非代償期心不全(急性心不全)の臨床所見とその割合
・水疱音(coarse crackles)(71.2%)
・末梢浮腫(66.9%)
・起坐呼吸(63.3%)
・左室駆出率<40%(53.4%)
・発作性夜間呼吸困難(53.0%)
・頚静脈怒張(52.9%)
・Ⅲ音(36.1%)
左室内腔の拡大により、左室壁の伸縮性が低下しているために、左房から左室に血液が流れて壁にぶつかるときの衝撃音として、Ⅲ音が発生する。
心尖部で聴かれ、Ⅲ音は馬が駆けているような3拍子になっているため、奔馬調音(ほんばちょうおん)といい、ギャロップ音とも呼ばれる。
正常『ドッ、クン』 Ⅲ音『ドッ、ド、クン』
・心房細動(36.0%)
・四肢冷感(23.0%)
Framinghamうっ血性心不全診断基準
「大症状2つ」か、「大症状1つおよび小症状2つ以上」を心不全と診断する。
[大項目]
・発作性夜間呼吸困難または起座呼吸
・頸静脈怒張
・肺ラ音
・心拡大
・急性肺水腫
・Ⅲ音(拡張早期性ギャロップ)
・静脈圧上昇(16cmH2O以上)
・循環時間延長(25秒以上)
※血管が心臓から出て心臓に戻ってくるまでの時間。(正常値15秒~20秒)
現在は測定されることは少ない。
・肝頸静脈逆流
[小項目]
・下腿浮腫
・夜間咳嗽
・労作性呼吸困難
・肝腫大
・胸水貯留
・肺活量減少(最大量の1/3以下)
・頻脈(120/分以上)
[大項目あるいは小項目]
・5日間の治療に反応して4.5kg以上の体重減少があった場合、それが心不全治療による効果ならば大項目1つ、それ以外の治療ならば小項目1つとみなす。
心不全の国際定義(universal definition)
参照:https://www.onlinejcf.com/article/S1071-9164%2821%2900050-6/fulltext
・日本心不全学会(JHFS)、米国心不全学会(HFSA)、欧州心臓病学会傘下の心不全学会(HFA-ESC)3学会が合同で策定した心不全の国際定義
・これまで心不全には国際的に統一された定義がなかったことを受けて、「臨床的に意義があり、シンプルだが概念としては包括的な定義」を策定した
構造的および/または機能的な心臓の異常によって引き起こされる心不全の症状および/または徴候
・LVEF<50
・心房、心室の拡大
・E/e’>15
・中等度以上の心肥大
・中等度以上の弁膜症
↓
少なくとも以下の一つによって裏付け
・ナトリウム利尿ペプチドレベルの上昇
あるいは
・心原生の肺または全身性うっ血の客観的エビデンス
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:Brain Natriuretic Peptide)
・BNPとは「脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide)」の略称で、心室で生成され分泌されるホルモンである
・うっ血が起こった際に、血管拡張させたり、利尿作用によりうっ血を解消させる。また交感神経やレニン・アルドステロン系の抑制、心肥大の抑制など、心筋を保護する働きも担っており、心不全で分泌される。
・心臓に対しての負荷が増加したり、心筋が肥厚するとBNP量が増加するので、血液中BNP濃度を測ることで心不全の指標として使用できる。
BNPとNT-proBNP
・「proBNP(BNP前駆体)」が分解して「NT-proBNP」(生理活性なし)と「BNP」(生理活性あり)になる
・NT-proBNPは血清で測定でき、他の生化学項目と同一採血管で測定できるので、患者負担が軽減できる。
・ほとんど腎排泄のため、腎機能障害では上昇する。
・その他、加齢でも上昇する
BNP,NT-proBNP値の心不全診断へのカットオフ値 (日本心不全学会ステートメント 2023年)
・カットオフ値:BNP35pg/mL(NT-proBNP 125 )
→ 前心不全-心不全の可能性がある
→ 心不全診断や循環器専門医への紹介基準
・換算式
NT-proBNP300pg/mL=BNP値が100pg/mLとなった
心不全胸部X線所見
・cephalization(角出し像):上肺野の血管陰影増強
・Kerley B line:下肺野外側面にみられる水平線
・peribronchial cuffingサイン:
上葉前区(3b)では,肺動脈(A3b)と気管支(B3b)が前方に向かうため,正面像で接線方向に認められる。通常,肺動脈(A3b)と気管支(B3b)は同じ太さであるが,血流が増加すると血管(A3
b)が太くなり,気管支周辺の浮腫は気管支(B3b)の壁を厚くし,しかも輪郭をぼけさせる
重症度分類
① NYHA分類(New York Heart Association)
・NYHA心 機 能 分 類 と は 、ニューヨーク 心 臓 協 会(New York Heart Association)が作成し,身体活動による自覚症状の程度により心疾患の重症度を分類したもので,心不全における重症度分類として広く用いられている.
・Ⅰ~Ⅳ度に分類される
・II度はさらにII s度(slight limitation of physical activity:身体活動に軽度制限のある場合)、II m度(moderate limitation of Physical activity:身体活動に中等度制限のある場合)に分類される.
(Yancy CW, et al. 2013 7)より改変)
ClassⅠ
心疾患はあるが身体活動に制限はない.
日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じない.
Class II
軽度ないし中等度の身体活動の制限がある.
安静時には無症状.
日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
Class III(→在宅酸素療法の適応)
高度な身体活動の制限がある.
安静時には無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる.
Class IV
心疾患のためいかなる身体活動も制限される.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する.
わずかな労作でこれらの症状は増悪する
② 心不全stage(アメリカ心臓病学会:AHA)
心不全の病期をステージA、B、C、Dと分類
ステージA:
ステージB:
ステージC:
ステージD:
構造的異常があり、十分な薬物治療をおこなっても安静時の症状がある状態
Nohria-Stevenson分類
・身体診察による心不全の病態分類の1つ
・うっ血所見(後方障害)と低灌流所見(前方障害)の有無を身体所見から判断し、心不全の病態を4つに分類。
・Swan-GanzカテーテルによるForrester分類と同じではないが、非侵襲的に心不全の病態を分類できるため、臨床の場において有用である。
(Forrester分類は急性心筋梗塞による心不全を対象とした分類であり、Nohriaはあらゆる疾患による心不全(代償された心不全も含め)に対応できる)
・「うっ血所見(dry、wet)」と「組織低灌流(warm、cold)」の組み合わせで4群に分類
参照(このサイトより引用):https://matsushita-er.blogspot.com/2018/02/proportional-pulse-pressure.html
・Profile Aは重症度としては軽症とされ、心臓移植を含む短期間での死亡例は、Profile BとCに多くみられる。
・Profile Lに分類されるケースは少なく、実臨床では拡張型心筋症などの終末期で認められることが多い病態である。
・血圧低下例(SBP<90㎜Hg)は予後不良。強心薬の持続点滴が必要
・呼吸困難が著しく起坐呼吸の場合は非侵襲的陽圧換気の適応
1)うっ血所見→ラシックス10~20㎎ボーラス投与
起坐呼吸
経静脈怒張
Ⅲ音聴取
Ⅱ音増強
浮腫
腹水
肺湿性ラ音
肝経静脈逆流
valsalva square wave
心エコー(推定肺動脈圧測定、下大静脈径測定、僧帽弁逆流増加、肺エコーで肺うっ血所見)
2)組織低灌流所見→生食または1号液を補液しつつ、強心薬(ドブタミン)投与
脈圧低下(正常値は40~60㎜Hg 、加齢により脈圧は増大)
交互脈
四肢冷感
傾眠傾向
鈍麻
ACE阻害薬に関連した体血圧低下
血清Na低下
腎機能増悪
尿量減少
チアノーゼ
クリニカルシナリオ(clinical scenario:CS)
CS1:急性心原性肺水腫(sBP>140㎜Hg)
・血圧上昇群(収縮期血圧>140mmHg)
・末梢血管の収縮による後負荷の増加が原因
・このシナリオでは通常症状は急激に進行する
・急性発症の呼吸困難、びまん性肺水腫の所見がある
・広範な肺うっ血による呼吸困難を呈するが、体液貯留所見(頚静脈怒張や下腿浮腫)は軽度のことが多い(→利尿剤のルーチン投与は不適切)
・血圧の上昇に伴う充満圧の急速な上昇が特徴であり、左室収縮は保たれていることが多い。
・volume central shift (末梢から心肺への循環血流のシフト)が起こっている状態
→治療の主体は
血管拡張薬(硝酸薬:硝酸イソソルビド、ニトログリセリン)
NPPV(前負荷軽減(静脈還流減少)、肺胞虚脱防止)
容量過負荷あれば利尿剤
CS2:全身性浮腫(100≦sBP≦140㎜Hg)
・血圧正常群(収縮期血圧100~140mmHg)
・このシナリオでは通常症状は徐々に体液が貯留し、体重増加を伴う。
・肺うっ血よりも全身浮腫が優位であり、慢性心不全の状態を呈する。
・腎機能障害、貧血、低アルブミン血症など種々の臓器障害を合併しする。
→治療は利尿薬、硝酸薬、NPPV考慮
CS3:低心拍出(sBp<100mmHg)
・血圧低値群(収縮期血圧<100mmHg)
・このシナリオでは低灌流の徴候が優位であり、肺うっ血、全身浮腫とも少ない。
・多くの患者は進行した終末期心不全の状態を呈する。
→強心薬(ドブタミン、PDE-Ⅲ阻害薬)や血管収縮薬による治療
CS4:急性冠症候群に伴う急性心不全
・急性冠症候群に伴う急性心不全群。
・急性冠症候群のエビデンスはすでに豊富であるため、他の原因による心不全から除外し、急性冠症候群に対する治療が求められる。
CS5:右心不全による急性心不全
・右室不全による急性心不全群
・右室梗塞、肺塞栓症などが原因
・三尖弁逆流を呈する。
・通常肺うっ血は認めず、左心系は低灌流を呈する。
・この病態による心不全は他の病態による心不全と管理が異なるため別のシナリオに分類されている。
→SBP>90mmHgで体液貯留があれば利尿薬、SBP<90mmHgであれば強心薬や血管収縮薬
急性心不全治療:症状改善のための「目に見える治療」
1)ループ利尿薬
・ループ利尿薬としてフロセミド(ラシックス®)、アゾセミド(ダイアート®)、トラセミド(ルプラック®)など
・ヘンレループ(Henle係締)上行脚膨大部尿細管腔側のNa-K-2Cl共輸送体(NKCC2)阻害によるNa再吸収抑制
・Na排泄作用が最も強く、主として浮腫性疾患や進行した腎機能障害例での体液量増加時に使用する
・短時間で利尿作用を発揮するため、治療を急ぐ病態では第一選択となる
・降圧効果はあまり強くない
・換算量:フロセミド錠40㎎=アゾセミド(ダイアート®)60㎎=トラセミド(ルプラック®)8㎎
① フロセミド(ラシックス)
・持続時間は6時間(lasting for six hours)
・心不全の際には腸管浮腫や腸管血流低下により吸収率が落ちるため、静注投与が望ましい。
・内服の吸収率は50%程度(静注から内服への切り替えの際は静注投与量の2倍量とする)
・経口:1回40~80mg 1日1回
・静注:20~120㎎ 1日1回
参照:1回の最大投与量(静注)
・健常者:40㎎
・急性心不全:40~80㎎
・ネフローゼ症候群:120㎎
・中等度腎不全(GFR 20~50):120㎎
・重症腎不全(GFR<20):200㎎
※投与間に尿量が少ない場合は最大6時間毎までに投与回数を増やす(最大1日4回まで)
※低アルブミン血症の場合:
20%アルブミン200ml+ラシックス60㎎混注
② アゾセミド(ダイアート®)
・長時間作用型
・高齢者では服薬アドヒアランス的に好まれ、長期予後にも有利との報告がある
1回60㎎ 1日1回
2) トルバプタン(サムスカ®)
・集合管のバゾプレッシン(V2)受容体拮抗薬
・純粋に水分のみを排泄する
・心不全に対してループ利尿薬を使用することで生じ津ことがあるworsening renal function(WRF)の頻度が少ない。
・ループ利尿薬耐性例に対して追加(他の利尿薬との併用が必須)
例)
トルバプタン(サムスカ®) 1回7.5~15㎎ 1日1回
(高齢者や低体重患者では3.75㎎から開始でも可)
3)サイアザイド系利尿薬
・トリクロルメチアジド(フルイトラン®)
・高血圧にも適応あり
・低Na血症を来すことがある
4)血管拡張薬
・硝酸薬、カルペリチド(ハンプ®)など
・末梢静脈拡張による前負荷の軽減(主な作用)、末梢動脈拡張による後負荷軽減(第2の作用)、冠血流増加による虚血の緩和(期待する作用)がある
① 硝酸薬
・硝酸イソソルビド(ニトロール®)
1μg / kg / 分で開始し、漸増のうえ3μg/kg/分前後で維持
・ニコランジル
・ニトログリセリン注
0.05~0.1g/kg/分(0.3~0.6mL/時)
② カリペプチド(ハンプ®)
・血管拡張作用とともに、軽度ながら利尿作用も併せ持つ
0.025~0.2μg/kg/分
4)強心薬
組織低灌流症状に対して使用:
・ドブタミン(DOB)(ドブトレックス®、ドブポン®)
ドブポン®注0.3%シリンジ(150 mg/50 ml/シリンジ)
体重50kgの場合:1γ=1mⅬ/時より開始。
0.5~1ml/時ずつ増減。最大10mⅬ/時まで。
・ミルリノン(ミルリーラ®) 0.1~0.75 μg / kg / 分
・ピモべンダン(ピモペンダン錠®) 1回1.25~2.5㎎ 1日1~2回
・ジゴキシン(ジゴシン®) 1回0.125~0.25 1日1回
うっ血性心不全患者における輸液
・有効動脈容量の低下により、腎における水分とNa再吸収が亢進している
・そのため、治療の基本は「輸液(飲水)制限と利尿剤投与」
必要水分量の計算:
[輸液や飲水量]+[代謝水(5mL/kg)]
=[尿量]+[汗・不感蒸泄(15mL/㎏)]+[便水分量(200mL)]
例)体重50kgの場合
[輸液や飲水量]+250mL=[尿量]+750mL+200mL
↓
[輸液や飲水量]=[尿量]+700mL
・恒常性維持のために必要な尿量は最低500mL/日、できれば1000mL/日とすると、
[輸液や飲水量]=1200~1700mL/日
・うっ血性心不全では、初期のマイナスバランスを500~1000mLとするため、
うっ血性心不全の必要水分量(輸液+飲水量)≒500~1000mL/日
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