疾患
・腎糸球体に急速かつ激烈な炎症が生じ、数週から数か月間の経過で腎機能が急速に低下して腎不全に至る重篤な糸球体腎炎症候群であり、生命予後、腎予後ともに不良で維持透析へ移行しない場合も慢性腎不全としての加療を要することが大半である。
・腎疾患の中でも最も予後が悪く、治療にも難渋することが多い。
原因
・腎糸球体の特徴的な病理像は、ボウマン腔に形成される半月体(クレッセント)と呼ばれる構造の出現である。これにより本来の糸球体の血流が妨げられ糸球体における血液ろ過が急速に低下し腎機能が悪化する。
・半月体の形成機序は不明である。
・自己抗体(ANCA=抗好中球細胞質抗体、抗糸球体基底膜抗体、抗核抗体)が陽性な症例や免疫複合体が沈着する病型が多く、免疫学的機序を介しておこるものと考えられている。
症状
・自覚症状としては、全身倦怠感、微熱などの不特定な症状。
・検査所見としては、血尿+蛋白尿、腎機能の急速な低下(血清クレアチニンの急速な上昇)、貧血、などである。
・全身性血管炎の部分症状である場合には、腎臓以外の全身症状として、上気道を含む呼吸器や四肢の神経・血管症状がみられることがある。
診断基準
診断基準
Definiteを対象とする。
1.急速進行性糸球体腎炎の疑い(Possible)
1) 尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿)を認める。
2) eGFR<60 mL/min/1.73 m2
3) CRP 高値や赤沈促進
上記の 1~3)を認める場合、「急速進行性糸球体腎炎の疑い」と診断する。
ただし、腎臓超音波検査を実施可能な施設では、腎皮質の萎縮がないことを確認する。
なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニンを再検し、eGFR を再計算する。
2.急速進行性糸球体腎炎の確定診断(Definite)
1) 数週から数か月の経過で急速に腎不全が進行する(病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認する。)。3か月以内に30%以上のeGFRの低下を目安とする。
2) 血尿(多くは顕微鏡的血尿、稀に肉眼的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める。
3) 腎生検で壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める。
上記の1)と2)を認める場合には「急速進行性糸球体腎炎」と確定診断する。可能な限り腎生検を実施し3)を確認することが望ましい。
ただし、過去の検査歴等がない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は、腎臓超音波検査、CT等により両側腎臓の高度な萎縮がみられないことを確認し慢性腎不全との鑑別を行う。脱水の把握・補液による是正に努め高度脱水による腎前性急性腎不全を除外する。また、腎臓超音波検査、CT等で尿路閉塞による腎後性急性腎不全を除外する。
発症機序による分類
抗糸球体基底膜抗体型
・抗糸球体基底膜(GBM:glomerular basement membrane)抗体型は,自己免疫性糸球体腎炎であり,RPGN症例の10%までを占める。
・呼吸器の曝露(例,タバコの煙,ウイルス性上気道感染症)またはいくつかの他の刺激物に肺胞毛細血管のコラーゲンが曝されて抗コラーゲン抗体形成が誘発された際に起こりうる。抗コラーゲン抗体はGBMと交差反応し,補体を結合して細胞性炎症反応を腎および通常は肺で誘発する。
・Goodpasture症候群という用語は,抗GBM抗体存在下での糸球体腎炎と肺胞出血の併発をさす。抗GBM抗体の存在下で肺胞出血を併発していない糸球体腎炎は,抗GBM糸球体腎炎と呼ばれる
・腎生検組織の蛍光抗体染色法では線状のIgG沈着が示される。
免疫複合体型
・免疫複合体型RPGNは,多数の感染症および結合組織疾患を合併し,さらにその他の原発性糸球体症も併発する。
・蛍光抗体染色法では,非特異的な顆粒状免疫沈着が示される。この病態はRPGN症例の40%までを占める。
・発生機序は通常不明である。
pauci-immune(微量免疫)型
・pauci-immune(微量免疫)型RPGNは,蛍光抗体染色法での免疫複合体または補体沈着の欠如によって特徴づけられる。
・全RPGN症例の50%までを占める(我が国では最も多い)
・多くの症例がANCA関連血管炎
・ほぼ全ての患者で抗好中球細胞質抗体(ANCA)の上昇(通常は抗タンパク質分解酵素3-ANCAまたはミエロペルオキシダーゼ-ANCA),および全身性血管炎が認められる。
double-antibody型
double-antibody型は,抗GBMおよびANCA抗体の存在下で生じる。まれである。
提出すべき検査
・抗核抗体
・リウマトイド因子
・MPO-ANCA
・PR3-ANCA
・抗GBM抗体
・ASO
・IgA
・補体(CH50、C3、C4)
・クリオグロブリン
・HCV抗体
・HBs抗原
・免疫グロブリン
・血清蛋白電気泳動
・尿の免疫電気泳動(ベンスジョーンズ蛋白)
重症度分類
重症度分類は、初期治療時及び再発時用と維持治療時用を用いて、重症を対象とする。
ア)初期・再発時は急速進行性糸球体腎炎の診断基準を満たす全例が重症である。
イ)維持治療期では上記の慢性腎臓病重症度分類で重症(赤)に該当するものとする。
ウ)いずれの腎機能であっても蛋白尿0.5g/日以上のものは、重症として扱う。
治療
・ステロイド(経口、点滴パルス)、免疫抑制薬(シクロホスファミド、アザチオプリン、ミゾリビンなど)、抗体除去のための血漿交換ないし血液吸着療法など。
・完全な原因除去でなく、免疫抑制療法による、長期的な疾患コントロールが行われる経過中の免疫抑制薬等による維持治療が必須で、長期の療養が必要である。
腎不全が進行した場合には透析療法が必要になる。
治療を開始した場合には、重篤な感染症が合併する危険性も高く、それが原因で死亡することもある。
予後
2年間での死亡率17.1%、腎不全による維持透析への移行率(腎死率)26.6%である。
維持透析に至らなくとも、大半の患者で慢性腎不全としての管理加療を要する。
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