疾患
・水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症
・VZV=HHV-3(human herpes virusu)
・VZVは初感染で水痘を発症し、その後知覚神経節に潜伏する。加齢、ストレス、免疫抑制剤使用などにより免疫機能が低下した際にVZVが再活性化し、帯状疱疹を発症する
・日本人成人の 90%以上が帯状疱疹になる可能性があり、80 歳までに 3 人に 1 人が発症すると言われている(決してまれな疾患ではない:国立感染症研究所 感染症疫学センター IASR. 2013, 34, p. 298-300.)
検査
Tzanck試験
4.油液浸レンズを使って顕微鏡検査。(多核巨細胞があれば陽性)
参照(このサイトより引用):https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d140402/
ウイルス抗原キット(デルマクイック®VZV)
・イムノクロマト法を測定原理とした水痘・帯状疱疹ウイルス(以下、VZV)抗原キット
・皮疹の内容物又はびらん・潰瘍のぬぐい液を検体とし、簡便にかつ5~10分で迅速にVZV抗原を検出することが可能
顔面の帯状疱疹
帯状疱疹の約17%は顔面に発症する。
Hutchinson徴候(三叉神経第一枝領域)
・三叉神経第1枝領域の帯状疱疹による鼻背、鼻尖部の発疹。
眼症状合併の頻度が高い徴候。
・三叉神経第1枝(眼神経)は、上側の滑車上神経と下側の鼻毛様体神経の2本の分枝からなる。
・鼻背部の滑車上神経は結膜にも分布しており、鼻尖部の鼻様体神経は角膜、強膜、虹彩、毛様体にも分布しているため、この部分に皮疹がみられた場合、眼症状を合併する頻度が高くなる。
・この所見をみとめたら、眼科医への紹介が必要
参照(このサイトより引用):http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000034.html
播種性帯状疱疹
・細胞性免疫が低下している患者(HIV、悪性腫瘍、免疫抑制薬の使用、コルチコステロイドの使用など)では、複数の神経支配領域に跨った病変を形成する
・皮膚病変だけでなく、髄膜炎、肝炎、肺炎などの多臓器病変をきたし重症化する可能性がある
・空気感染、接触感染の可能性がある
・病変部位の乾燥、痂疲化が得られるまで空気感染、接触感染予防を行う
治療
バラシクロビル(バルトレックス®)500㎎錠、50%顆粒(500㎎/g)
・成人および体重40㎏以上の小児:1回1000㎎、1日3回 7日間まで
※バラシクロビルは腎排泄型であり、腎機能障害時は「クレアチニンクリアランス(体表面積補正なし)」によって調整する必要がある(eGFRではない)
アシクロビル(ゾビラックス®)400㎎錠、アシクロビル内服ゼリー800㎎
・1回800㎎、1日5回内服
・「本剤は、主として腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため高い血中濃度が持続するおそれがあるので、投与間隔又は投与量を調節し、患者の状態を観察しながら、慎重に投与すること。また、本剤の投与中は適切な水分補給を行うこと。」
・腎障害時の補正(体重補正クレアチニンクリアランスを使用)
クレアチニンクリアランス(mL/min/1.73m2):体表面積の補正あり
<10:1回800㎎ 1日2回
10~25:1回800㎎、1日3回
>25:1回800㎎ 1日5回
※ eGFR・CCrの計算
アメナメビル(アメナリーフ®)
1回400㎎ 1日1回 7日間
・バルトレックス錠やファムビル錠などのこれまでの抗ヘルペスウィルス薬とは異なる新しい作用機序の抗ヘルペスウイルス薬。適応症は帯状疱疹。
・水痘・帯状疱疹ウィルス複製の初期段階である二本鎖DNAの開裂及びRNAプライマーの合成に必要なヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の活性を直接阻害することで、ヘルペスウイルスの増殖を初期段階で抑制する
・糞中(便)排泄のため、クレアチニンクリアランスに応じた投与量設定は不要、高齢者や腎機能障害患者にも投与可。
1日1回、2錠を食後(30分以内を目安)に7日間服用
疼痛治療薬
・アセトアミノフェン 1回800~1000㎎ 1日3~4回
・ロキソプロフェン
疼痛が強い時
・ミロガバリン(タリージェ®)1回5㎎ 1日2回朝夕食後
アシクロビル脳症
・アシクロビル(ACV) およびそのプロドラッグであるバラシクロビル(VACV)により誘発される精神神経症状である。
・ACV 脳症は高齢者、腎不全患者、その他の神経毒性を有する薬剤の使用患者に多くみられ、ACV の用量依存性に生じるとされている。
・ACV および VACV は腎機能に応じて投与量を減量することが推奨されているが、規定の用法用量を遵守したにも関わらず、ACV 脳症を発症する症例が散見される。
・意識障害、不随意運動(振戦,ミオクローヌスなど)、幻覚といった多彩な症状が薬剤投与開始から 24~72 時間後に出現する。
感染拡大予防
・通常の帯状疱疹は接触予防策で十分である
・水痘患者が他者に2次感染させる可能性がある期間(ウイルス排泄期間)は,発疹出
現2日前~水疱が全て痂皮形成するまで(通常は水疱出現後5-7日で痂皮形成する)。
・帯状疱疹が播種状(3分節以上)になっている場合には,接触感染対策に加えて空気予防策が必要となる。感染症病室での隔離が望ましいが、不可能な場合は病棟で個室隔離とする。播種性帯状疱疹の発症時は感染症病室等で空気予防策を行う。
院内感染対策
原則的には標準予防策に加えて接触感染対策を実施する。
必要に応じて空気感染対策を追加する。
(1) 患者の隔離
通常、帯状疱疹は接触感染が主とされているが、移植等の免疫不全患者の入院する
病棟では、空気感染も考慮し、発疹が痂疲化するまで原則個室隔離とする。
個室が不可能で多床室に入室する場合は、同室者に水痘におけるハイリスク条件を満たす患者はなるべく避けるようにする。
(2) 皮膚管理
発疹部分はガーゼではなく、フィルム等の被覆材で確実に覆う。
被覆材の交換時は、標準予防策を遵守し、手袋、エプロンを適正に使用し、手指衛生を確実に行う。
(3) 同室者の接触者の抗体価測定、水痘の罹患歴、ワクチン接種歴聴取
発症者と同室であった患者、多床室で管理する場合の同室者等であっても原則として抗体価測定は必要ない。
ただし、水痘におけるハイリスク条件を満たす患者であり、かつ、水痘の罹患歴、過去のワクチン接種歴について聞き取りを行い十分な抗体保有がないと考えられた場合に関しては、抗体価測定を行ってもよい。
(4) 抗体陰性患者の予防投与
同室者で抗体陰性患者に対して、予防投与を考慮する
予防接種
・帯状疱疹ワクチンには、「ビケン製の生ワクチン」と「シングリックス@」の2種類がある。
・多くの自治体で助成制度あり
乾燥弱毒生ワクチン「ビケン®」
・弱毒化された生きたウイルスが含まれる「生ワクチン」。
・小児に使用する水痘ワクチンだが、2016年から「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」として認可された。
・生ワクチンなので、1回接種のみ。
・比較的安価
・有効率51.3%(60歳以上)
・8~10年で効果消失
・他のワクチンとの接種間隔については不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど)は接種間隔の制限なし。
・使用禁忌:
妊婦、非寛解期血液がん患者、造血幹細胞移植後患者、免疫抑制状態にある患者には禁忌
※ 新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンは、同時に接種できない。
新型コロナワクチンとその他のワクチンは、お互い片方のワクチンを受けてから2週間後に接種でききる。
※ 他の生ワクチン(BCG、MR[麻疹・風疹ワクチンなど])は27日あけて接種可能
サブユニットワクチン「シングリックス®」
・帯状疱疹を予防するために独自に開発された不活化ワクチン
・VZVウイルス表面糖タンパクEgと、免疫反応を増強するアジュバントAS01Bからなるサブユニットワクチン
・比較的高額
・有効率:97.2%(50歳以上)、91.3%(70歳以上)
・8年後にも84.0%と長期予防効果あり
・筋肉注射(かなり痛い)
・2か月後に2回目の接種が必要
「従来の帯状疱疹ワクチン」と「シングリックス」の違い
・ シングリックスのほうが独自に開発されたこともあり、高価(2回接種で合計40000円)
・予防効果は「シングリックス」のほうが高い
・従来の帯状疱疹ワクチンの場合、同ワクチンにより帯状疱疹の発生率が51.3%減少、帯状疱疹後神経痛の発生率も66.5%減少。帯状疱疹の重症度も61.1%低下したと報告されている。
・その一方、帯状疱疹ワクチン(水痘ワクチン)の予防効果は接種後3~11年で予防効果が減弱すると報告している論文もある(Schmader KE, Levin MJ, et al : Clin Infect Dis 54:922-928,2012)
・シングリックスは従来のワクチン(水痘ワクチン)に比べ、帯状疱疹を予防する効果が高く、50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%の発症予防効果が認めらいる。
(Lal H. et al.: N Engl J Med. 372(22), 2087-2096, 2015)(Cunningham AL. et al.: N Engl J Med. 375(11), 1019-1032, 2016)
・また、発症予防効果が少なくとも9年間と長い(Schwarz TF. et al.: Hum Vaccin Immunother. 14(6), 1370-1377, 2018)
・つまり、「帯状疱疹を絶対に予防したい」と考えるなら、高価だが「シングリックス」を選択し、「少し心配だけどそこまでお金はかけたくない」と考えるなら「従来の帯状疱疹ワクチン」を選択する。
帯状疱疹罹患後のワクチン接種について
・帯状疱疹発症後は抗体価が上昇する。特に1年以内は高値である。
・1年以内の発症は1125例中9例と極めて稀
・また帯状疱疹の2回発症は約6%と低い
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予防接種は、前回の罹患から5年経過後が意味がある
帯状疱疹罹患後のワクチン接種!?大阪中央病院皮膚・形成外科 谷口 彰治
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