糖尿病治療の原則
1)初診時の病態把握
・インスリン分泌能、インスリン抵抗性の確認
2)治療薬の選択
・ただし腎機能低下(eGFR<30mL/min/1.73m²)では禁忌。
・75歳以上の高齢者へのメトホルミンの新規導入は避ける
・75歳未満の高度肥満症例(BMI≧30)では、第一選択薬として「GLP- 1受容体作動薬」を検討する
非肥満症例の治療方針
※ やせ型糖尿病: インスリン分泌不足により、ブドウ糖をエネルギーとして十分活用できず、 すでにある脂肪やタンパク質をエネルギーとして使ってしまい、 「ちゃんと食事を摂っているのに糖尿病で痩せる」という現象が起こる。
インスリン導入困難症例の治療
3)経過観察
血糖降下薬
大きく分けて「インスリン抵抗性改善薬」「インスリン分泌促進薬」、「糖吸収・糖排泄調節薬」の3種類がある
① インスリン抵抗性改善薬
メトホルミン(メトグルコ®)
ピオグリタゾン(アクトス®)
② インスリン分泌促進薬
DPP-4阻害薬
・肝での糖新生の抑制効果もあり
・肥満を伴わない
・認知機能が低下した高齢者で比較的安全に使用できる
・特にリナグリプチン(トラゼンタ®)とシタグリプチン(ジャヌビア®グラクティブ®)は心不全などの併存疾患を有する高齢者への有効性が検証されている
薬剤
①トラゼンタ®(リナグリプチン)
・胆汁排泄型
・肝、腎機能障害どちらでも投与量を調整することなく処方可能
(腎機能障害時でのfirst choice)
・心不全などの併存疾患を有する高齢者への有効性が検証されている
・腎機能障害合併例でも投与量を調整することなく処方可能
GLP-1受容体作動薬
・DPP-4阻害薬より血糖下降効果強力
・食欲抑制による減量効果あり(脳内に発現するGLP-1受容体を介した作用)
・肥満を合併した2型糖尿病に良い適応
・残存する膵β細胞機能に依存するため、投与前に、インスリン非依存状態でないことを確認する必要がある
(抗GAD抗体陰性、かつ空腹時血中Cペプチド≧1ng/mL)
・インスリンとの併用可
・嘔気、嘔吐、便秘などの副作用あり、低用量から開始して漸増する
・腹部手術または腸閉塞の既往のある患者では腸閉塞が起こる危険性があるため、既往を確認する必要がある
①トルリシティ―®(デュルグラチド)
週1回の注射製剤
減量効果は小さく、サルコペニア予防の観点から高齢の非肥満2型糖尿病に良い適応
②セマグルチド(リベルサス®)
2021年2月発売の経口薬
スルホニル尿素薬(SU薬)
・イメージ的には「持効型インスリン製剤の内服版」
・インスリン分泌不全が主な病態の「非肥満型の2型糖尿病」が好適応
・空腹時高血糖や、体重減少や尿ケトン体陽性などインスリン分泌低下が予想される場合で、本来ならインスリンを使用した治療が検討されるがそれが困難な症例
・肝機能障害や腎機能障害、特に高齢者では遷延性低血糖のリスクがあることから慎重に検討する
・SU薬の中ではグリグラジド(グリミクロン®)は他のSU薬と比較して重症低血糖のリスクが少ないといわれている(高齢者にSU薬を投与する場合にはグリグラジドを選択)
・eGFRが30未満では禁忌
例)
グリメピリド(アマリール®) 0.5㎎から開始、最大1㎎
グリグラジド(グリミクロン®) 10㎎から開始、最大20㎎
グリニド(速効型インスリン分泌促進薬)
・イメージ的には「速効型インスリン製剤の内服版」
・食後高血糖主体の2型糖尿病に良い適応がある。
③ 糖吸収・糖排泄調節薬
SGLT2阻害薬
・インスリン作用とは無関係に、尿糖の再吸収を抑制し、糖を尿中に排泄させて血糖値を下げる薬
・グルコース排泄亢進によるカロリーロスから、明らかな体重減少作用がある
・イプラグリフロジン(スーグラ®)とタパグリフロジン(フォシーガ®)は1型糖尿病にも適応あり
適応
1)2型糖尿病発症早期の患者
・健診で初めて糖尿病を指摘されたような症例は好適
・食事、運動療法でもHbA1cが目標値に達しない場合、それらを継続した上で開始
2)肥満2型糖尿病患者
3)腎障害のある2型糖尿病患者
4)インスリン、またはインスリン+DPP-4阻害薬で効果不十分な2型糖尿病患者
5)糖毒性の強い2型糖尿病患者(HbA1c 8~9%以上)
・糖毒性解除目的に、インスリンに加え併用
投与中の注意と副作用
1)高齢者への使用の見解
・一般的には認知機能や身体機能が保たれている高齢者に用いるべき
・脱水に陥りやすいため、投与初期には飲水を促す必要がある
・体内の異化が亢進し筋肉量が減少する可能性があるため、サルコペニア・フレイル症例への投与は避ける
2)脱水への注意
・SGLT2阻害薬は投与初期に約500mL程度の尿量増加が認められるため、十分な飲水指導が必要(内服開始後2週間)
3)正常血糖ケトアシドーシス
・血糖値が低下しインスリン分泌も低下し、絶対的インスリン作用不足に陥りケトン体が産生されるため
4)尿路感染症に注意(特に女性)
α-GI
・小腸での糖吸収を抑制、食後高血糖を改善
・「ひまん型の2型糖尿病で食後高血糖(180㎎/dL以上)」が良い適応
※「やせ型」(インスリン分泌不全)の食後高血糖にはグリニドを選択
・高齢者や開腹歴のある高齢者では注意
・1日1回、最も炭水化物を摂る食事の直前から開始
例) 1日1回 夕食直前)
食後高血糖治療薬
食後高血糖を見抜く方法:ビッグミールの後に尿糖をチェックし、陽性なら食後高血糖の存在が示唆される
まずはビッグミールの後、1日1回から(夕食直前)
・やせ型→グリニド薬1日1回から併用開始(レパグリニド(シュアポスト®))
・肥満型→α-GI(セイブルは軟便になり、ベイスンは便秘になりやすい特徴があり、使い分ける)
インスリン
インスリン療法の適応
絶対適応
・1型糖尿病
・糖尿病性昏睡(糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)
・重症感染症の併発
・中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例)の際
・糖尿病合併妊娠(食事、運動療法だけでは基準内の血糖応答を実現できない時)
相対適応
・著明な高血糖を認める場合
空腹時血糖250㎎/dLや随時血糖350㎎/dL
ケトーシス、代謝失調を呈する時
・経口血糖降下薬による治療にも関わらず、十分な血糖応答が得られない場合
経口血糖降下薬を4種類以上用いているにも関わらずHbA1c8.0%以上が3か月以上続く場合
・やせ型で栄養状態が低下してる場合
・ステロイド治療時に高血糖を認める場合
・糖毒性を積極的に解除する場合
インスリン量の決め方
・実測体重当たり、0.2~0.3単位/kgで導入し、その30~50%を持効型(1日1回、同じ時間ならいつでも可:ランタス®、トレシーバ®)、残り50~70%を超速効型(毎食直前:ノボラピッド®、ヒューマログ®)(もしくは速効型)に割り振るのが一般的
・導入は入院対応がのぞましい
↓
・食前の血糖値を確認しながら単位数を調整。
・食前の血糖値が目標域に入ったら食後1時間または2時間の血糖値を確認し、食後の血糖上昇が十分に補正されていなければ、超速効型(もしくは速効型)を発現時間がより速い製剤に変更する
早い製剤:インスリンリスプロ(ヒューマログ®、インスリンリスプロ®)、インスリングルリジン(アピドラ®)
遅い製剤:インスリンアスパルト(ノボラピッド®)
SMBG(self-measurement of blood glucose)
・まずは朝食前の血糖測定を行い、インスリン量を調整する
・空腹時血糖が改善してきたら、1~2週間に1回は毎食前後(場合によっては就寝前も)の測定を行い、より厳密な血糖コントロールを目指す
中間型
最近は使用頻度が低下している
持効型
インスリン デグルデグ(トレシーバ®)
・持効型
・持続時間が42時間超と長く、安定した作用が期待できる
・ライゾデグ®(混合型)に含まれる持効型
・単位数の増減の効果が数日たたないと明らかでない。
インスリン デテミル(レベミル®)
・持効型
・作用時間は24時間未満
・1日1~2回
インスリン グラルギン(ランタス®、ランタスXR注ソロスター®)
・作用時間は24時間未満
・XRは濃度がランタスの3倍(300単位/mL)
混合型
・ライゾデグ®(インスリンアスパルト+インスリンデグルデグ)
medicina 2022年 1月号 特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬-糖尿病治療の新しい潮流
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