高血糖による緊急症(糖尿病の救急):DKAとHHS
※基本的にはICU管理
・高浸透圧高血糖症候群(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)
共通する症状:
「口渇」「多飲多尿」「脱水」「体重減少」
参照(このサイトよ引用):DKAとHHSの比較・特徴
1)糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis; DKA)
・インスリンの極度欠乏、または作用不足により、脂肪酸がエネルギー源として使われ血糖が高値のままとなって発症する(遊離脂肪酸の多くは肝臓に運ばれ分解され、それによりケトン体が産生される)
・誘因:インスリンの中断、感染症、外傷、急性心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞、急性膵炎、消化管出血、熱中症、妊娠、アルコールの摂取、ステロイドなどの薬剤投与など
・1型糖尿病の初発症状のこともある
・多くが来院数時間~1日以内に症状が進行
DKAの誘因
・Insuin deficiency:インスリン欠乏、インスリンの中断
・Infection or Inflammation:感染症や炎症
・Ischemia or Infarction:脳梗塞、腸管虚血、心筋梗塞
・Intra-abdominal disease:膵炎、胆嚢炎
・Iatrogenic:医原性(IVH[中心静脈栄養]、ステロイド、薬剤性(抗精神病薬(オランザピン等)、SGLT2阻害薬など)
・Infant:妊娠
・糖尿病の既往がなくても除外できない(急性発症1型糖尿病、ペットボトル症候群など)
DKAの症状
・アシドーシスによる消化管蠕動運動低下による嘔気嘔吐、腹痛といった消化器症状で発症することもあるため、しばしば「急性胃腸炎」と誤診断される(↔HHSでは腹痛はない)
・腹痛は46%と高率に認められる
※ 腹痛を生じる明確な機序は不明だが、胃排出の遅延、イレウス(通過遅延)、電解質異常、代謝性ケトアシドーシスなどが関与していると言われている
・嘔気、嘔吐
・意識障害や片麻痺、痙攣を生じて脳卒中と誤診断されることがる
・早くて非常に深い呼吸(クスマウル(Kussmaul)呼吸)
・呼気臭はアセトン臭(リンゴ臭)
・頻脈、血圧低下、皮膚緊張低下
検査所見
・血ガス(初療時は呼吸状態も確認するため動脈血、以降は静脈血でもOK)
(注:pH、HCO3-は動脈血と同等に考えてよい。ただし「PO2、PCO2、乳酸値」は静脈血で代替できない)
・高血糖:300~600㎎/dL
・AG増加性代謝性アシドーシス:HCO3-<18
・体内ケトン体増加(βヒドロキシ酪酸)
・尿ケトン体陽性
しかしβヒドロキシ酪酸は尿試験紙法では検出されないため、尿ケトン陰性だけでは否定できない
DKAの診断基準(2024年コンセンサス)
下記の全ての項目を満たした場合にDKAと診断
・高血糖(≧200mg/dL) または糖尿病の既往
・血中β-ヒドロキシ酪酸≧3.0mmom/L または尿検査でケトン(2+)以上
・代謝性アシドーシス(pH<7.30 かつ/または HCO3-<8mEq/L)
正常血糖ケトアシドーシス
・1型糖尿病にSGLT2阻害薬を併用した際に発症することが多い
・SGLT2阻害薬をはインスリン作用を介さず血糖値を下げる。そのため、血糖値が低下しインスリン分泌も低下し、絶対的インスリン作用不足の状態に陥り、ケトンが産生されることがある
・「尿ケトン」では3-ヒドロキシ酪酸を検出できないため、血中ケトンも適宜確認する必要がある
・治療は治療初期から十分なブドウ糖とインスリンの補充が必要である
2)高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state; HHS)
・2型糖尿病が背景にある患者に感染症などを契機に発症する病態
・致死率12-46%と非常に重篤な状態と認識すること
・意識障害を認めることが多い
・発症の誘因
薬剤(利尿薬、ステロイド薬、フェニトイン、β遮断薬、シメチジン)
感染
高カロリー輸液
経管栄養など
・片麻痺、痙攣やミオクローヌス、髄膜刺激症状、精神症状などを呈し、脳卒中との鑑別が問題になる。
・インスリン欠乏は相対的な欠乏に留まるため、脂肪分解は抑制される
そのため、脳卒中が疑われる患者であっても、HHSも鑑別に入れて必ず血糖値と血漿浸透圧をチェックする必要がある。
HHSにおける特徴的な血液検査所見
・著明な高血糖(600mg/dL以上)
・高浸透圧(350mOsm/L以上)
・高Na血症(>150)
・pH7.2以上、HCO3- 18mEq/L以下
典型例ではこれらを全て満たすが、厳密な判断基準ではない。
「著明な高血糖でアシドーシスがない場合」にはHHSと診断する。
HHSの診断基準(2024年コンセンサス)
下記の全ての項目を満たした場合にDKAと診断
・高血糖:血糖≧600mg/dL(33.3mmol/L)
・高浸透圧;
有効血漿浸透圧>300mOsm/kg または 総血漿浸透圧(尿素を含む)>320mOsm/kg
・著明なケトン血症がないこと
血中β-ヒドロキシ酪酸<3.0mmom/L または尿検査でケトン(2+)以下
・アシドーシスがないこと(pH≧7.30 かつHCO3≧15mEq/L)
DKA / HHSの治療
※ 基本的にはICU管理
※ いずれも「脱水補正」「高血糖補正」「電解質補正(カリウム)」の3つが重要
治療目標
DKA
・静脈血pH>7.3 または HCO3->18
かつ
・ケトン<0.6mmol/L
HHS
・血漿浸透圧<300mOsm/kg
かつ
・尿量>0.5mL/kg/時
かつ
・血糖150㎎/dL以下
脱水補正
・診断がついた時点で直ちに生理食塩水 またはリンゲル液(ソルラクト)の点滴を開始する
(注:高齢者と小児の場合は急速な輸液により心不全を生じかねないため、点滴速度は半分にする)
1000mL/時で1時間(高齢者では500mL/時で1時間)
※ 患者の状態や尿量により適宜調整
↓
500mL/時×で2時間(高齢者では250mL/時で2時間)
↓
250mL/時で4時間:(高齢者では125mL/時で2時間)
※ ここまで6時間で3000mL(高齢者では1500mL)
↓
以降は、200mL/時で維持する
注:Na≧150の場合
0.45%生食(生食250mL+注射用蒸留水250mL、または注射用蒸留水500mL+10%ナトリウム20mL)を考慮する
(ない場合は1号でも可)
↓
血糖値が250mg/dLまで低下したら、
ブドウ糖を含む細胞外液に変更
例)
ソリタT1+50%ブドウ糖20mL(5%ブドウ糖濃度) 80~250mL/時
↓
循環動態が落ち着いたらブドウ糖を含む維持輸液に変更
例)
ソリタT3 80~200ml/時(1本2.5~6時間ペース、脱水の状態に応じて適宜調整)
インスリン持続静注
・速効型インスリン 0.1単位/kg/時(3~6単位/時)の少量から、シリンジポンプで持続静注
(HHSでは補液だけでも血糖が低下するため、0.05単位/体重/時でよい)
・デキスターで血糖値を1~2時間毎に測定
・血糖値が50~80mg/dL/時で低下するよう調整
(急速に90㎎/dL/時以上で血糖値を改善させると、急激な浸透圧の変化によって脳浮腫を起こす危険があるため)
速効型インスリン(ヒューマリンR、ノボリンR) 50単位(0.5mL)
+生食49.5mL(=1単位/mL)
※50Kg の人:5mL/時で開始 (5単位/時、120単位/日のペースで開始)
・血漿浸透圧が正常化して意識状態が改善するまでは血糖値は250~300mg/dLに維持し、
その後は150~200mg/dLを目標とします。
※ 血糖値は50~80㎎/時のペースで低下させる
※ 十分低下しない場合はインスリン量を1.5~2倍に増やして経過を観察する。
※ 血糖値が250mg/dLまで低下した場合も同様に、インスリン量は半分に減量する。
※ 逆に90mg/dL/時以上の低下は脳浮腫の危険性があるため、インスリンを半量に減量する。
※ 血漿浸透圧が正常化して意識状態が改善するまでは血糖値は250~300mg/dLに維持し、その後は150~200mg/dLを目標とする。
電解質補正(カリウム)
【目標】K 4~5mEq/Lに維持
・電解質(カリウム濃度)は2~4時間ごとに測定する
・DKAではアシドーシスのため軽度~中等度の高カリウム血症を呈することがある
(アシドーシスがある時、細胞外液に増えたH+が細胞内に流入するため、細胞内からカリウムが流出し、高カリウムとなる)
・治療開始時に低K血症(K<3.5mEq/L)がある場合は、インスリン治療やアシドーシスの補正により血清Kがさらに低下するため、インスリン投与は行わず、生食投与とK補充を優先させる(K≧3.5mEq/Lとなるまで)
1)K<3.5:
※ 基本はCVからの投与:
・インスリンの投与は中止し、10~20mEq/L/時でKを補充(K≧3.5mEq/Lとなるまで)
・生食500mL+KCL(10mEq/10mL/A)10~20mEqを1時間ペース
2)3.5≦K≦5.0:
・補液にKを10~20mEq混注し、インスリン投与
・補液のK濃度は20~30mEq/L
血糖値≧300の時:生食500mL+KCL(10mEq/10mL/A)20mEq
血糖値<300の時:ソリタT3(K20mEq/L) 250mL/時ペース
3)K>5.0:
・K補充の必要なし、2時間毎にK値チェック
状態安定後
・ソリタT3点滴に変更、インスリン減量考慮
・1日目は持続インスリン治療継続
↓
・意識回復、経口摂取可能ならをインスリン持続静注から皮下固定打ちへ切り替え
・インスリン持続注射と持効型インスリン皮下注射開始をかぶせる
・持効型インスリン皮下注開始後2時間後にインスリン持続注射を中止する
(つまり両者のかぶるのりしろ期間を設ける(”ブリッジング”とも表現する))。
・これはインスリン持続注射で使用しているインスリンは半減期が短いため(半減期は分単位)、中止するとすぐにインスリン枯渇になってしまい再度細胞内飢餓によるケトアシドーシスになってしまう可能性があるためである。
・1~2時間は持続静注と持効型皮下注をブリッジングする
※皮下注射インスリン投与量の決定
①1日必要量を持続インスリンから推定
②1日必要量の80%を皮下注射インスリン総量へ
③皮下注射インスリン総量を分配 (以下a, bいずれの方法あり)
(a): 均等に4等分する方法 :速攻型朝4-昼4-夕4/持効型眠前4単位
(b): 半分持効型、半分速効型にする方法 :速攻型朝3-昼3-夕3/持効型眠前10単位
参考;療養型病棟における高血糖緊急症の簡易的治療
①T方式
・メイン
① 生食500mL
② ソルデム1号 500mL
・インスリン
ヒューマリンR 20単位+生食50mL(0.4単位/mL)
・BS4検、スケール対応
~50:Dr.call
50~200:中止
200~300:インスリン4ml/時(4単位/時)
300~400:インスリン6ml/時(6単位/時)
400~:インスリン8mL/時(8単位/時)
② S方式
メイン
①ソルデム1号500mL+ヒューマリンR6単位
②ソルデム1号500mL+ヒューマリンR6単位
インスリン
血糖値2検(朝夕)で皮下注スケール対応併用
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