ADH(抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone) =バソプレッシン(アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)
・「ADH(抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone)」は「バソプレッシン(アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)」と同義である
・視床下部の視索上核・室傍核で合成され下垂体後葉に運ばれ循環血漿中に分泌される。
・血管を収縮させて血圧を上昇させる作用に加え、腎集合尿細管のV2受容体に結合し、細胞内におけるcAMP濃度を上昇させ、アクアポリン2水チャネルを発現・増加させることで水再吸収を亢進させる作用をもつ。そのため「抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone: ADH)」と呼ばれ、その過剰分泌によって、希釈性の低ナトリウム血症が起こる。
・ADHの分泌は血漿浸透圧の上昇(すなわち、水分の減少=循環血液量の減少)および血圧の低下により促進され、その逆では抑制される。
・「抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)」とは、血漿浸透圧が低下しているにもかかわらずADHの分泌が不適切に多いか、あるいは腎臓のADHに対する感受性が高まっているために起こる。
・単独の病気として起こることは基本的になく、別の疾患の合併症あるいは部分症状として発症する。
SIAD(syndrome of inapropriate antidiuresis)とは
・SIADは、血漿浸透圧が低下しているにもかかわらずADHの分泌が不適切に多いか、あるいは腎臓のADHに対する感受性が高まっているために起こる。
・単独の病気として起こることは基本的になく、別の疾患の合併症あるいは部分症状として発症する。
・基本は除外診断
原因
中枢性
悪性腫瘍(ADHの異所性分泌)
薬剤
肺疾患
特発性
その他
手術、低栄養
病態
診断基準
バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断の手引き(2011年3月31日改訂)
Ⅰ.主症候
1.脱水の所見を認めない。
2.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。
Ⅱ.検査所見
1.低ナトリウム血症:血清ナトリウム濃度<135 mEq/L
2.血漿ADH値:血清ナトリウム濃度が135 mEq/L未満で、血漿ADHが測定感度以上である。
3.低浸透圧血症:血漿浸透圧<280 mOsm/kg
4.高張尿:尿浸透圧>300 mOsm/kg
5.ナトリウム利尿の持続:尿中ナトリウム濃度>20 mEq/L以上である。
6.腎機能正常:血清クレアチニン≦1.2 mg/dl以下
7.副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血清コルチゾール≧6 μg/dl
Ⅲ.参考所見
1. 原疾患(表1)の診断が確定していることが診断上の参考となる。
2. 血漿レニン活性は5 ng/ml/h以下であることが多い。
3.血清尿酸値は5 mg/dl以下であることが多い。
4.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。
[診断基準]
確実例:Ⅰの1およびⅡの1~7を満たすも
・SIADHの特徴として、身体所見上、脱水・浮腫を認めないことが重要である。
・腎機能や副腎皮質機能は正常に保持され、尿の濃縮力も保持されるため、過剰なADHにきちんと反応し、高張尿となる。
・また、循環血漿量の増加を反映し、血漿レニン活性は5 ng/mL/時 以下、血清尿酸値は5 mg/dL以下となる。
・低血漿浸透圧であるにもかかわらずADH分泌が抑制されないことから“inappropriate(不適合な)”とされる。
・異所性ADH産生腫瘍の診断には、原発巣あるいは転移巣を含めて、いずれかの組織内でADH産生を証明することが必要である。
SIADの診断に必要な検査
血清ナトリウム濃度(s-Na)
尿中ナトリウム濃度(u-Na)
血漿浸透圧(s-Osmo)
尿浸透圧(u-Osmo)
ADH
クレアチニン(Cr)
アルドステロン濃度(PAC)
レニン活性(PRA)
ACTH
コルチゾール
尿酸
鑑別のため:
総蛋白、アルブミン、脂質、血糖、肝酵素、尿素窒素(BUN)、Cr、カリウム
free T4、甲状腺ホルモン(TSH)
脳性利尿ペプチド(BNP)
※ADHの検査結果が出るまでには日数がかかるので、他の疾患を除外したうえで、確定診断までは「SIADHの疑い」として対処することになる。
※なお、「PAC」「PRA」「ACTH」「コルチゾール」は30分以上安静臥床のうえで採血するのが原則である
鑑別診断
治療
原因除去
・SIADHの根本的な治療は、原疾患の治療による原因の除去である。
・しかしながら、異所性ADH産生腫瘍の多くは悪性腫瘍であり、腫瘍による迷走神経の障害、大静脈の圧迫も含め、SIADHを呈する時期には腫瘍の進展もかなり進んでいる場合が多い。このため、以下に述べる対症療法が中心となることが多い。
水分制限、塩分制限
塩分経口摂取:3~12g/日
水分制限15~20ml/㎏/日※重症例
トルバプタン投与
3%高張食塩水によるNa補正
・血清ナトリウム濃度が120 mEq/L以下の著明な低ナトリウム血症で、痙攣や意識障害などの中枢神経障害を伴う場合には、速やかな補正が必要となる。
・高張食塩水の輸液とフロセミド10-20 mgの随時投与が行われる。
・3%高張食塩水を経静脈的にゆっくりと投与する。
・浸透圧性脱随症候群予防のため、血清Naの補正速度は
1時間あたり0.5 mEq/L
24時間で10 mEq/L以内に抑える(2日以上の慢性経過の場合は24時間で8 mEq/L以内)
・血清ナトリウム濃度を数日かけて125 mEq/L以上に増加させることを目標とする。
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