MCV、MCHの計算式
MCV(Mean Corpuscular Volume)平均赤血球容積
赤血球1個当たりの、平均的な大きさ
基準値:85~102fL
計算式:{Ht(%)/RBC(×104/μL)}×1000 fL(femto liter)
MCH(Mean Corpuscular Hemoglobin)平均赤血球ヘモグロビン量
赤血球1個当たりの、平均ヘモグロビン量
基準値:28~34pg
計算式:{Hb(g/dL)/RBC(×104/μL)}×1000 pg
MCHC(Mean Corpuscular Hemoglobin Consentration)平均赤血球ヘモグロビン濃度
赤血球1個当たりの、平均ヘモグロビン濃度
基準値:30.2~35.1%
計算式:{Hb(g/dL)/Ht(%)}×100%
分類
・MCVの検査では、小球性、正球性、大球性の3つに分類
・MCHの検査では、低色素性、正色素性、高色素性の3つに分類
・これらを組み合わせることで、次のように貧血のタイプや疾患がある程度分かります。
① 巨赤芽球性貧血
・MCV>110fL以上(130以上なら巨赤芽球性貧血以外は考えにくい)
・種々の原因により骨髄に巨赤芽球が出現する貧血の総称。
・「ビタミンB12欠乏」や「葉酸欠乏」などにより、DNA合成が障害され核の成熟障害をきたし、異常な巨赤芽球が産生される。
・一方でRNA合成やタンパク合成障害は相対的に軽度であることから、細胞質は成熟し大きくなり、未熟な大きい核と細胞質間の成熟不一致がみられる。
・巨赤芽球の多くは成熟することができず、骨髄内でアポトーシスにより死滅し無効造血をきたす。
・DNA合成障害は全身で起こり、貧血以外にも多彩な症状を呈するが、生体のDNA合成障害は細胞増殖が最も活発な血液細胞に強く影響を与えるため、貧血(血球減少)が他の症状に先行して出現する。
・貧血の後に、ハンター舌炎、神経症状(末梢神経障害、感覚障害、認知症)を来す
・貧血および舌炎症状は急速に回復するが、神経症状の回復には数か月を要し、治療開始が遅れた場合は不可逆性のこともある。
・高度になると赤血球以外の血球にも影響が及び、汎血球減少を起こす
・胃全摘術後では胃酸により鉄が還元されなくなるため鉄吸収も低下するため、胃全摘術後では鉄欠乏を伴う場合が多い。
巨赤芽球性貧血の原因
ビタミンB12欠乏症
胃全摘術後(5年以上経過で欠乏しやすい)
ビタミンB12の利用障害
葉酸欠乏症
DNA合成を阻害する薬剤(ヒドロキシカルバミドなどの抗腫瘍薬,または免疫抑制薬)
代謝性疾患(例,遺伝性オロト酸尿症)
など
検査所見
ビタミンB12、または葉酸低下
網赤血球が正常あるいは低下
汎血球減少
間接ビリルビン上昇
LDH増加
ハプトグロビン低下
末梢血塗抹標本での好中球過分葉
悪性貧血
・巨赤芽球性貧血の1つ。
・胃酸分泌粘膜の萎縮によりビタミンB12の吸収に必要な内因子の分泌不全が生じ、その結果としてビタミンB12の吸収不全が原因となるビタミンB12欠乏による貧血のこと。
・ビタミンB12の吸収に必要な内因子(抗内因子抗体)や、内因子をつくる胃壁の細胞を自己抗体が攻撃することで、ビタミンB12の吸収障害が起こるものをいう。
・ビタミンB12欠乏性巨赤芽球性貧血で萎縮性胃炎があり、抗内因子抗体や抗胃壁細胞抗体が陽性となれば、悪性貧血と診断される。
検査
・ビタミンB12が200pg/mL未満であることが欠乏症としてのカットオフ値となる
(ビタミンB12が300pg/mL以上であれば欠乏症は否定)
・葉酸欠乏症を診断する際の血清葉酸値のカットオフ値は4 μg/Lにするのが良いと報告されている。
治療
・ビタミンB12が低下していれば「ビタミンB12欠乏性巨赤芽球性貧血」と、葉酸が低下していれば「葉酸欠乏性巨赤芽球性貧血」と診断し、それぞれの治療を行う。
ビタミンB12筋注または内服
(胃切除後患者でも筋注と内服に効果の差がなかったとの報告あり)
メコバラミン(500μg/1mL/A) 1回1000μg、週3回筋注
↓
2週間後貧血再検
・新生された赤血球内へのK流入により低K血症をきたすことがり注意を要する
・MCVの正常化は通常2か月以内に完了する
・神経症状改善は1週間以内に始まり、治癒には約3か月かかる
(ただし高齢者では治癒しないことがあるため、事前に説明しておく必要がある)
② ビタミンB12欠乏性貧血
・カットオフ値は200pg/mL未満
・自己免疫性萎縮性胃炎(悪性貧血)と胃切除後が2大原因
・その他、クローン病、薬剤性(PPI)、吸収不良症候群、摂取不足(アルコール依存、菜食主義者)、ヘリコバクター・ピロリによる萎縮性胃炎など
・無効造血→網赤血球減少、汎血球減少
・間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低値、高LDH血症
③ 葉酸欠乏性貧血
・葉酸の吸収は十二指腸と空腸上部で行われる
・無効造血→網赤血球減少、汎血球減少
・間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低値、高LDH血症
④ 肝障害に伴う貧血
⑤ 骨髄異形成貧血
⑥(溶血性貧血)
⑦ 薬剤性大球性貧血
・ビタミン B12欠乏:
胃酸分泌抑制薬
・メトホルミン(ビタミンB12吸収障害をおこす)
・葉酸の吸収や利用を阻害:
メソトレキセート,スルファサラジン(サラゾピリン),トリアムテレン(トリテレン),ST 合剤(バクタ)、など
原因不明の大球性貧血(100~110fL)
・経過観察でよい
ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏の鑑別
作用機序
・ビタミンB12は「ホモシステインからメチオニンを生成させる反応の補酵素」として機能する。
・この反応により貯蔵型葉酸は活性型葉酸に変換される。
・活性型葉酸はDNA合成系のチミジン合成とプリン合成への関与である。
・葉酸が欠乏すると、チミジンの代わりにウリジン塩基がDNAに組み込まれ、DNAの切断が修復されず、DNAが断片化され細胞外へ漏出する。また、プリン塩基の合成障害も起こり、DNAの合成障害を招く。
・ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏が疑わしいときは,真の欠乏かを考えるが、境界域のとき,「メチルマロン酸」と「ホモシステイン」を測定する
・ビタミンB12または葉酸が低下すると、ホモシステインからメチオニンへの合成が低下するため、ホモシステインが高値になる
参照(このサイトより引用):https://www.okotono.net/entry/2016/02/13/232846
・ビタミンB12欠乏では、メチルマロニルCoからサクニルCoAへの変換も低下するため、メチルマロン酸は高値となる
・一方、葉酸欠乏ではメチルマロン酸は正常である
ビタミンB12と葉酸の同時欠乏症
・まず先にビタミンB12投与を行い、その後に葉酸の不足を補う。
(葉酸が利用される際に、ビタミンB12が不可欠であるため)
・ビタミンB12の欠乏症例に対する葉酸の先行あるいは単独投与は、神経症状を悪化させることがあるので注意を要する
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