べる対症療法が中心となることが多い。

水分制限、塩分制限

塩分経口摂取:3~12g/日

水分制限15~20ml/㎏/日※重症例

 

トルバプタン投与

 

 

3%高張食塩水によるNa補正

・血清ナトリウム濃度が120 mEq/L以下の著明な低ナトリウム血症で、痙攣や意識障害などの中枢神経障害を伴う場合には、速やかな補正が必要となる。

・高張食塩水の輸液とフロセミド10-20 mgの随時投与が行われる。

・3%高張食塩水を経静脈的にゆっくりと投与する。

・浸透圧性脱随症候群予防のため、血清Naの補正速度は

1時間あたり0.5 mEq/L

24時間で10 mEq/L以内に抑える(2日以上の慢性経過の場合は24時間で8 mEq/L以内)

・血清ナトリウム濃度を数日かけて125 mEq/L以上に増加させることを目標とする。

 

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