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職場における腰痛予防対策

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参考サイト

厚労省「職場における腰痛予防対策指針」

職場における腰痛予防対策指針

腰痛健康診断問診票

 

中央労働災害防止協会「職場における腰痛予防対策」

職場における腰痛予防対策

 

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本指針における「腰痛」に含まれる症状

・腰痛は、単に腰部の痛みだけではなく、臀部から大腿後面・外側面、さらには、膝関節を
越えて下腿の内側・外側から足背部・足底部にわたり痛み、しびれ、つっぱり等が広がるものもあ
る。

・このことから、本指針における腰痛とは、これらの部位の痛みやしびれ等も含むものとする。

 

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職場における腰痛の発生が多いとされる作業

職場における腰痛予防対策指針
(1)重量物取扱い作業
(2)立ち作業
(3)座り作業
(4)福祉・医療分野等における介護・看護作業
(5)車両運転等の作業

 

災害性腰痛と非災害性腰痛

・労災に認定される業務上の腰痛(職業性腰痛)は、「災害性腰痛(災害性の原因による腰痛)」と「非災害性腰痛(災害性の原因によらない腰痛)」の二つに分類されます。

 

職業性腰痛
・災害性腰痛(災害性の原因による腰痛)
・非災害性腰痛(災害性の原因によらない腰痛)

 

災害性腰痛(急性腰痛)

・重量物運搬中の転倒や腰部への予想以上の過重な負荷などにより突然発症する腰痛

・転倒、転落などによる腰部のけがの場合と、業務遂行中に腰部に対して急激な力の作用が生じておきた腰部の痛み

 

非災害性腰痛(慢性腰痛)

①腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(おおむね3カ月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛

及び

②重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛のこと。

 

職場における腰痛の発生状況

・負傷に起因する腰痛については、全体の件数は、2012年以降は増加傾向にある。業種的には保健衛生業が最も多く、2012年以降大きく増加して2023年には全体の35%程度を占めている。

・これに次いで多いのが商業・金融・広告業であり、こちらも2012年以降大きく増加して全体の21%程度を占めている。これに製造業、運輸交通業と続いているが、ともに全体の十数%程度となっている。

・また、作業現場からみた発生状況としては、重量物の取り扱い作業、腰部に過度の負担がかかる立ち作業、座作業、福祉・医療分野における介護・看護、長時間の車両運転等、前屈・ひねり等の有害な姿勢で行う作業、静的な拘束姿勢が多い作業、前進振動・衝撃・動揺を受ける作業等、あらゆる職種で発症している。

・一方、作業態様に起因する腰痛は、「業務上疾病発生状況等調査」によると、2012年以降、毎年30~50件程度発生しており、2021年以降は減少傾向にある。

 

 

職場における腰痛予防対策指針及び解説

1 はじめに

職場における腰痛は、特定の業種のみならず多くの業種及び作業において見られる。

腰痛の発生要因には、腰部に動的あるいは静的に過度の負担を加える動作要因、腰部への振動、温度、転倒の原因となる床・階段の状態等の環境要因、年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等の既往症又は基礎疾患の有無等の個人的要因、職場の対人ストレス等に代表される心理・社会的要因がある。
腰痛の発生要因は、このように多元的であるほか、作業様態や労働者等の状況と密接に関連し、変化
することから、職場における腰痛を効果的に予防するには、労働衛生管理体制を整備し、多種多様な発生要因によるリスクに応じて、作業管理、作業環境管理、健康管理及び労働衛生教育を総合的かつ継続的に、また事業実施に係る管理と一体となって取り組むことが必要である。
本指針は、このような腰痛予防対策に求められる特性を踏まえ、リスクアセスメントや労働安全衛生
マネジメントシステムの考え方を導入しつつ、労働者の健康保持増進の対策を含め、腰痛予防対策の基本的な進め方について具体的に示すものである。
事業者は、労働者の健康を確保する責務を有しており、トップとして腰痛予防対策に取り組む方針を
表明した上で、安全衛生担当者の役割、責任及び権限を明確にしつつ、本指針を踏まえ、各事業場の作業の実態に即した対策を講ずる必要がある。
なお、本指針では、一般的な腰痛の予防対策を示した上で、腰痛の発生が比較的多い次に掲げる(1)
から(5)までの5つの作業における腰痛の予防対策を別紙に示した。

(1) 重量物取扱い作業

(2) 立ち作業

(3) 座り作業

(4) 福祉・医療分野等における介護・看護作業

(5) 車両運転等の作業

【解説】「1 はじめに」について

(1) 職場における腰痛
一般に、腰痛には、ぎっくり腰(腰椎ねん挫等)、椎体骨折、椎間板ヘルニア、腰痛症等がある。
腰痛に密接な関連がある身体の構造として、脊椎の各椎体の間に軟骨である椎間板があり、これが脊椎の動きに際してクッションの働きをしている。また、椎体の周囲に椎間関節、じん帯及び筋肉があり、脊柱を支えている。腰痛は、これらの構造に障害が起きた場合に発生する。
なお、腰痛は、単に腰部の痛みだけではなく、臀部から大腿後面・外側面、さらには、膝関節を越えて下腿の内側・外側から足背部・足底部にわたり痛み、しびれ、つっぱり等が広がるものもある。このことから、本指針における腰痛とは、これらの部位の痛みやしびれ等も含むものとする。
(2) 腰痛の発生要因
腰痛の発生要因は、次のイ~ニのように分類され、動作要因、環境要因、個人的要因のほか、心理・社会的要因も注目されている。職場で労働者が実際に腰痛を発生させたり、その症状を悪化させたりする場面において、単独の要因だけが関与することは希で、いくつかの要因が複合的に関与している。
イ 動作要因
動作要因には、主として次のようなものがある。
別添
(イ) 重量物の取扱い
重量物の持上げや運搬等において強度の負荷を腰部に受けること。
(ロ) 人力による人の抱上げ作業
介護・看護作業等の人力による人の抱上げ作業において腰部に大きな負荷を受けること。
(ハ) 長時間の静的作業姿勢(拘束姿勢)
立位、椅座位等の静的作業姿勢を長時間とること。
(ニ) 不自然な姿勢
前屈(おじぎ姿勢)、ひねり及び後屈ねん転(うっちゃり姿勢)等の不自然な作業姿勢をしばしばと
ること(ロの環境要因が原因で、こうした姿勢が強いられることもある。)。
(ホ) 急激又は不用意な動作物を急に持ち上げるなど急激又は不用意な動作をすること(予期しない負荷が腰部にかかるときに、腰筋等の収縮が遅れるため身体が大きく動揺して腰椎に負担がかかる。)。
ロ 環境要因
環境要因には、主として次のようなものがある。
(イ) 振動
車両系建設機械等の操作・運転により腰部と全身に著しく粗大な振動を受けることや、車両運転等に
より腰部と全身に長時間振動を受けること。
(ロ) 温度等
寒冷な環境(寒冷反射による血管収縮が生じ、筋肉が緊張することで十分な血流が保たれず、筋収縮
及び反射が高まる)や多湿な環境(湿度が高く、汗の発散が妨げられると疲労しやすく、心理的負担も大きくなる。)に身体を置くこと。
(ハ) 床面の状態
滑りやすい床面、段差等があること(床面、階段でスリップし、又は転倒すると、労働者の腰部に瞬
間的に過大な負荷がかかり、腰痛が発生することがある。)。
(ニ) 照明
暗い場所で作業すること(足元の安全の確認が不十分な状況では転倒や踏み外しのリスクが高まる。)。
(ホ) 作業空間・設備の配置
狭く、乱雑な作業空間、作業台等が不適切な配置となっていること(作業空間が狭く、配置が不適切
で整っていないと、不自然な姿勢が強いられたり、それらが原因で転倒するなど、イの動作要因が生じる。)。
(ヘ) 勤務条件等
小休止や十分な仮眠が取りにくい、勤務編成が過重である、施設・設備が上手く使えない、一人で勤
務することが多い、就労に必要な教育・訓練を十分に受けていないことなど(強い精神的な緊張度を強いられ、ニの心理・社会的要因が生じる。)。
ハ 個人的要因
個人的要因には、主として次のようなものがある。
(イ) 年齢及び性
年齢差や性差(一般的に、女性は男性よりも筋肉量が少なく体重も軽いことから、作業負担が大きく
なる。)。
(ロ) 体格
体格と、作業台の高さ、作業空間等とが適合していないこと。
(ハ) 筋力等
握力、腹筋力、バランス能力等(年齢によって変化する。一般的に、女性は男性よりも筋肉量が少な
い。)。
(ニ) 既往症及び基礎疾患
椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折等の腰痛の既往症、血管性疾患、婦人科疾患、泌尿器
系疾患等の基礎疾患があること。
ニ 心理・社会的要因
仕事への満足感や働きがいが得にくい、上司や同僚からの支援不足、職場での対人トラブル、仕事上の相手先や対人サービスの対象者とのトラブル等。また、労働者の能力と適性に応じた職務内容となっておらず、過度な長時間労働、過重な疲労、心理的負荷、責任等が生じている等(ロも影響することがある。)。

(3) 労働衛生管理

腰痛の発生要因は複数存在することから、単独の予防対策だけでは、また、個別的に各予防対策を行うのでは、腰痛の発生リスクを効果的に軽減することは難しい。したがって、腰痛予防のための労働衛生管理が適正に行われるためには、事業者が各事業場における労働衛生管理体制を整備した上で、3管理(作業管理、作業環境管理、健康管理)と1教育(労働衛生教育)を総合的に実施していくことが重要となる。また、腰痛の発生要因は、多岐に渡るため順次その解消を図っていくことが必要であるほか、作業様態や労働者等の状況と密接に関連し、それらとともに変化していくものである。そのため、職場での腰痛予防対策は、継続的に実施する必要がある。
さらに、腰痛の発生要因は、作業によって多種多様であり、腰痛予防対策を進めるに当たっては、それぞれの事業場で実際に行われている作業に潜むリスクを洗い出し、そうした作業とそのリスクに即した取り組みを行う必要がある。
実際にこうした労働衛生管理を行うに当たっては、事業者がトップとしての方針を表明した上で、安全衛生の担当者の役割、責任及び権限を明確することが重要である。また、一定規模以上の事業場では、衛生委員会、総括安全衛生管理者、産業医、衛生管理者等を中心に取り組むこととなる。
以上のように対策を進めて行くに当たっては、リスクアセスメントの手法や労働安全衛生マネジメントシステムの考え方を導入することが有効となる。
なお、必要に応じ、労働衛生コンサルタント、保健師・看護師、その他労働衛生業務に携わる者等、事業場外部の専門家と連携することも有効である。

 

2 作業管理

(1) 自動化、省力化
腰部に負担のかかる重量物を取り扱う作業、人を抱え上げる作業、不自然な姿勢を伴う作業では、作
業の全部又は一部を自動化することが望ましい。それが困難な場合には、負担を減らす台車等の適切な補助機器や道具、介護・看護等においては福祉用具を導入するなどの省力化を行い、労働者の腰部への負担を軽減すること。

(2) 作業姿勢、動作

労働者に対し、次の事項に留意させること。
前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転等の不自然な姿勢を取らないようにすること。適宜、前屈や中腰
姿勢は膝を着いた姿勢に置き換え、ひねりや後屈ねんてんは体ごと向きを変え、正面を向いて作業す
ることで不自然な姿勢を避けるように心がける。また、作業時は、作業対象にできるだけ身体を近づ
けて作業すること。
ロ 不自然な姿勢を取らざるを得ない場合には、前屈やひねり等の程度をできるだけ小さくし、その頻
度と時間を減らすようにすること。また、適宜、台に寄りかかり、壁に手を着き、床に膝を着く等を
して身体を支えること

ハ 作業台や椅子は適切な高さに調節すること。具体的には、立位、椅座位に関わらず、作業台の高さ
は肘の曲げ角度がおよそ 90 度になる高さとすること。また、椅子座面の高さは、足裏全体が着く高さとすること。

ニ 立位、椅座位等において、同一姿勢を長時間取らないようにすること。具体的には、長時間の立位
作業では、片足を乗せておくことのできる足台や立位のまま腰部を乗せておくことのできる座面の高
い椅子等を利用し、長時間の座位作業では、適宜、立位姿勢を取るように心がける

ホ 腰部に負担のかかる動作では、姿勢を整え、かつ、腰部の不意なひねり等の急激な動作を避けるこ
と。また、持ち上げる、引く、押す等の動作では、膝を軽く曲げ、呼吸を整え、下腹部に力を入れな
がら行うこと。
ヘ 転倒やすべり等の防止のために、足もとや周囲の安全を確認するとともに、不安定な姿勢や動作は
取らないようにすること。また、大きな物や重い物を持っての移動距離は短くし、人力での階段昇降
は避け、省力化を図ること。

(3) 作業の実施体制

イ 作業時間、作業量等の設定に際しては、作業に従事する労働者の数、作業内容、作業時間、取り扱
う重量、自動化等の状況、補助機器や道具の有無等が適切に割り当てられているか検討すること。

ロ 特に、腰部に過度の負担のかかる作業では、無理に1人で作業するのではなく、複数人で作業でき
るようにすること。また、人員配置は、労働者個人の健康状態(腰痛の有無を含む。)、特性(年齢、
性別、体格、体力、等)、技能・経験等を考慮して行うこと

健康状態は、例えば、4の(1)の健康診断等により把握すること。

(4) 作業標準
イ 作業標準の策定
腰痛の発生要因を排除又は低減できるよう、作業動作、作業姿勢、作業手順、作業時間等について、
作業標準を策定すること。
ロ 作業標準の見直し
作業標準は、個々の労働者の健康状態・特性・技能レベル等を考慮して個別の作業内容に応じたも
のにしていく必要があるため、定期的に確認し、また新しい機器、設備等を導入した場合にも、その
都度見直すこと。
(5) 休憩・作業量、作業の組合せ等
イ 適宜、休憩時間を設け、その時間には姿勢を変えるようにすること。作業時間中にも、小休止・休
息が取れるようにすること。また、横になって安静を保てるよう十分な広さを有し、適切な温度に調
節できる休憩設備を設けるよう努めること。

ロ 不自然な姿勢を取らざるを得ない作業や反復作業等を行う場合には、他の作業と組み合わせる等に
より、当該作業ができるだけ連続しないようにすること。
ハ 夜勤、交代勤務及び不規則勤務にあっては、作業量が昼間時における同一作業の作業量を下回るよ
う配慮し、適宜、休憩や仮眠が取れるようにすること。
ニ 過労を引き起こすような長時間勤務は避けること。
(6) 靴、服装等
イ 作業時の靴は、足に適合したものを使用すること。腰部に著しい負担のかかる作業を行う場合には、
ハイヒールやサンダルを使用しないこと。
ロ 作業服は、重量物の取扱い動作や適切な姿勢の保持を妨げないよう、伸縮性、保温性、吸湿性のあ
るものとすること。
ハ 腰部保護ベルトは、個人により効果が異なるため、一律に使用するのではなく、個人毎に効果を確
認してから使用の適否を判断すること。

【解説】
「2 作業管理」について
(1) 自動化、省力化
未熟練労働者及び女性・高齢者等を考慮して、重量物取扱い作業等の腰部に著しい負担のかかる作業については、作業の全部又は一部の自動化を推進することが望ましい。
自動化が困難な部分は、対象の性状や作業手順等に詳しい現場の労働者等の意見を参考に、運搬物の軽量化を行う、一部機械化する(負担を減らす台車等の適切な補助機器や道具、介護・看護作業等においては福
祉用具(機器や道具)を導入する)など、省力化を行うことが必要である。
(2) 作業姿勢、動作
イ 「不自然な姿勢」には、上半身が前傾する前屈姿勢、膝関節を曲げて立つ中腰姿勢、上半身と下半身の向きが異なるひねり姿勢、体幹を後方に傾けながらねじる後屈ねんてん姿勢、しゃがむ・かがむ等の姿勢が含まれる。

ロ 不自然な姿勢を取らざるを得ない場合には、腰にかかる負担をできるだけ減らすために、前屈の角度やひねりの程度を小さくするとともに、不自然な姿勢を取る頻度と時間を少なくする。また、腰にかかる力を分散させるため、手、肘、体幹、膝などを手すり、壁、床等に着いて支えるようにする。
ハ 労働者が自然な姿勢で作業対象に正面を向いて作業ができるように、作業台等を適切な高さと位置に設置するとともに、十分な作業空間を確保する。作業台の高さは、緻密な作業では高め、力を要する作業では低めが適切となることから、作業内容により適宜調節する。

ニ 同一姿勢を長時間にわたり維持することは、腰部への負担を増加させていくため、休憩、小休止・休息、補助機器や道具等の配置、姿勢を変える等の工夫が必要である。また、同じ姿勢を維持したり同じ動作を反復したりするような作業態様をできるだけ避ける。反復の周期や回数等を考慮し、小休止・休息等の間隔を検討することが望ましく、適宜、自発的な小休止・休息が取れるようにする。
ホ 「腰部に負担のかかる動作」には、物を持ち上げる・引く・押す、身体を曲げる・ひねる等の動作がある。急激な動作は、椎間板や筋肉等に衝撃的な力を及ぼし、これらを損傷させて腰痛を発生させることがある。持ち上げる動作では、腹圧をかけたときの方が腹圧をかけないときに比べて、腰椎にかかる負荷が小さい。
「姿勢を整え」について、例えば、腰椎は無防備な後弯(猫背の姿勢)ではなく、腰椎の生理的な前弯(最大に腰椎を反った状態から少し戻し前弯が残っている状態)を保持した姿勢で作業することを習慣化させることがポイントとなる。
ヘ 転倒やすべり等では、床に腰を打ち付けて痛めたり、転倒しないように不意に腰に力を入れて腰を痛めたりすることがある。転倒やすべり等が起きないよう、3の(3)により作業環境を整えるとともに、作業内容の見直し、作業姿勢や動作について個人の意識を高める等の注意が必要である。足下について視界が遮られたり、両手がふさがるような体積のかさばる物や重量物を持った階段昇降はできるだけ避け、エレベータ、クレーン、階段昇降機等を利用する。

(3) 作業の実施体制

イ 腰部にかかる負担は、取り扱う重量や自動化の状況、作業時間等のほか、労働者の年齢、性別、体格、体力、さらには腰痛の程度等の個人的要因によって変化することにも注意し、作業密度、作業強度、作業量等が個々の労働者ごとに過大にならないよう配慮する。

ロ 一つの重量物を運搬等するに当たって複数人で行えば、1人あたりの負荷は軽減される。しかし、作業する者同士の身長差や作業姿勢、対象の重心位置等により、腰部負担が大きくなることもある。複数人で一つの物を持つ場合は、同様の体格の者同士を組ませ、不自然な姿勢をとらせないようにし、対象物の重心位置を考慮して各自が保持する箇所を決める。作業時間、作業量の設定に当たっては、女性及び高齢者の配置等に留意する。

(4) 作業標準

作業標準の策定
作業標準は、主な作業動作、作業姿勢、作業手順、作業時間、その他の作業方法等を網羅し、「正しい姿勢での作業」等のあいまいな表現は避け、必要に応じてイラストや写真等を用いた具体的な内容とする。
ロ 作業標準の見直し
作業標準は、労働者の健康状態、特性や技能レベル等を考慮し、作業内容に応じたものにする必要があ
り、人を対象とした介護・看護作業においては、労働者の健康状態、特性や技能レベルに加えて、介護・看護を受ける対象者の状態が変化するたびにも見直す。
(5) 休憩・作業量、作業の組合せ等
イ 各作業間に適切な長さと頻度の休憩を取ることにより、腰部の緊張を取り除くことが重要である。
加えて、腰痛の既往歴のある者やその徴候のある者は、適宜、小休止・休息を取り、その再発又は悪化を防ぐことが必要である。そうした者には、横になって安静を保てるよう十分な広さを有し、筋緊張が緩和できるよう快適な休憩設備を確保することが望ましい。

ロ 不自然な姿勢をとる時間が多い作業や、姿勢の拘束や同一動作の反復が多い作業では、他の腰部負担の少ない作業と組み合わせることにより、腰部に負担がかかる一連続作業時間が少しでも短くなるようにする。

ハ 人は昼間に作業能力が高まり、夜間は活動性が低下することから、夜勤、交代勤務及び不規則勤務等における作業量は、通常の日勤時の作業量を下回るように基準を決める等の配慮が必要である。また、長時間の夜勤は疲労の回復を阻害し、腰痛の発生リスクを高めることになる

(6) 靴、服装等

イ 転倒等の事故を防ぐために、作業用の靴や履物は、大きすぎず、土踏まずがあり、指のつけ根等足底のアーチをしっかりと支える足に適合、滑りにくいものとする。また、床面からの腰椎等への衝撃を少なくするため、底が薄すぎたり、硬すぎたりしない安全なものを選ぶ。転倒等の危険を避け、腰部及び下肢に負担となるような高いヒールの靴は履かないようにする。
ロ 作業服は、適切な姿勢や動作を妨げることのないよう伸縮性のあるものを使用する。また、汚れを気にすることなく、壁や床に肘や膝等をつけられるよう素材を考慮する。環境の温湿度は疲労や筋の緊張に影響する(1の(2)のロの(ロ)及び3の(1)を参照。)ことから、保温性、吸湿性、通気性を考慮した服装とする。ハ 腰痛保護ベルトは、装着することで腹圧上昇や骨盤補強効果などで腰痛の予防効果を狙ったものとされるが、腰部保護ベルトの腹圧を上げることによる体幹保持の効果については、見解が分かれている。職場では、装着により効果を感じられることもあるが、腰痛がある場合に装着すると外した後に腰痛が強まるということもある。また、女性労働者が、従来から用いられてきた幅の広い治療用コルセットを使用すると骨盤底への負担を増し、子宮脱や尿失禁が生じやすくなる場合があるとされている。このことから、腰部保護ベルトを使用する場合は、労働者全員が一律に使用するのではなく、労働者に腰部保護ベルトの効果や限界を理解させるとともに、必要に応じて産業医(又は整形外科医、産婦人科医)に相談することが適当である。

 

 

3 作業環境管理

(1) 温度
寒冷ばく露は腰痛を悪化させ、又は発生させやすくするので、屋内作業場において作業を行わせる場
合には、作業場内の温度を適切に保つこと。また、冬季の屋外のように低温環境下で作業させざるを得
ない場合には、保温のための衣服の着用や暖房設備の設置に配慮すること。
(2) 照明
作業場所、通路、階段等で、足もとや周囲の安全が確認できるように適切な照度を保つこと。
(3) 作業床面
労働者の転倒、つまずきや滑りなどを防止するため、作業床面はできるだけ凹凸がなく、防滑性、弾
力性、耐衝撃性及び耐へこみ性に優れたものとすることが望ましい。
(4) 作業空間や設備、荷の配置等
作業そのものや動作に支障をきたすような機器や設備の配置や整理整頓が不十分で雑然とした作業
空間、狭い作業空間は、腰痛の発生や症状の悪化につながりやすいことから、作業そのものや動作に支
障がないよう十分に広い作業空間を確保し、2の(2)のように作業姿勢、動作が不自然にならないよう、
機器・設備、荷の配置、作業台や椅子の高さ等に配慮を行うこと。
(5) 振動
車両系建設機械の操作・運転等により腰部と全身に著しく粗大な振動、あるいは、車両運転等により
腰部と全身に長時間振動を受ける場合、腰痛の発生が懸念されることから、座席等について振動ばく露
の軽減対策をとること。

【解説】「3 作業環境管理」について

(1) 温度
温度の設定が適切でない作業環境では、筋骨格系組織が良好に活動できないため、腰痛を悪化・発生させるおそれがある。温度の設定に当たっては、作業強度によって体熱の発生量が異なることから、立って行う軽作業に比べ、座作業ではやや高めに、重量物取扱い作業では低めにするよう配慮すること等が必要である。
また、部屋の中の位置(床面からの高さ、壁からの距離、空調との位置関係等)によって、温度が異なることにも注意することが必要である。
とりわけ、気温が低すぎると、寒冷反射により血管収縮が生じ、腰部の筋肉や軟部組織等が硬くなって、腰痛の誘因になることから、寒冷時の屋内作業場では暖房設備により適切な温度環境を維持することが望ましい(なお、適切な温度環境は作業能率の向上にもつながる)。労働者が工場内に点在し、又は工場全体の暖房が困難である場合には、労働者のいる付近を局所的に暖房する。また、冬季の屋外のような低温環境下で作業を行わせる場合には、保温のための衣服を着用させるとともに、適宜、暖が取れるよう休憩室等に暖房設備を設けることが望ましい。
(2) 照明
適切な照度のもと、安全な視認環境で作業することは、各種労働災害の防止の観点だけでなく、腰痛の発生防止の観点からも重要である。具体的には、作業場所、通路、階段などで、足もとや周囲の安全が確認できるようにすることで、作業者の滑り、腰痛の原因となる転倒、階段の踏みはずし等を防止することができる。また、適切な照度のもと、安全な視覚情報で作業することは、取り扱う機器や設備を適切に操作することを可能にし、誤操作等をしたことで慌て、咄嗟に腰を痛める動作をしてしまうことによる腰痛の発生防止にもつながる。
(3) 作業床面
作業床面に凹凸・段差がある場合や、作業床面が滑り易い状態の場合は、転倒、つまずき、滑り等のリスクが高まる。このため、作業床面はできるだけ凹凸・段差がなく、滑りにくいものとすることが望ましい。
(4) 作業空間や設備の配置等
不自然な作業姿勢、動作を避けるため、作業場、事務所、通路等の作業空間を十分に確保する必要がある。
十分な広さがない、動作や移動の際の作業動線の妨げとなるものがある等の場合には、あらかじめ適切な作業手順を検討できるよう、作業開始前に作業空間を十分認識しておくことが必要である。また、作業場そのものが整理整頓されておらず、雑然とものが置かれている状態では転倒等の危険があるため、日頃から整理・整頓・清潔に心がけるべきである。
機器や設備、作業台等を設置したり変更したりする場合は、労働者が機器や設備等に合わせて作業するのではなく、労働者に機器や設備等を合わせることにより、適切な作業位置、作業姿勢、高さ、幅等を確保することができるよう人間工学的な配慮を行う。
倉庫等では、搬出入が頻繁な荷物を戸口に近いところや運搬する際に抱えるのと同じ高さに配置して、歩行距離をできるだけ短くしたり、腰を伸ばしたり、かがめたりする動作を避ける等の配慮をする。

(5) 振動
車両系建設機械等の操作・運転により腰部と全身に著しく粗大な振動を受ける場合、車両運転等により腰部と全身に長時間振動を受ける場合は、腰痛の発生が懸念されることから、振動ばく露の軽減に配慮する。
具体的には、座席の座面・背もたれやその角度の改善、振動を減衰する構造を持つ座席への改造、小休止や休息をはさむなどによる粗大な振動の軽減や振動の連続した長時間ばく露の回避等の配慮を行うことが必要である(詳細は、別紙「作業態様別の対策」Ⅴの3の(1)及びその解説を参照)。

【指針】4 健康管理

(1) 健康診断
重量物取扱い作業、介護・看護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対して
は、当該作業に配置する際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、次のとおり医師による腰痛の健康診断を実施すること。
イ 配置前の健康診断
配置前の労働者の健康状態を把握し、その後の健康管理の基礎資料とするため、配置前の健康診断
の項目は、次のとおりとすること。
(イ) 既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査
(ロ) 自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の検査
(ハ) 脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性及び疼痛、腰背筋の緊張及び圧痛、脊椎棘突
起の圧痛等の検査
(ニ) 神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、筋萎縮等の検査
(ホ) 脊柱機能検査:クラウス・ウェーバーテスト又はその変法(腹筋力、背筋力等の機能のテスト)
なお、医師が必要と認める者については、画像診断と運動機能テスト等を行うこと。
ロ 定期健康診断
(イ) 定期に行う腰痛の健康診断の項目は、次のとおりとすること。
a 既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査
b 自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の検査
(ロ) (イ)の健康診断の結果、医師が必要と認める者については、次の項目についての健康診断を追加し
て行うこと。
a 脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性及び疼痛、腰背筋の緊張及び圧痛、脊椎棘
突起の圧痛等の検査
b 神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、徒手筋力テスト、筋萎縮等の検査
なお、医師が必要と認める者については、画像診断と運動機能テスト等を行うこと。
ハ 事後措置
事業者は、腰痛の健康診断の結果について医師から意見を聴取し、労働者の腰痛を予防するため必
要があると認めるときは、2の(3)の作業の実施体制を始め、作業方法等の改善、作業時間の短縮等、
就労上必要な措置を講ずること。また、睡眠改善や保温対策、運動習慣の獲得、禁煙、健康的なスト
レスコントロール等の日常生活における腰痛予防に効果的な内容を助言することも重要である。
(2) 腰痛予防体操
重量物取扱い作業、介護・看護作業等の腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対し、
適宜、筋疲労回復、柔軟性、リラクセーションを高めることを目的として、腰痛予防体操を実施させる
こと。なお、腰痛予防体操を行う時期は作業開始前、作業中、作業終了後等が考えられるが、疲労の蓄
積度合い等に応じて適宜、腰痛予防体操を実施する時間・場所が確保できるよう配慮すること。
(3) 職場復帰時の措置
腰痛は再発する可能性が高いため、休業者等が職場に復帰する際には、事業者は、産業医等の意見を
十分に尊重し、腰痛の発生に関与する重量物取扱い等の作業方法、作業時間等について就労上必要な措
置を講じ、休業者等が復帰時に抱く不安を十分に解消すること。

【解説】「4 健康管理」について

(1) 健康診断
イ 健康診断の目的
腰痛の健康診断は、腰痛の早期発見や腰痛につながる所見の発見と適正な事後措置を目的に実施するも
のである。健康診断の結果は、腰痛の発生リスクの高い人を発見し、その労働者個人に関する就労上の措
置を講じるにとどまらず、作業との関連性の視点から職場のリスクを発見し、腰痛の予防対策に反映・活
用すること。
ロ 対象者の目安
「重量物取扱い作業、介護・看護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者」とは、
重量物取扱い作業、福祉・医療分野等における介護・看護作業のほか、これらに準じて腰痛の予防・管理
等が必要とされる作業で、例えば、腰痛が発生し、又は腰痛の愁訴者が見られる等の作業に常時従事する
労働者が目安となる。
当該作業に従事していた労働者を一定期間腰部に負担のかからない作業に従事させ、再度、当該作業に
配置する場合についても、配置前の健康診断の対象とすること。
ハ 既往歴の有無の調査及び自覚症状の有無の検査
配置前及び定期の健康診断における既往歴の有無の調査及び自覚症状の有無の検査については、医師が
直接問診することが望ましいが、腰痛健康診断問診票を用いて産業医等医師の指導の下に保健師等が行っ
てもよい。その場合には、医師は、保健師等と事前に十分な打合せを行い、それぞれの問診項目の目的と
意義について正しく理解させておくことが必要である。なお、医師が自ら診察をしないで、診断してはな
らないのはもちろんである。
ニ 配置前の健康診断
配置前の健康診断の項目のうち(イ)及び(ロ)の項目の検査の実施にあたっては、参考1の腰痛健康診断問診
票を(例)、また、(ハ)から(ホ)までの検査の実施にあたっては、参考2の腰痛健康診断個人票(例)を用い
ることが望ましい。
業務歴の調査においては、過去の具体的な業務内容を聴取することが必要である。
ホ 定期健康診断
定期健康診断においては、限られた時間内に多数の労働者を診断し、適切な措置を講じることが要求さ
れるが、腰痛は自覚症状としての訴えが基本的な病像であり、様々な因子に影響を受けることが多いため、
問診は重要である。
定期健康診断の項目のうち(イ)の項目についてはスクリーニング検査とし、参考1の腰痛健康診断問診票
(例)を用いて、また、(ロ)の項目の検査の実施にあたっては、参考2の腰痛健康診断個人票(例)を用い
て行うことが望ましい。
なお、画像診断と運動機能テスト等は、医師が必要と認める者については行うことになるが、これらに
ついて、医師から、検査を実施する根拠や必要性について労働者に説明してもらった上で実施する。
ヘ 事後措置
健康診断は、継続的な健康管理の一環として行うものであるが、単に腰痛者を発見し、早期に治療につ
なげることのみを目的としたものではない。事業者は、労働者の腰痛を予防するため、健診結果について
産業医等の意見を十分に聴取し、労働者の健康の保持のため必要があると認めるときは、作業方法の改善、
作業時間の短縮、作業環境の整備等を行わなければならない。この場合、健康診断結果をその労働者の健
康管理に役立てるだけでなく、作業の種類別等に比較・分析し、作業環境や作業方法等の改善に活用する
ことが望ましい。
また、健康診断の結果、異常が発見された場合は、産業医等の意見に基づき、必要な治療・運動療法の
指導等の措置を講じなければならない。
(2) 腰痛予防体操
職場や家庭において腰痛予防体操を実施し、腰部を中心とした腹筋、背筋、臀筋等の筋肉の柔軟性を確
保し、疲労回復を図ることが腰痛の予防にとって重要である。腰痛予防体操は、ストレッチング(ストレ
ッチ、ストレッチ体操)を主体とするものが望ましく、実施する時期についても作業開始前、作業中、作
業終了後等が考えられるが、疲労の蓄積度合いに応じて適宜、腰痛予防体操を実施できるようにすること
で、ストレッチングの本来の効果が得られる。なお、全身運動や筋力増強を目的とした運動は、個々の腰
痛等の健康状態を考慮し、無理のない範囲で実施するとよい。
ストレッチングには、反動や動きを伴う「動的ストレッチング」もあるが、腰痛予防体操としては、「ス
トレッチング」と言ったときに一般的によく念頭に置かれる、筋肉を伸ばした状態で静止する「静的なス
トレッチング」が、筋肉への負担が少なく、安全に筋疲労回復、柔軟性、リラクセーションを高めること
ができるため、推奨される。
効果的な静的ストレッチングを行うポイントは、
①息を止めずにゆっくりと吐きながら伸ばしていく
②反動・はずみはつけない
③伸ばす筋肉を意識する
④張りを感じるが痛みのない程度まで伸ばす
⑤20 秒から 30 秒伸ばし続ける
⑥筋肉を戻すときはゆっくりとじわじわ戻っていることを意識する
⑦一度のストレッチングで 1 回から 3 回ほど伸ばす
等である。なお、急性期の腰痛で痛みなどがある場合や回復期で痛みが残る場合には、ストレッチングを
実施するかどうかは医師と相談する。
職場で、適宜ストレッチングを実施するにあたり、床や地面に横になることに心理的抵抗がある場合は、
作業空間、机、椅子などを活用する等工夫をする。
参考3に事務スペースでのストレッチングの例、参考7に介護・看護作業のストレッチングの例、参考
9に車両運転等の作業のストレッチングの例を示す。
(3) 職場復帰時の措置支援
腰痛は再発する可能性が高い疾病である。そのため、特に腰痛による休業者等が職場に復帰する際には、
事業者は、産業医等の意見を十分に尊重し、重量物取扱い等の作業方法、作業時間について就労上必要
な措置を講じて、腰痛発生に関与する要因を職場から排除・低減し、休業者等が復帰時に抱く不安を十
分に解消するよう努める必要がある。

 

【指針】5 労働衛生教育等

(1) 労働衛生教育
重量物取扱い作業、同一姿勢での長時間作業、不自然な姿勢を伴う作業、介護・看護作業、車両運転
作業等に従事する労働者については、当該作業に配置する際及びその後必要に応じ、腰痛予防のための
労働衛生教育を実施すること。
教育は、次の項目について労働者の従事する業務に即した内容で行う。また、受講者の経験、知識等
を踏まえ、それぞれのレベルに合わせて行うこと。
① 腰痛の発生状況及び原因
② 腰痛発生要因の特定及びリスクの見積り方法
③ 腰痛発生要因の低減措置
④ 腰痛予防体操
なお、当該教育の講師としては、腰痛予防について十分な知識と経験を有する者が適当であること。
(2) 心理・社会的要因に関する留意点
職場では、腰痛に関して労働者が精神的ストレスを蓄積しないよう、上司や同僚の支援や相談窓口を
つくる等の組織的な対策を整えること。
(3) 健康の保持増進のための措置
腰痛を予防するためには、職場内における対策を進めるのみならず、労働者の日常生活における健康
の保持増進が重要である。このため、労働者の体力や健康状態を把握した上で、睡眠、禁煙、運動習慣、
バランスのとれた食事、休日の過ごし方に関して産業医等による保健指導を行うことが望ましい。

【解説】「5 労働衛生教育等」について

(1) 労働衛生教育
腰痛の発生要因は、作業姿勢、動作と密接に関連していること等から、腰痛の予防のための労働衛生教育
を実施する必要がある。この労働衛生教育は、労働者の雇入れ時や対象業務への配置換えの際に確実に実施
するほか、その労働者に腰痛が発生した時、作業内容・工程・手順・設備の変更時等にも行うことが重要で
ある。
①腰痛の発生状況及び原因としては、腰痛者数、腰痛が発生している作業内容や作業環境、腰痛の発生原
因等、②腰痛発生要因の特定及びリスクの見積り方法としては、チェックリストの作成と活用を含めたリス
クアセスメントの方法に関すること、③腰痛発生要因の低減措置としては、発生要因の回避又は軽減を図る
ための対策として、例えば作業方法や作業環境の改善、補助機器や福祉用具の使用に関すること、④腰痛予
防体操としては、その職場で実施可能な具体的なストレッチングの仕方などがある。
重量物取扱い作業と介護・看護作業については、腰部に著しく負担のかかる作業のため、定期的に教育を
実施していく。
なお、当該教育の実施に当たっては、十分な知識と経験のある産業医や事業場外部の専門家等に講師を依
頼したり、連携して研修を実施することが望ましい。教育時には視聴覚機器を使用し、グループワーク、討
議等の方法を取り入れて、教育効果が上がるように工夫することが望ましい。
(2) 心理・社会的要因に関する留意点
上司や同僚のサポート、腰痛で休業することを受け入れる環境づくり、腰痛による休業からの職場復帰支
援、相談窓口をつくる等の組織的な取り組みが有用である。
(3) 日常生活での留意点
十分な睡眠、入浴等による保温、自宅でのストレッチング等は、全身及び腰部筋群の疲労回復に有効であ
る。喫煙は末梢血管を収縮させ、特に腰椎椎間板の代謝を低下させる。日頃からの運動習慣は、腰痛の発生
リスクを低減させることから、負担にならない程度の全身運動をすることが望ましい。バランスのとれた食
事をとることは、全身及び筋・骨格系の疲労や老化の防止に好ましい作用が期待される。休日には、疲労が
蓄積するようなことは避け、疲労回復や気分転換等を心がけるようにする。

 

【指針】6 リスクアセスメント及び労働安全衛生マネジメントシステム

職場における腰痛の発生には動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因といった多様な要
因が関与するとともに、それぞれの事業場によって作業は様々であることから、腰痛予防対策は、一律
かつ網羅的に各種取組を行うのではなく、費用対効果を検討し、的確な優先順位設定の下、各作業にお
けるリスクに応じて、合理的に実行可能かつ効果的な対策を講じることが必要である。こうしたことを
志向した安全衛生活動を実施していくためには、それぞれの作業の種類ごとに、場合によっては作業場
所ごとに、腰痛の発生に関与する要因のリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいて適切な予防
対策を実施していくという手法を導入することが重要である。
また、職場で腰痛を予防するには、作業管理、作業環境管理、健康管理、労働衛生教育を的確に組み
合わせて総合的に推進していくことが求められる。そうした予防対策は、腰痛の発生要因が作業様態や
労働者等の状況によって変化すること等から継続性を確保しつつ、また、業務の進め方と密接な関係に
あることや人材や予算が必要になることから、事業実施に係る管理と一体となって行われる必要がある。
こうしたことを志向した安全衛生活動を実施していくためには、事業場に労働安全衛生マネジメントシ
ステムの考え方を導入することが重要となる。

【解説】「6 リスクアセスメント及び労働安全衛生マネジメントシステム」について

(1) リスクアセスメント
リスクアセスメントとは、職場にある様々な危険の芽(リスク)を洗い出し、それにより起こる労働災害
リスクの大きさ(重大さ+可能性)を見積もり、大きいものから優先的に対策を講じていく手法である。
イ リスクアセスメント導入の意義
職場での腰痛の発生には、動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因といった多岐にわたる
要因が複合的に関わっており、これらの要因が腰痛の発生にどのように関与するかは、個々の職場や個々
の労働者によって様々である。このことから、対策をとるにあたっては、それぞれの作業の種類ごとに、
腰痛の発生要因を特定し、それが関与する度合いを評価する必要がある(すなわちリスクアセスメントの
実施)。場合によっては、作業の種類をさらに分割し、作業の実施体制や作業空間(作業姿勢・動作に制
約を与える)などの異なる、作業場所ごとに実施する必要がある。
ISO の人間工学を扱う専門委員会からは、医療介護部門で患者・利用者の介護・看護にあたってのリス
クアセスメント等の必要性を解説した技術報告書(ISO/TR 12296)が出されており、国際的にも腰痛多
発職場で、腰痛予防対策としてリスクアセスメントの考え方を活用すべきであるという提案がなされてい
る。
なお、リスクアセスメントについては、労働安全衛生規則第 24 条の2に基づく「労働安全衛生マネジ
メントシステムに関する指針」で示されているとともに、一定の業種に該当する場合等においては、労働
安全衛生法第 28 条の2において努力義務として定められている。
ロ リスクアセスメントの具体的な進め方と効果
リスクアセスメントの導入には、事業場トップが導入を決意表明し、リスクアセスメント担当者(実施
責任者)を選任し推進メンバーを明確にすることが必要である。
リスクアセスメントは、「危険性又は有害性の特定」→「特定された危険性又は有害性ごとのリスクの
見積り」→「見積りに基づくリスクを低減させるための優先度の設定及びリスク低減措置の内容の検討」
→「優先度に対応したリスク低減措置の実施」の手順で実施する。その際、作業標準などの資料も入手・
活用する。
リスクアセスメントを実効あるものにしていくには、事業場のトップ、安全・衛生管理者、作業内容を
詳しく把握している職長等についてそれぞれの職務に応じた腰痛予防対策の役割を設定し、安全衛生委員
会の活動等を通じて労働者を参画させ、職場で感じた腰痛要因の体験メモの記入など全従業員の参加・協
力を得るなど、全社的な実施体制のもとで推進することが重要である。
こうした実施体制をとることで、職場のリスクに対する認識を管理者含めた職場全体で共有でき、また、
職場全員が参加することにより腰痛発生リスクに対する感受性が高めることができる。また、リスクを洗
い出す(特定する)ことで、職場のリスクが明確になる。リスクの見積もりを経ることで、合理的に優先
順位を決めることができる。洗い出した各リスクについて、回避・低減措置を検討することで、残された
リスクについて「守るべき決め事」の理由が明確になる。
なお、リスクアセスメントを実施した場合、洗い出した作業、特定した危険性又は有害性、見積もった
リスク、設定したリスク低減措置の優先度、実施したリスク低減措置の内容を記録して保管することは、
次のリスクアセスメントを実施する際の参考となり、(2)で後述するように、取り組みの継続性を確保する
上でポイントとなる。
リスクの見積り手法については、厚生労働省作成の解説、マニュアル・パンフレット等における実施例
が参考になる。
ハ 腰痛予防対策を進めるためのチェックリストの活用
腰痛の発生に関与する要因を洗い出し、そのリスクを評価するためには、チェックリストの活用が有効
である。厚生労働省の「介護作業者の腰痛予防対策チェックリスト」(参考4)等を参考にし、各職場の
状況に応じたチェックリストを作成することが望ましい。
職場でチェックリストを使用する手順を図 1 に示す。
まず、対象作業をその具体的な内容とともに書き出す。①~③を通じて、リスクの洗い出しと見積もり
を行う。リスクが大きく対応が必要と思われる項目は、その職場に対策の検討するよう伝達する(④~⑤)。
伝達された職場では、必要に応じて専門家から助言等を得て(⑦)、どのような解決策があるのか検討し
つつ、伝達されたリスクの大きさに応じて対策の要否・優先度を検討し、実施する対策の内容を決定する
(⑥)。対策の決定時に、職場を巡視しつつ、対策を講じることによって新たなリスクが生じないか確認
するほか、一定期間後に、対策がうまく機能しているか等の実施状況や新たに対応すべき事項が生じてい
ないか確認する(⑧)。図 1 の手順③を始め、(2)で後述するように、作業内容に詳しい労働者の参画を得る
ことで取組が効果的になる。
なお、腰痛予防対策のためのチェックリストを初めて活用する際には、腰痛の発生が危惧される作業や
過去に腰痛が発生した作業を対象に限定して、腰痛の発生に関与する要因のリスクがどの程度かを評価す
る(リスクの見積り)ことが考えられる。
ニ アクション・チェックリスト
最近は、実施すべき改善対策を同時に選択・提案するアクション・チェックリストを用いる例がみられ
る。
アクション・チェックリストは、改善のためのアイデアや方法を見つけることを目的とした改善・解決
志向形のチェックリストであり、様々な種類の対策がある腰痛予防を進めるにあたって、重要なポイント
を中心に、できることから改善をはじめるために優れたツールである。
職場巡視の結果や同業他社の職場改善事例を参考にして、効果的な腰痛予防対策をチェック項目とする
リストを予め策定し、職場でのグループ討論を踏まえ、実施するリスクの回避・低減措置を決定していく。
なお、このアクション・チェックリストの考え方は、職場のメンタルヘルス等の健康問題への取組み
(http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/ACL/)でも活用されている。
(2) 労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS: Occupational Safety and Health Management System)
労働安全衛生マネジメントシステムでは、トップによる安全衛生方針の表明や目標の設定を行いつつ、
リスクアセスメントの結果をもとに「計画を立て(Plan)」→「計画を実施し(Do)」→「実施結果を評
価し(Check)」→「評価を踏まえて見直し、改善する(Act)」という一連のサイクル(PDCA サイクル)
により、事業実施の管理と一体的に、また、継続的かつ体系的に安全衛生対策に取り組むことを求めてい
る(図2参照)。これらの活動を支える基本要素としては、体制の整備、労働者の意見の反映、文書化、
記録とその保管等が重要である。
イ 労働安全衛生マネジメントシステム導入の意義
腰痛の発生要因は、多岐にわたり、作業様態や労働者の状況によって様々な形で関与するため、腰痛予
防対策は、一律かつ網羅的に各種取組を行うのではなく、各種取組を体系的に行う必要がある。また、腰
痛の発生要因は、多岐に渡ることから優先順を設定し順次その解消を図っていくことが必要であるほか、
作業様態や労働者等の状況ととともに変化していくものであるため、腰痛予防対策は、実施状況等を記録
しつつ、継続的に取り組む必要がある。また、腰痛予防対策は、業務の進め方と密接な関係にあることや
人材や予算が必要になることから、事業実施に係る管理と一体となり、また、作業内容等に詳しい現場の
労働者等の意見を反映していくことが重要である。こうしたことから、労働安全衛生マネジメントシステ
ムを職場に導入・定着させていくことが有効である。
マネジメントシステムの導入より、PDCA サイクルを繰り返し実施していくことで、徐々に安全衛生の
水準が向上していくほか、転倒災害の防止などその他の安全衛生対策とも一体的に検討・実施していくこ
とで効率的・効果的に安全衛生対策に取り組むことが期待される。
ロ 労働安全衛生マネジメントシステムの具体的な進め方
労働安全衛生マネジメントシステムを導入した後、腰痛予防対策に取り組む際の手順は以下のようにな
る。
まず、 (1)で前述した全社的な推進体制が確立されるよう、実施体制・目標・計画等を明文化し、各管
理者・担当者の役割、責任及び権限を定め、マネジメントシステムを導入する等の方針を事業者自らが表
明することが必要である。その際、外部研修を利用したり、内部で勉強会等を開催するなどの人材の養成
を行う。
Plan では、①事業者は腰痛の予防対策の目標を具体的に設定する、②腰痛を発生させる要因について
リスクアセスメントを適切に実施する、③②に基づき優先順位を決め、リスクの回避・低減対策(適切な
作業方法、作業標準の作成、労働者へのリスク教育含む)を作成する。
Do では、④③で作成したリスクの回避・低減対策を実施する。
Check では、⑤③で作成したリスクの削減・低減対策が職場で十分実施されているか評価する(チェッ
クリストや職場巡視、労働者への聴き取り、温度・湿度、照明等の作業環境測定等を活用する)、⑥計画
した腰痛の予防対策や目標が実施・達成されたかどうかを評価する(腰痛有訴状況などの調査や健診結果、
休業調査等を活用する)。
Act では、⑦⑤や⑥の結果を踏まえて新たな目標や計画を作成する(問題があった場合のほか、作業態
様や労働者の状況に変化が生じた場合には、リスクの回避・低減対策を見直す必要がある。また、必要に
応じて、労働者に対する再教育など安全衛生水準を維持するための対策もくり返し講じていく必要があ
る。)。

【指針】別紙 作業態様別の対策

I 重量物取扱い作業
重量物を取り扱う作業を行わせる場合には、事業者は、単に重量制限のみを厳守させるのではなく、取扱い回数等の作業密度を考慮し、適切な作業時間、人員配置等に留意しつつ、次の対策を講ずること。なお、重量物とは製品、材料、荷物等のことを指し、人を対象とした抱上げ等の作業は含まない。
1 自動化、省力化
重量物の取扱い作業については、適切な動力装置等により自動化し、それが困難な場合は、台車、補
助機器の使用等により人力の負担を軽減することを原則とすること。例えば、倉庫の荷役作業においては、リフターなどの昇降装置や自動搬送装置等を有する貨物自動車を採用したり、ローラーコンベヤーや台車・二輪台車などの補助機器や道具を用いるなど、省力化を図ること。

2 人力による重量物の取扱い

(1) 人力による重量物取扱い作業が残る場合には、作業速度、取扱い物の重量の調整等により、腰部
に負担がかからないようにすること。

(2) 満 18 歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね 40%以下とな
るように努めること。満18歳以上の女子労働者では、さらに男性が取り扱うことのできる重量の60%
位までとすること。

(3) (2)の重量を超える重量物を取り扱わせる場合、適切な姿勢にて身長差の少ない労働者2人以上
て行わせるように努めること。この場合、各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。

3 荷姿の改善、重量の明示等
(1) 荷物はかさばらないようにし、かつ、適切な材料で包装し、できるだけ確実に把握することので
きる手段を講じて、取扱いを容易にすること。
(2) 取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること。

(3) 著しく重心の偏っている荷物は、その旨を明示すること。

(4) 荷物の持上げや運搬等では、手カギ、吸盤等の補助具の活用を図り、持ちやすくすること。

(5) 荷姿が大きい場合や重量がかさむ場合は、小分けにして、小さく、軽量化すること。

4 作業姿勢、動作
労働者に対し、次の事項に留意させること。

重量物を取り扱うときは、急激な身体の移動をなくし、前屈やひねり等の不自然な姿勢はとらず、か
つ、身体の重心の移動を少なくする等できるだけ腰部に負担をかけない姿勢で行うこと。具体的には、次の事項にも留意させること。

(1) 重量物を持ち上げたり、押したりする動作をするときは、できるだけ身体を対象物に近づけ、重
心を低くするような姿勢を取ること。
(2) はい付け又ははいくずし作業においては、できるだけ、はいを肩より上で取り扱わないこと。
(3) 床面等から荷物を持ち上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げ、腰を十分に降ろして当
該荷物をかかえ、膝を伸ばすことによって立ち上がるようにすること
(4) 腰をかがめて行う作業を排除するため、適切な高さの作業台等を利用すること。
(5) 荷物を持ち上げるときは呼吸を整え、腹圧を加えて行うこと。
(6) 荷物を持った場合には、背を伸ばした状態で腰部のひねりが少なくなるようにすること。
(7) 2人以上での作業の場合、可能な範囲で、身長差の大きな労働者同士を組み合わせないようにす
ること。
5 取扱い時間

(1) 取り扱う物の重量、取り扱う頻度、運搬距離、運搬速度など、作業による負荷に応じて、小休止・
休息をとり、また他の軽作業と組み合わせる等により、連続した重量物取扱い時間を軽減すること。
(2) 単位時間内における取扱い量を、労働者に過度の負担とならないよう適切に定めること。
6 その他
(1) 必要に応じて腰部保護ベルトの使用を考えること。腰部保護ベルトについては、一律に使用させ
るのではなく、労働者ごとに効果を確認してから使用の適否を判断すること。
(2) 長時間車両を運転した後に重量物を取り扱う場合は、小休止・休息及びストレッチングを行った
後に作業を行わせること。
(3) 指針本文「4 健康管理」や「5 労働衛生教育等」により、腰部への負担に応じて適切に健康
管理、労働衛生教育等を行うこと。

【解説】I 重量物取扱い作業

重量物取扱い作業では、重量、数量、荷物の特性(大きさ、荷姿、荷物の温度、危険性等)、作業姿勢、作
業速度、作業頻度、補助機器の有無等が腰痛の発生に関する要素となる。
1 自動化、省力化
腰痛予防のための人間工学的対策は、作業姿勢の改善という目的から開発されたものと、重量物取扱い動作の改善という目的から開発されたものがあるが、具体的な対策は両者に共通する場合が多い。このような対策の具体例として、自動車組み立て工程におけるベルトコンベアやサスペンション等の採用、機械組み立て工程におけるバランサーの採用、足踏式油圧リフターの採用等が挙げられる。
トラック等の貨物自動車を運転する労働者は、車両運転だけでなく、荷物の積み卸し作業も行うことが多い。しかも、目的地等に到着した直後に荷物の積み卸し作業を実施するため、姿勢拘束という静的筋緊張から重量物の取扱いという動的筋緊張を強いられることとなる。このように長時間の車両運転の直後に重量物を取扱うことは好ましくない。このことから、事業者は、リフターなどの昇降装置や自動搬送装置などを有する貨物自動車を採用したり、ローラーコンベヤーや台車・二輪台車などの補助器具を用いて、重量物取扱いの自動化・省力化などに努めると共に、取扱い重量の制限や標準化、取り扱う重量物の測定や重量の表示・明示などに行い、労働者の重量物取扱いによる負担の軽減に努めること。
2 人力による重量物の取扱い
最大筋力を発揮できる時間は極めて短時間であって、筋力は時間とともに急激に低下する。このことから、取扱い重量の上限は、把持時間との兼ね合いで決まる。また、把持時間は、筋力の強弱によって左右される。
重量物を反復して持ち上げる場合は、その回数の分だけ、エネルギー消費量が大きくなり、呼吸・循環器系の負担が大きくなっていくので、反復回数に応じて作業時間と小休止・休息時間を調節する必要がある。
なお、一般に女性の持上げ能力は、男性の 60%位である。また、女性労働基準規則では、満 18 歳以上の女性で、断続作業 30kg、継続作業 20kg 以上の重量物を取扱うことが禁止されている。

3 荷姿の改善、重量の明示等
同一重量でも、荷物の形状によって取扱いに難易がある。取り扱う荷物に取っ手等を取り付けたり、包装して持ちやすくしたりすることがあるが、その場合は、重心の位置ができるだけ労働者に近づくようにする。
実際の重量が、外見とは大きく異なり、誤った力の入れ方、荷物の反動等により、腰部に予期せぬ負担が発生し、腰痛を引き起こすことがある。取り扱う荷物の重量を表示することにより、労働者が、あらかじめ当該荷物の重量を知り、持ち上げる等の動作に当たり、適切な構えで行うことが可能となる。
なお、著しく重心の偏っている荷物で、それが外見から判断できないものについては、重心の位置を表示
図 a 図 b

好ましい姿勢 好ましくない姿勢
図 c 図 d

好ましい姿勢 好ましくない姿勢
し、適切な構えで取り扱わせることも必要である。
4 作業姿勢、動作
できるだけ身体を対象物に近づけ、重心を低くする姿勢をとることで、不自然な姿勢を回避しやすくなる。
床面等から荷物を持ち上げる場合は、片足を少し前に出し、膝を曲げてしゃがむように抱え(図a)、この姿勢から膝を伸ばすようにすることによって、腰ではなく脚・膝の力で持ち上げる。両膝を伸ばしたまま上体を下方に曲げる前屈姿勢(図b)を取らないようにする。ただし、膝に障害のある者が軽量の物を取り扱う場合には、この限りでない。
また、荷物を持ち上げたり、運んだりする場合は、荷物をできるだけ体に近づけるようにして(図 c)、荷物と体が離れた姿勢(図 d)にならないようにする。
重量物を持ったまま身体をねん転させるという動作は、腰部への負担が極めて大きくなるため腰痛が発生しやすい。身体のひねりを伴う作業を解消することが理想であるが、それが困難な場合には作業台の高さ、位置、配列等を工夫し、身体のひねりを少なくする。
「はい」とは、「倉庫、上屋又は土屋に積み重ねられた高さ 2 メートル以上の荷」のことを指し、「はい付け」「はいくずし」とは「はい」の積み上げと積み卸しのことをいう。

5 その他
(1) 腰部保護ベルトの腹圧を上げることによる体幹保持の効果については、見解が分かれている。作業で装着
している間は、装着により効果を感じられることもある一方、腰痛がある場合に装着すると外した後に腰痛
が強まるということもある。また、女性労働者が、従来から用いられてきた幅の広い治療用コルセットを使
用すると骨盤底への負担を増し、子宮脱や尿失禁が生じやすくなる場合があるとされている。このことから、
腰部保護ベルトを使用する場合は、労働者全員に一律に使用させるのではなく、労働者に腰部保護ベルトの
効果や限界を理解させるとともに、必要に応じて産業医(又は整形外科医、産婦人科医)に相談することが
適当である。
(2) 長時間の車両の運転から生ずる姿勢拘束による末梢血液循環の阻害や一時的な筋力調整不全が生ずることが
あり、荷物の積み卸し作業に当たっては、運転直後に重量物を取り扱うことは好ましくない。

 

【指針】Ⅱ 立ち作業

機械・各種製品の組立工程やサービス業等に見られるような立ち作業においては、拘束性の強い静的姿
勢を伴う立位姿勢、前屈姿勢や過伸展姿勢など、腰部に過度の負担のかかる姿勢となる場合がある。
このような立位姿勢をできるだけ少なくするため、事業者は次の対策を講ずること。
1 作業機器及び作業台の配置
作業機器及び作業台の配置は、前屈、過伸展等の不自然な姿勢での作業を避けるため、労働者の上肢
長、下肢長等の体型を考慮したものとする。
2 他作業との組合せ

長時間の連続した立位姿勢保持を避けるため、腰掛け作業等、他の作業を組み合わせる

3 椅子の配置

(1) 他作業との組合せが困難であるなど、立ち作業が長時間継続する場合には、椅子を配置し、作業の
途中で腰掛けて小休止・休息が取れるようにすること。また、座面の高い椅子等を配置し、立位に加
え、椅座位でも作業ができるようにすること。

(2) 椅子は座面の高さ、背もたれの角度等を調整できる背当て付きの椅子を用いることが望ましい。それができない場合には、適当な腰当て等を使用させること。また、椅子の座面等を考慮して作業台の下方の空間を十分に取り、膝や足先を自由に動かせる空間を取ること。
4 片足置き台の使用
両下肢をあまり使用しない作業では、作業動作や作業位置に応じた適当な高さの片足置き台を使用さ
せること。
5 小休止・休息
立ち作業を行う場合には、おおむね1時間につき、1、2回程度小休止・休息を取らせ、下肢の屈伸
運動やマッサージ等を行わせることが望ましい。
6 その他
(1) 床面が硬い場合は、立っているだけでも腰部への衝撃が大きいので、クッション性のある作業靴やマットを利用して、衝撃を緩和すること。
(2) 寒冷下では筋が緊張しやすくなるため、冬期は足もとの温度に配慮すること。
(3) 指針本文「4 健康管理」や「5 労働衛生教育等」により、腰部への負担に応じて適切に健康管
理、労働衛生教育等を行うこと。

【解説】Ⅱ 立ち作業

1 作業機器及び作業台の配置
作業機器や作業台の配置が適当でない場合は、前屈姿勢(おじぎ姿勢)や過伸展姿勢(反返りに近い姿勢)を強いられることになるが、これらの姿勢は椎間板内圧を著しく高めることが知られている。
作業台が高い場合は、滑りや転倒を配慮し、足台を使用する。作業台が低い場合は、作業台を高くするか、それができない場合には椅子等の腰掛け姿勢がとれるものを使用する。
2 他作業との組合せ
腰椎にかかる力学的負荷は、立位姿勢より椅座位姿勢のほうが大きいため、立位姿勢に椅座位姿勢を組み合わせる場合には、腰痛の既往歴のある労働者に十分配慮する必要がある。
3 椅子の配置
長時間立位姿勢を保つことにより、椎間板にかかる内圧の上昇のほかに、脊柱支持筋及び下肢筋の筋疲労が生じる。座ったまま作業できるような椅子を使用すると、脊柱支持筋及び下肢筋の緊張を緩和し、筋疲労を軽減するのに効果がある。長時間、椅座位姿勢を続けると背部筋の疲労によって前傾姿勢になり、また、腹筋の弛緩、背柱の生理的彎曲の変化や大腿部圧迫の影響も現れる。この影響を避けるため、足の位置を変えたり、背もたれの角度を変えて後傾姿勢を取ったり、適宜立ち上がって膝を伸ばすほか、クッション等の腰当てを椅子と腰部の間に挿入する等、姿勢を整える必要がある。

4 片足置き台の使用

片足置き台に、適宜、交互に左右の足を載せて、姿勢に変化をつけることは、腰部負担の軽減に有効である。片足置き台は適切な材料で、安定性があり、滑り止めのある適当な大きさ、高さ、面積のあるものとする。

5 小休止・休息
小休止・休息を取り、下肢の屈伸運動等を行うことは、下肢の血液循環を改善するために有効である。

【指針】Ⅲ 座り作業

座り姿勢は、立位姿勢に比べて、身体全体への負担は軽いが、腰椎にかかる力学的負荷は大きい。

一般事務、VDT 作業、窓口業務、コンベヤー作業等のように椅子に腰掛ける椅座位作業や直接床に座る座作業において、拘束性の強い静的姿勢で作業を行わせる場合、また腰掛けて身体の可動性が制限された状態にて、物を曲げる、引く、ねじる等の体幹の動作を伴う作業など、腰部に過度の負担のかかる作業を行わせる場合には、事業者は次の対策を講ずること。

また、指針本文「4 健康管理」や「5 労働衛生教育等」により、腰部への負担に応じて、健康管理、労働衛生教育等を行うこと。
1 腰掛け作業
(1) 椅子の改善

座面の高さ、奥行きの寸法、背もたれの寸法と角度及び肘掛けの高さが労働者の体格等に合った椅
子、又はそれらを調節できる椅子を使用させること。椅子座面の体圧分布及び硬さについても配慮す
ること。
(2) 机・作業台の改善
机・作業台の高さや角度、机・作業台と椅子との距離は、調節できるように配慮すること。
(3) 作業姿勢等
労働者に対し、次の事項に留意させること。
イ 椅子に深く腰を掛けて、背もたれで体幹を支え、履物の足裏全体が床に接する姿勢を基本とする
こと。また、必要に応じて、滑りにくい足台を使用すること。
椅子と大腿下部との間には、手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加わら
ないようにすること。
膝や足先を自由に動かせる空間を取ること
ニ 前傾姿勢を避けること。また、適宜、立ち上がって腰を伸ばす等姿勢を変えること。

(4) 作業域

腰掛け作業における作業域は、労働者が不自然な姿勢を強いられない範囲とすること。肘を起点と
して円弧を描いた範囲内に作業対象物を配置すること

2 座作業

直接床に座る座作業は、仙腸関節、股関節等に負担がかかるため、できる限り避けるよう配慮するこ
と。やむを得ず座作業を行わせる場合は、労働者に対し、次の事項に留意させること。

(1) 同一姿勢を保持しないようにするとともに、適宜、立ち上がって腰を伸ばすようにすること。

(2) あぐらをかく姿勢を取るときは、適宜、臀部が高い位置となった姿勢が取れるよう、座ぶとん等を折り曲げて臀部をその上に載せて座ること

 

【解説】Ⅲ 座り作業

1 腰掛け作業
次のような取り組みのほか、腰痛予防の観点からも、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成 14 年4月5日付け基発第 0405001 号)の基づく措置を講じて心身の疲労を軽減することが望ましい。

(1) 椅子の改善
椅座位において腰の角度を 90°に固定すると骨盤が後方に回転し、腰部の生理的後彎が減少する。重心が前方に移るため、腰背筋の活動性が高まる。また、椅座位は立位に比べて椎間板内圧が高くなる。腰痛と関係のあるこのような状態を緩和するために、椅子の改善が重要である。
腰痛防止の観点から望ましい椅子の条件は、次のとおりである。
背もたれは後方に傾斜し、腰パットを備えていること。腰パットの位置は頂点が第3腰椎と第4腰椎(下から順に第5,第4,第3,第2,第1腰椎)の中間にあることが望ましい。
② 座面が大腿部を圧迫しすぎないこと。
③ 椅子は労働者の体格に合わせて調節できること。椅子の調節部位は座面高、背もたれ角度、肘掛けの高さ・位置、座面の角度等である。
④ 椅子は、作業中に労働者の動作に応じて、その位置を移動できるようにキャスター付きの安定したもので、座面や背もたれの材質は、快適で熱交換の良いものが望ましい。
(2) 机・作業台の改善
机・作業台上の機器・用具を適切に配備することで、適切な座姿勢を確保しつつ、人間工学的に適切な作業域、ワークステーションを実現することができる。
(3) 作業姿勢等
長時間、椅座位姿勢を続けると背部筋の疲労によって前傾姿勢になり、また、腹筋の弛緩、背柱の生理的彎曲の変化や大腿部圧迫の影響も現れる。この影響を避けるため、足の位置を変えたり、背もたれの角度を変えて後傾姿勢を取ったり、適宜立ち上がって膝を伸ばすほか、クッション等の腰当てを椅子と腰部の間に挿入する等、姿勢を変える必要がある。
2 座作業
直接床に座る座作業では、強度の前傾姿勢が避けられないため、腰部の筋収縮が強まり、椎間板内圧が著しく高まる。このことから、できるだけ座作業を避けることが必要である。それが困難な場合は、作業時間に余裕をもたせ、小休止・休息を長めに、回数を多く取ることが望ましい。

 

 

腰痛の健康診断

・重量物取扱い作業、介護・看護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対しては、当該作業に配置する際及びその後6か月以内ごとに1回、定期に、医師による腰痛の健康診断を行うこととされている。

配置前の健康診断

・既往歴(腰痛に関する病歴およびその経過)および業務歴の調査

・自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害など)の有無の検査

・脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性および疼痛、腰背筋の緊張および圧痛、脊椎棘突起の圧痛などの検査

・神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、筋萎縮などの検査

・脊柱機能検査:クラウス・ウェーバーテストまたはその変法(腹筋力、背筋力などの機能のテスト)

・腰椎のX線検査:原則として立位で、2方向撮影(医師が必要と認める者についてのみ)

定期健康診断

・既往歴(腰痛に関する病歴およびその経過)および業務歴の調査

・自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害など)の有無の検査

※定期健康診断の結果医師が必要と認める者については、次の検査を実施しなければなりません。

・脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性および疼痛、腰背筋の緊張および圧痛、脊椎棘突起の圧痛などの検査

・神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、徒手筋テスト、筋萎縮などの検査(必要に応じ、心因性要素に関わる検査を加える)

・腰椎のX線検査

・運動機能テスト

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