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家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)

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疾患

・LDL受容体遺伝子変異による単一遺伝子疾患であり、常染色体優性遺伝形式をとる。

・「著明な高コレステロール血症」「腱・皮膚黄色腫」「早発性冠動脈疾患」を3主徴とする

・FHヘテロ接合体患者は500人に1人以上、ホモ接合体患者は100万人に1人以上の頻度で認められ、わが国におけるFH患者総数は、25万人以上と推定される。

・ヘテロ接合体とホモ接合体は、出現する症状や総コレステロールの値の程度、治療への反応性が全く異なり、その管理においても全く別の取り扱いをする必要がある。

 

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原因

・FHは、LDL受容体の遺伝子変異によりLDL受容体蛋白が欠損し、あるいはその機能が大きく障害されて、高LDL血症が引き起こされると考えられている。

・通常血漿LDLの約70%が肝臓で代謝されるが、ホモ接合体患者では、肝臓でのLDLの代謝が正常の約10%に低下しており、低下の程度に反比例して血漿LDL濃度は上昇し、血管壁へのコレステロールの沈着のリスクが高まる。

・そのため、FH患者では若年より高LDLコレステロール血症を示し、それに起因する若年性動脈硬化症が冠動脈を中心に好発する。

 

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鑑別診断

・FHと鑑別を要する疾患として、高LDL-C血症を呈する続発性高脂血症(糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など)と、類似疾患である家族性複合型高脂血症(FCHL)が重要。

・FCHLは腱黄色腫を合併しないこと、small dense LDLの増加、家系内に他のタイプの脂質異常症(IIa型、IIb型、IV型)が存在すること、幼少期ではLDL-C値がFHでみられるほど上昇しないことなどから鑑別されるが、詳細な家族調査が必要となる。

 

病型

① FHホモ接合体型

・約16万~100万人に一人の頻度(↔ヘテロ接合体型は約200~500人に一人)

・FHホモ接合体は、出生時より著明な高LDLコレステロール血症を呈し、皮膚黄色腫が特徴的である。

・アキレス腱黄色腫、角膜輪、全身性動脈硬化症は、小児期において著明に進行する。

・黄色腫の頻度は、LDL値の上昇の度合いと期間の長さに比例する一方、眼瞼黄色腫はFHに特異的なものではなく、正脂血症の患者にも認められる。

・動脈硬化症は、冠動脈だけでなく大動脈弁にも進行し、特徴的な弁上狭窄、弁狭窄を形成する。

・FHホモ接合体では、大動脈弁上狭窄、弁狭窄、冠動脈狭窄が、乳幼児期に出現し、進行して30歳までに狭心症、心筋梗塞、突然死を引き起こすことが知られている。

・胸部大動脈、腹部大動脈や肺動脈にも強い動脈硬化を引き起こす。一方、脳血管は比較的動脈硬化の進行が遅い。冠動脈硬化のほか、若年性動脈硬化は大動脈には腹部大動脈瘤として現れることがあり、その頻度は約26%と報告されている。

 

② FHヘテロ接合体型

・主として常染色体遺伝性疾患

・一般人口の約200~500人に一人の頻度

・未治療時のLDL-C値が高値であること、アキレス腱黄色腫や皮膚結節性黄色腫などの高LDL-C血症に伴う身体症状、FHや早発性冠動脈疾患の家族歴が診断の根拠となる。

・女性においては更年期以後、LDL-C値の上昇を認めることが知られており、またFHと気づかれずに既に薬物治療でLDL-C値がそれほど高値でない場合もありFHの診断には留意が必要である。

 

 

FH ホモ接合体に認められる黄色腫

「成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 2022」より引用

・黄色腫は、皮膚では肘・膝関節の伸側、手首、臀部など機械的刺激が加わる部位に多く発生する。

眼瞼黄色腫は FH以外でも認めることも多いため、特異度が低く、診断的価値は高くないが、FH を疑う所見ではある。

・腱黄色腫はアキレス腱肥厚として現れることが多く、診断には触診が重要である。

・しかし、黄色腫がない場合にも FH を否定してはならない。

 

 

「成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準」(2022年)

診断基準のうち2項目以上が当てはまる場合、「FHヘテロ接合体」と診断する。

1.高LDL-C血症(未治療時のLDL-C180mg/dL以上)
2.腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
注:眼瞼黄色腫は含まれない
3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)

注:第一度近親者;自分の遺伝子の1/2を持っている血縁者で、両親と子供、兄弟姉妹が相当

注:早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義

 

・続発性高脂血症を除外した上で診断する。

・FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。

・皮膚結節性黄色腫に瞼黄色腫は含まない

・アキレス腱肥厚はX線軟線撮影により男性8.0㎜以上、女性7.5mm以上、あるいは超音波により男性6.0㎜以上、女性5.5㎜以上にて診断する。

・LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。

・すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。

・早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。

・FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。

 

 

FHの動脈硬化の診断

FH患者は動脈硬化病変の発症進展が早く、半年に1度は専門医を受診し、冠動脈疾患およびその他の動脈硬化性疾患の早期診断、早期治療に努めるべきです。FHヘテロ接合体は1~2年毎に冠動脈疾患の有無に関する精査を行います。また、このほかには、ankle-brachial blood pressure index (ABI)、頚動脈エコー、腹部エコーを行い、大腿動脈、頚動脈の動脈硬化および腹部大動脈瘤の評価を行います。

 

治療

・FHの治療の基本は、冠動脈疾患など若年齢で起きる動脈硬化症の発症及び進展の予防であり、早期診断と適切な治療が最も重要である。

・出来るだけ早期に診断を下し、低脂肪食などの正しい食生活を子供時代から身につけると同時に、喫煙、肥満などの動脈硬化症の増悪因子をしっかりと避け、高血圧や糖尿病を厳格にコントロールする。

①  FHへテロ接合体患者のコントロール目標

・成人FHヘテロ接合体の冠動脈疾患発症リスクは一般的に二次予防より高いと考えられるため、LDL-Cの管理目標値は100 mg/dL未満とする。

・この目標値に到達しない場合でも、無治療時の50%以上の低下を治療目標の目安にする(15歳未満の小児、妊娠可能年齢の女性については、この基準は適用されない)

 

② 成人(15歳以上)FHヘテロ接合体患者の薬物療法

FHヘテロ接合体患者に対する薬物療法については、コレステロール合成経路の律速酵素の阻害薬であるHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が第一選択です。FHヘテロ接合体に対しては、LDL-C値の低下効率から考えると、ストロングスタチンが第一選択薬になる場合が多いでしょう。
スタチンは初期用量から使用し、LDL-C値の反応と副作用発現を観察しながら必要に応じて増量します。スタチンのLDL-C値低下効果は用量依存的ですが、倍量の投与を行っても、6%程度しかさらなる低下は認められず、副作用の頻度と重症度も用量依存的に増加します。一方、スタチンに加えて、他の薬効を有する薬剤を併用すると、よりLDL-Cの低下効果が得られることが報告されています。スタチン単剤で充分な効果が得られない場合、コレステロール吸収阻害剤であるエゼチミブ、胆汁酸吸着レジンであるコレスチラミンやコレスチミド、あるいはプロブコールなどを併用します。
薬物治療開始後は、問診で筋痛などの筋肉の症状の有無を問い、総コレステロール、HDL-C、トリグリセライドを測定し、LDL-Cを計算して効果の判定を行うと同時に、AST、ALTなどの肝機能をはじめCKを測定して、副作用の発現に注意する必要があります。副作用の中でも最も重篤な横紋筋融解症を見のがさないように注意が必要です。

③ LDLアフェレシス療法

薬物を使用しても血清総コレステロール値が250 mg/dl以下に低下せず、明らかな冠動脈硬化を有するFHヘテロ接合体、およびFHホモ接合体に対しては、体外循環により血漿LDLを直接取り除くLDLアフェレシスの適用となります。日本人において、冠動脈疾患を有するFHヘテロ接合体に対するLDLアフェレシスの有効性を証明するデータが複数報告されています。

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