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脂質異常症:診断基準、リスク管理チャート、治療

脂質異常症の診断基準

(日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 2017 p26;日本動脈硬化学会, 東京より改変)

空腹時採血にて診断(10時間以上の絶食が必要)

 

LDL-Cの診断基準

正常≦119

境界域高コレステロール血症:120~139

高LDL-C血症:≧140

 

※ F式による間接法が推奨、空腹時採血が必要。

 

 

 

 

non-HDLコレステロール(TG400㎎/dL以上や食後採血時の指標)

計算式:

{総コレステロール}ー{HDLコレステロール}

 

・non-HDLコレステロールの中にはカイロミクロン、small dense LDL、レムナント、それとLDLコレステロール等が含まれ、nonHDLコレステロールは、本物の動脈硬化惹起、また動脈硬化を促進するコレステロールといわれている。

・最近、ガイドラインでもLDLコレステロールに次ぐような重要な指標として取り上げられてきている。

 

Friedwald(フリードワルド)の計算式

・LDLコレステロールの測定は個々の検査メーカーがそれぞれの測定値を出しており、必ずしもそれが統一されたものではなく、ばらつきがある。そのためLDLコレステロール値は「フリードワルド式」で算出される。

・保険制度からLDL-C、HDL-C、TG、T-Cholの4種類のうち、一度に計測してよいのは3つまで。そのため一般的には「T-chol、HDL-C、TG」を計測して、LDL-Cはフリードワルド式で算出する

Friedwald(フリードワルド)の計算式;
LDL-C=T-CholーHDL-CーTG/5

・しかし、中性脂肪が400㎎/㎗を超えた場合には、このフリードワルドの式を使うことができない

(その場合はnon-HDL-Cで評価)

LDL-C、TGは食事の影響を受けるため、空腹時に測らないと正確な値の出ない場合がある。一方、TC、HDL-Cは食事の影響がほとんどないため、non-HDLコレステロールは空腹時かどうかに左右されずに測定できる。

 

家族性高コレステロール血症

参照:家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)

・まずは病歴、身体所見で鑑別で疑う

 

冠動脈疾患発症予測 脂質管理目標値設定ツール(吹田(すいた)スコア)

 

※ 冠動脈疾患の既往がない「糖尿病」「慢性腎臓病」「非心原生脳梗塞」「末梢動脈疾患」のいずれかがあれば、「高リスク」として管理(LDL-C<120㎎/dL)

それらの疾患がない場合:

1次予防におけるリスク判定「吹田(すいた)スコア」

様々な危険因子を組み合わせて冠動脈疾患の10年間の発症危険度を予測するリスクスコア

問診項目

・冠動脈疾患の既往

・糖尿病、慢性腎臓病、非心原生脳梗塞、末梢動脈疾患の既往

・年齢

・性別

・現在の喫煙習慣の有無

・LDL-D、HDL-C値

・血圧

・耐糖能異常(空腹時血糖値:110~125mg/dLまたはOGTT2時間値140~199mg/dL)の有無

・早発性冠動脈疾患家族歴 (男性55歳未満、女性65歳未満)

 

 

 

 

冠動脈疾患発症予測・脂質管理目標値設定ツールWeb版

(40~74歳が適応)

http://www.j-athero.org/publications/gl2017_app.html

 

 

簡易版リスク評価

 

 

 

参考:脳心血管予防に関する包括的リスク管理チャート2019(日本内科学会)

関連学会のガイドラインが総合的にまとめられている

https://www.naika.or.jp/jsim_wp/wp-content/uploads/2019/05/269e80132a367889638e36044f0b5fa6.pdf

 

治療目標

1次予防:

・低リスク(今後10年間の冠動脈疾患発症確率<2%)

LDL-C<160㎎/dL

・中リスク(2~8%)

LDL-C<140㎎/dL

・高リスク(≧9%)

LDL-C<120㎎/dL

 

2次予防:

LDL-C<100㎎/dL

※2次予防症例の中でも、「家族性高コレステロール血症」「急性冠症候群」、「糖尿病高リスク病態(非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙)」の場合はLDL-C<70mg/dL、TG<100mg/dLが目標となる。

 

※2次予防症例の中でも、「家族性高コレステロール血症」「急性冠症候群」、「糖尿病高リスク病態(非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙)」の場合はLDL-C<70、TG<100が目標となる。

 

治療

1)生活習慣の改善

・野菜、果物、全粒粉(小麦の表皮、胚芽、胚乳をすべて粉にした粉)、ナッツ
・飽和脂肪酸の制限
・不飽和脂肪酸への置き換え
・食物繊維摂取を推奨
・具体的には「地中海食」や「DASH食」が推奨されている
肥満の解消
・BMI22前後に適正化
運動
FITTで処方
・Frequency(頻度):週3日以上
不可なら週2回(75分/日)または週1回(150分/日)
・Intensity(強度):中等度
talk test(会話テスト)で評価
会話ができない;高強度
会話できるが、歌えない:中等度
・Time(時間):20~30分/回
中等度以上の運動で150分/週が推奨
・Type(種類):早歩き
有酸素、筋トレ療法大事
普段の運動:
・車を使わず徒歩通勤
・駐車場を職場から離れた場所にする
・座っている時間を減らして、立って仕事をする
・定期的に机を離れる(30~60分毎)
・電子メールや電話の代わりに直接会いに行く
・会議を座らずに、立ったり歩いたりで開催する
・フィットネス施設やジムへのアクセスをよるする
食事
・卵は1日1個まで
・果物、豆、ナッツ類の積極的摂取
・バター(飽和脂肪酸が多い)をオリーブオイルに置き換える

 

 

 

 

2)薬物療法

絶対的適応

・冠動脈疾患の既往
・LDL-C>190㎎/dLで家族性高コレステロール血症が疑われる場合

 

相対的適応

・「絶対的適応」以外では、危険因子に応じたリスク分類(吹田スコア)に基づきLDL-Cの目標値を定めた上で薬物療法の適応を考慮する。

 

まずは、2次性要因を合併する場合は、まずその要因の治療

・糖尿病、甲状腺機能低下症、薬剤性など)

・薬剤性:エストロゲン、ステロイド、利尿薬、βブロッカー、SSRI、など

 

 

薬物療法の原則

1.高LDL-C血症の第一選択はスタチン(基本的にはストロングスタチンを使用)

・アトルバスタチン(リピトール®) 10㎎ 1日1回、最大20㎎まで

・ロスバスタチン(クレストール®) 2.5㎎ 1日1回、最大10㎎まで

・ピタバスタチン(リバロ®) 2㎎ 1回1錠 1日1回、最大4㎎まで

 

2.スタチン単独で十分管理できない場合:下記を併用スタチンとの併用で効果を発揮する)

・小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ:ゼチーア®)
・陰イオン交換樹脂(クエストラン、コレバイン)

例)アトルバスタチン20㎎+エゼチミブ(ゼチーア)10㎎

 

3.高LDL-C血症に高TG血症を合併する場合

・スタチンでLDL-Cを目標値まで低下させた後、ω3系高純度EPA(イコサペント酸エチル)製剤(エパデールSカプセル®)を併用す
例)
エパデールSカプセル 1日1800~2700㎎ 2~3回に分服
それでもTG高値が続く場合はフィブラート系を併用する。
例)
ベサトールSR(100~200㎎) 1回1錠、1日1~2回

 

4.TG≧500㎎/dLの場合

・急性膵炎のリスクが高いため、薬物療法を考慮する

・フィブラート系
例)ベサトールSR(200)2T 2×朝夕

 

 

スタチン使用の効果、注意点

・心血管イベント抑制効果は2~3割
・筋症出現時は筋症発症が少ないフルバスタチン(ローコール)、プラバスタチン(メバロチン)への変更や隔日投与に変更を考慮
・腎機能障害による用量調整は、アトルバスタチン(リピトール)、フルバスタチン(ローコール)では不要、他は調整必要。

 

高TG血症

・小腸から分泌されるカイロミクロン(CM)、肝臓から分泌されるVLDL、およびこれらが代謝された結果生じるレムナント(CMレムナント、VLDLレムナント)が増加した病態。
・重度高TG血症(>1000)は急性膵炎のリスクになり、マイルドな高TG血症は動脈硬化のリスクとなる。
専門医に相談するべき患者
・TG>500~1000㎎/dLの患者
・原発性高CM血症の疑いがある場合
幼小児期などの若年発症
薬剤治療抵抗性の持続する重度高TG血症
高CM血症に特徴的な身体所見(乳び血清、発疹性黄色腫、網膜脂血症、肝脾腫)
繰り返す腹痛や膵炎

薬剤治療

・第1選択はフィブラート系
例)
ベサトールSR(100~200㎎) 1回1錠、1日1~2回

 

・不飽和脂肪酸、ニコチン酸誘導体は効果は弱い
例)
エパデールSカプセル 1日1800~2700㎎ 2~3回に分服

 

※ 高LDL-C血症に合併する場合
・スタチンでLDL-Cを目標値まで低下させた後、不飽和脂肪酸(エパデールSカプセル®)を併用する

それでもTG高値が続く場合はフィブラート系を併用する。

 

 

高齢者の脂質異常管理

① 前期高齢者(65~74歳)

・前期高齢者の脂質異常症の管理目標値は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017」に従って、成人と同様に設定し、LDLC については同じく LDL-C 管理目標設定フローチャートを使用してリスクを算出する。
・薬物治療について,前期高齢者では基本的には成人と同様に対応する.

 

② 後期高齢者(≧75歳)

・スタチンによる後期高齢者の一次予防に関するエビデンスは不十分。

・「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版」では、
「スタチンは後期高齢者における二次予防において心血管イベント発症リスクを低下させる」と記載されている。
・後期高齢者の「一次予防」に対してスタチンを使用する是非については「主治医の判断」に委ねられている。
・85歳以上では、LDL-Cが心血管イベントのリスクにならなかったとの研究がある
(The cardiovasucular health study)
・より高齢になるにつれて複数の疾患を有し,多剤を服用することが多くなるため,副作用の発現などリスク・ベネフィットを考慮しての判断が求められる.

 

 

 

 

 

 

 

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