典型的胸痛(狭心痛)
典型的狭心痛(胸痛)の特徴
「前胸部や胸骨の裏側にある不快感、疼痛、圧迫感、絞扼感、窒息感」
「労作、あるいは感情ストレスによって増悪する痛み」
「顎、頚部、肩、心窩部、背部、腕への放散痛を伴い、分単位で持続する」
「冷汗、嘔気嘔吐、呼吸苦を伴う」
「安静やニトログリセリンによって速やかに(30~10分以内)に改善する痛み」
↕
非典型的狭心痛(胸痛)の特徴
「刺すような鋭い痛み」
「胸膜性の痛み(吸気や咳で増悪)」
「体動で変化」
「触ったり押したりすると痛みが再現される」
ACSを疑わないといけない症状
胸痛がない場合でもACSを疑わないといけない症状
「冷や汗」
「呼吸苦」
「意識状態の変化」
「上肢、肩の疼痛」
「失神」
「脱力」
「嘔気・嘔吐」
「倦怠感」
放散痛の部位
・心臓の交感神経性感覚求心路はC7~Th4であるため、「心窩部あたりまでの前胸部」「上腕・前腕尺側」「肩関節背側寄り」「上背部(肩甲骨内側)」に起こり得る
Dr.林の『N E R D』
E:exertional chest pain(労作時胸痛)、exhaustion(全身倦怠感)
R:radiation(放散痛)
D:diaphoresis(冷や汗)(LR+ 4.6)、dyspnea(息切れ)
「8時間フォローアップ」の必要性
心筋酵素上昇は8時間後
→疑わしい症状がある場合は、8時間フォローアップが必要!
心筋バイオマーカー
心筋トロポニンT、トロポニンI検査(特に高感度トロポニン)
・急性冠症候群が疑われた時、血液検査で調べるべき心筋バイオマーカーは
「心筋トロポニン(IまたはT)」(特に高感度トロポニン(IまたはT))
(CKより感度が高く、H-FABPより特異度高い。心筋特異性も高い)
・心筋トロポニンの測定は高感度測定を推奨する
・発症2~4時間で上昇
(CKは発症3~8時間で上昇し、10~24時間で最大となるため、早期診断には向かない)
・非 ST 上昇型急性冠症候群患者では,初回心筋トロポニンの上昇がない場合でも症状出現
から 6 時間以内では判断が難しいので,初回検査から 1 ~ 3 時間後に再度測定する.
・検査は「来院時」と「1~3時間後」の経時変化を見ることが推奨されている。
・そのため、「急性冠症候群の診断にCK-MBやミオグロビン測定は推奨されない」
(急性冠症候群ガイドライン2018年改訂版)
・心筋酵素上昇は8時間後
→疑わしい症状がある場合は、8時間フォローアップが必要!
・ただし、心筋トロポニンは腎不全、心不全、心筋炎、急性肺動脈血栓塞栓症、敗血症でも上昇することに注意(除外に適した検査)
0 / 1(0-hour / 1-hour)アルゴリズム(欧州心臓病学会)
・胸痛を主訴に来院した患者で心電図変化がはっきりしない場合、
「来院時」と「1時間後」に高感度トロポニンTを測定(通常のトロポニンではないことに注意)
→ 下記の場合、急性冠症候群を除外できる
1.来院時の高感度トロポニンT(elecsys)<5ng/L(0.005ng/mL)
2.来院時の高感度トロポニンT(elecsys)<12ng/L(0.012ng/mL)、かつ来院時と1時間後の差<3ng/L(0.003ng/mL)
心電図変化に乏しいが、ACSを疑うべき場合(By Dr.林)
急性心筋梗塞の初期心電図では、ST上昇は約50%、40%は非特異的ST上昇、
10%は心電図所見が正常のまま
↓
症状があり、1枚の心電図で判断が難しい場合:
・10~15分毎に再検し経時的変化をみる
・硝酸薬使用後の変化
・以前の心電図との比較
・高感度トロポニン測定を来院時と2時間後に再検
↓
さらに、
HEARTリスクスコア
による「リスク階層化」を行う
1)TIMIリスクスコア;Thrombolysis in Myocardial Infarction risk score for UA/NSTEMI)
各項目1点(最大7点、最低0点)
・年齢(65歳以上):1点
・冠危険因子が3つ以上
(1等身以内の冠動脈疾患の家族歴,高血圧症,糖尿病,現喫煙、脂質異常):1点
・既知の冠動脈有意狭窄(≧50%):1点
・心電図における0.5mm以上のST変化:1点
・24時間以内に2回以上の狭心症症状の存在:1点
・7日間以内のアスピリンの服用:1点
・発症後12時間経過した時点での心筋障害マーカーの上昇
(CK-MBまたはトロポニンT):1点
・低リスク:0~1点→来院時、2時間後の高感度トロポニンが陰性ならACSはほぼ否定できる
・中等度リスク:2~4点→循環器科コンサルト
・高リスク:5~7点
2)HEARTリスクスコア
H:history(病歴)
強く疑われる:2点
中等度疑われる:1点
あまり疑わしくない:0点
E:ECG(心電図)
著明なST変化(脚ブロック・左室肥大・ジゴキシンによらないST変化):2点
非特異的な再分極以上(ST変化のない再分極異常、脚ブロック・左室肥大・ジゴキシンによる再分極異常):1点
正常:0点
A:age(年齢)
65歳以上:2点
45~64:1点
45歳未満:0点
R:risk factor(危険因子)
→糖尿病、喫煙(1か月以上)、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患の家族歴、肥満
3つ以上の危険因子もしくは冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患の家族歴:2点
1~2つの危険因子:1点
危険因子なし:0点
T:troponin(トロポニン)
正常上限の3倍以上:2点
正常上限の1~3倍:1点
正常:0点
最大10点、最小0点
・低リスク:0~3点:6週間以内のMACE(major adverse cardiac event) 2.5%
・中等度リスク:4~6点:6週間以内のMACE 20.3%→循環器科コンサルト
・高リスク:7~10点:6週間以内のMACE7 2.3 %
→ 4点以上は緊急コンサルト必要と考えた方がよさそう
『不安定狭心症』の定義(AHA 分類1975 年に基づく)
下記のいずれかの症状が3週間以内に始まり、1週間以内にも発作があり、急性心筋梗塞を示す所見のないものを「不安定狭心症」という(または、すでに不安定狭心症と診断され、薬物治療等が行われている場合)。
① 新規労作性狭心症:
はじめて労作性の狭心痛が生じたもの、または 6 ヶ月以上なかった場合の再発
② 変動型:
③ 新規安静時狭心症:
急性心筋虚血を疑わせる心電図所見
↓
※右脚ブロックでは使用可能だが、左脚ブロック、メースメーカー調律では使用できないので注意(→その場合はmodified Sgarbossa criteriaで判定)
① hyperacute T wave(急性心筋梗塞の超急性期におけるT波増高)
・心筋梗塞発症直後から出現
・左右非対称
・QRSより高いT波
・幅広く尖ったT波
・虚血領域に一致したT波の増高(↔高カリウムでは全領域に変化が見られる)
② ST上昇
・発症数分~10分後に出現
・貫壁性梗塞を示す
・対側に位置する誘導にST低下が出現する(reciprocal change)
・V2、3誘導は他の誘導よりSTが高い傾向がある。特に男性は女性に比べてより高くなる傾向がある
「有意なST上昇」の基準
・「隣接する2つ以上の誘導」(aVL↔Ⅰ↔ーaVR↔Ⅱ↔aVF↔Ⅲ)で下記の所見がある場合、「ST上昇」とする
1)V2-3以外の誘導では、性別、年齢不問でJ点にて1mm(0.1mV)以上の新たな上昇。
2)V2-3に関しては、
40歳以上男女:2.0mm以上
40歳未満男性:2.5mm(0.25mV)以上
40歳未満女性:1.5mm(0.15mV)以上
「aVL↔Ⅰ↔ーaVR(aVRを逆向きにした誘導)↔Ⅱ↔aVF↔Ⅲ」の隣接
梗塞部位とST上昇、ミラーイメージの関係
③ 異常Q波
・発症数時間後に出現
④ 陰性T波
・発症1日程度後、ST上昇の後半部分に陰性T波が出現
ST低下
・V2,3誘導以外では、連続した2つの誘導において、J点にて0.5mm以上の新たな水平、下降型のST低下
・V2、3誘導では1mm以上
・R波が高い、もしくはR/S>1の連続した2つの誘導で1㎜を超える陰性T波
心筋梗塞の病型
左冠動脈主幹部(LMT)梗塞
・aVRでST上昇、その鏡面像としてⅡ、Ⅲ、aVF、V4、V5、V6でST低下
・新規完全右脚ブロックの出現
・V1誘導で2.5mm以上のST上昇
※ aVRのST上昇は「左前下行枝起始部の閉塞または三枝病変」を示唆する所見であり、循環器内科への紹介もしくはカテーテル治療が可能な病院への早期搬送が必要である
下壁梗塞
・Ⅱ、Ⅲ、aVFでST上昇(mirror imageはⅠ、aVL、V1,2)
・原因血管:右冠動脈66%、左冠動脈回旋枝16%、バランス型18%
・右冠動脈起始部(近位部)梗塞では、本来鏡像変化としてSTが低下するV1,2 誘導に、右室枝梗塞によるV1,2のST上昇の影響も加わるため、結果としてV1,2誘導のSTは「上昇+低下」で鏡像変化が消失し、ほぼ基線のままとなる
・房室結節動脈は90%が右冠動脈、10%が左冠動脈回旋枝支配であり、徐脈(完全房室ブロック等)を合併することがある。
・初めに鏡面像であるaVLのST低下として出現し、15~30分後の心電図でⅡ、Ⅲ、aVFのST上昇が出現することがある
下壁梗塞を認めた場合の責任血管の推測
1)責任病変の種類
・左室下壁を栄養する冠動脈は、右冠動脈66%、左冠動脈回旋枝16%、バランス型18%
・下壁梗塞の場合、冠動脈責任病変部位として、以下の3つを鑑別に考える
① 右冠動脈近位部
② 右冠動脈遠位部
③ 左冠動脈回旋枝
2) Ⅱ誘導とⅢ誘導におけるST上昇の程度の比較し、下壁を栄養しているのが右冠動脈か左回旋枝なのかを予測する
・ST上昇がⅡ<Ⅲであれば、右冠動脈、Ⅱ>Ⅲ誘導であれば左回旋枝を考える
3) 2)の妥当性をⅠ誘導で確認する
・右冠動脈であれば、Ⅰ誘導は鏡面像によりSTは低下
・左回旋枝ではⅠ誘導で鏡面像が起こらずST低下は認めない
4) V4R誘導で確認
・1㎜以上のST上昇があれば右冠動脈近位部、ST上昇がなく陽性T波があれば右冠動脈遠位部、1㎜以上のST低下があり陰性T波であれば左回旋枝と判断
後壁梗塞
・下壁梗塞(右冠動脈:80%)や側壁梗塞(回旋枝:20%)に伴うことが多い
・後壁梗塞が単独発症もまれにある(5%)
・ミラーイメージとして、V1-3のR波増高(R>S)やST低下、T波増高を認めることがある
・V7(V4の高さで左後腋窩線)、V8(V4の高さで左肩甲骨中線)、V9(V4の高さで脊椎左縁 )誘導でST上昇(隣接する2つ以上の誘導で0.5mm以上)を認める
・下壁誘導のST上昇と前壁誘導のST低下を見た場合、ST低下を下壁梗塞のミラーイメージと判断せずに「下壁梗塞+後壁梗塞」と考える
・肺塞栓を鑑別
・僧房弁逆流を伴うと予後不良
N-STEMI(非ST上昇型心筋梗塞)
・ST上昇を来さない心筋梗塞の総称
・定義上はSTEMIまでいかないようなAMI、すなわち心内膜下梗塞とされている
・心電図上ではST低下やT波逆転、またはその両方、時に正常心電図をきたすが、冠動脈病変があり、心筋逸脱酵素が上昇した場合、NSTEMIと診断する
・急性後壁梗塞でNSTEMIを来すことが多い
Wellens症候群(ウェレンズ症候群)
・左冠動脈前下行枝(LAD)近位部の高度狭窄病変を示唆する不安定狭心症の一種。
・一度自覚した胸痛が消失したタイミングで12誘導心電図の前胸部誘導に陰性T波を示す症候群
・しかしながらより近位部に病変がある場合には、更に広い範囲で同様の変化みられる可能性がある(J Emerg Med 2008;39(3):305-308)。
・痛みのない時期に特にV2-V3においてT波の陰転化もしくは二相化。
Type1(common:全体の75%):V2, V3における深く陰転化したT波
Type2(less common:全体の25%):V2, V3における二相性T波
de Winter症候群
・V1~6誘導で1~3mmのupslope型ST低下と左右対称性のT波増高、aVR誘導で1~2mmのST上昇を特徴とする。
・左前下行枝近位部の閉塞を示唆し、STEMIに相当する心電図変化の一つである。
・早期に冠動脈造影検査からの再灌流療法を行う必要がある。
参照(このサイトより引用):https://litfl.com/de-winter-t-wave-ecg-library/
修正Sgarbossa criteria(Smith基準)
・既知の左脚ブロックにおける急性心筋梗塞の診断基準。
胸痛+『新規』の左脚ブロック → STEMIとして緊急の対応!
胸痛+『既知』の左脚ブロック → modified- Sgarbossa’s criteriaを確認しよう!
・「Sgarbossa criteria」では感度52%であり、まだまだ完全左脚ブロックに隠れた虚血を見逃してしまう可能性がある。そこで現在は「修正Sgarbossa criteria」を用いることで感度91%まで上昇し、完全左脚ブロックに隠れた虚血性ST変化を見抜くことができる。
・「修正Sgarbossa criteria」では「いずれか1つの項目が陽性で」感度60%以上、特異度90%以上となる。
修正Sgarbossa criteria:いずれか一つ陽性なら
2.V1-V3の誘導で極性の一致(極性一致:concordnce)した1mm以上のST低下
3.QRSとTが逆向き(極性不一致:discorcdance)の場合、ST/S>0.25(S波の深さの1/4を超えるST上昇)
ACSの初期対応
MONA
1)morphine(モルヒネ)
・ニトログリセリンでも胸痛が改善しない時に塩酸モルヒネ(10mg/1mL/A) 2~4㎎ iv
2)oxygen(酸素)
・SpO2<94%の場合、酸素投与(90%台後半では控える)
3)nitroglycerin(ニトログリセリン)
胸痛持続時、「ニトロペン1T舌下錠」または「ミオコールスプレー舌下1プッシュ」
5分毎に3回舌下投与
4)aspirin(アスピリン)
・アスピリン200㎎ 口腔内で粉砕して内服
(アスピリンが禁忌の場合はクロピドグレル300㎎内服)
※ 継続期間に関しては「JCSガイドライン(冠動脈疾患患者における抗血栓療法)」を参照
その他:
高用量スタチン
血管内皮機能改善のみならず、抗炎症、抗酸化作用から急性期の心不全を減少させる可能性が示されている
例)ストロングスタチン(現在は主にこれらが使用される)
ロスバスタチン(クレストール®):5~10㎎
アトルバスタチン(リピトール®)10~20㎎
ピタバスタチン(リバロ®):2~4㎎
βブロッカー
・心筋酸素消費量減少目的
・なお肺うっ血が見られているうちは導入しないこと。
ACSは時間との勝負
・door to ballon time(DTB)は90分以内が目標
medicina2022年 8月号 特集 不安を自信に変える心電図トレーニング~専門医のtipsを詰め込んだ50問
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