ガイドライン
疾患
・慢性糸球体腎炎のうち、糸球体メサンギウム細胞と基質の増殖性変化と、メサンギウム領域へのIgAを主体とする沈着物とを認めるものをいう。
・同義語として「IgA腎炎」などがある。
・慢性糸球体腎炎のうち成人では30%以上、小児でも20%以上を占める。
・日本と同じように本症が多発する国としては、アジア太平洋地域の諸国が知られており、北欧や北米では比較的少ない。このような地域差の原因は不明であり、一部では腎生検施行の頻度と比例するともいわれ、北米においては白人には多いが、黒人ではまれであることも知られているため、何らかの人種的・遺伝的背景も想定されている。
・発症年齢は15~20歳と40~45歳の2峰性を示す
・IgA腎症の約70%は、学校健診や職場検診などで偶然に血尿や蛋白尿を指摘されることで発見される。また約10%は上気道感染後に発作的に生じる肉眼的血尿で発見される。
原因
本症は、流血中の糖鎖修飾異常IgAならびにそれに関連した免疫複合体の糸球体内沈着によって引き起こされるとする説が最も有カである。その根拠は、糸球体内に糖鎖修飾異常IgAが沈着していることや、そこにIgGが共沈着し、C3などの補体成分沈着も認めること、移植時にIgA腎症が再発する場合、糸球体に短期間のうちに高率にIgAの沈着を認めること、逆に少数報告ではあるが本症に罹患した腎臓を他の疾患患者に移植すると糸球体内IgA沈着が消失することなどである。最近では、遺伝的素因粘膜免疫の異常等が本症の病態との関係で研究が進展しつつある。しかし、免疫複合体を形成している抗原の同定は未だ十分には成功していないが、糖鎖異常IgA自体が免疫複合体形成の原因となっている可能性がある。その他、糸球体硬化に至る本症の進展については本症以外の多くの糸球体疾患と共通した機序が存在することが明らかになりつつある。
3.症状
・本症発見時の症状は、日本では偶然の機会に蛋白尿・血尿が発見されるものが大多数を占める。
・肉眼的血尿を認めることもある(急性上気道炎あるいは急性消化管感染症後に併発することが多い)
検査
・持続的顕微鏡的血尿
2回以上の血尿を確認する
・肉眼的血尿
治療法
本症の治療については根本的な治療法が得られていないために、対症療法が行われている。レニンアンギオテンシン系阻害薬、副腎皮質ステロイド薬(パルス療法を含む。)、免疫抑制薬、口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス併用療法)などで治療を行う。進行抑制を目的とした成人IgA腎症の治療の適応は、腎機能と尿蛋白に加えて、年齢や腎病理組織像も含めて総合的に判断される。また、症例に即して血圧管理、減塩、脂質管理、血糖管理、体重管理、禁煙などを行う。
予後
診断時の腎機能や症状により予後が異なる。成人発症のIgA腎症では10年間で透析や移植が必要な末期腎不全に至る確率は15~20%、20年間で約40%弱である。降圧薬(特にレニンアンギオテンシン系阻害薬)や副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用により、1996年以降、予後が改善しているとの報告もある。また、小児では、成人よりも腎予後は良好である。予後判定については、腎生検光顕標本における組織障害度が重要であるということは異論がなく、その他の臨床指標の中で腎生検時の高血圧、腎機能低下、高度蛋白尿、患者の高年齢などが予後判定上有用であることも共通した認識である。
IgA腎症とIgA血管炎による紫斑病性腎炎の鑑別
・IgA 腎症の病因は IgA1 型免疫複合体(IC)の糸球体への沈着と,それにより惹起される炎症性変化(糸球体外からの炎症細胞浸潤と糸球体固有細胞の増殖,細胞外基質成分の増生亢進・分解低下)によると考えられる.
・Shönlein-Henoch 紫斑病(IgA 血管炎)や全身性エリテマトーデス(SLE),肝臓疾患(慢性肝炎,肝硬変,肝がんなど)でも糸球体メサンギウム領域に IgAの沈着がみられるが,これらは続発性の糸球体病変であり定義上は区別される.
・しかし,IgA 腎症は IgA 血管炎の腎限局型とも考えられ,鑑別は皮膚病変(紫斑)や関節痛,腹痛などの臨床症状によっている.それほど,両疾患の発症・進展機序は類似している.
・HSPN は,IgA 腎症と同様に腎糸球体メサンギウム領域に IgA 優位の沈着が認められる。
・IgA 腎症と紫斑病性腎炎の間の唯一の違いは,紫斑病性腎炎では皮膚に点状出血斑が認められることであり,糸球体病変から両疾患を鑑別することは困難であるとされる。
・両疾患ともに糸球体メサンギウム領域を中心に IgA の沈着を認め,HSP の皮膚病変は後毛細血管
細静脈を中心に発生する白血球破砕性血管炎であり,病変部位に IgA の沈着を認める。
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