「アーク溶接」「溶接ヒューム」とは
アーク溶接とは
・溶接の種類の1つで「アーク放電」という現象を利用した溶接方法です。
・「アーク放電」は気体の放電現象です。離れた電極間に電圧をかけると空気の絶縁が破壊され、電極間に電流が発生します。その際に、高温の強い光が生じます。その光が弧(Arc)状で「アーク」と呼ばれます。
・このアークの熱を熱源とした溶接をアーク溶接といいます。アークの温度は5000~20000℃になり、金属の融解温度より高くなるため、様々な金属の溶接をすることができます。そのため、アーク溶接は自動車や建築物など金属を使用する様々な物の製作に用いられます。
溶接ヒュームとは
・「溶接ヒューム」とは、アーク溶接の際にアークから発生する熱で金属が溶けた後、蒸気に変わって大気中に放出され、蒸気が空気中で急激に冷やされて凝固した金属の微小粒子をいう。
・ヒュームの粒径は0.1~1㎛程度である。
(参考:「ミスト」は液体の微細な粒子が空気中に浮遊しているもので、粒径は、5~100 μm程度で、ミストの方がヒュームより粒径が大きい)
「溶接ヒューム」による健康障害防止対策が強化されます
【厚生労働省 リーフレット】金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ
【厚生労働省 リーフレット】屋外作業場等において金属アーク溶接等作業を行う皆さまへ
「溶接ヒューム」による健康障害防止対策が強化されました:省令改正の背景
・厚生労働省が開催した「化学物質による労働者の健康障害防止に係る検討会」の報告において、溶接ヒュームに含まれる「塩基性酸化マンガン」のばく露による神経機能障害が多数報告された。
・また、国際がん研究機構(IARC)が2017年に溶接ヒュームを「グループ1」(ヒトに対する発がん性)に分類したこと等から、令和2年4月22日に政省令(特定化学物質障害予防規則、作業環境測定法施行規則等)を改正し、「溶接ヒューム」と「塩基性酸化マンガン」は特定化学物質(管理第2類物質)に追加され、作業環境管理や健康管理について省令に規定する水準の措置が事業者に義務付けられることになりました。
※ 現状では、溶接ヒュームによる発がんの原因物質の特定等の知見が不十分であり、今後の研究が待たれています。
※ 「塩基性酸化マンガン」とは、マンガンの酸化数が2または3の塩基性酸化物であり、代表的な物質として酸化マンガン(MnO)、三酸化二マンガン(Mn2O3)が挙げられます。
溶接ヒュームの健康障害
溶接ヒュームの主な有害性(発がん性、その他の有害性)
・ヒトに対する発がん性:国際がん研究機関(IARC)グループ1(呼吸器系がん)
・神経機能障害:溶接ヒュームに含まれる酸化マンガン(MnO)、三酸化二マンガン(Mn2O3)
・呼吸器系障害:三酸化二マンガン(Mn2O3)
溶接ヒュームの特定化学物質としての規制
溶接ヒュームの特定化学物質としての規制:
(1)屋内作業場における全体換気装置による換気等(特化則第38条の21第1項)
● 屋内作業場で金属アーク溶接等作業を行う場合は、溶接ヒュームを減少させるため、 全体換気装置による換気の実施またはこれと同等以上の措置を講じる必要があります。
※「同等以上の措置」には、プッシュプル型換気装置、局所排気装置が含まれます。
● 「全体換気装置」とは、動力により全体換気を行う装置をいいます。なお、全体換気装置は、特定化学物質作業主任者が、1月を超えない期間ごとに、その損傷、 異常の有無などについて点検する必要があります。
(2)溶接ヒュームの測定、その結果に基づく呼吸用保護具の使用及びフィットテストの実施等(特化則第38条の21第2項~第8項)
※ 屋内作業場限定
●「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場」の場合:
当該作業の方法を新たに採用したとき、または作業を変更しようとするときは、「溶接ヒュームの濃度測定」と「呼吸用保護具のフィットテスト」が必要です。
(3)掃除等の実施(特化則第38条の21第9項)
● 金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、当該作業を行う屋内作業場の床等を、水洗等によって容易に掃除できる構造のものとし、水洗等粉じんの飛散しない方法によって、毎日1回以上掃除しなければなりません。
※「水洗等」には超高性能(HEPA)フィルター付き真空掃除機が含まれますが、粉じんの再飛散に注意する必要があります。
(4)特定化学物質作業主任者の選任(特化則第27条、第28条)
●「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を修了した者のうちから作業主任者を選任し、次の職務を行わせることが必要です。
(5)特殊健康診断の実施等(特化則第39条~第42条)
● 溶接ヒュームを取り扱う作業に常時従事する労働者に対して、健康診断を行うことが必要です。
● 金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対し、「雇入れまたは当該業務への配置換えの際」および「その後6月以内ごとに1回」、定期に、規定の事項について健康診断を実施する(1次健診)。
上記健康診断の結果、他覚症状が認められる者等で、医師が必要と認めるものに対し、規定の事項について健康診断を実施する(2次健診)。
(6)その他必要な措置
● 溶接ヒュームを取り扱う作業に関し、次の措置を講じることが必要です。
① 安全衛生教育(安衛則第35条)
労働者を新たに雇い入れたときや、労働者の作業内容を変更したときは、
労働者が従事する業務に関する安全または衛生のため必要な事項について、
教育を行う。
② ぼろ等の処理(特化則第12条の2)
対象物に汚染されたぼろ(ウエス等)、紙くず等を、ふた付きの不浸透性
容器に納めておく。
③ 不浸透性の床の設置(特化則第21条)
作業場所の床は、不浸透性のもの(コンクリート、鉄板等)とする。
④ 立入禁止措置(特化則第24条)
関係者以外の立入禁止と、その旨の表示を行う。
⑤ 運搬貯蔵時の容器等の使用等(特化則第25条)
対象物を運搬、貯蔵する際は、堅固な容器等を使用し、貯蔵場所は一定の
場所にし、関係者以外を立入禁止にする。
⑥ 休憩室の設置(特化則第37条)
対象物を常時、製造・取り扱う作業に労働者を従事させるときは、作業場所
以外の場所に休憩室を設ける。
⑦ 洗浄設備の設置(特化則第38条)
以下の設備を設ける。
・洗眼、洗身またはうがいの設備
・更衣設備
・洗濯のための設備
⑧ 喫煙または飲食の禁止(特化則第38条の2)
対象物を製造・取り扱う作業場での喫煙・飲食の禁止と、その旨の表示を行う。
⑨ 有効な呼吸用保護具の備え付け等(特化則第43条、第45条)
必要な呼吸用保護具を作業場に備え付ける。
溶接ヒュームの濃度の測定等(測定等告示※第1条)
● 事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定(個人ばく露測定)により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
手順
● 「個人ばく露測定」により、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定します。
(注)個人ばく露測定は、第1種作業環境測定士、作業環境測定機関などの、当該測定について十分な知識・経験を有する者により実施してください。
個人ばく露測定の詳細:
① 試料空気の採取は、金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行います。
※ 試料採取機器の採取口は、労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部位(呼吸域)に装着する必要があります。その際、採取口が溶接用の面体の内側となるように留意します。
② 試料空気の採取の対象者、時間は以下のとおりです。
・試料採取機器の装着は、労働者にばく露される溶接ヒュームの量がほぼ均一であると見込まれる作業(以下「均等ばく露作業」)ごとに、それぞれ、適切な数(2人以上に限る)の労働者に対して行います。
※均等ばく露作業に従事する一の労働者に対して、必要最小限の間隔をおいた2以上の作業日において試料採取機器を装着する方法により採取が行われたときは、この限りではありません。
・試料空気の採取の時間は、当該採取を行う作業日ごとに、労働者が金属アーク溶接等作業に従事する全時間です。なお、採取の時間を短縮することはできません。
③ 試料採取方法は、作業環境測定基準第2条第2項の要件に該当する分粒装置を用いるろ過捕集方法またはこれと同等以上の性能を有する試料採取方法により行います。
④ 分析方法は、吸光光度分析方法、原子吸光分析方法、左記と同等以上の性能を有する分析方法により行います。
④呼吸用保護具の選択の方法(測定等告示第2条)
① 溶接ヒュームの濃度の測定の結果得られたマンガン濃度の最大の値(C)を使用し、以下の計算式により「要求防護係数」を算定します。
※ 0.05:マンガンの基準濃度0.05mg/㎥
※ 要求防護係数:
作業者が吸引する物質の濃度を基準値以下にするために、その作業環境で必要とされる防護係数を「要求防護係数」という。
呼吸用保護具を選択する時は防護係数>要求防護係数とする
② 「要求防護係数」を上回る「指定防護係数」を有する呼吸用保護具を、以下の一覧表から選択します。
フィットテストの方法(測定等告示第3条)
フィットファクタ
① JIS T8150(呼吸用保護具の選択、使用および保守管理方法)に定める方法またはこれと同等の方法により、呼吸用保護具の外側、内側それぞれの測定対象物質の濃度を測定し、以下の計算式により「フィットファクタ」を求めます。
②「フィットファクタ」が、以下の「要求フィットファクタ」を上回っているかどうかを確認します。
フィットテストの実施
7種類の動作を行い、マスク内外の大気じん濃度差を測定して、フィットテストの合否を判定する。
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