「溶接ヒューム」による健康障害防止対策が強化されます
【厚生労働省 リーフレット】金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ
【厚生労働省 リーフレット】屋外作業場等において金属アーク溶接等作業を行う皆さまへ
2017年、国際がん研究機構(IARC)は溶接ヒュームをグループ1(ヒトに対する発がん性)に分類しました。また溶接ヒュームにばく露した場合、塩基性酸化マンガンによるパーキンソン様症候群の健康影響が報告されました。
そのため「溶接ヒューム」は特定化学物質(管理第2類物質)として位置づけられ、改正特化則が令和3年4⽉1⽇から施⾏されました。
アーク溶接、溶接ヒューム
アーク溶接とは
・溶接の種類の1つで「アーク放電」という現象を利用した溶接方法です。
・「アーク放電」は気体の放電現象です。離れた電極間に電圧をかけると空気の絶縁が破壊され、電極間に電流が発生します。その際に、高温の強い光が生じます。その光が弧(Arc)状で「アーク」と呼ばれます。
・このアークの熱を熱源とした溶接をアーク溶接といいます。アークの温度は5000~20000℃になり、金属の融解温度より高くなるため、様々な金属の溶接をすることができます。そのため、アーク溶接は自動車や建築物など金属を使用する様々な物の製作に用いられます。
・「溶接ヒューム」とは、アーク溶接の際にアークから発生する熱で金属が溶けた後、蒸気に変わって大気中に放出され、蒸気が空気中で急激に冷やされて凝固した金属の微小粒子
・ヒュームの一次粒子の粒径は1㎛以下が主である。
(参考:「ミスト」は液体の微細な粒子が空気中に浮遊しているもので、粒径は、5~100 μm程度で、ミストの方がヒュームより粒径が大きい)
溶接ヒュームの健康障害
・国際がん研究機関は、溶接ヒュームの肺がんのリスクについて「ヒトに対する発がん性」を認めたグループ1に分類しました
・呼吸器系障害(じん肺)、神経機能障害(パーキンソン症候群)、がん(肺がん)
特定化学物質としての規制
(1)全体換気装置による換気等(特化則第38条の21第1項)
● 金属アーク溶接等作業に関する溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施またはこれと同等以上の措置を講じる必要があります。
※「同等以上の措置」には、プッシュプル型換気装置、局所排気装置が含まれます。
● 「全体換気装置」とは、動力により全体換気を行う装置をいいます。
なお、全体換気装置は、特定化学物質作業主任者(→6ページ)が、1月を超えない期間ごとに、その損傷、異常の有無などについて点検する必要があります。
(2)溶接ヒュームの測定、その結果に基づく呼吸用保護具の使用及びフィットテストの実施等(特化則第38条の21第2項~第8項)
※ 屋内作業場限定
「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場」の場合
当該作業の方法を新たに採用したとき、または作業を変更しようとするときは、「溶接ヒュームの濃度測定」と「呼吸用保護具のフィットテスト」が必要。
(3)掃除等の実施(特化則第38条の21第9項)
金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、当該作業を行う屋内作業場の床等を、水洗等によって容易に掃除できる構造のものとし、水洗等粉じんの飛散しない方法によって、毎日1回以上掃除しなければなりません。
※「水洗等」には超高性能(HEPA)フィルター付き真空掃除機が含まれますが、粉じんの再飛散に注意する必要があります。
(4)特定化学物質作業主任者の選任(特化則第27条、第28条)
「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を修了した者のうちから
作業主任者を選任し、次の職務を行わせることが必要です。
(5)特殊健康診断の実施等(特化則第39条~第42条)
溶接ヒュームを取り扱う作業に常時従事する労働者に対して、健康診断を行うこ
とが必要です。
(6)その他必要な措置
溶接ヒュームを取り扱う作業に関し、次の措置を講じることが必要です。
溶接ヒュームの濃度の測定等(測定等告示※第1条)
事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
手順
「個人ばく露測定」により、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定します。
(注)個人ばく露測定は、第1種作業環境測定士、作業環境測定機関などの、当該測定について十分な知識・経験を有する者により実施してください。
① 試料空気の採取は、金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行います。
※試料採取機器の採取口は、労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部位(呼吸域)に装着する必要があります。その際、採取口が溶接用の面体の内側となるように留意します。
② 試料空気の採取の対象者、時間は以下のとおりです。
・試料採取機器の装着は、労働者にばく露される溶接ヒュームの量がほぼ均一であると見込まれる作業(以下「均等ばく露作業」)ごとに、それぞれ、適切な数(2人以上に限る)の労働者に対して行います。
※均等ばく露作業に従事する一の労働者に対して、必要最小限の間隔をおいた2以上の作業日において試料採取機器を装着する方法により採取が行われたときは、この限りではありません。
・試料空気の採取の時間は、当該採取を行う作業日ごとに、労働者が金属アーク溶接等作業に従事する全時間です。なお、採取の時間を短縮することはできません。
③ 試料採取方法は、作業環境測定基準第2条第2項の要件に該当する分粒装置を用いるろ過捕集方法またはこれと同等以上の性能を有する試料採取方法により行います。
④ 分析方法は、吸光光度分析方法、原子吸光分析方法、左記と同等以上の性能を有する分析方法により行います。
④呼吸用保護具の選択の方法(測定等告示第2条)
① 溶接ヒュームの濃度の測定の結果得られたマンガン濃度の最大の値(C)を使用し、以下の計算式により「要求防護係数」を算定します。
※ 0.05:マンガンの基準濃度0.05mg/㎥
※ 要求防護係数:
作業者が吸引する物質の濃度を基準値以下にするために、その作業環境で必要とされる防護係数を「要求防護係数」という。
呼吸用保護具を選択する時は防護係数>要求防護係数とする
② 「要求防護係数」を上回る「指定防護係数」を有する呼吸用保護具を、以下の一覧表から選択します。
フィットテストの方法(測定等告示第3条)
フィットファクタ
① JIS T8150(呼吸用保護具の選択、使用および保守管理方法)に定める方法またはこれと同等の方法により、呼吸用保護具の外側、内側それぞれの測定対象物質の濃度を測定し、以下の計算式により「フィットファクタ」を求めます。
②「フィットファクタ」が、以下の「要求フィットファクタ」を上回っているかどうかを確認します。
フィットテストの実施
7種類の動作を行い、マスク内外の大気じん濃度差を測定して、フィットテストの合否を判定する。
7種類の動作全体についての合否判定は,「総合的なフィットファクタ」(FFoverall)で行う
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