労働災害とは
労働災害の定義:
労働安全衛生法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
労働災害の種類
労働災害は「業務災害」「複数業務要因災害」「通勤災害」に分類されます。
業務災害
・業務災害とは、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます。
・業務上とは、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。
・業務災害の保険給付は、労働者が、労災保険の適用される事業場に雇われて、事業主の支配下にあるときに、業務が原因となって発生した災害に対して行われます。
(※)法人・個人を問わず、一般的に労働者が使用される事業は、労災保険が適用されます。これを「適用事業」といいます。
業務上の負傷について
(1) 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合 所定労働時間内や残業時間内に事業場施設内において業務に従事している場合
・この場合の災害は、被災した労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられるので、特段の事情がない限り、業務災害と認められます。
なお、次の場合には、業務災害とは認められません。
① 労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、
それが原因となって災害を被った場合
② 労働者が故意に災害を発生させた場合
③ 労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
④ 地震、台風など天災地変によって被災した場合(ただし、事業場の立地条件や作業条件・作
業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と
認められます)
(2) 事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合 昼休みや就業時間前後に事業場施設内にいて業務に従事していない場合
・就業時間外(昼休みなどの休憩時間や就業時間の前後)に事業場の施設内にいて業務に従事していないときに発生した災害は、業務災害と認められません。
・出勤して事業場の施設内にいる限り、労働契約に基づく事業主の支配・管理下にあると認められますが、その一方で、休憩時間や就業前後は実際に業務をしておらず、行為そのものは私的な行為となるため、業務上とは認められません。
・ただし、事業場の施設・設備や管理状況などが原因で発生した災害は業務災害となります。
・なお、トイレなどの生理的行為については、事業主の支配下で業務に付随する行為として取り扱われますので、このときに生じた災害は就業中の災害と同様に業務災害となります。
(3) 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合 出張や社用での外出などにより事業場施設外で業務に従事している場合
・事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているときは事業主の支配下にあることになります。
・この場合積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。
業務上の疾病について
・業務との間に相当因果関係が認められる疾病については、労災保険給付の対象となります(これを「業務上疾病」といいます)。
・業務上疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病ではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にさらされたことによって発症した疾病をいいます。
・例えば、労働者が就業時間中に脳出血を発症したとしても、その発症原因となった業務上の理由が認められない限り、業務と疾病との間に相当因果関係は成立しません。一方、就業時間外における発症であっても、業務による有害因子にさらされたことによって発症したものと認められれば、業務と疾病との間に相当因果関係が成立し、業務上疾病と認められます。
・一般的に、労働者に発症した疾病について、次の3要件が満たされる場合には、原則として業務上疾病と認められます。
① 労働の場に有害因子が存在していること
業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業、病原体などの諸因子を指します。
② 健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと
健康障害は、有害因子にさらされることによって起こりますが、その健康障害を起こすに足りる有害因子の量、期間にさらされたことが認められなければなりません。
③ 発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること
業務上疾病は、労働者が業務に内在する有害因子に接触することによって起こるものであることから、少なくともその有害因子にさらされた後に発症したものでなければなりません。
しかし、業務上疾病の中には、有害因子にさらされた後、短期間で発症するものもあれば、相当長期間の潜伏期間を経て発症するものもあり、発症の時期は有害因子の性質や接触条件などによって異なります。
したがって、発症の時期は、有害因子にさらされている間またはその直後のみに限定されるものではありません。
複数業務要因災害
複数業務要因災害とは、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする傷病等のことをいいます。
対象となる傷病等は脳・心臓疾患や精神障害などです。
(1)複数事業労働者とは
・複数事業労働者とは、傷病等が生じた時点において、事業主が同一でない複数の事業場に同時に使用されている労働者をいいます。
(※)労働者として就業しつつ、同時に労働者以外の働き方(フリーランス等)で就業している者については、複数事業労働者には該当しません。また、転職等、複数の事業場に同時に使用されていない者についても複数事業労働者には該当しません。
(2)複数の事業の業務を要因とする傷病等とは
複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災と認定できるか判断します。
なお、複数事業労働者の方でも、1つの事業場のみの業務外の負荷を評価し業務上と認められる場合はこれまでどおり業務災害として認定されます。
通勤災害
・通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。
・この場合の「通勤」とは、就業に関し、㋐住居と就業の場所との間の往復㋑就業の場所から他の
就業の場所への移動㋒単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法で
行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。
・移動の経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません。
・ただし、例外的に認められた行為で逸脱または中断した場合には、その後の移動は「通勤」と
なります。
・通勤災害と認められるためには、その前提として、㋐から㋒までの移動が労災保険法における
通勤の要件を満たしている必要があります。
労働災害と認められる要件
労働災害と認められる要件:
業務災害、複数業務要因災害について:
・業務と労働者の負傷・疾病・障害・死亡との間に因果関係がある場合に、業務災害と認められます。この因果関係は「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの基準を中心に判断されます。
業務遂行性:使用者の支配管理下で就業している状態
業務起因性:業務と死傷病等との間に一定の因果関係があること
通勤災害について:
・通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。
・この場合の「通勤」とは、就業に関し、
㋐住居と就業の場所との間の往復
㋑就業の場所から他の就業の場所への移動
㋒単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。
・移動の経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません。
・ただし、例外的に認められた行為で逸脱または中断した場合には、その後の移動は「通勤」となります。
・通勤災害と認められるためには、その前提として、㋐から㋒までの移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
不法滞在の外国人労働者が労災を起こした場合
・日本国内の労働者は国籍や不法就労にかかわらず労働災害保険が適応されます。
・通達(昭和63・1・26基発50号)
「日本国内における労働であれば、日本人であると否とを問わず、また、不法就労であると否とを問わず(労働関係法令が)適用されるものである」
仕事や通勤が原因でケガをしたり、病気になった際に生じた医療費
・労災病院や労災指定の医療機関などで、原則、無償で治療を受けることができます。
・労災指定の医療機関以外で治療を受けた場合などは、いったん治療費を負担して
いただき、あとで請求することにより、負担した費用の全額が支給されます。
・通院するための交通費も、一定の条件を満たせば全額が支給されます。
・労災保険を使わない場合は全額(休業補償給付や療養補償給付も)事業主負担になります。
労働災害が発生した場合の
1.現場対応
① 被災者の救護
挟まれ事故等で救助が必要な場合、二次災害が発生する可能性もあります。現場の状況を把握し、消防車の出動を求めるなど、的確な判断を行う必要があります。
② 被災者の病院への搬送、家族への連絡
直ちに最寄りの労災指定病院に、それが難しければ一般の病院に、乗用車等で被災者を搬送します。重傷であれば、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。その後、被災労働者の家族にも速やかに連絡をしましょう。
③ 警察・労働基準監督署に通報
救急車や消防車の出動を求めるような重大な労災の場合は、警察と所轄労働基準監督署に通報し、今後とるべき措置についての指示を仰ぎます。
2.事故状況の把握・原因調査
・警察や労働基準監督署により、現場検証や事情聴取が行われる場合があるため、労災の事実関係を把握・記録しておく必要があります。
・具体的には、以下のような項目を調査し、できる限り詳細に記録しておきます。
被災した労働者の名前
労災が起きた日時・場所
労災が発生した際に居合わせた者
労災が発生した状況とその原因
被災者のケガ・病気の状態、病院名など
・なお、事故現場については、警察や労基署の現場検証が入るまでは、労災発生時のまま保存しておくよう努めましょう。
3.労災保険給付手続き
労災が発生した場合、事業主は労災保険の請求手続きについて、以下のような義務を負います。
手続きについての助力義務
労災保険の請求手続は、被災した労働者本人が、労基署に請求書を提出し行うことが基本です。しかし、重症等で本人による手続きが難しい場合は、会社が手続きを支援する必要があります(労災保険法規則23条1項)。
【必要な証明の義務】
労災保険の請求手続において、労働者から証明を求められたら、事業主は速やかに証明する必要があります(労災保険法施行規則23条2項)。
例えば、労災保険の請求書にある「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」については、事業主の証明が求められます。
ただし、会社としては労災と考えていない場合、必ずしも証明する必要はなく、労基署にその旨を申し出ることは可能です(同規則23条の2)。
労災保険の請求手続きの具体的な流れ:
「受診した病院」によって手続きが異なるため注意が必要です。
労災指定病院の場合:
「労災指定病院」で治療を受ける場合は、基本的に労働者が治療費を立て替える必要はありません。
かかった治療費は、労働基準監督署から直接病院に支払われます(ただし、初診時は手続きが未完了であるため、立て替えが発生するのが通例です)。
請求手続きは、以下の流れで行います。
労働者が労災保険の請求書を作成する
↓
会社が請求書に証明事項を記入・押印する
↓
受診した労災指定病院に請求書を提出する
↓
病院から労働基準監督署に請求書を提出する
↓
治療費が病院に支払われる
なお、病院で治療を受けて、薬局で薬をもらう場合は、薬局にも請求書の提出が必要となります。
また、労災指定病院を変更する場合や、複数の病院に通院する場合は、指定病院変更届も提出します。
請求書の取り寄せ・作成は労働者本人が行うのが基本ですが、重症で作成が難しいような場合は、会社は積極的に支援する必要があります。
労災指定病院以外の場合:
一方、「労災指定病院以外」で治療を受ける場合、労働者は一旦治療費を立替え払いする必要があります。その後、労働者自身が労働基準監督署に請求書を提出することで、立て替えた治療費を受け取ることができます。
ここでの請求手続きの流れは、以下のとおりです。
労働者が請求書を作成する
↓
病院や事業主が証明事項を記入・押印する
↓
労働者が労働基準監督署に請求書を提出する
↓
立て替えた治療費が労働者に支払われる
なお、労災指定病院以外を選んだ場合、給付金の請求時に領収書の添付が必要となるため、必ず受け取るよう労働者に伝えておきましょう。
労災給付の必要書類
労災保険の請求に必要な書類は支給される給付金の種類によって異なりますので、適切な書類を準備・作成し、各機関に提出しましょう。
また、書類は厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
4.労働基準監督署の調査
労災発生後は、労働基準監督署による立ち入り調査が行われる場合があります。労災の認否はこの結果をもとに判断されるため、事業主は誠実に対応すべき責任があります。
具体的には、労働条件や労働時間、労働者の人数、安全管理体制等が適切であったか等が調査され、労災の原因や法律違反の有無について判断されます。
なお、調査では就業規則や雇用契約書、タイムカード、賃金台帳、健康診断結果などの書類が求められる場合があるため、事前の準備が必要となります。
調査後、法律違反があれば「是正勧告書」、改善すべき点があれば「指導票」が交付されます。
これに対し、事業主は是正した内容、是正完了日等を記載した報告書を提出しなければなりません。
勧告に従わない場合や報告書の提出を怠ると、罰則が科される可能性があるため注意が必要です。
5.労働者死傷病報告の届出
事業主は、労災によって労働者が死亡又は休業した場合、労働基準監督署に「労働者死傷病報告書」を提出することが義務付けられています(労安衛則97条)。また、仕事中の事故でない場合でも、事業場や附属の建物内で起きた事故であるならば、報告書の提出が必要です。
また、火災や爆発、建設物の倒壊、ボイラーの破裂、ワイヤロープの切断等の特別な事故については、「労災事故報告書」も併せて提出する必要があります。
報告書を提出しなかったり、虚偽の申告をしたりした場合は、労災隠しとして罰則を受ける場合があるため注意が必要です。
なお、報告書の提出期限は、労働者の状況によって、下表のように異なります。
死亡又は休業日数が4日以上の場合
報告書を「遅滞なく」提出
一般的には災害発生後1~2週間が目安
災害から1ヶ月を超えるような場合、報告遅延理由書の提出を求められるおそれあり
休業日数が3日以内の場合
3ヶ月に一度、その期間に発生した災害をすべて報告
1~3月分:4月末日
4~6月分:7月末日
7~9月分:10月末日
10~12月分:翌年1月末日
事業主の休業補償責任
労災保険の制度では、労災で働けなくなったことによる収入の減額分に対して「休業補償給付」が支払われます。ただし、休業補償給付を受給するためには待機期間を満了しなければならないという条件があります。
待機期間は休業初日から3日目までで、この間の休業補償給付は支給されず、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80%が支給されることになります。
休業初日からの3日間については、事業主が補償する義務を負い、休業1日につき平均賃金の60%を、直接労働者に支払う必要があります(労基法76条1項)。
⑥再発防止策の策定
労災が発生した場合、事業主は同様の災害を繰り返さないよう対策を講じる必要があります。
具体的には、労災の原因分析、再発防止策の策定、実施等が求められます。
例えば、以下のような措置が挙げられます。
定期的な機械設備の点検の実施
労働者の教育や指導における管理体制の見直し
労働時間の管理の厳格化
労働者の身体面、精神面における健康管理
職長教育の実施
なお、会社には労働災害を防止する義務があります(労安衛法第3条)。そのため、同様の災害だけでなく、新たな災害の発生を防止することも重要です。
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