参照 https://www.nanbyou.or.jp/entry/272
概要
・重症筋無力症(MG)は、神経筋接合部のシナプス後膜上の分子に対する臓器特異的自己免疫疾患で、筋力低下を主症状とする。
・本疾患には胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常が合併する。自己免疫の標的分子はニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)が85%、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)が5-10%とされている。
・11~12人/10万人、男女比1:1.7とやや女性に多い
・女性は20~30歳代、男性は50~60歳代に多い。
・近年は高齢で発症する症例が増加しており、加齢変化や合併症に起因する症状との鑑別に注意を要する。
原因
・神経筋接合部のシナプス後膜に存在する分子、AChRやMuSKに対して患者体内で自己抗体が作られ、この抗体により神経筋伝達が障害されることにより、筋力低下、易疲労性があらわれる。
・軽症例や眼筋型ではAChRやMuSKに対する自己抗体が陰性のこともある。
・本疾患と胸腺異常(過形成、胸腺腫)との関連性については、まだ十分には解明されていない。
症状
・亜急性発症(数日~数週間単位)
・眼瞼下垂や、眼球運動障害による複視が初発症状となることが多い。
・臨床症状は骨格筋の筋力低下で、運動の反復により筋力が低下する(易疲労性)
・夕方に症状が増悪する(日内変動)などを特徴とする。
・四肢筋力低下:
近位筋に強く、整髪時あるいは歯磨きにおける腕のだるさ、あるいは階段を昇る時の下肢のだるさを認める。
・頸筋の筋力低下(首下がり)
・構音障害
・嚥下障害で
・重症例では呼吸障害を来す。
身体診察、検査所見
アイスパック試験
冷却したアイスパックをガーゼなどで包んで上眼瞼に3~5分程度当て、眼瞼下垂が改善すれば陽性
自己抗体
1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体
2)抗MuSK(muscle specific kinase:筋特異的キナーゼ)抗体
反復刺激誘発筋電図検査
末梢神経(尺骨神経,副神経など)を低頻度刺激(3~5 Hz)で繰り返し刺激し、誘発筋電図で減衰現象(waning)を確認する
胸腺異常
・自己抗体産生の場として、70~80%の症例で合併
・過形成65%、胸腺腫10~15%
・まれに悪性胸腺腫あり
テンシロンン®(エドロフォニウム)試験
・抗コリンエステラーゼ薬を静脈投与すると眼球運動障害、低頻度反復刺激誘発筋電図などの症状が改善する
分類
眼筋型
・眼筋以外に症状を認めない
早期発症
・50歳未満
後期発症
・50歳以上
胸腺腫関連
・胸腺腫を合併する
・ほぼ抗AChR抗体陽性
抗MuSK抗体陽性
血清陰性
・抗AChR抗体、抗MuSK抗体とも陰性
治療
(1)胸腺腫合併例は、原則、拡大胸腺摘除術が治療の第一選択となる。重症例ではMG症状を改善させたうえで手術を行う。胸腺腫が周囲臓器へ浸潤している場合には、放射線療法や化学療法を併用する。
(2)胸腺腫非合併例における胸腺摘除術の適用は、以下のように考えられる。
抗AChR抗体陽性の患者は以下の基準を満たせば、胸腺摘除術を治療の選択肢とする。術式は通常胸骨正中切開による拡大胸腺摘除術を行うが、内視鏡的手術でも同等の成績を期待できる医療施設においては、内視鏡的手術を行ってもよい。
A. 全身型である。
B. 罹病期間は5年以内であることが望ましい。
(3)抗MuSK抗体陽性患者への胸腺摘除術は推奨されていない。
(4)65歳を越える抗AChR抗体陽性患者に対する拡大胸腺摘除術の有効性に関してはまだ十分に明らかになっていない。
(5)思春期以前の抗AChR抗体陽性患者に対する拡大胸腺摘除術は、内視鏡的手術などの低侵襲性手術の技術が向上している現在、検討する余地が十分ある。しかし、有効性と安全性に関してはまだ十分に明らかになっていない。
(6)眼筋(外眼筋、眼輪筋、眼瞼挙筋)に筋力低下・易疲労性が限局する眼筋型はコリンエステラーゼ阻害薬で経過を見る場合もあるが、非有効例にはステロイド薬が選択される。早期にステロイド薬を投与して治療することにより、全身型への進展を阻止できるとする意見があるが、全身型への移行を阻止する目的のみで、症状の程度に関係なくステロイドを使用することは推奨されていない。速効性の観点からステロイドパルス療法を間欠的に施行する場合もある。拡大胸腺摘除術の有効性に関する十分な知見はない。
(7)症状が眼筋のみでなく四肢筋、体幹筋など全身の骨格筋に及ぶ全身型は、ステロイド療法薬や免疫抑制薬の併用がなされる。ステロイド薬は初期に十分量を使うことが一般的であるが、むやみに大量・長期間使うことは副作用発生の面から好ましくなく、患者の症状を見ながら減薬し、必要症状の増悪があれば増量するようにする。投与方法は、治療施設・医師の判断で隔日投与又は連日投与が選択される。免疫抑制薬(わが国では、カルシニューリン阻害薬に保険適用がある)はステロイド薬に併用することで早期に寛解導入が可能となり、ステロイド薬の減量や副作用軽減が期待できる。これら内服薬による治療と並行して、上記(2)を参考に拡大胸腺摘除術の適否を検討する。重症例ではMG症状を改善させたうえで手術を行う。高齢者では、その身体的特徴を考慮しつつ、ステロイド薬や免疫抑制薬の投与方法を選択する。
(8)難治例や急性増悪時には、血液浄化療法や免疫グロブリン大量療法、ステロイドパルス療法が併用される。これらの治療方法は、早期改善の目的で病初期から使うことも行われている。
予後
全身型の患者では、ADL、QOLの観点から十分な改善が得られず、社会生活に困難を来すことも少なくない。眼症状のみの患者でも、日常生活に支障を来すことがある。
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