疾患
・高度の低栄養状態の患者に対し、栄養療法開始に伴い血糖値が上昇すると、膵臓におけるインスリン分泌が刺激される一方でグルカゴン分泌は抑制され、グリコーゲン、脂肪、蛋白の合成が開始される。
・これらの同化反応にはP、Mg等の電解質が必要であり、細胞内に移動する結果、低リン血症、低Mg血症、低K血症、低Ca血症を来すこととなる。
・急激なエネルギー源の変化に伴う糖質と電解質の細胞内移動が引き起こす代謝異常をRefeeding症候群(再栄養症候群)という。
病態
・極端な低栄養(飢餓状態)では必要エネルギーの大部分は脂肪酸の分解により賄われ、グルコースの代謝は最低限に保たれている。
・そこに相対的に大量のグルコースが流入することで(いきなり積極的な栄養補給を開始すると)血管内から細胞内へ電解(P、K、Mg)が移動(細胞内への取り込み)、ビタミンB1の消費により重篤な合併症(心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、けいれん、四肢麻痺、横紋筋融解、乳酸アシドーシス)をおこす。
・Refeeding症候群の報告は経口・経腸栄養よりも経静脈栄養において多く、その症状は多彩である。
・電解質異常は3日以内に、循環器系合併症は1週間以内に、せん妄等の精神・神経症状はそれ以降に出現することが多い。
・神経症状については、その原因としてPやMgといった電解質異常のほか、ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症の可能性についても吟味する必要がある。
機序
・糖負荷による高インスリン血症によって飢餓状態で枯渇状態にあったP、K、Mgが細胞内に移動して減少する。
・また解糖系の補酵素であるビタミンB1も消費される
→低P、K、Mg、Ca血症、ビタミンB1欠乏症、心不全をおこす
・特に低P血症は致命的となるため注意(リンはATP産生、2,3-DPGと酸素やヘモグロビンの結合、細胞膜の構成に大きく関与しているため、その低下により多臓器障害が出現する)。
Refeeding症候群における低リン血症
・Refeeding症候群で認められる電解質・代謝異常のなかで、低リン血症が重篤な症状に直結する最も重要な因子である。
・Pは細胞膜やDNA成分のほか、ATP等の高エネルギーリン酸化合物の基質であり、多彩な生理活性を有しているが、血清P濃度の低下が最も短時間で問題となるのはヘモグロビンの酸素親和性の上昇である。
・血清P濃度が低下することにより、赤血球中の2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)濃度低下を来す。赤血球中の2,3-DPG濃度はヘモグロビンの酸素解離曲線を左方に移動させる。その結果、ヘモグロビンは酸素を放しにくくなり、末梢組織は低酸素状態に至り、乳酸アシドーシスを来しATPの産生が抑制される。
・一方で、投与された糖質は解糖系によりピルビン酸に変換されるが、酸素供給が不足している場合には、ピルビン酸からアセチルCoA、TCAサイクルを経て完全酸化を受ける系は抑制される。そのため、ピルビン酸は乳酸に代謝され、乳酸アシドーシスが進行することになる。
・乳酸アシドーシスに遭遇したときに、その原因として低リン血症を想起することは非常に重要である。
症状
・心不全
・refeeding edema:
栄養投与開始によりインスリン分泌が亢進し、腎におけるナトリウム、水貯留、毛細血管水圧上昇、透過性亢進、血管拡張作用により、認められる一過性浮腫。
・不整脈
・呼吸不全
・意識障害
・けいれん
・Wernicke脳症
・四肢麻痺
・横紋筋融解
・乳酸アシドーシス
予防・治療
・電解質のチェック(P、K、Mg、Ca)
・栄養投与開始前にビタミンB1 200~300㎎/日+その他のビタミンB含有製剤+微量元素投与
・栄養投与は10Kcal/kg/日で開始、4~7日かけてゆっくり目標値まで漸増
・水分量の調整および電解質(P、K、Mg、Ca)の補正
・最初の2週間は電解質(P、K、Mg、Ca)をこまめにモニター
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