妊娠可能女性の腹痛診療の原則
妊娠の確認
① 問診
・「妊娠の可能性はありますか?」ではなく、
「最終正常月経開始日」と、そこからの「性交渉歴」、「避妊方法」を確認
② 腹部エコー
・尿検査の前に実施すること
③ 尿検体での妊娠反応検査
・まずエコーをしてから尿採取
・妊娠5週頃から陽性になる
(尿中hCG値が25~50mIU/mlを超えると尿妊娠反応陽性になる
※血液による妊娠反応検査
・血中hCG測定をすることで、非常に初期の妊娠判定が可能(血中hCG値が5mIU/ml以上で着床があったと判断)
「妊娠0週0日」とは
・妊娠0週0日とは、最終月経の開始日に当たります。
・月経周期が28日型の人は、最終月経開始から約2週間後が排卵日です。 妊娠3週で受精卵が子宮内膜に着床(子宮内膜に入り込んで安定すること)し、妊娠が成立となります。
妊娠、分娩歴の表記法
・「〇妊〇産」と表現し、妊娠回数を「妊」、分娩(出産)回数を「産」の前に記載。
・または、「G〇P〇」と表現する。
Gは”Gravida”または”Gravidity”、Pは”Para”または”Parity”の略。
・「妊娠回数」には、現在の妊娠を含める。
・分娩回数は 妊娠満22週に達した後に娩出したものを分娩回数に算入する。
例)
1度出産を経験した経産婦が新たに妊娠した。この場合「2妊1産」または「G2P1」と表現する。
婦人科救急疾患の月経周期による鑑別
※ 月経周期のどの時期に発症したかが重要
・月経開始直後→子宮内膜症
・月経中→Toxic shock syndrome
・月経中~終了5日以内→PID
・排卵日 ± 数日→卵胞出血
・排卵日→排卵痛
・月経1週間前(黄体期中期の性行為後)→黄体出血
参照(このサイトより引用):https://imidas.jp/seichishiki/2/?article_id=l-88-005-19-12-g241
初期対応
1.ショックもしくは腹膜刺激徴候があるか?
・あれば、ABCの安定化を図りつつ
・尿妊娠反応検査(4~5週で陽性化:感度高い→陰性なら妊娠否定)
・ベッドサイドエコーで腹腔出血と子宮内胎嚢の確認
・外科または産婦人科コンサルト
2.ショックや腹膜刺激徴候はないが、妊娠反応陽性の場合
・異所性妊娠の可能性はないか、婦人科診察、腹部エコーで確認し、産婦人科コンサルト
・「異所性妊娠」「切迫流産」「正常妊娠の初期」の鑑別
→産婦人科コンサルト
3.ショックや腹膜刺激徴候はないが、妊娠反応陰性の場合
・片側付属器の圧痛がある場合、卵巣嚢腫や嚢腫茎捻転を想定して、エコー、CTを考慮
・臨床的に骨盤内炎症症候群を疑う場合(発熱、下腹部痛、帯下異常、月経から5日以内の発症等)、全身状態に応じて入院ないし外来での治療を決定、産婦人科コンサルト
・右下腹部痛の圧痛が主な場合、エコーないしCTで虫垂炎の評価
・いずれもない場合は、尿路感染症、尿路結石、腹腔外疼痛、暴力などを考慮
若年女性腹痛4大疾患
1)子宮外妊娠(異所性妊娠)
・全妊娠の1%に認める
・リスク:卵管炎や腹膜炎の既往、不妊治療歴、異所性妊娠の既往
・卵管妊娠が98%(その他腹膜や卵巣、頸管着床など)
・尿妊娠反応検査(4~5週で陽性化:感度高い→陰性なら妊娠否定)
・妊娠5週後半~6週の超音波で子宮内に胎嚢が確認されない場合は子宮外妊娠を疑う
・症状:
突然の嘔気嘔吐、発汗を伴う激しい痛み
腹膜刺激症状
横隔膜刺激で肩痛(放散痛)
ショック、失神もありうる
2)卵巣腫瘍茎捻転
・卵巣嚢腫の既往
・過去に同様の症状の既往
・急性発症、片側激痛、無熱、妊反陰性
・嘔気を伴うほどの激しい、片側性の腹痛
・エコーで5~10㎝の卵巣腫瘍
3)卵巣出血
・黄体期中期(最終月経から3~4週後)
・突発性、性行為後など
・突然発症の極めて強く、激しい痛みを呈する
・右>左(左は直腸やS状結腸がクッションになる)
4)骨盤内炎症性疾患(PID)
・女性の上部生殖管の感染症であり、具体的には「子宮内膜炎」「子宮留膿腫」「付属器炎(卵管炎、卵巣炎)」「骨盤腹膜炎」「卵管卵巣膿瘍」などを総称した疾患である
・クラミジアと淋菌の2菌種を考える(他に腸内細菌、嫌気性菌など)
・発症は緩徐
・PID既往
・1か月以内に複数のパートナー
・月経終了前後に多い
・下腹部痛で発症(↔虫垂炎では心窩部から)
・膿性帯下(黄色)、帯下の増加や悪臭
・不整性器出血
・右季肋部圧痛、肝叩打痛→Fitz-Hugh-Curtis症候群(PIDの約10%で認める)
・筋性防御は弱い
・反跳痛、tapping painが強い
・直腸診で、子宮頚部圧痛
・腸蠕動音の低下
Fitz-Hugh-Curtis症候群
・クラミジアや淋菌などの性感染症によるPIDが肝臓周囲に及んだ肝周囲炎
・PIDの約12%に認められた
・緩徐発症の右上腹部痛。下腹部から右季肋部に移動を認めることがある
・先行するPID症状(帯下増加、下腹部痛)を発症の約2週間前に認めることがある
・右上腹部痛、右下腹部痛、深呼吸時の疼痛増悪や体動での痛みの増悪を認める
・Murphy徴候は陽性71%、CVA叩打痛は陽性76%
・右季肋部圧痛は感度100%、特異度99.4%
・確定診断は腹腔鏡手術でのviolin string adhesion(肝表面と周囲臓器との線維性癒着)の観察。一般的にはダイナミック造影CT早期相での肝臓皮膜濃染像で診断を行うことが多い
診断
・診断法は一つに決まっていない
・CDCガイドラインでは、
「性的に活発な若年女性で骨盤や下腹部の痛みがあり、他疾患が否定的な場合、
①子宮頚部の他動時痛、②子宮の圧痛、③付属器の圧痛
のいずれかがあればPIDの可能性が高い」としている
・子宮頚部や膣からの粘液膿性分泌物、膣液の生食希釈検体における多数の白血球の存在を認める
検査
・初尿による淋菌・クラミジア核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test;NAT)
・淋菌の初尿NATは感度、特異度が他の検査に比べて下がるため、
加えて「淋菌子宮頚部、膣擦過検体核酸検査、培養」も併せて実施する
治療
淋菌・クラミジア、腸内細菌の3種類を同時に治療必要
① セフトリアキソン 1回1g 1日1回:淋菌に対して
+ ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)1回100㎎ 1日2回(朝夕) 14日間内服
または
② アジスロマイシン(ジスロマック®) 1回1g 1週間に1回内服を2週間:クラミジアに対して
± メトロニダゾール(フラジール®) 1回500㎎ 1日2回(朝夕) 14日間内服:腸内細菌群に対して
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坂本 壮 (編集)
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