脳・心臓疾患の労災認定
脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要
000832041改正「脳・心臓疾患の労災認定基準」による安全配慮義務の拡大
2021年改正「脳・心臓疾患の労災認定基準」のポイントとは? “安全配慮義務”への影響と労災予防策を考える
厚生労働省は2021年9月14日、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」を約20年ぶりに改正した。改正認定基準は、1日5~6時間未満の睡眠時間から逆算した「過労死ライン」(病気や死亡のリスクが高まる時間外労働時間数)について、「発症前1ヵ月間に100時間超」または「発症前2~6ヵ月間に月平均80時間超」という基準を引き下げなかった。しかし、「過労死ライン」には至らなくとも、これに近い時間外労働が認められる場合には、労働時間以外の負荷要因も考慮し、「業務と発症との関連性が強い」と判断するという2段階評価を設けた。
長時間労働と脳・心臓疾患の発症等との間に有意性を認めた疫学調査では、長時間労働を「1週55時間以上」または「1日11時間以上」として調査・解析している。このことから、「過労死ライン」に近い時間外労働とは、これが1ヵ月継続した状態として、おおむね65時間(≒1日3時間×21.7日)を超える時間外労働の水準が想定される。すなわち、改正認定基準においては、「1ヵ月間当たり65時間を超える法定外労働時間」が認められ、かつ業務による質的負荷要因が存在していれば、労災認定される可能性がある。
一方、改正認定基準では、業務による質的負荷要因として「休日のない連続勤務」、「勤務間インターバルが短い勤務」、「暑熱環境や身体的負荷を伴う業務」が新たにあげられた。「勤務間インターバル」については、交替制勤務など勤務形態の特性からインターバルが短くなる場合だけでなく、結果として、時間外労働により終業時刻が遅くなり、次の始業時刻までの時間が短くなった場合も含まれる。
また、「心理的負荷の要因」については、精神障害の労災認定基準で定められた「業務による心理的負荷評価表」を一部流用して追加となった。さらに、交替制勤務と深夜勤務の負荷評価が緩和された。勤務時間帯やその変更が生体リズム(概日リズム)と生活リズムの位相のずれを生じさせて疲労の蓄積に影響を及ぼすことを理由に、交替制勤務と深夜勤務それ自体を負荷要因として検討し、労働時間と合わせて評価することになる。
「脳・心臓疾患の労災認定基準」の改正は、補償に関する政策の変更であるとはいえ、労働の量と質の両面を総合することにより、使用者が負う「安全配慮義務」自体もその内容が拡充されることは否定できない。使用者が安全配慮義務(予防)に違反すると、損害賠償義務(補償)が発生するため、予防と補償は表裏一体である。そこで、拡充された労災認定基準をツールとして活用し、企業ごとの実情に応じた予防策を検討することが肝要である。
基本的な考え方
脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因により形成され、それが徐々に進行・増悪して、あるとき突然に発症するものです。
しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。
このような場合には、仕事がその発症に当たって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象となります。
対象疾病
脳血管疾患
脳内出血(脳出血)
くも膜下出血
脳梗塞
高血圧性脳症
虚血性心疾患等
心筋梗塞
狭心症
心停止
(心臓性突然死を含む。)
重篤な心不全
大動脈解離
認定要件
以下のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
認定要件1 長期間の過重業務
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
労働時間
発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
労働時間以外の負荷要因
勤務時間の不規則性
拘束時間の長い勤務
休日のない連続勤務
勤務間インターバルが短い勤務
不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
事業場外における移動を伴う業務
出張の多い業務
その他事業場外における移動を伴う業務
心理的負荷を伴う業務
身体的負荷を伴う業務
作業環境
温度環境
騒音
認定要件2 短期間の過重業務
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
① 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
➁ 発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合 等
認定要件3「異常な出来事 」
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
異常な出来事
精神的負荷:極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態
考えられる例:
① 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
② 事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に
携わった場合
③ 生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
身体的負荷:急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
考えられる例:
上記①、②のほか、
④ 著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を
行った場合
作業環境の変化 :急激で著しい作業環境の変化
考えられる例:
⑤ 著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合
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